Interview 私としごと

狭き門を勝ち抜いた資生堂コピーライターが、「言葉」に込める願い

株式会社資生堂
植木彩(コピーライター・プランナー)

「一瞬も 一生も 美しく」というコーポレートメッセージを掲げ、世界中の女性に美を提供してきた資生堂。そのメッセージや哲学は商品だけでなく「言葉」の細部にまで行き届いている。そんな資生堂でコピーライターとして活躍するのが植木彩さんだ。これまで、人気商品『MAQuillAGE』の「レディにしあがれ」シリーズの広告全般をはじめ、数多くのブランドでコピーライティングを手がけてきた植木さんに、一つの言葉に込める想いを伺った。

プロフィール

植木彩

1985年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、株式会社資生堂へ入社。宣伝・デザイン部にて、『MAQuillAGE』『スノービューティー』などのコピーライティング・広告プランニングを数多く手がける。2015年NHK制作局出向を経て現職。

取材・文:羽佐田瑶子 撮影:飯本貴子(2017/09/29)

得意なことは「言葉」しかなかった

—植木さんが言葉に興味を持ちはじめたのは、いつ頃ですか?

植木:言葉に関しては、母から厳しく教え込まれました。母が中国と日本のハーフなので、娘にはきちんとした日本語を身に付けさせたいという想いがあったのかもしれません。幼稚園の頃から、父と母の呼び方は「お父様」「お母様」でしたし、なんとなく耳から覚えるのではなく、助詞や構文といった文法から日本語を学びました。

—挫けたりはしなかったのでしょうか?

植木:逆に「負けてたまるか!」という精神で(笑)。その影響もあって、国語や作文が得意になり、趣味は読書や映画鑑賞など言葉に関わるものばかりでした。そもそも、他に得意なものがなかったんですよ。スポーツや音楽、理数科目もまったくダメで。中高時代は演劇部で脚本を書いていて、いくつかのコンテストで賞をいただくほど夢中になっていましたね。また、中国の文化や言語にも興味があったので、言葉の成り立ちや意味などを考える癖が自然についたのだと思います。

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—中国と日本のクオーターというバックグラウンドは、植木さんに影響を与えているんですね。就職活動ではどのような職種を中心に受けていたのでしょうか?

植木:高校生のときに、高木徹さんの『戦争広告代理店』という本に出会い、言葉で社会を動かすことができるジャーナリストという職業があることを知ったんです。もともとルポルタージュやドキュメンタリーが好きだったので、「社会」と「言葉」を軸に働ける記者職を目指し、マスコミを中心に受けました。でも、見事にすべて落ちてしまい、追い打ちをかけるように、第一志望の会社からは「記者ではなく、総務はどうですか?」と声をかけられて……。本当に自分は記者になるべき人間なのかと考えるきっかけになりましたね。

—その後、資生堂への応募を?

植木:就職活動も終わりの時期に差しかかり、就職浪人をするか迷っていたのですが、たまたま資生堂でコピーライターを募集しているのを知って。言葉を扱う仕事ですし、お化粧も好きなので最後にダメ元で受けてみたんです。採用枠は1人だったので、内定を取れたのは奇跡というか。後日、選考理由を採用してくれた当時の上司に聞いたら「課題の作文で審査員を笑わせる人は多い。でも泣かせたのは、あなただけでした」と言われました。入社試験という形ではありましたが、言葉を通して想いを人に届けられた、忘れもしない出来事ですね。

「社会」と「言葉」を軸にした仕事

―入社されて、すぐにコピーライターとして仕事が始まるのですか?

植木:いえ、私たち宣伝・デザイン部門の採用者は、10月から実務スタートという遅さで(笑)。それまでは資生堂の歴史や文化について学んだり、資生堂書体というオリジナルのフォントの描き方を習うんです。手から手へ伝えられてきた特別なもので、先生に合格をもらうまでひたすら描きました。

―さすが伝統ある会社の研修ですね。実務では、苦労を感じることはありましたか?

植木:広告コピーのことを何もわかっておらず、概念的なスローガンみたいなものばかり書いていたと思います。過去の作品を研究したり、クリエイティブディレクターと何度もキャッチボールしたりして、少しずつ学んでいきました。商品のコンセプトを集約する力と、「買いたい」と思わせる説得力。自分なりに感覚や手応えを掴めたのは入社して5年目くらいでしたね。

―5年ですか……。植木さんがどのようにコピーをつくるのか、とても気になります。

植木:まず核となる伝えたいことをシンプルな言葉に集約させます。それから言葉遣いや単語を試行錯誤して、広告として機能する「表現」に磨き上げていきます。一つの案件で、1000本以上コピーを書くこともしばしば。当然、たった一つしか採用されないので無駄な作業だと思われるかもしれませんが、質は量を出さないと高まりませんからね。

多くの言葉が並ぶ植木さんのノート

多くの言葉が並ぶ植木さんのノート

―仕事をする中で「資生堂らしさ」は、どういうところで感じますか?

植木:たくさんあるとは思いますが、言葉という観点からいうと、資生堂ならではの表記ルールというものがあります。たとえば「日やけ止め」は必ず「やけ」をひらがなで表記します。女性の肌を傷つけるような「焼く」という表記はふさわしくないという考えから決められたそうです。こういった女性を傷つけないような、細かな表記への心配りも「資生堂らしさ」かなと思いますね。

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