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アジェンダ、アサイン…会議中のビジネス用語。本当に使わないとダメ?

アジェンダ、マージ、アグリーなど、クリエイティブ業界でもよく耳にする、カタカナのビジネス用語。なんだかカッコつけているようでむず痒い……。使いこなせないとダメなの?

そんな若手のお悩みに、社会人の先輩がアドバイスする連載企画の第10弾。頼れる先輩は、クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在はインフォバーングループの人事を担当している田汲洋さんだ。

昨年末に突然、田汲さんへかかってきた一本の電話。そこで知った、仕事相手と共通認識を持つことの大切さと、ビジネス用語との向き合い方とは?
  • 文・イラスト:田汲洋
  • 編集:市場早紀子(CINRA)

Profile

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田汲洋

新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月よりHR領域担当となる。

アジェンダ、アサイン、マージ。ビジネス用語はカタカナばかりで難しい

どうも。タクミです。

現在、企業のデジタルマーケティング支援やメディア運営などを行うインフォバーングループで採用担当をしています。ちなみに、前職は出版社の宣伝部で働いていました。

迷える若手クリエイターたちの質問に対して、真摯にお答えする連載第10弾。曲がりなりにもクリエイティブ業界で経験を積んできたぼくが、これまで経験したことをもとにアドバイスさせていただきます。

今年の抱負は特になく、いままでと同様にYouTubeでお笑い番組をたくさん見ようと思います。オススメは『ダイタクTV』

今回、読者の若手クリエイターからこんなお悩み相談をいただきました。

社会人になって知ったカタカナのビジネス用語。わかんない言葉が多すぎて会議についていけません。さらに、自分で使うのはかっこつけているようで小っ恥ずかしいのですが、どうすれば良いのでしょうか。

外資系広告代理店 新卒1年目 ヒカル(男性)

言わんとしていることはわかります。とくにクリエイティブ業界はカタカナ用語が多いので、社会人になりたてのころは恥ずかしく思うかもしれませんね。

私も、いまのWEB業界に転職してから初めて知った言葉がたくさんあります。たとえば、「アサイン(制作体制に人を取り込むこと、プロジェクトメンバーを配置すること)」という言葉は、前職の出版社では使っていませんでした。「アサイン」を使うことが当たり前となったいま、かつての自分がどんな言葉を使って仕事をしていたのかよく思い出せません。ひょっとすると、ぼくはちゃんと働いてなかったのかもしれません。

「カタカナ用語=業界人ぶってる」ってわけでもない

長いあいだクリエイティブ業界に身を置いているぼくから言えるのは、ビジネス用語を使う人って別にギョウカイ人を気取ってるわけじゃないんだよ、ということ。みんな無意識のうちに使っているものなんです。そこに深い意味なんてないです。

ですから、ビジネス用語を「カッコつけている」「恥ずかしい」と思って、覚える努力をしなかったり、理解せずに間違った使い方をしたりするほうが損だと思います。

ひょっとすると、ヒカルさんはまだ学生気分が抜けていないのかもしれません。ビジネス用語は、名刺交換やビジネスマナーなどと同じく、社会人としての様式美。つまり、社会に出るということは、カタカナのビジネス用語を知ることなのです(それは言いすぎ!)。

無理に使いこなせとは言いませんが、「社会人は使うものなんだ」と割り切ってください。逆に、学生に「文化祭のときはみんなで案を出し合って、その資料をマージして……」なんて言われても、ぼくはアグリーできませんね。

面接でこういう人が来たら困るなあ……

知っておけば良いことがある。偏見を捨てて覚えよう

ところで、ここまでのぼくの回答に関するエビデンスが必要だと思ったので、社内外問わず、まわりの若手社員にもビジネス用語の体験談を聞いてみました。

・使うことを恥ずかしいとはあまり感じず、すぐに順応できました

・新聞社に就職した同級生からは「そっちの業界だとアジェンダって言い方するんだね」とマウントを取られました

・「MTG(ミーティング)」って表記とか嫌ですね。「会議」で良いじゃんって思います

・使う必要のない言葉は極力使わないようにしていますが、ふと使ってしまった瞬間に「あぁ」と思うことはあります。たとえばアジェンダとか、バジェットとか

感じ方は人それぞれですが、意外とみんな順応しているようです。別に「『マドンナ』を『マダァナ』ってエロい感じで発音しろ!」と、無意味な要求をされているわけじゃないし、堂々と使って良いと思います。

バジェット、アグリー、マダァナ!!

「カタカナ用語=社会人としての共通言語」ととらえるなら、覚えることで仕事の理解度が上がると思います。なので、ヒカルさんの悩みのひとつである「会議の内容についていけない」ということは解決できますよね。相手が使う言葉を理解しないと、クライアントや先輩との距離はいっこうに縮まりませんし、仕事で良いパフォーマンスも発揮できません。クリエイターとして悩むべきことは、ほかにきっとたくさんあるはず。ビジネス用語は、とりあえず単語帳でもつくって機会的に覚えちゃってください!!

突然やってきた一本の電話

いまからお伝えするのは、ビジネス用語のように、仕事相手との会話には「共通言語・共通認識」が大事だと実感した話についてです。2020年の12月9日、21時ごろ、知らない番号から電話がありました。出てみると、相手は女性の方。第一声はとても衝撃的なものでした。

「いまから自殺しようと思うんですけど。電話しちゃってすみませんね。息子にも嫌われてるし、生活も大変だし、今年はアル中で2回も入院したし、もう生きてても意味がないんすよ」

頭を鈍器で殴られたような衝撃が走り、恐怖で血の気がサーッと引いていくのが自分でもわかりました。かつてアル中だった父を亡くしているぼくは、何も言葉が浮かばず「どなたかわかりませんが、自殺だけはやめてください」と、壊れたテープレコーダーのように何度も呼びかけました。

年齢も趣味趣向もわからない相手なので、会話の糸口がつかめません。それでも手探りで彼女を説得するなかで、勇気を出して「というか、どなたですか?」とたずねたところ、ようやく自己紹介をしてくれました。数年前に仕事で一度ご挨拶したことのある女性で、エンタメ系のお仕事をされていた方でした。彼女は、誰でも良いから話を聞いてもらおうと思い、電話帳から適当にかけた。その相手が、偶然ぼくだったそう。

「とにかくもう生きてても意味ないし、いまから自殺してそれを配信すっから! 私、昔に映画撮ったりしてたから」

「え? その映画ってYouTubeで見れます?」

「専門学校時代に撮った卒業作品だからね〜。テープはあったんだけど」

「じゃあ見せてくださいよ! どこに住んでるんですか? いまから取りに行きますから」

「いや、『テープ焼いといて』って友達にマスターテープを渡したらさ、その友達の家が焼けた。ははは」

「ははは、うまいこといいますね」

ぼくはまだ緊張で働かない頭をフル回転させ、彼女のシャレの効いたエピソードを、100点満点中3点くらいの返しで無理やり褒めました。

「さそり座」が救った命。二人のあいだにあった共通認識とは?

彼女が自殺するのを少しでも引き延ばすため、なんとか会話を続けていると、突然、彼女がこの世で一番オリジナルなクイズを出してきました。

「あのさ、あたしは一番かっけぇ『座』なんだけど、何だと思う?」

ぼくは、このクイズの意味を、「私の生まれ月の星座は、一番かっこいい星座なんだけど、何だと思う?」だと解釈しました。こういうときに、瞬時に意図を読み取れる自分が少し悲しいです。

「かっけぇ座ですか……、さそり座ですかね?」

「正解!!」

こういうときに一発で正解してしまう自分が悲しいです。

生殺与奪の権を他人に握られている姿ですらかっけぇのがさそり

「どう考えてもさそりが一番かっけぇ座でしょ!」

「わかります。良いなあ! 自分は獅子座です」

「ああ、獅子座もかっけぇっすね。ていうかさ、獅子って何よ?」

「たぶんライオンじゃないですかね」

「ああ、かっけぇっすね。でも座はさそり一択でしょ!」

「間違いなくさそりが一番かっこいいですよ」

どうやら彼女は「星」座とは言えないようです。そこには一切触れずにとにかくさそり座を褒めまくりました。

「さそり座っしょ!」

「さそり座が一番ですよ!」

「ははは」

「ははは」

気がつくと、自殺という入り口からは考えられないくらい、爽やかな風がぼくらのスマホ間に吹いた気がしました。「俺たちがかっこいいと思う星座ってさそり座だよね」。その共通認識だけで世界が一変し、彼女と仲間になれた気がしました。もう第一声を聞いたときの、あの緊張感はありません。ぼくは、彼女が首にかかっていた縄を解いたように思いました。

「あたし、土屋アンナに憧れてて。マジかっけぇっすよね」

「それで、そういう喋り方なんですね」

「だから私のことアンナって呼んでください!」

「わかりました」

通話開始から1時間。やっと彼女の仮名も決まったところで、アンナさんの電話口からバリバリと音がするではありませんか。ぼくは、おせんべいを食べるくらいだからもうだいぶ落ち着いているなとホッとしながら、「なにをのんきにおせんべい食べてるんですか!」と突っ込みました。

「ああ、これおせんべいじゃないっすよ。氷食ってるんすよ」

嘘だろアンナ!!!!!!

無駄なようで無駄じゃなかった1時間18分

ビジネス用語は信頼へのチケット。うまく使ってデキる奴になろう

今回のアンナさんとの会話は、「座=星座」、「かっけぇ星座=さそり座」という共通認識があったおかげで、一気に氷解した気がします。氷解したから、アンナさんも氷塊を食べながら話すくらいの余裕が出たのではないでしょうか。

本題を忘れかけておりました。

つまりは、われわれクリエイターにとって「カタカナのビジネス用語」は、仕事や会話を円滑にするための大事な共通認識のひとつ。それを覚えてこそ、上司や同僚、クライアントも心を開いて自分を信頼してくれるのです。つまり、デキる社会人の仲間入りを果たすためのチケットってやつ! ヒカルさんにも、ぜひ共通認識を持ってほしいのです。

そういえば、電話を切る直前に「アンナさん、もう自殺するなんて言わないでくださいね」と言うと、「あーた(あなた)本当に良い人だね。弟子にしてくんない?」と言われました。土屋アンナさんってそんなに縦社会を重んじる人でしたっけ? まあいいや。

ということで、2021年の若手クリエイターからのお悩みは、アンナさんが答えてくれるかもしれません。冗談です。本年もよろしくお願いいたします。

【まとめ】

・カタカナのビジネス用語は社会人の共通認識だから覚えよう

・無理やり使うことはない。知っておくことが大事

・共通認識を持つことで上司や同僚、ギョウカイとの距離が縮まるかも

※ちなみに……ここまでに出てきた用語の意味を一応お教えしておきますね

マージ:統合する・複数のものを合わせること、アグリー:同意すること、エビデンス:証拠・根拠となるもの、アジェンダ:議題や予定表のこと、バジェット:予算・経費のこと

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