第3回:私は、紅白が大好きです。
- 2014/08/21
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Profile
寺坂 直毅
1980年宮崎生まれ。 放送作家として、テレビ、ラジオ番組の構成を担当。 家から徒歩圏内にデパートが何軒も乱立する環境で幼少期を過ごし、 魅力に憑りつかれたために日本全国のデパートを行脚した 「胸騒ぎのデパート」(東京書籍)を刊行。 紅白歌合戦、黒柳徹子研究などの趣味を持つ。
紅白歌合戦が抱きしめたいほど好き
8月になりましたね。皆さん、体調崩さず過ごしてますか?
8月になったという事は、あと4か月で12月、今年も終わるという事です。
年々、「1年ってあっという間だなぁ」と、感じる力が増しているように思います。
これは、初めて歩く道が遠く感じ、慣れると近く感じるように、毎年毎年同じ風景を見ている「慣れ」で、年々「あっという間」と感じるのだと、あるタレントが言っていました。
そんな事はどうでもいいのですが、年の終わりの「大晦日」のテレビ番組といえば、「NHK紅白歌合戦」でございます。
その年の音楽界、芸能界、話題を振り返る総決算的番組です。
J-POP、クラシック、歌謡曲、演歌なんでもあり。まさにデパートのファミリー大食堂です。
「今年も終わりだな」と感じる曲、「来年もがんばろう!」と思える曲、故郷を思う曲、などなど、人生の喜怒哀楽をまとめて感じる事ができます。
このような説明が無くても、皆さんご存知の事でしょう。
「若者の紅白離れ」とも言われていますが、昨年の「あまちゃん」や、北島三郎「まつり」など、なんだかんだいって常に話題を振りまいています。
そんな紅白が私は大好きです。どれくらい好きなのか?
う~ん、紅白歌合戦を抱きしめたいくらいです。紅白歌合戦を目標に生きているといっても過言ではないです。いや、体の半分が紅白歌合戦でできているのです。川島なお美さんにワインの血が流れているならば、私の血は紅白歌合戦……。それくらい好きなのです。
もちろん大晦日は「笑ってはいけない24時」も好きです。しかし、紅白は1秒たりとも逃さず観なければならないのです。
普段私は、大量のお酒は飲みません。缶ビールだと1晩で平均1本、多くて3本です。しかし、昨年の紅白の放送時間中はビール6缶、缶チューハイ4缶、計10缶も飲んでいました。しかも全く酔っぱらう事がありませんでした。
人間、夢中になっている時は、酔う事すら忘れるのです。
酒の酔いさえも忘れる、楽しい楽しい紅白歌合戦。
前回は趣味の「デパート愛」について書きましたが、今回はもう1つの大事な趣味、「紅白歌合戦愛」について書きたいと思います。
紅白歌合戦の凄さ
「紅白歌合戦を愛する」というのは、僕のほかにもたくさんいらっしゃると思います。自分の好きな歌手、アイドルが登場するシーンは興奮する事でしょう。
普通に視聴するのはもちろんの事ですが、私はどういう訳か、1973年頃からの大トリ(最後に歌う歌手)の曲紹介を暗記しています。
例えば、
1974年第25回、森進一さんの『襟裳岬』では、
青春の旅は、遠く悲しく、いつか思い出の海へと帰っていきます。
1974年のさすらいの記憶をこの1曲に込めて、
森進一、白組の『襟裳岬』を聴いていただきましょう。(司会・山川静夫)
1980年第31回、八代亜紀さん『雨の慕情』では、
歌手になって成功するまで決して故郷には帰るまいと、
一番景色の美しいと思う瀬戸内海を船で神戸へ、
そうして東京まで鈍行で。その時と目の輝きはちっとも変わっていません。
八代亜紀さん、『雨の慕情』です。(司会・黒柳徹子)
1996年第47回、北島三郎さん『風雪ながれ旅』では、
クリスマスイブに、
クリスマスソングを聴いてしっくり来るように、
やはり大晦日、この人の声を聴いて1年を締めくくる。
これがピッタリくるんじゃないでしょうか。
今年の紅白『歌のある国ニッポン』。大トリは、この人です。
このごろ人は、大声を出さなくなりました。
遠くから人を呼ぶような事が無くなって、
その分、人は、孤独になりました。
人間の肉声が騒音にかき消されるこの時代。
それでも諦めない男がいる!
辛い思いに沈んでいる人、凍えている人
全ての人に、常に大きな声で「元気か!」と呼びかける。
それがこの人の道 この男の美学です。
北島三郎さん、「風雪ながれ旅」(司会・古館伊知郎)
……と、数を上げればキリがありません。
この台詞は、以前BSで放送されていた紅白歌合戦の再放送を見て覚えました。
覚えたというか、知識が降ってくる感じでした。覚えなくても、覚えてました。
好きなことは、覚えるのではありません。自然に身についてしまうものなのです。
では、なぜ僕が紅白を愛するようになったのか? と思い出すと、高校生の頃のあるシーンがきっかけだったように思います。
高校2年の頃まで、紅白歌合戦に対して愛は一切ありませんでした。
当時の紅白歌合戦は、大晦日、音楽を聴くための一つの歌番組にすぎなく、何かをしながら見ていました。
しかし、僕が高校2年生だった97年の「第48回NHK紅白歌合戦」。クライマックスで、和田アキ子さんが、カールスモーキー石井が作詞作曲した「夢」という歌を歌ったのです。
そのアッコさんの背景が、とにかく凄かったのです。
NHKホールのステージが宇宙のように、満点の星空になっていました。
背景も、床も星、星、星。星の上で歌うアッコさん。
とにかく煌めいていました。
やがて歌が終わり、白組司会の中居正広さんの曲紹介(10秒ほど)で、北島三郎さんが「竹」を熱唱。その間わずか10秒ほどにも関わらず、ホールのステージは雄大な自然を思わせる竹林。星から竹林。なぜ、1つステージで、10秒という短い時間で、宇宙から竹林に変化できたのか?
そして「竹」が終わり、紅組トリで、結婚し妊娠の為休養する前のラストステージの安室奈美恵「CAN YOU CELEBRATE?」の時には、煌めくクリスタルのツリーが登場。
白組、大トリの五木ひろし「千曲川」では、ツリーの前の五木さんに大量の銀紙の吹雪が舞います。その光景がなんともきれい。その感動から千曲川が流れる長野県へ旅をしたほどです。
セットの美しさは勿論ですが、その裏で作業する人の緊張感や汗にも感動しました。
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- ひとり紅白歌合戦の開催
ひとり紅白歌合戦の開催
時間がない、CMもない中で、なぜこうも風景が変わるのか? それがものすごく気になりました。
興奮を抑えられず、実家の部屋に戻ると、部屋の勉強机が劇場に見えてきました。
「ここで紅白を再現したい!」そんな思いから、ある遊びを始めました。
自宅のデスクに、毎年紅白歌合戦の舞台セットをミニチュアで作り、設置。
それを写真で撮影しています。つまり、デスクをNHKホールにするのです。今はデスクの上に、昨年のセットを常設(ずっと飾ってるだけ)ですが、以前は、年が明けて、録画した紅白歌合戦のVTRを流しながら、家のデスクで同時進行でセットチェンジをする「ひとり紅白歌合戦」を開催していました。誰にも理解を得られませんでしたが。
実家にある花瓶やスポット照明、洗濯物を入れるかご、ビニール生地を集めて、セット作りを必死でやりました。デスクをステージにすると、自然と歌手の姿が立体的に浮かんでくるのが不思議です。妄想ですが。
書道用紙で紙吹雪を作り、部屋中に降らしました。
かき氷機で砕いた氷を作り、本物の雪を降らしたりもしました。
ステージに向かってシャボン球を吹いた事もあります。
ラストの蛍の光では、うっすら涙がこぼれてきました。達成感です。
僕はこの遊びを10年ほど続けてきました。最近でも、年賀状のために、前年の紅白のメインセットを再現します。前は文房具店などで素材を購入していましたが、今はIKEAなどで安くてそれっぽいものを購入できるのです。便利な世の中になりましたね。まぁ、そんな使い方をするのは僕ぐらいでしょうけどね。
今は、お世話になった人に送る年賀状に載せる画像用に紅白のセットを作り、撮影しています。
セットの魅力もさることながら、紅白に出場する歌手の真剣な表情も見物です。
歌手にとって目標であり、親孝行の場でもある紅白で歌う姿は、音楽番組を超えて、ドキュメンタリーでもありません。まさに「歌メンタリー」という感じです。
紅白で歌手が流す涙は、達成感だったり、緊張感だったり、「これまでの人生を見返したぞ!」みたいな反骨精神だったり、人間の素晴らしさがすべてあるように思います。これほどきれいで美しい涙はないと思うのです。
毎年の儀式『紅白キャニオン』
そして紅白で忘れてはいけないポイントは「ストーリー」があるという事です。
第62回(2011)年の紅白の後半を例にとると、松任谷由実「(みんなの)春よ、来い」で、春の景色。
EXILE「Rising Sun」で夏の景色。
天童よしみ「愛燦燦」、そして北島三郎「帰ろかな」で秋の景色、
紅組のトリ、石川さゆり「津軽海峡・冬景色」は曲名のとおり冬の景色、
大トリ、SMAP「オリジナル・スマイル」で、春の祭りのような風景。
という風に、曲順に四季が織り込まれているのです。
このようにストーリーで歌を披露できるのは、CMがない紅白歌合戦の特徴なのです。
やはりストーリーがあることで、見る側は自然と感情移入がしやすくなります。
そして紅白のためにやる事は、ミニチュアのセット作りだけではありません。
私は、毎年12月30日に、山に登ります。誰もいない、雪が降る場所に行きます。
長野や群馬などの山です。そこを3時間ほど歩きます。
寒い、つらい、きつい、寂しい、とにかく孤独な山歩きです。
しかし、あと24時間後は大晦日の紅白。山を越えると、紅白歌合戦が待っている……。
そんな希望の為に歩くのです。この年の瀬の山歩きにはまってしまい、
毎年、「紅白キャニオン」という一人のイベントにしています。
これはなかなか賛同してくれる人がいないのですが、無性に楽しいひとときなのです。
ドMなのでしょうか?
これらの行為や知識は「無駄」だと思ってきましたが、今ではお仕事につながることもあるのです。
それはまた次回。