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「変わることを恐れない」リーディングカンパニーの挑戦

WEBクリエイティブの黎明期からその名を馳せ、業界を牽引してきた株式会社ビジネス・アーキテクツ。この世界で働く者なら誰もが知る老舗かつ大手、という企業イメージの一方で、彼らの中で変わらないのはむしろ「変わり続ける姿勢」だという。それを体現するかのように、昨年は設立以来14年間用いた社名ロゴを含む新CI(コーポレートアイデンティティ)の導入も話題となった。またこれに先立つ2011年、映像制作を主軸にするAOI Pro.グループの一員となり、デジタルメディアを駆使した広告表現から、WEBマーケティングの分野まで、全方位でクライアントのニーズに対応する大胆な施策を採ったことも記憶に新しい。そこで今回、世代も職能も異なる同社スタッフ4氏に取材し、最新のビジョンを伺う機会を得た。「今が第2創業期」と言う、彼らの決意と未来予想図はどんなものなのだろうか?

「来るべき時代のニーズ」をとらえ続けて

株式会社ビジネス・アーキテクツ(以下、BA)は、株式会社リフレクスとして1999年に創業。無印良品の「MUJI.net」の立ち上げをはじめとした数々のクライアントのWEB展開を成功に導き、現在活躍している多数のクリエイターを輩出したことでも知られる。前身となった株式会社リフレクスの設立メンバーでもある同社常務取締役CCOの青木誠さんは、初期の歩みをこう振り返る。

株式会社ビジネス・アーキテクツ 常務取締役 CCO 青木誠さん

株式会社ビジネス・アーキテクツ 常務取締役 CCO 青木誠さん

青木:最初は5人でリフレクスを立ち上げました。静岡県の下田に本社があり、わざわざそこまで来て一緒にやろうと言ってくれるお客さんと付き合いたいとか、僕らの鼻息も荒かったですね(笑)。その後2000年に、当時すでに個人で活動し、同時にひとりでやれることの限界を感じ始めた人々が、未開拓の領域を目指して集まりビジネス・アーキテクツとして始動しました。おかげさまで「MUJI.net」や「Sony Design」など、先進的な企業のネットを使った新しい取組みに関わることができ、さらに結果を出せたのは大きかったと思います。

日常の一部になってゆくデジタルを用いたコミュニケーションを、クライアントと一緒に考え、ビジネスへとつなげていく。Eコマース、新形態の広告、動画、ソーシャルなど時代の変化にも対応し続けて現在に至る。常に「こういうニーズがあるはず」と提案を続け、結果、BA自体も変化し続けてきたのだ。

制作本部長の和田正弘さんは2005年から合流し、多彩なプロジェクトを手がけてきた。また、同制作部の山本麻友美さんはデザイナーとして2007年に新卒入社し、現在はアートディレクターとしても活躍している。2人はBAについて、それぞれこう語る。

制作本部 本部長 ビジネスソリューション部 部長 和田正弘さん

制作本部 本部長 ビジネスソリューション部 部長 和田正弘さん

和田:実はうちの会社のサイトのどこを見ても「WEB制作会社」とは出ていないんです。BAがずっとやってきたのは、広い意味でのコミュニケーションの課題解決。僕はそこが一番の特徴だと思います。

山本:デザインというものは、表層の見た目だけでなく、もっと根っこの部分からエンドユーザーとのコミュニケーションを考える必要があり、その「体験」自体もデザインの範疇だとBAで学んできました。

執行役員でコーポレート本部長の越智敬之さんは、BAがAOI Pro.グループに合流後、2013年から参加。経営戦略から人事広報までコーポレート業務全般を担う。自身もWEB制作会社の起業を経て、サイバーエージェント社や博報堂社などを渡り歩いてきた経験から、BAの特徴をこう説明してくれた。

越智:これは私見かもしれませんが、かつてのBAは「猛獣的な異能クリエイター集団」といった印象でした(笑)。もともとは、自分のスタイルやポリシーをしっかり持った優秀なクリエイターたちが、1人では出来ない大きなミッションを成し遂げるために集まり、プロジェクトチームとなり、気がつけば組織になっていった、といった感じです。ですから極めてダイバーシティな環境でもあり、ひとりひとりの守備範囲が広いことも特長だと思います。想いを伝え、人の心を動かすためには、WEBにこだわらず、企業やブランドを取り巻くすべてのコミュニケーションからデザインすべき。そうした本質を理解するクリエイターが集まっているのは、当社の大きな強みなんです。

より深く、クライアントに踏み込むこと

現在では社員約120名を擁し、まさに実績・規模ともに業界内の大手と言えるBA。一方で近年は働き方の多様化も進み、少人数でエッジの効いた試みを繰り出す新鋭企業の活躍も目立つ。それらとは異なる、BAのような組織ならではの強みとはどんなものだろう? ひとつには、多くの主要クライアントと長期の信頼関係を保ちつつ仕事をしていくスタイルが挙げられるという。現在、常時数十件のプロジェクトが稼働するが、同一クライアントからの大小の案件が同時進行している割合も大きい。積み重ねた実績のなせる業とも言えると同時に、そこにあるのは安定志向とも思えてしまうのだが、実際はどうなのだろうか?

青木:特定のクライアントと長く関係を維持するのは、実はすごく大変なことです。我々は日常的なルーティンワークだけを引き受けることを目指してはいません。共に考え課題を解決していくパートナーを目指しています。結果として自ら高い目標を設定し、クリアすること以上の期待値として「+α」を加える努力が必要になります。だから、常にプレッシャーもあるし、挑戦の連続です。しかしそこには当然メリットもあり、クライアントと密接になるほど、次に何をして、何を目指すかを、長期的視野で共に「たくらむ」ことができるのも大きな魅力です。

執行役員 コーポレート本部 本部長 越智敬之さん

執行役員 コーポレート本部 本部長 越智敬之さん

その「たくらみ」はときに、クライアント側の組織内で話をどう広げ、誰を巻き込んでいけば最終的に上層部のGOサインが得られるのかといったことまで含まれる。それが実績になれば、(クライアント側の)担当者の社内プレゼンスも高まり、より裁量権を広く持てるようになり……と、共に挑戦できることのレベルを上げていく。クライアント側にとっても、案件のたびにコンペを開催するなどの過程を節約でき、費用対効果も上げることになるのだという。いわゆる「WEB制作会社」で、ここまで考えられる会社はなかなかいないだろう。

越智:クライアントには、自分たちも気づいていない「潜在的な課題」もあります。だから提示されたRFP(提案依頼書)通りの提案では不十分だと考える際は、RFPの再構成から提案させていただくこともあります。私たちは決められた業務に応じる「オーダー」を受けるのではなく、クライアント課題に真正面から向き合い、包括的なソリューションを提供させていただく「オファー」を受けていると認識しております。それはクライアントビジネスに貢献するパートナーとして、重要なスタンスであると考えています。

多種多様な人材で、フラットな組織に

また、豊富なスタッフを擁することの強みもある。たとえばWEBサイトひとつをつくるのにも、必要な領域の多様化と専門化は、今後ますます進んでいくだろう。そんな中で個々人が最大のパフォーマンスを発揮できるのは、周囲に違う才能を持った多彩な仲間がいる場所ではないか、と和田さんは言う。

BA4

制作本部 ビジネスソリューション部 アートディレクター 山本麻友美さん

和田:企画、設計、デザイン、実装、ディレクション……少人数でやるにはどうしても限界がくる一線があります。野球でいうと、どこでも守れる選手が9人揃えれば最強というわけではないですよね。むしろ持てる力の最も突出した部分を生かせるのは、他分野のスペシャリストが一緒にいる環境だと思うんです。

和田さんは以前に小さな会社で働いた経験もふまえ「大規模な案件ほど、個人が任される責任もやりがいも大きい」と言う。そして、それは個と組織の成長の好循環にもつながる。

山本:私の場合は入社直後にいきなりベテランの青木と一緒に仕事をさせてもらうことになり、周囲に引きずられるように20代を駆け抜けて(笑)、今の自分があると思ってます。特に最初は恐いもの知らずで、色々ヘンなことを言って周りを困らせたかもしれませんが、それも汲み取ってもらえたし(笑)。そのあたりは、組織として機能しつつもフラットな関係性がBAにはあると感じます。

新技術も人材も、適材適所で化学反応を

新しいものを取り入れる、そのバランス感覚にもBA流が見られる。常に変化していく世の中の「標準」に敏感でありつつも、あくまでクライアントやプロジェクトのニーズにあった形で活用・提供していくという姿勢だ。

BA5

青木:クライアントが求めるユーザー体験レベルの実現につながる技術やアイデアは、常に取り入れていきます。ただ、「これ新しいね!」を売りにしたいと考えるクライアントもいれば、「内部で継続運用したいので、そこは従来通りで」という要望もあり、そこはケースバイケースです。

山本:出発点として、技術ありきで何かを考えるというより、課題解決のために、つくる側の人間が「こうやればできるじゃん」といった形で新技術が生きればよいなと思ってます。結果、新しいことをやっていると気づかれにくいこともあるかもしれませんが、目指す結果に対して有効ならそれでいいと考えます。

ともすれば、目的と手段(新たな技術)が入れ替わりがちなこの世界で、適材適所を忘れないこと。これは多様なスタッフのマネージメントにおいても共通するものだという。多様な能力を適所に配することで、個々のやりたいこと・やれること・やるべきことが重なっていくことを目指す。

BA6

和田:たとえば、BAには漠然とした「WEBディレクター」という役職はないんですね。プロジェクト・マネージャー、インフォメーション・アーキテクトといった実務的な職能があり、本人の能力と適正で、プロジェクトごとに役割が決まるかたちです。デザイナーでも得意ならプロジェクト管理やディレクションも兼任することがある。それは案件ごとにチームを組む中で決まっていきますし、IAを志向したスタッフが、その付加価値を高めることを考えてSEOを勉強できる環境にシフトしたり。その意味で、各々が自身のやり方でキャリアパスを描きやすい環境とも言えると思います。

人が職能に当てはめられるのでなく、個々の中にある職能の多様さを生かす。これは案件ごとのミッションの明確化、スタッフの適正や稼働状況の的確な管理で実現されているという。加えて「最後は人そのもの」ということで、その判断材料となる各メンバーの希望や指向を管理職が拾い上げることも日々行われる。
 
では、この激動の時代において、これからのBAはどうなっていくのか? 「第2創業期」と語る彼らの未来への予想図を、次ページで紹介していきたい。

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「第2創業期」を迎える今

「第2創業期」を迎える今

グループ化が、シナジーを生む相乗効果

これまでの話からは、順調で、かつ力強い歩みが想像されるが、BAは2011年、創業10余年を経て、テレビCMなど映像制作の老舗で東証一部の上場企業であるAOI Pro.グループの一員となり、2013年には経営陣や組織体制も大きく拡張された。そこにはどのような背景があったのだろうか。

越智:近年のコミュニケーション環境の劇的な変化に適応していくために、BAは抜本的な組織改革の必要性に迫られていました。そしてテレビCMと共に多数のデジタルコンテンツをプロデュースし続けてきたAOI Pro.にもまさに共通の課題があったと思います。両社どちらも優秀な人材を擁していることは確かでしたから、中長期の事業コンセプトや戦略方針を徹底的に検討した結果、知名度やブランドエクイティ(無形ブランド資産)のあるBAに人財を結集させ、統合的なコミュニケーションサービスを実現する為の事業体制を創り上げました。それが今の「新生BA」です。まさに新しい会社を創業したと言っても過言でない、本当に魅力的で遣り甲斐の大きなチャレンジだと思います。

社内風景

社内風景

グループ各社とは映像制作やイベント関連の仕事で連携し、様々な形でシナジーを生み出していきたいという。制作現場ではグループ化以降に、どのような変化を感じているのだろうか。

山本:たとえば、従来は映像コンテンツをやろうと思ったらまずそれを企画し、制作は外部パートナーに頼むこともありました。それがグループ内にその専門家がいるようになると、最初からそれを選択肢に考えられる。起点が広がって「そもそもこの案件の最適なソリューションは映像中心か、WEB中心がいいのか」というレベルで選択の幅が広がったと感じています。

従来も特徴としてきた、多彩なスペシャリストが集うことによる相乗効果。それは制作現場に留まらず、組織全体の専門性をも深める方針につながったという。

越智:人材面では戦略立案やマーケティング担当も充実させ、それらを統合していく方針です。今、企業はROI(投資利益率:投下した資本がどれだけ利益を生んでいるのかの指標)を重視しますから、実データからの考察でビジネスを提案できる力を育てていきたいですね。それと同時にクリエイターが暴れられる場をつくれるプロデューサーやアカウント・エグゼクティブも育てていきます。そういった人材育成の結果として、WEBサイトに限らず、動画もイベントも「体験装置」としたデジタル・コミュニケーションを提供していきたいです。

激変する広告業界に向けたアクション

社風や文化、価値観も異なる企業体同士の合流には、当然メリットだけでなく難しさもあるだろう。だが越智さんは「“統合”でなくてもよい。むしろ“融合”からの化学変化が期待されている」と話す。その背景には、メディア起点で考えられてきた広告コミュニケーション産業の形の劇変があるという。企業が広告を「買い」、代理店はこれに基づいてCM、WEBサイトをつくるという流れが崩れてきている現実だ。

BA8

越智:今は誰もがコンテンツを発信でき、誰もがシームレスに有用性があるコンテンツに到達し、更に共有・拡散できる時代。そして今後もデバイスやテクノロジーは発展し、ますます生活者の情報行動は多様化・複雑化していきます。つまりこれからは以前のようなメディア起点でのコミュニケーション設計でなく、ターゲット(ユーザー)起点での統合的なコミュニケーションデザインに取り組もうとする「クリエイティブ・エージェンシー」が重宝されてくると考えています。だからこそ、人の心を動かす魅力的なコンテンツをつくりたいクリエイターにとっては、最高の舞台環境となってきたと思います。上流設計から実装まで、さらにその検証もできるのがBAの特徴のひとつですが、そこをさらに超えた動きも見据えたい。その意味でも、BAは今を明確に「第2創業期」と位置づけています。

青木:クライアント側に目を転じれば、こうした状況だからこそ、皆さん本当に良く勉強なさっていますし、やれることは自分たちでやろうという流れもあります。今後はそうした「考えるクライアント」が投げかけてくれるものに対して、僕らのような外部の存在だからこそできることとは何か、クライアントやエンドユーザーに加え自分たちも「ワクワクする」挑戦を続けて、これまでの自分たちを超える形で応えていかねばいけないと思っています。

14年ぶりのCI変更に込めた想い

2013年秋に行われた、CI変更という大きな出来事も、一連の「変化への指向」の延長線上にある。林亨会長の意向で、AOI Pro.グループの全体像の中での位置づけも含め、BAが今後どうあるべきかを判断したという。

青木:おかげさまで「ビジネス・アーキテクツ」のブランドは一定以上の浸透を遂げてきましたが、それゆえの「見えない枷」のようなものも生じていたかもしれません。そこを超えていくために、今改めて、新ブランドを構築し直していく決意がそこにはあります。

BA9

これに基づいて青木さんが現場担当にあたり、現在の新ロゴを含むCI開発が行われた。呼称は「ビジネス・アーキテクツ」から「ビーエー」に、表記も「bA」から「BA」に変更。シンプルなロゴについては、存在感の強さを表現するために、収まりのいいバランスで落ちつかせるのではなく、ともすれば主張し過ぎと感じられるギリギリのラインを狙った。

青木:会社も個々のスタッフも現状の姿に収まらない、若干規格外っぽいという(笑)、そういう姿勢は持ち続けたいと思ったんですね。その上で、今までの「bA」のブランディングにはない、より開かれた意識を示していけたらと思います。これはコミュニケーションを強く打ち出し、そこにクライアントやユーザーと同じ目線も持って対峙していく意思表示と考えて頂いてもいいでしょう。CI変更と同時に生まれた「人の心を動かす人がいる。」というキーフレーズも、そうした想いに繋がっているんです。

コミュニケーションの先にある、リレーションシップを見据えたサービスづくり。『月刊ブレーン』(2013年8月号)に掲載されたBAの新体制スタートを告げる企業広告には、「新しいコミュニケーション・ビジネスを、作り方から創ります。」との宣言文も踊った。AOI Pro.グループと互いの経験値を束ねることによる拡張性がどんな可能性を拓くことになるのか、今後はますます注目されるといえよう。

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