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憧れだけだった学生時代の自分に「ちゃんと編集者になれたよ!」って言いたい。

株式会社ロースター

株式会社ロースター

「編集者に憧れる普通の子でした」。そう話すのは、メディア制作会社・ロースターに所属する渡部彩さん。現在、月刊ファッション雑誌『Soup.』の副編集長を務めるほか、広告、書籍などのチーフディレクターを務める叩き上げの編集者だ。しかし、これまでには編集の道から外れたこともあったという。そんな彼女に、初めて編集者を志してから今日までの経歴について語ってもらった。

Profile

渡部 彩

1984年生まれ。沼津高専を卒業後、埼玉大学に編入し卒業。編集プロダクションにて、フリーペーパー『FILT』等の編集を経て2010年より株式会社ロースターに入社し、現職。ファッション雑誌『Soup.』副編集長のほか、広告、書籍、ムックなどのチーフディレクターを務める。

憧れの出版業界に飛び込み、理想と現実のギャップに苦しんだ学生時代。

―職歴を拝見すると、前職でも編集業をご経験されていますが、出版業界への憧れは強かったんですか?

渡部:はい。モノをつくる仕事がしたいと思って、マスコミ業界を中心に就職活動をしたんですが全くダメでしたね。でも、どうしてもこの業界で働きたかったので、知り合いに雑誌『Begin』の編集部の方を紹介していただき、なんとかアルバイトとして入れてもらえることになりました。

―実際に働いてみていかがでしたか?

渡部彩

渡部:編集の仕事というものを舐めていましたね。そもそも学生気分が抜けきれていなかったんだと思います。編集者の華やかな部分しか見ていなかったので、すぐに撮影現場に行けると思っていたんです。でも、実際は地味な作業ばかり。プレゼントページとか小さな原稿も少し書かせていただいていたんですけど、基本的には、コーヒーカップの片付けとか、リース商品を返却に回ったり、読者プレゼントを配送したり。今、思うと当たり前のことなんですけど、憧れだけで入ってしまっていたので、「何のために?」って思っていました。編集部の人たちはとても忙しそうで、コミュニケーションもうまくとれず、怒られてばっかりでしたね。

—現実を突きつけられたわけですね。

渡部:はい。とにかく不甲斐なさでいっぱいでした。どうやったら思い描いていたような編集の仕事をやらせてもらえるのかなと。でも結局答えは出ないまま、1年続かずに辞めてしまいました。もっと頑張れば良かったんですけど、そんな根性もなかったですね。今でも当時の児島編集長(現『装苑』編集長)や編集部の方には優しくしていただいていて、「渡部はあのとき本当に使えなかったけど、よくここまで成長したな」って言われます(笑)。『Begin』は読者はもちろんですが、アパレル業界の方からの信頼度も絶大で、それは下っ端のバイトからみても分かりました。素晴らしい雑誌でしたし、編集の方々は優れた人ばかりだったので、ここで出会えた人や得た経験は私にとっての財産になっていて。当時は本当にどうしようもなくて何の役にもたてなかったですけど、いまは当時お世話になった皆さんに見せても恥ずかしくないような仕事をしようと思いながらやっています。

「個性がない」コンプレックスを原動力に突き進んだ編集の道

―『Begin』編集部を辞めた後は何をしていたんですか?

渡部:大学を卒業して、六本木ヒルズにあるアパレルの店舗で販売員をやることになりました。その仕事自体はとても楽しかったんですが、どうしたら次のステップに進めるのかが見えなくて。結局、編集者の夢が諦めきれず、当時『FILT』というカルチャー系のフリーペーパーで編集長をしていた大崎(現ロースター代表)に声をかけてもらい、働くことになりました。

―そこでは具体的にどんな仕事をしたんですか?

渡部彩

渡部:『FILT』の編集を担当することになりましたが、あとはクライアントワークが多かったです。実力とかやる気次第で仕事を任せてもらえたので、モチベーションも上がるし、毎日が新鮮で。実際、編集部に入ってすぐにページを任せてもらえました。企画会議にも参加させてもらえたのも嬉しかったです。『FILT』はページ数もそれほど多くなく、企画をじっくり練ってページを作っていける媒体だったので、こだわった構成やビジュアルの作り方はとても勉強になりました。また、原稿が上手なマガジンハウス出身の上司が多かったので、コピーライティングも叩き込まれました。恵まれた環境でしたし、編集のイロハはここで教わったと思います。

―今でも印象に残っている企画はありますか?

渡部:自分の企画がはじめて特集として採用された「東京上京物語」という企画ですね。様々な有名人の方に上京したときの甘酸っぱい思い出や、夢に一直線だった当時のことを思い入れの場所で語ってもらう企画なのですが、上京当時に住んでいた土地で撮影をしたり、家の間取りなども書いてもらったり。私自身、静岡の田舎から上京してきたので、自分の思い出と重なるところがあって初心を思い出しました。そうやって自分の企画が認められて誌面として形にできるということが、単純に楽しかったですね。それこそ憧れていた編集の仕事をさせていただけたと思います。

―実際に理想としていた編集の仕事を経験できたわけですね。

渡部:学生の頃は編集者になりたいと思っていても、どうすればなれるのかも分からなかったし、とにかくがむしゃらだったので。今は当時の自分に「ちゃんと編集者になれたよ!」って教えてあげたい気持ちです(笑)。

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「編集の仕事って地味なことが多いけど、
どんなところでも見てくれている人はいる。」

「編集の仕事って地味なことが多いけど、どんなところでも見てくれている人はいる。」

—そんな順風満帆な編集者生活を送っているかのように見えた渡部さんですが、編集プロダクションで3年働いた後、編集の道を一度離れたそうですね。

渡部:はい。放送作家の倉本美津留さんの会社にお誘いをいただいて、制作会社に転職しました。前の仕事でちょっと疲れてしまったというか、そのときは休日もままならないような感じで働いていたので、少しのんびり人生を見つめ直したいと思って。忙しかったというか、スケジュールを自分でコントロールできていなかったんですよね。編集の仕事は好きだったんですが、本当にわがままなんですけれど、少し離れてみることにしたんです。

ロースター オフィス 風景

ロースター オフィス風景

—でも、またしても編集者に戻ってくるわけですよね?

渡部:はい。倉本さんのところでは、錚々たる方々とお仕事させていただいたので、貴重な経験ができました。ただ、一度離れたことで、やっぱり編集をやりたいという自分の気持ちに気づいたんです。ちょうどそのタイミングで、設立したばかりのロースターから仕事を手伝ってくれないかと声をかけてもらって。『AKB48 FASHION BOOK(マガジンハウス)』や『超新星 ビジュアル・コレクション(マガジンハウス)』をお手伝いさせていただきました。その2冊のディレクターが、憧れの編集者だった淀川美代子さんだったんです。お仕事をご一緒させていただけたのが本当に嬉しくて、より一層編集の仕事をがんばりたいという気持ちが強くなりましたね。これまでは自分の想いや考え方もけっこうブレていて、これしかない! というよりはどこか与えられた環境になんとなく身をおいた状態で進んできたと思うんです。でも、好きで自分が選んだ道だから、ようやく「きついな」と思う事もやり抜こうと思えるようになったと思います。

—実際、現在は、エグゼクティブディレクターとして活躍されていますが、前職の編集プロダクションの頃と比べて働き方に変化はありましたか?

渡部:ロースターに入ってからは一冊丸ごと任せてもらえるようになったのが大きかったと思います。出版社に自ら企画を出して書籍を制作したり、様々な媒体・ジャンルをやらせていただいたので、経験値が上がったと思います。

—話を聞いているなかで、渡部さんは自分の意志に素直なのはもちろんですが、積極的に行動しているからこそ、結果に結びついているような気がします。

渡部:私自身そこまで積極的に行動しているとは感じていないんですよね。社交性があるタイプではないですし。でも、人との出会いが人生を変えてくれたとは思います。編集の仕事って地味なことも多いので「これ意味があるのかな?」と思うような作業も多いんです。でも、どんなところでも見てくれている人は必ずいる。だから横着しないで、そういう人たちの期待に応えたいとは思います。

新たな仕事への挑戦。ファッション雑誌『Soup.』の副編集長に

—渡部さんはファッション雑誌『Soup.』の副編集長も務めていらっしゃいますよね?

渡部:はい。『Soup.』は、雑誌を丸ごと一冊作ってみたいと思っていた頃に、弊社で担当するという話が持ち上がったんです。最初は前編集部と共同で制作して、その後すぐに副編集長をやらせていただくことになりました。13年の歴史ある雑誌ですし、私はファッション畑でずっとやってきたわけではなかったので当初は特に大変でした。いきなり編集部が変わって、しかもまとめる立場になるということのプレッシャーが大きかったですね。今までの『Soup.』を尊重し学びつつも、新しいものをつくっていかなくてはいけないですし。編集部が弊社に移ったばかりのころは3人でつくっていたのですが、本当に辛くて、何度も辞めたいって思いました。そのときにお世話になったスタッフや編集部員にはとても感謝しています。今は編集部も8人になって体制も整いましたし、新生『Soup.』のイメージも内外に伝わってきたので、これからが勝負だと思っています。

—エグゼクティブディレクターや副編集長という上の立場になって、若手を育てることも多くなったのでは?

渡部彩

渡部:そうですね。新人のころに上司に言われて反発していたことも、今なら分かるということがたくさんあります。そう考えると、今の部下の子も、昔の自分みたいに納得いかないと思っているところがあるかもしれないんですが、分かってもらえる日がくるのかなと思います。私は言葉が直球で強いところがあるので、それをなるべくソフトにしたいなとは思っています(笑)。これまでは上にいけば楽になれるのではと思っていましたが、当然、実際はそんなこともなく。どの立場になっても悩みはあるんだなと痛感しているところです。

—最後に、今後の目標について教えてください。

渡部:今後については、ものづくりに軸足を置きながら、いろんな可能性を模索していきたいですね。もちろん編集は好きなので続けていきたいですが、ロースターの強みを生かして、雑誌があるからこそのイベントやECサイトを企画したりといったプラスαの動きができるようになれればと思っています。それから、もともと音楽が好きで学生時代に『SUMMER SONIC』『FUJI ROCK』などの音楽フェスでずっとバイトをしていたので、音楽に携われるお仕事もしてみたいですね。

Favorite item

制作に携わった書籍

一冊は友人でもあるライフスタイルプロデューサーの村上萌さんの書籍。彼女の考え方や生き方に共感している部分が多かったので、その企画をマガジンハウスさんに提案して制作できることになったときは嬉しかったです。もう一冊は美容ジャーナリストの上田祥子さん著書のタイのビューティガイドブック。今まで外国のガイドブックをつくったことがかなったので新しいジャンルに挑戦できました。自信を持ってお勧めできる2冊です。

Profile

株式会社ロースター

「ロースター」とは、コーヒー豆の焙煎機のこと。

豆をしっかり吟味してローストすることで、どんな豆でも、お客様の好みの味にするのがボクらの仕事です。

「この豆は、浅煎りのほうが酸味が引き立つな」とか、「このお客様は、フレンチローストが好きなようだ」とか、そんなことを考えながら、コーヒーを入れるバリスタのように。

ボクらが求めるクリエイティブとは、こんな想像力のことです。

これからの時代のエディターやディレクターは、WEB、デジタル、紙、SNSといったメディアの形に捉われることなく、企画を考えて、ストーリーをつくり、世界観をカタチにしていく力が必要です。

そんな想像力を膨らませながら仕事をしてみたいと思う人と、一緒に働けたら最高です。

■スタッフについて(メンバーについて)
現在、新卒入社〜40代前半の年齢層の社員が26名(男性:7名、女性:19名)働いています。コンテンツ制作部の編集者が10名、デザイナーが5名、飲食事業部が8名、総務経理部が3名です。

現在は20〜30代のスタッフが多く、年齢問わずアットホームな雰囲気で仕事終わりや休日に一緒に出かけるスタッフも。好きなことに真っ直ぐで、それぞれの個性や意志を尊重できるスタッフが多い印象です。

■オフィスについて
5階建ての自社ビルは、ただのオフィススペースにとどまりません。白を基調としたクリエイティブなスタジオ、設備の整ったキッチンスタジオ、メイクルーム、そして社員が割引価格で美味しいコーヒーやスイーツを楽しめる『夏目坂珈琲』が併設されています。

ドラマや映画、テレビCMにも使われている、私たちのこだわりが詰まったスタイリッシュなオフィスで、新しいキャリアを築きませんか。

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