Interview 私としごと

気骨と理論で解き明かせ マンガの神髄

株式会社講談社
竹本 佳正(第七編集局 モーニング編集部)

社内で1番の大所帯という40人を越える編集部に、抜きに出たガタイの良さと体力を持つ編集者、竹本佳正さんがいる。ひじは3回はずれ、両膝にメスの跡、両手の曲がった小指は右が脱臼、左は腱が切れて、どちらもピンと伸びない。顔には闘志をたたえるいくつもの傷跡がある。寝ても覚めてもラグビーに明け暮れた青春時代、マンガの編集が主戦場になるなんて考えてもいなかった。編集者となった今、自慢の気力と体力で、全力投球でマンガに向かう。「本もラグビーも同じ。あらゆる人とのチームワークでできている」。どんなときも独りよがりにならず、ベストを尽くす、竹本流仕事術を伺った。

プロフィール

竹本 佳正

1981年生まれ。広島県尾道市出身。早稲田大学社会科学部卒業後、株式会社講談社に新卒入社。当初は営業職志望だったため、コミック販売部に所属し、営業成績を伸ばす。2007年にモーニング編集部に異動。現在は、週刊『モーニング』、月刊『モーニング・ツー』、モーニング公式サイトでの配信マンガの計4本の連載を担当する。2013年5月に始まった週刊モーニング公式アプリ『Dモーニング』のチーフでもある。

インタビュー・テキスト:早川すみれ 撮影:すがわらよしみ(2013/7/16)

たとえば、彼女にふられたときの話をする

―最初に、マンガの編集者とは、どのような仕事か教えてください。

竹本:まず作家と一緒に打ち合わせをして、次回の方向性を決めます。方向性が決まったら作家に下書きをしてもらい、「ネーム」とよばれるラフ画ができ上がってきます。それを元に、「もっとこうしよう」という提案と書き直しを繰り返しながら、原稿を仕上げてもらう。その後は、出来上がった全ページを雑誌に載る形に整える校了作業をして印刷へ、という流れで仕事をしています。『モーニング』は、年に50号発行するので、この行程を年に50回繰り返します。1回のサイクルはあっという間ですよ。たとえば、月曜日の夜に打ち合わせをすると、水曜日には1発目のネームが出て来て、直しがあれば半日で直してチェック。その後3日くらいで原稿に仕上げる、というのが理想のスケジュール。もちろん、そうじゃないことのほうが多いのですが(笑)。

—想像していた以上に、すごいスピード感ですね。具体的に編集作業というのは?

竹本 佳正

竹本:紙に印刷されるまでのあらゆる行程に携わりますが、たとえばセリフの書体選びは、登場人物の性格や読み味にも影響する大切な仕事のひとつです。雑誌の傾向もあって、少年誌は書体の種類をたくさん使い、吹き出しに対して、大きめの文字でみっちりとセリフが入っています。例えば、「ドカーンッ!」という勢いに溢れたセリフが出てきたときは、大きめの書体でその感じを演出する。『モーニング』のような青年誌に使う書体の種類は、少年誌と比べたら少なくて、もう少し落ち着いた印象ですけどね。書体で漫画の印象はすごく変わって見えますよ。万葉古印という書体を、「ううぅ〜」と唸っているセリフに使うと、今にも死にそうなくらい苦しい感じが出るし、文字を小さくしたら、小さな声でしゃべるキャラになる。

―となると、編集者と作家との連携がとても重要になりますよね。竹本さんは、作家とやり取りする上で、大切にしていることはありますか?

竹本:僕は作家の感性や才能が、ベストな形で作品の中で表現できることが一番だと考えています。たとえば、失恋の話を描くときに、作家の感性を引き出したほうがいい表現になると感じれば、細かい指示はせずに、失恋について作家と話し合います。僕だったら、3年間付き合った彼女にフラれたときの話をしたこともありました(笑)。その時は電話を取った最初の「もしもし」で、フラれるってわかったんです。そんなリアリティー。ショックで電気も点けられず、暗い部屋で体育座りをして、何もする気が起きなかったと、かなり赤裸裸に伝えて、参考にしていただいたり(笑)。

―切ない情景がありありと目に浮かぶエピソードですね(笑)。そうやって作家の感性を刺激するということでしょうか。

竹本:作家自身も気がついていない表現の引き出しに、編集者がノックして気づいてもらうのも仕事のひとつ。僕たちが想像もつかないことを考えるのが作家なので、作家自身は、ある種ふわふわしていていいと思うんです。「人が生きる意味について描きたい」と作家が思ったとしたら、それは現代の日本で生きる人なのか、アフリカの発展途上国で生きる人なのか、紛争地帯、内陸、高地で生きる少数民族なのか、編集者はいろんなケースを調べてあらゆる事例を提示します。焦点を当てる場所によって、まったく違う表現になりますからね。すると、思いがけないところに、作家自身も今まで気がつかなかった引き出しがあったりするんです。

極論。編集者がいなくてもマンガはできる

―それには、編集者自身の感性も豊かでないといけないと思うのですが?

竹本:もちろん感性もあったほうがいいけれど、それは本を読んだり、映画を観たり、人と出会うことで育むこともできます。それよりも、僕がいつも意識しているのは、話を要素分解して理解すること。誰かが楽しい話をしたときに、なぜ「楽しい」と感じるのかを考える。漠然と「楽しい」では、編集者としてはダメなんです。「この人が、この状況で、この人と会ったから楽しい」と言語化する能力が必要で、自分で説明できないといけません。

―編集者たるもの、曖昧なことは言うべきでない、と。

竹本 佳正

竹本:作品が面白いか、面白くないかという判断も、はっきり言わないと作家に不安感を与えてしまいます。もし、違和感を抱いたのなら、理由をきちんと言語化しなきゃいけない。作家が自分をさらけ出して、自信をもって描いたものに対して、「なんとなく面白くないんです」では失礼過ぎるし、プロフェッショナルとは言えないでしょう。「この点がつまらない。でも、こう直したら面白くなる」と、相手が納得できるような説明ができないと。

―言語化する能力。クリエイティブの仕事全体に通ずる気がします。

竹本:極論を言えば、編集者がいなくても、作家の才能だけで作品はでき上がります。じゃあ、なぜ編集者が必要なのかと言えば、僕らはただ編集作業をしているだけではなくて、いわば、作品の進む方向性や営業的側面などを、客観的に組み立てて遂行する、プロデューサー的な立場でもあるわけです。作品が読者、いわゆるエンドユーザーに届くまでの行程を、いかに先見の明を持って進めていけるか。全体的な流れを把握して、ひとつひとつの作業に必要なタームを、いかに意識しながらスケジューリングできるか。常に考え、理解していないといけません。

―常に考える、というのは竹本さんの仕事のルールでもあるんでしょうか?

竹本:そうですね。「常に考えること」と「丁寧な姿勢」は、忘れないようにしています。編集者は、作家はもちろん、営業部やウェブチームとも密にコミュニケーションをとりますし、作品を取り上げてくださる外部のメディアの方とも話をします。その人達と一緒に仕事をしていく上で、常に自分が次の一手に何をするべきか考えること。結局、大切なのは「今やっている仕事がなんの意味を持つのか」を考える想像力だとも思うんです。あとは製版所や印刷所などたくさんの人の協力があってはじめて、作品が世の中に出版されるので、人に対して丁寧な姿勢は大切だと思います。僕らは友達と仕事をしている訳じゃないですし、そういうプロ意識を持ってはじめて、ひとつの本が出来ると思うんです。

―なるほど。では、そのような中で仕事の醍醐味はどういったところでしょうか?

竹本:ひとつは、ラフ画を読んだときに、「面白れーっ!」って思える瞬間。面白い作品の、世界で一番最初の読者になれるというのは役得ですね(笑)。それから、担当している作品が大きくなっていくのを見る瞬間。たまたま書店に行ったときに、重版がかかって、作品名がでかでかと掲げてあるのを見ると、自分だけじゃなくてたくさんの読者も面白いと思ってくれていると実感できて、うれしくなりますね。

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