Interview 私としごと

検索を制するネット界のコピーライター

株式会社カヤック
長谷川 哲士(コピーライター)

ユニークな社風や企画でネットを賑わせている面白法人カヤックで、コピーライターとして働いている長谷川哲士さん。教室でクラスメイトを笑わせることが好きだった子供時代、たった一言で空気を変えられる「言葉」の面白さに気づいた。「大御所コピーライターや大手広告代理店のコピーライターと同じやり方では、自分は生き残っていけない」という長谷川さんは、ネットを主戦場に従来のコピーライターとは違う視点でコピーライティングの仕事に取り組んでいる。「検索を制する」という信念を持つ長谷川さんの、ネット時代を生き残るコピーライティング術とは?

プロフィール

長谷川 哲士

1984年4月8日生まれ。島根県出身で東大哲学科卒業後、リクルートに入社。その後フリーを経て面白法人カヤックコピー部にジョイン。フォロワー数11万人越えの人気Twitterアカウント「コピーライッター」の中の人。最近書いたコピー: 4月1日限定のウソ売ります。(カヤック) / 島耕作のスマホが見放題!!! / 絶対に手が離せないRPG(MEG)他多数

インタビュー・テキスト:たろちん 撮影:すがわらよしみ(2014/2/28)

言葉ひとつで空気を変える!

―言葉に興味を持つきっかけになったエピソードってありますか?

長谷川:僕は中学校まで島根県松江市の本庄という街で1学年18人くらいの小さな学校に通ってたんですが、当時はクラスで面白い人が人気者になる雰囲気がありました。僕も頑張って面白い人になろうとしていたんですけど、そう簡単にはなれなくて(笑)。子供の頃は、TwitterやFacebookもなかったですし、クラスの中が世の中の全て。だから何とかして1日に1回はクラスメイトを笑わせるんだっていうモチベーションで学校に通ってましたね。言葉ひとつで状況を打開できるんだってことは、小学校の教室でみんなが笑ってくれた時に気づいたような気がします。そこで言葉って面白いなあと。

―「面白法人カヤック」でコピーライターを務めるだけあって、昔から面白い少年だったんですね。

長谷川 哲士

長谷川:いえいえ、高校の頃などはどちらかというと「スベリキャラ」でした。今もですが(笑)。高校は1学年300人以上で、ちょっと都心部にあったので、みんな育ってきた環境やルールが違ったんです。だから、それまでのやり方だと全然ウケないんですね。でも、それは自分で受け止めて、「スベるけど頑張るやつ」っていうブランディングをしてやっていったら、徐々に学年全体で顔を知られるようになった気がします。

—すごく客観的に自分のことを分析してるんですね。

長谷川:それは今思い返して考えればという感じですが、子供の頃から目立ちたがり屋ではありました。中学の頃、僕は野球部でしたが、誰も出る人がいないので陸上大会の3000m走に出なければならなくなって。当然、一番ビリになるんですけど、ただ負けるだけじゃもったいない。何かしてやろうと思って途中から力を抜いて走って、最後の直線100mを全力疾走したんです。そしたらスタンド中が湧いて「あいつなんなんだ」ってすごく注目されて(笑)。1位の人より記憶に残る選手になれたかもしれません。

―記録より記憶に残したんですね(笑)。大学から東京に上京されたんですよね。事前にいただいたプロフィールでは東大哲学科に進学されたとのことですが、何故哲学科に?

長谷川:あ、一応言っておきますがそれ、東京大学じゃなくて東洋大学の略なんですよね(笑)。

―あ、てっきり……。

長谷川:哲学を選んだのは消去法でした。経済学部は経済について学ぶ、社会学部なら社会について学ぶんだろうとなんとなくわかった気になれますが、哲学の哲を学ぶってよくわかりませんでした。パンフレットには、哲学は学問の根源とか人生について考えるとか書いてあって、これだけはちょっとわかった気になれないなと。あと、自分の名前にも「哲」が入っているので、両親のつけてくれた名前で人生を決めるとか面白いんじゃないかなと思いました。

―自分の名前から専攻を決めるっていうのは初めて聞きました(笑)。

長谷川:ざっくり言いますと哲学は古代ギリシア時代に誕生して「人生について考える学問」だったんですが、20世紀になって人生について考えるときに用いる「言葉」というツールについてもっと考えようという流れになったんです。そのとき「人生」とか「言葉」について考えたのが、今に繋がってる部分もあるのかもしれません。大学4年の時に就職を意識するようになってから、コピーライターという仕事に興味を持つようになりました。横文字でかっこよかったのと「何の特殊スキルもいらない、日本語が使えれば誰でもなれる」という、コピーライターの仕事についてのコピーがあったんです。それが見事に刺さり、コピーライター養成講座に通うようになりました。

あれもこれも言うと、何も伝わらない

―では、就職活動もコピーライターの仕事を中心に?

長谷川:実は養成講座まで受けていたのに、就職活動はしなかったんですよ(笑)。それは僕なりの反抗期だったと言いますか……。それまで、高校受験や大学受験って「いい高校・大学に入るために」って未来のために頑張らされていた感覚があって。周りの友人が就職活動を始めた時期に「今度はいい会社に入るために」頑張るのかと思いました。そして「いつまで未来のために、奴隷になって生きるのだろう?」と思って、就職活動をしなかったんです。

―なるほど。でも、就職先が決まらないまま卒業を迎えることに、不安はなかったんですか?

長谷川:自分で決めたことなので不安はありませんでした、卒業するまでは(笑)。4月1日になった途端、「今、自分が犯罪を犯してニュースに出たら、肩書きが『無職』なんだ……」と思ったら、急に焦りが出てきたんです。それで必死に就職先を探して、リクルートで求人広告のディレクターとして働くことに。幸いコピーも自分で考えることができる仕事でした。

―念願のコピーライターに近い職ですね?

長谷川 哲士

長谷川:そうですね。求人広告の場合だと、人が足りないからとにかくバイトが欲しいとか、こんな人が欲しいとか、色んなオーダーがあります。そのためのコピーを作るわけですが、最初はもっと自由に好き勝手できるイメージでしたけど、ちゃんと課題があってそれをクリアするための言葉だったり、企業が欲しい人に応募してもらう言葉になってないとダメなんだということを学びましたね。コピーは普通の言葉と違って、役目を背負っている、と気づいて。

―役目、ですか。

長谷川:たとえば、「妻は10円でも安い食材を買うために、隣町のスーパーに行く」ってコピー。これは仕事を探してるけどなかなか見つからなくて、奥さんにも苦労をかけてるな……っていう男性が見たらグッとくるんじゃないかなって。この求人を出している会社で活躍しているのが、家族のために働いている人たちだったので、こういうコピーをつくってみたり。

―なるほど。コピーを書く難しさはどんなところにあるんでしょう?

長谷川:コピーの価値って、正しく言葉に表現できない人の方が圧倒的に多いと思うんです。お客さんは、僕が3時間考えて書いた1行のコピーよりも、フォトショップで合成した写真のほうに価値を感じていることのほうが多かったですし。合成写真は自分では作れないので、そちらに価値を感じるようです。言葉は誰でも書けるので、お客さんが簡単に修正してくることもあります。でも、その言葉じゃ目的は達成できないんだ、と説明するのがけっこう大変でしたね。

―お客さんの視点からでは書けないものを作るのが役目ですものね。

長谷川:求人を出すお客さんにしたら、うちは時給も高くて待遇もよくて社員同士の仲も良いですって、全部言いたいじゃないですか。でもあれこれ言うと、逆に何も伝わらないんですよ。たとえば、幕の内弁当と言うと印象に残らないけど、からあげ弁当と言えば「からあげ」のことだけは少なくとも頭に浮かびます。一つだけを強調して言ったほうが、結局は伝わると思うんです。

―その後、リクルートを辞めてフリーになったと聞きました。

長谷川:リクルートには2年半くらい勤めたんですけど、リーマンショックの影響で部署そのものが潰れて、辞めるしかなくなっちゃったんです。部署がなくなることがわかってからは、リクルートの名刺の裏に「タウンワークを作る人から、ハローワークに通う人になりました」とかいくつかコピーを印刷して、自分の求人広告にしてましたね(笑)。その求人名刺がきっかけで仲良くなった人が、フリーになってから仕事をくれたりもしました。

―言葉の力で仕事を穫る、まさにコピーライターの仕事ですね(笑)。

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