Interview 私としごと

「僕にはものづくりしかない」カイブツの職人デザイナー

株式会社カイブツ
石井 正信(デザイナー)

人生から仕事を取ったら、何が残るのかーー。趣味、家族、ペットなど、それぞれ回答はさまざまだろう。今回インタビューに応えてくれた石井さんはそんな質問に、「僕からデザインの仕事を取り上げたら、何も残らない」と即答した。過去に自分のイラストを「社会に通用しない」と言われたこともあった、と振り返るが、デザイン会社への就職からウェブ業界への転職を経て、今年で社会人6年目。今は『井上雄彦 最後のマンガ展』などの仕事で知られるカイブツ社に入り、自身の可能性を模索している。着実に活躍の場を広げる石井さんのこれまでの道のりと、仕事観に迫った。

プロフィール

石井 正信

1985年生まれ。静岡県三島市出身。日本大学芸術学部デザイン学科コミュニケーションデザインコース(当時)を卒業後、デイリーフレッシュ株式会社に新卒入社。グラフィックデザイナーとして2年間従事する。2010年に株式会社カイブツに転職。現在は、イラスト、グラフィックデザイン、ウェブデザインに留まらず、撮影やプロダクトデザインまで多岐に渡る業務を担う。また、雑誌『Web Designing』の表紙を描くなど、個人としても活躍の場を広げている。2012年には同誌企画「10人の次世代クリエイター」の1人に選ばれた。

インタビュー・テキスト:早川すみれ 撮影:すがわらよしみ(2013/11/21)

「描きたいもの」と「求められるもの」のギャップ

―今の仕事に興味を持ったのはいつ頃ですか?

石井:小さい頃から絵を描くことが好きでした。進路がなんとなく決まったのは、中学生の時ですね。勉強が全然できなくて、 両親に「おまえは絵が得意だから、日本大学の芸術学部を目指したらどうか」と言われて。小学校の教員である両親は早々に息子の学力に見切りをつけていたようです(笑)。ちょうど近所に日大の付属高校があったし、日芸って面白そうだったから、絵を描く仕事が出来たらいいな、くらいの感じで漠然と進路を決めました。

—そのまま、付属高校には無事に入学できたのですか?

石井 正信

石井:はい。でも高校に受かったからと言って、日芸に進めるわけではないので(笑)、推薦を取りやすいという美術部に入部しました。入る前は「地味な感じかなぁ」と想像していたのですが、いざ足を踏み入れてみると、みんな汚いつなぎを来たりヘッドフォンしたりしていて、部長に至ってはピアスだらけ。いい意味で想像と違っていて、充実した高校生活を送ることができました。

―絵を描くことにのめり込んだ学生生活だったんですね。影響を受けた作家はいますか?

石井:漫画家の大友克洋さん、井上雄彦さんですかね。作品を挙げると、大友さんの『AKIRA』や『童夢』はよく読みました。それから、ゲームやマンガのキャラクターデザインで有名な寺田克也さんの作品にも衝撃を受けましたね。ただ僕が大学生の頃に描きたいものがグロテスクな表現だったので、先生や周りの人たちから「キミの絵は商業に向かない」と、半ば見放されて(笑)。 それをあまりにも言われすぎて、次第に、自分でも「僕の描きたいものと世の中のニーズが合致していない」と自覚するようになったほどです。

―「商業的に向いていない」と言われて、たとえば作家を目指す道は選択肢になかったのでしょうか?

石井:漫画家には憧れました。でも、大学時代に週刊マンガの作品投稿で入賞するような、本気で漫画家志望な友人がいて。彼を見ていたら、僕には無理だと感じてしまったんです。自分は、イラストだなと。それが今の世の中に求められていないのなら、イラスト素材を発注する側、つまり広告業界に入ってアートディレクターになれば、自分のイラストを使えるかもしれない、という考えもありました。それは大学で、アートディレクターの秋山具義さんの授業を受講していた影響もありますね。

―そんなきっかけもあって、卒業後は、秋山具義さんが率いるデイリーフレッシュ社に入社したんですね。

石井:もともとは、大手の広告代理店に入ろうと思って頑張っていたんですよ。でも第一志望の会社で選考に残ることができず……。あまりにショックで引きこもり、自分の好きな絵ばかり描いている時期が続きました(笑)。それでふと気づけば、就職先も決まらないまま卒業はもう目前。結局、秋山さんに菓子折りを持っていき入社させていただいたんですけど、入ってみたら先輩方との知識と能力が圧倒的に違いすぎて、自分の無力さを痛感しましたね。それで、ひたすら勉強したのを覚えています。

紙からウェブへ こんなに違った「デザイナー」の仕事

―努力家ですね。スキルアップのためにどんなことを心掛けましたか?

石井:わからないことは、放置しないですぐに調べることです。性格的に、効率がいい方が好きなので、技能をうやむやにしたまま手作業でやるのが嫌なんです。覚えるまでは少し大変でも、デザイナーとして仕事をする以上は、プロとしての技量を身につけておきたい。そして何より、先輩たちに早く追いつきたいという想いが原動力になりました。ただ、最近気づいたのは、作業がいくら早くなっても、ゴールが見えていなければ堂々巡りで、意味がないということ。仕上がりのイメージをしっかり想定することの大切さを痛感しました。

―そんな中、カイブツ社への転職を決めるに至るまで、どんな心境の変化があったのでしょうか。

石井 正信

石井:デイリーフレッシュでは、タレントを起用した紙の広告、マンガの表紙、秋山さんのTwitterのキャラクターアイコン制作など、色々な仕事を経験させてもらいました。会社自体が、蜷川実花さんやホンマタカシさんなど有名写真家の作品を使ったグラッフィック広告を得意としていて、紙媒体の案件がメイン。仕事をするうちに、デザイナーとしてもっと他のことも挑戦してみたいと思うようになったんです。それを当時の先輩に相談したら、「それならカイブツという会社が面白い」と教えてくれました。調べてみると、「井上雄彦 最後のマンガ展」など、ほんと幅広い制作物を手掛けていて、一目惚れに近い感じでしたね。

―井上雄彦さんは、石井さんが影響された作家の1人ですよね。

石井:そうなんです。だけど、ミーハーだと思われたくないから、面接でも冷静を装って、井上雄彦ファンだということは必死に隠しましたけど(笑)。それに、ウェブや紙、モバイルなど幅広い媒体の企画制作を手掛ける、枠に囚われない自由な発想力とセンスに惹かれたんです。入社後に携わった業務は本当に幅広くて、はじめはビックリしました。例えば、ウェブ制作に必要な写真素材は、撮影から、加工、補正まで全て自分たちでやる。これって、前職から考えるとありえないことなんです。他にも、撮影用のジオラマの制作、企業の展示ブースで使う道具づくりまでやることもあって、もはや、デザイナーの枠を超えている。

―それほど幅広いのは、カイブツ社だからこそでしょうか?

石井:そうかもしれませんが、たまに自分が何屋かわからないことがあります(笑)。前職では、僕自身はあくまでも、グラフィックデザインやイラストなど、与えられた作業を全うする立場。そして大物写真家の作品を扱っていたこともあって、写真は手袋をはめて厳重体制で扱うし、色調補正などできるはずがありませんでした。だから会社や媒体が変わるだけで、同じ「デザイナー」という職種でも仕事のフローや内容がこれほどまでに違うものかと驚きました。

―実際、慣れない業務に戸惑うことも多かったと思います。

石井:転職した当初は、素材のファイルの適正な書き出しが「png」なのか「jpg」なのかさえわからないレベル(笑)。だからたくさんの人に迷惑をかけながら、地道に勉強しました。それから、前職との一番の違いは「チームで作る」という意識。デザイナーでも企画から参加することもあるので、1つの案件を外部のパートナー会社も含めたチームみんなでアイデアを出し合ってブレストしていく過程は刺激的だし、何よりもモチベーションが上がりますね。

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