Interview 私としごと

是枝監督が認めた愛弟子が、デビュー作『夜明け』にかける想い

株式会社 分福
広瀬奈々子(映画監督)

先日、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した是枝裕和監督や西川美和監督の監督助手を務め、2019年『夜明け』でデビューする広瀬奈々子監督。是枝監督主催の制作者集団「分福」が満を持して送り出す新人監督だ。映画制作に携わり約7年、企画が何度ボツになっても這い上がる負けん気、現場がご褒美という映画愛。師匠たちから学んできたセオリーや精神が息づく彼女の哲学を紐解いた。

プロフィール

広瀬奈々子

1987年神奈川県出身。武蔵野美術大学映像学科卒業。2011年から分福に所属。是枝裕和監督のもとで監督助手を務め『そして父になる』『ゴーイング・マイ・ホーム』『海街diary』『海よりもまだ深く』に参加。西川美和監督『永い言い訳』で記録と監督助手を兼任。監督デビュー作『夜明け』が2019年、新宿ピカデリーほか全国ロードショー。

取材・文:羽佐田瑶子 撮影:きくちよしみ(2018/08/02)

映画は、思い通りにいかないから面白い

ー広瀬さんは、どのようなお子さんだったのですか?

広瀬:兄の真似ばかりしていて少年のようでした、今もあまり変わりませんが(笑)。小学校2年生から中学生まで空手を習い、中学では所作の美しさに憧れて剣道部へ。決して強くはありませんでしたが、負けず嫌いだったので続けられましたね。映画を見始めたのは小学生の頃。母親と一緒に夜中に見るようになって、次第に自分でも開拓するようになりました。レンタルビデオ店に行って興味の向くままに片っ端からレンタル。中学ではジム・ジャームッシュ監督やヴィム・ヴェンダース監督が好きになり、次第にヨーロッパの作品に興味が広がっていきました。

ー大学は映画系の専門学校ではなく、美大の映像学科だったんですよね。

広瀬:映画には携わりたいと漠然と思っていましたが、幅広くものづくりを学んでみたかったので美術大学を選びました。3年生のときに初めてオリジナル脚本の短編映画を作る実習があったのですが、チームワークが壊滅的に悪かったんです(笑)。ほぼ空中分解してカメラマンの私と監督の二人だけになり……。

ーしんどいですね……。

広瀬:何度もくじけながらも、「絶対作ってやる」と制作を続けていたら、その姿を見てまた仲間が戻ってきてくれたんですよね。映画作りは芸術的な行為に思われがちですが、そういうものとはかけ離れたものであると知れたのがすごく新鮮でした。常にスケジュールやお金などの問題に直面するのですが、まったく思い通りにならないことが逆に面白くて。卒業制作は自分の作品を手伝ってもらえるように他の人の制作に必死で協力して貸しを作って、人集めに命がけでした(笑)。自分はどうやら、制約の中からどうにか解決の道筋を見つけて進めていくことが好きなんだと気付きましたね。

是枝監督に物申す!? 新人助手の意外な役割

ー大学卒業後は、どのような経緯で「分福」に入られたのですか?

広瀬:ろくに就職活動もせず、ホームルームという会社のプロデューサーの元で番組ADのアルバイトをしていました。社員にならないかと誘っていただいたのですがなんとなく気が向かず、その後に受けたポストプロダクションの会社にも行かず、バイトの掛け持ちを続けていました。未来を描けなくて、青臭いことばかり考えていたんです(笑)。半年ほどぷらぷらしていたとき、友人から「是枝監督がアシスタントを募集してる」と聞いて。ダメ元でしたし、まさか受かると思っていませんでした。応募時に提出した卒制の映像は、偶然にも『誰も知らない』を分析して作ったものだったんです。

ー分福に入って7年目、これまではどのようなお仕事を?

広瀬:最初の3年間は是枝さんの監督助手をしていました。いわゆる助監督とは異なる分福特有のポジションで、企画から編集までずっと監督のそばに付いて「それは違うんじゃないですか」と意見する役割です。

ー新人なのに、監督に意見するんですか?

広瀬:初めて付いた作品が『そして父になる』だったんですが、「次で決めなきゃ撮り終わらないぞ」という空気の中で「違うんじゃないか」と現場を止めなきゃいけないのは、本当にきつかったです。怖気づいていると是枝さんとプロデューサーから「言って!」と急かされて、泣く泣く意見するんです。でもそれが採用されると、やっぱり嬉しいんですよね。限られた時間の中でどれだけ良いアイデアを出せるか、監督も含めて「勝った」「負けた」と緊張感が漂う中バトルする感覚が楽しくて、「もっと良いアイデアを出すぞ」と闘志を燃やしていました。

ー想像すると辛そうですが、幼少期に培った「負けず嫌い」がここで活きていますね。

広瀬:そうかもしれませんね。負けることはマイナスではないと理解してからは、選ばれたアイデアにより作品がどう良くなったのか、別のアイデアはなかったのかなど考える癖がつきました。当時『そして父になる』(2013年)に続いて『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)と運良く作品数が多い時期だったので、勉強する時間にも恵まれました。

ー是枝監督からもらった印象的な言葉はありますか?

広瀬:あまり考えを押し付けない人なので、監督がやっていることを見ているうちに少しずつルールやセオリーが見えてきた、という感じです。是枝さんも「教えてあげよう」というより、年齢や経験問わず誰からも「もらってやろう精神」が強い人(笑)。でもその欲の向かう先が私利私欲ではなく、作品のためであることがいいなと感じていて。そういった姿勢は、言葉による教えよりも大きな学びだったと思います。

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