Column 連載

若手クリエイターのお悩み相談所

なぜスーツじゃダメなの? クリエイティブ業界におけるファッションの役割とは

クリエイティブ業界で働くと誰もが一度は思う「おしゃれじゃなきゃダメなの?」という素朴な疑問。なぜクリエイターは、みんなおしゃれなのか。毎日スーツじゃダメなのか……。 そんな若手のお悩みに、先輩がアドバイスする連載企画の第5弾。頼れる先輩は、クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在はインフォバーングループの人事を担当している田汲洋さんだ。 田汲さんが若かりし日に「赤いボトムス」と「大相撲Tシャツ」を毎日着てわかった、クリエイティブ業界におけるファッションの役割とは?

プロフィール

田汲洋
田汲洋

新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。その後、某雑誌主催の大喜利世界大会に出場して優勝。ここで思いっきり進む方向を間違える。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月よりHR領域担当となる。

文・イラスト:田汲洋 編集:吉田真也(CINRA)(2019/11/27)

クリエイティブ業界って、おしゃれじゃなきゃダメなの? 毎日スーツのほうがラク

どうも。タクミです。

現在、企業のデジタルマーケティング支援を行うインフォバーングループで採用担当をしています。ちなみに、前職は某出版社の宣伝部などで働いていました。

迷える若手クリエイターたちの質問に対して、真摯にお答えする連載第5弾。曲がりなりにもクリエイティブ業界で経験を積んできたぼくが、これまで経験したことをもとにアドバイスさせていただきます。

ポケットモンスターは「ソード」を買ったタクミです

ポケットモンスターは「ソード」を買ったタクミです

今回、読者の若手クリエイターの方からこんなお悩み相談をいただきました。

こんにちは。広告制作会社でディレクターをしているサトシと申します。

弊社は私服勤務OKなのですが、服選びが面倒なのでいつも無難なスーツを着ています。ただ、周りの人たちはセンスの良い私服を着ており、自分だけ若干浮いている気がして不安になります……。CINRA.JOBをはじめとするメディアに出るようなクリエイターのみなさんも、おしゃれな人たちばかり。

クリエイティブ業界で働くには、ファッションも個性的かつおしゃれであるべきなのでしょうか?

広告制作会社 新卒1年目 サトシ(男性)

ぼくもサトシさんに激しく共感します。メディアに載っている「おしゃれクリエイター」を見ると、自分とはかけ離れた存在に思えますよね。ですが、まったく気にする必要はありません。

たとえば、「明日メディアの撮影がある」って言われたら、さすがにサトシさんでも手持ちのなかのイケてるアイテムを身に着けていきますよね? スーツだとしても「勝負ネクタイ」に変えますよね? 普段はジャージスウェットで出勤する人だって、シャツを着るはずです。つまり、メディアに掲載されている人の写真は、基本的に「いつもよりかっこ良い姿」です。

あと、CINRA.JOBをはじめ、メディアの撮影はプロのカメラマンが行なうことが大半。いつもより、かっこ良く写るのも当然です(さっきからメディアに出ている人をディスっているわけではないです)。

ぼくやサトシさんも、ファッション誌の表紙みたいに陰影をつける感じで撮ってもらったら、彼らと同じようにめちゃおしゃれに見えるはず(そう、信じたい)。だから、メディアに写っている人の写真を見てヘコむ必要はない!!

「スーツキャラ」の定着が出世の近道に? 意外といる、スーツ着用のクリエイター

ただ、サトシさんはまだ新人さんですよね。過度におしゃれである必要はないものの、自分のことを周りに知ってもらう努力はしたほうが良いと思います。そのためには、個性が必要。そういった意味では、逆に「スーツが個性」になるかも。

ほかにスーツを着ている人がいないので「浮いている」と、サトシさんは感じているそうですが、それはキャラクターを確立している証拠ともいえます。

サトシさんの「スーツキャラ」がもっと上層部に浸透すれば、「こいつはいつもスーツを着ているから、少々お堅めなクライアントの前に出しても安心かも。なんとなく誠実そうだし」と思われて、すてきな仕事が舞い込んでくるかもしれません。

ちなみに、サトシさんが身を置く広告業界のトップランナーたちは、企業のトップと対峙する機会も多いので、スーツもしくはオフィスカジュアル(ジャケット着用)の方も意外と多い気がします。たとえば、有名なクリエイターだと佐藤可士和さんとか、岡康道さんとか。つまり、仕事がデキれば、服装は関係ない世界なのではないでしょうか。

スーツ姿なのに「バカ殿っぽい人」もいる。ファッションの印象を凌駕する個性とは?

まあ、大物クリエイターを引き合いに出してもピンとこないと思うので、もっと身近に感じる人物を紹介しますね。以前、同じ会社で働いていた後輩のWくんの話を少ししようと思います。

当時の彼は、WEBディレクターをしていました。私も含めて、ほかの社員は私服で働いていましたが、Wくんはつねにスーツ。もしくはジャケパン着用でした。彼もサトシさんと同じく、洋服選びが面倒だから、スーツを着ていたクチです。

スーツを着ていると大抵の人は「きちんとした人」に見えます。でも彼はそうではありません。スーツを着ているのに、「きちんとした人ではない」ことが会って2秒でわかります。とある出版社のお偉いさんに「雰囲気がバカ殿みたいだねぇ」と言われていたほどです。

なんとなくダブルピースしていそうなイメージのWくん

なんとなくダブルピースしていそうなイメージのWくん

彼としてはスーツを着て「ビシっとしてまっせ感」を出しているつもりかもしれませんが、仕事中にTwitterを見まくったり、超繁忙期に長期休暇を取ってインドネシアに行ったり、ランチに行くといつも「お金貸してください」って言うので、貸してあげると返ってこなかったり……。あらゆる面でちゃんとしておりません。

ですが、とあるクリエイターに「こんな素晴らしい脚本は初めて読みました」と絶賛されることもあり、100打席立てば1本くらい特大ホームランを打つような男でした。

彼の場合は、ファッションうんぬんではなく、脳みそがとても個性的でした。社会人にとってファッションは、自分のキャラクターを印象づけるためのタグづけのひとつ。しかし、Wくんはスーツを毎日着ているにもかかわらず、「スーツ」というタグづけをされることなく、「変人」「オタク」という印象のほうが圧倒的に強かった。

ですから、「服選びが面倒だからスーツを着たいけど、浮いてしまう」という不安を取っ払うには、個性的なキャラクター性を周囲に浸透させて、ファッションの印象を凌駕するのもひとつの手法です。

ちなみに、彼はいま別の会社でVtuber系のお仕事をしています。先日、Wくんに「いまはどんな服装なの? まだスーツ?」と連絡したところ、「人間としての肉体すら捨てた」との報告がありました。話を聞くと、俗にいう「バーチャル美少女受肉」(※男性が女性の声とアバターを纏い、バーチャル空間で活動すること)をしているそうです。

これがいまのWくんの姿だそうです

これがいまのWくんの姿だそうです

まったく意味がわかりませんが、彼(#変人#オタク)らしいので良いのではないでしょうか……。

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Tシャツは、もはやメディア? 「大相撲Tシャツ」を毎日着てわかったこと

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