Column 連載

若手クリエイターのお悩み相談所

一方的に勧められる「好きなマンガ」。受け入れた先にある、新たな世界とは

クリエイティブ業界の若手が抱くお悩みに先輩がアドバイスする連載企画の第2弾。頼れる先輩は、デジタルマーケティング支援やオンラインメディア運営を行うインフォバーングループの田汲洋さんだ。クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在人事を担当している彼は、業界屈指(?)のカウンセリング力を持っているとか、いないとか……。 今回寄せられたのは、「会社の先輩が『このマンガを読め』と強要してくる」という若手のお悩み。先輩の一方的なコミュニケーションにも、きっと意図があるはず。その強要を受け入れた先に待っているかもしれない、新たな世界とは?

プロフィール

田汲洋
田汲洋

新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。その後、某雑誌主催の大喜利世界大会に出場して優勝。ここで思いっきり進む方向を間違える。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月より新卒採用担当となる。

文:田汲洋 編集:吉田真也(CINRA)(2019/5/28)

なぜクリエイティブ業界の人は、「このマンガを読め」と強要してくるのでしょうか。

どうも。タクミです。
現在、企業のデジタルマーケティング支援を行うインフォバーングループで採用担当をしています。ちなみに、前職は某出版社の宣伝部などで働いていました。

迷える若手クリエイターたちの質問に対して、真摯にお答えする連載第2弾。曲がりなりにもクリエイティブ業界で経験を積んできたぼくが、これまで経験したことをもとにアドバイスさせていただきます。

相変わらずウシジマくん似のタクミです

相変わらずウシジマくん似のタクミです

第1弾は、「時間がないとき、やっつけ仕事になってしまう」というお悩みでした。「『いいかげん』な仕事を『良い加減』にする方法」という「それっぽい」ことを伝授していますので、まだ読んでいない方はこちらからぜひ!

前回の記事では、ことあるごとに「漫画のキャラ」に例える手法を試みました。ぼくはマンガが大好きなので。そしたら、こんなお悩みをいただきました……。

広告営業2年目のアラキと申します。会社の先輩と飲みに行くと、たまに「『キングダム』読んでないの?」とか「『うしおととら』くらいは読んでないとダメだね」とか、「『火の鳥』は必修科目だ」とか言われます。なぜクリエイティブ業界の人は、「このマンガを読め」と強要してくるのでしょうか。あと、チョイスもだいたい古い! 一方で、後輩が目上の人にマンガをおすすめすることはあまりない気がします。この一方通行のコミュニケーションは、いったいなんなのでしょうか?広告代理店 新卒2年目 アラキさん(男性)

これはひょっとすると「クリエイティブ業界あるある」かもしれませんね。わかります。わかりますよ、アラキさんの先輩の気持ち(そっち側ですみません)。

ぼくは普段多くの学生さんと接していますが、広告やマーケティングの本じゃなく、『グラップラー刃牙』を読んだほうがいいって勧めています。「これこそリアルだから。アリゾナ州立刑務所とか出てくるから」って。もちろん勧める相手は選んでいますけどね。

別名「ブラックペンタゴン」。画像はあくまでイメージです

アリゾナ州立刑務所。別名「ブラックペンタゴン」(※画像はあくまでイメージです)

「一方通行のコミュニケーション」と感じているなら、それはたぶん先輩が悪い

ですが、アラキさんの気持ちもわかります。一方通行のコミュニケーションは、鬱陶しいですよね。ぼくがその先輩の立場なら、アラキさんのおすすめマンガも聞きます。ぼくの場合、いまの若い人がどんなコンテンツを好きなのか、純粋に興味があるんです。

先日、マンガではありませんが、新卒1年目(温かいメシをこれまで食べたことがなさそうな風貌の子)の家で最新版のスマブラのレクチャーを受けましたよ。めっちゃ面白かったです。やはり、一方的ではなく、お互いに好きなものを共有し合うことで、信頼関係につながっていくと思うんです。

だから、アラキさんが先輩の行動を「一方通行のコミュニケーション」と感じているなら、それはたぶん先輩が悪い! 「自分のことを知ってほしい」だけで、「相手のことを知ろう」としないのは、間違いなく「強要」ですからね。

そんな先輩は、心のなかでぶん殴ってよし! コツとしては、砲丸投げや円盤投げなど、陸上の投てきをイメージして勢いをつけて殴ってみると花山薫(by『グラップラー刃牙』)のような威力になるかも(※実際に殴ってはいけません)。

助走で勢いをつけるのがコツ

助走で勢いをつけるのがコツ

まあ、その先輩はコミュニケーションの仕方に問題がありましたが、本当はアラキさんと「共感」したいだけなんでしょうね。映画・音楽・マンガなど、好きなモノが同じなら手っ取り早く距離を縮められるじゃないですか。

そうすると、アラキさんとの仕事もやりやすくなるんです。アラキさんもビジネス書や哲学書を読むより、マンガのほうがとっつきやすいですよね。マンガは、ぼくらの言葉を遥かに超越する力を持つコンテンツですから。

好きなマンガは山ほどあるけど、人におすすめする作品は厳選しているはず

質問文にあったマンガのチョイスだと、先輩は30代後半から40代前半ですかね? たぶんアラキさんの先輩は、世代的に『キン肉マン』『魁!!男塾』なども好きなはず。ほかにもハマったマンガは、山ほどあるのではないでしょうか。でも、おそらく人におすすめするものは厳選していると思いますよ。

だから、「この人、いろいろ読んだなかからオレのためにマンガをチョイスしてくれてるんだろうな。仕事は厳しいけど、なかなかかわいいやつだな」くらいに思って聞いてあげてください。ちなみに40代後半から50代に差し掛かると急激に『機動戦士ガンダム』好きが増えるので予習しておくと会話のきっかけになるかも。いまならネトフリなどで気軽に見ることができますよ。

ガンダムには男のロマンが詰まっている

ガンダムには男のロマンが詰まっている

「自分が知らない世界を知る」ことは、クリエイティブの仕事で役に立つ

マンガは、年齢の壁を乗り越えてコミュニケーションを生むための武器です。もちろんイヤイヤ読む必要はありません。ですが、先輩は「こいつならその試練を乗り越えてくれるはず」というやつにしか勧めないと思います。

ぼくは、「人が好きなものを好きになってみる」という意識が大事だと思います。ぼくの経験上、「自分が知らない世界を知る」ことは、クリエイティブの仕事で結構役に立つ。とにかく、試してみることで何かしら得られるものがきっとあるはずです。

まずは、なぜそれを勧めるのか、なぜ好きなのかなど、突っ込んで聞くところから始めてもよいと思います。そうすることで、結果的にそのマンガに興味を持てなくても、先輩の価値観を知ることはできると思いますよ。

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ぼくの「強要」で後輩がベトナム人化!? 受け入れることで人生が好転した実話

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