転職?それとも続ける? やりたくない仕事のモチベーションを見つける方法
- 2020/10/15
- SERIES
そんな若手のお悩みに、社会人の先輩がアドバイスする連載企画の第9弾。頼れる先輩は、クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在はインフォバーングループの人事を担当している田汲洋さんだ。
田汲さん自身も、広告制作、編集、人事とさまざまなジョブチェンジを果たしているからこそ思う、やりたくない仕事への向き合い方とは?
- 文・イラスト:田汲洋
- 編集:市場早紀子(CINRA)
Profile
田汲洋
新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月よりHR領域担当となる。
いわゆる「配属ガチャ」に失敗……。転職する? 続ける?
どうも。タクミです。
現在、企業のデジタルマーケティング支援やメディア運営などを行うインフォバーングループで採用担当をしています。ちなみに、前職は某出版社の宣伝部で働いていました。
迷える若手クリエイターたちの質問に対して、真摯にお答えする連載第9弾。曲がりなりにもクリエイティブ業界で経験を積んできたぼくが、これまで経験したことをもとにアドバイスさせていただきます。
今回、読者の若手クリエイターからこんなお悩み相談をいただきました。
私はもともと編集者希望だったので、念願叶って自分の行きたかった出版業界に入ることができました。しかし、配属されたのは編集部ではなく紙を手配したりする部署でした。今後、私は何をモチベーションに頑張れば良いでしょうか?
出版社 新卒2年目 ヨウコ(女性)
この質問に答える前に、余談をひとつ。先日、ぼくと同じく悩み相談コンテンツを扱っている某デザイン会社の社長からこんなことを教わりました。「『頑張らなくたって良いんだよ、もともと特別なオンリーワン』。実際、だいたいの悩みはこの考え方で乗り越えられる」と。みなさんそのことを念頭に置いたうえで、今回も軽い気持ちで読んでください。
希望部署に配属されるかどうかは、若手にとってかなり重要ですよね。ぼくは、やりたいことを心に持ち続けてさえいれば、必ずいつかは行きたい場所にたどり着けると信じています。
そもそも編集という仕事は、出版業界に限ったものではないですから、ヨウコさんが考え抜いた末に、その会社に勤続することが難しいと判断したのなら、転職も全然アリでしょう。ですが、いま目の前の仕事を葛藤しながらもこなしていくことで得られる経験は、必ずヨウコさんの糧になります。部署は違えど、同じ出版社の業務だし、関連性はあるはずだし、いつかは異動だってあり得る。この先も同じ会社で頑張るならば、目の前の仕事に対するモチベーションを高めてキープするほうが良いですよね。
WEBの勉強がてら、原宿のカフェ店長に転身!?
この質問を見てピンときたので、とあるカフェの店長に、やりたくない仕事へのモチベーションを保つ秘訣を聞いてみました。ですが、答えを書く前に、ぼくと彼の出会いについてお話したいと思います。
ぼくのファーストキャリアは、広告・販促系会社の営業職。クライアントは自動車関係でしたが、ぼくは運転もロクにできなかったので、車への興味はもちろんゼロ。
当時のクリエイティブ業界は、「WEBサイトもしっかりお金をかけてつくらないといかんね」、「Flashを使って派手な演出に!」と言われ始めたくらいの時代。ぼくは、折込みチラシやダイレクトメールなどの印刷物をメインに扱う業務でしたが、時代の変化とともに、会社がWEBサイトやWEB広告の制作も少しずつ請け負うようになりました。
車への興味はゼロだったぼくも、WEBでのモノづくり自体は、それなりに好きだと自負していました。そこで、知識と経験が少しでも仕事の役に立てばと、あくまで趣味の範囲ですが、FireworksとDreamweaverを駆使して、一からWEBサイト制作をしてみることに。
ぼくはカフェが大好きで、大学生の頃は「いつかはカフェの店長になりたいなあ」なんて思っていたので、カフェのWEBサイトをつくりました。架空のカフェですが、もちろんメニューや間取りなんかもちゃんと考えて。写真はないので、イラストとテキストで構成されたサイトです。
お店も内容も、細かく設定していました。ぼくは日中、会社員として働いているので、お店が開くのは夕方からで、バイトはベトナム人(モデルは、第2弾の記事でも登場した日本人のHくん)がひとり。「今日はこんなお客さんがいらっしゃいました」なんて、架空のカフェで起きた妄想のエピソードをほぼ毎日更新していました。
結果、ぼくは実在しないカフェのサイトを8年間も運営したのです。
Yahoo!検索の1ページ目に。架空のカフェ経営がまさかの展開へ
店舗(注:ありません)を運営して3年くらい経つと、「どこにあるんですか?」、「行きたいんですが」なんてお問い合わせが来るようになりました。でも店舗は実在しないので、そんなときは「じつは紹介制なんですよね、すみません」なんてその場しのぎのメールを返信していました。
さらに4年目になると、「代々木 カフェ」のキーワードでYahoo!検索したときに、検索結果の1ページ目に表示されるようになってしまいました。テキストとイラスト中心のサイトという珍しさもあり、世の中のカフェサイトのなかでは見られているほうだったのかもしれません。
しかもぼくは当時、代々木・原宿界隈に住んでいたので、出てくる妄想エピソードもどうしてもそのエリアの話になる。カフェと代々木・原宿という親和性の高さも、検索流入につながった一因だと考えています。
最初はただ「WEBサイトのつくり方を覚えたい、経験したい」という理由でサイト運営を始めたのですが、人気が出てしまったがゆえに、いつのまにか自分でも目的がよくわからないまませっせと更新するハメに。
カフェ経営志望のSさん。妄想の日記がつないだ数奇な出会い
そして運営して6年が経過した、忘れもしない2011年12月13日。一通のメールが届きました。
はじめまして、いつもHP楽しく読ませていただいています。質問なのですがカフェはどこにあるのでしょうか? 店舗の情報などがどこにもないので、一般の人には入れないようになっているのかと思ったのですが、気になったのでメールしました。ご返信いただければ幸いです。
S
いつもなら適当な返信をするところですが、メールをくれたSさんがあまりに丁寧なので、ついついやり取りを重ねてしまいました。するとSさんについていろんなことがわかりました。
・Sさんは当時大学生
・4月から商社に就職が決まっている
・カフェが好きでいつかは自分でお店をやりたいと考えている
・社会人をやりながらカフェを経営する(本当はしていない)ぼくのライフスタイルに憧れているらしく、お客さんとのやり取りやバイトHくんの日常エピソードが好きみたい
いろんなことがわかると同時に、それが自分の首を締めました。なぜならSさんが気になっているそのカフェは、実在しないからです。
Sさんの立場で考えたら、カフェがないなんて考えられないでしょう。「今日は常連の○○さんがお店に来た」なんてリアルっぽい話を毎日書いているし、そもそもサイトに「店舗は実在しません」とは書かれていない(実在するとも書いていないですが……)。
しかも6年間もサイトが更新されていて、ドメインもきちんと取っている。普通に考えたら、店舗が存在しないのに、6年間もサイトを更新し続けるメリットなんてひとつもありません。
「どこにあるのでしょうか?」と問い合わせするほど、カフェの存在を信じきっているSさんをがっかりさせるわけにはいかない。そう思ったぼくは、少なくともきちんとこちらの事情を伝えなくてはダメだと思い、Sさんに直接会って謝ることにしたのです。
Sさんと対面し、「お店はありません!」と、自分で考えつく一番ストレートな言葉でお詫びの気持ちを伝えました。Sさんはびっくりしていましたが、「日記が面白かったから気にしてないですよ」と笑って許してくれました。これで禊は済んだので、そのあとは臆することなくぼくは「カフェの店長」として、Sさんに接しました。
日本から約8,500キロも離れた土地で起きた、感動の伏線回収
経営し始めてから8年の月日が流れ、バイトのベトナム人は結婚し、ぼくは出版社に転職して、それと同時期にカフェも閉店(a.k.a.サイト閉鎖)。ぼくはその後、2014年にいまのインフォバーングループに転職しました(これは本当の話)。
そこからさらに月日が流れた、2018年の7月。何気なくFacebookを見ると「知り合いかも?」というレコメンドにSさんの写真が出てきたのです。約7年前に会って以来。「うわー、懐かしいな」という思いとともに、いま一体何をしているのかなと気になりクリックしてみたら……。
Sさんはコペンハーゲンでバリスタをやっていました。
存在しないあのカフェを好きになってくれて、商社の仕事をしながらカフェでの仕事を夢見ていたあのときの青年は、その夢を捨てることなく、日本から約8,500キロも離れたコペンハーゲンにあるステキなカフェで活躍していたのです。かっこよすぎるだろ! せめて行きやすい都内の喫茶店であれ!
さらにSさんは今年の夏、このコロナ禍の大変な状況のなかでも、石川県・金沢市に素晴らしい自分のカフェをオープンしました。もちろん架空ではなく、本物のカフェです。これまでひたむきに頑張ってきたSさんの姿を想像し、目頭が熱くなりました。リスペクト!!
「できること」の幅を増やせば、モチベーションも自然とついてくる
話をヨウコさんの質問に戻しましょう。つまり、ぼくが冒頭で言っていた「カフェの店長」とは、Sさんのこと。最初は商社の人事部で働き、のちに希望していたカフェの仕事に就けたというSさん。ぼくはそんな彼にアポをとり、「人事で働いていた当時は、何をモチベーションに仕事を頑張っていたのですか?」と尋ねました。
難しい質問ですね……。何しろ私もモチベーションが保てなくて、ベンチャーに転職し、さらにはコーヒー屋になったので(笑)。
人事をしていたときは、新卒だったので、仕事の端っこしか担当させてもらえず、モチベーションを保つのに苦労しました。でも、いつも同じフォーマットの資料をもっとわかりやすくつくるとか、みんなが面倒くさいと避ける仕事を積極的にするとか。細かいことでも、とにかく自発的に考えて動いて、自分なりに満足できる「仕事した感」を得ていましたね。
これぞ答えではないでしょうか。たとえ望んだ業務じゃなくても、与えられた仕事を自分なりに噛み砕いて自発的に動く。すると、たとえ同じものをつくるときでも、嫌々こなす場合と比べて、自分で噛み砕いた分だけ学びも増えるし、アウトプットが人に与える影響も違ったものになるはず。
それを積み重ねていくうちに、きっと自分でも想像していなかったような「できること」の幅が増えていく。そしてキャリアの選択肢が増える。そうして心の余裕もできることで、奥底に秘めていた夢に向かうモチベーションもわく。そんな感じ! ヨウコさん、いかがですか?
みなさんお気づきかもしれませんが、ぼくはカフェの店長(架空)から、巡り巡って人事の仕事へ。Sさんは人事の仕事から、巡り巡ってカフェの店長へと転身。このミラクル、ステキじゃありませんか? もちろん、この話は妄想ではありませんのでご安心を。
【まとめ】
・心に秘めたものがあるならば、転職するのも手段のひとつ
・自発的に動いて、とりあえず目の前にある仕事を自分のものにしよう
・何も考えずに続けても、そのうち奇跡的な出会いが起きて人生が楽しくなるかも
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