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質問力は、新人が最初に身につける「自衛のスキル」だ

5月になりましたね。新入社員の方は会社にちょっと慣れだした頃ではないでしょうか? 今回はそんな新入社員の方からの「先輩に質問しづらい」という相談にお答えします。新人のうちに身につけておきたいことナンバーワンの「質問力」について人事のプロ・田汲さんが語ります。

  • テキスト、写真:田汲洋
  • 編集:吉田薫

Profile

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田汲洋

新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。その後、某雑誌主催の大喜利世界大会に出場して優勝。ここで思いっきり進む方向を間違える。2011年より出版社の宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月より新卒採用担当となる。2025年2月に退社。2025年3月よりトマソンブラザーズという外資系っぽい名前の会社の代表になる。

久々のお悩み連載です。まだ感覚が掴めてません。こういうお悩み相談連載って、最初にやさしく寄り添いたくなるじゃないですか。でもね、ぼくは言いませんよ。「あなた、そもそもぼくにこうして質問できてますよね? いいじゃないですか。あなたはあなたのままでいい」……なんて、言わないです。「ありのままで」と「ひとそれぞれ」は使いません! それは思考停止してるだけ。

そのままでいいのは映画『リトル・ミス・サンシャイン』に出てくる登場人物だけ。この現代社会では変わり続ける、偏った思想を持つ、もしくはスタンスをはっきりするのが大事!

いい作品はブルーレイで買っておくタイプの人間です。

この連載の決意表明をしたところで今回のお悩みはこちらです。

「クリエイティブ系の会社に新卒で入りました。配属されたばかりですが、周囲の先輩はみんなとても忙しそうで、話しかけるタイミングすらわかりません。教えてほしいことは山ほどあるけれど、そもそも何を聞いたらいいのかも分からなくて……。このままやっていけるのか、不安です」 映像制作会社1年目 スギタ(男性)

これはもう、全人類が一度は抱いたことがある悩みではないでしょうか。ぼくなんか、いまだにわからないことが「わからないまま進んでいく」ということだらけで困っています。

新人の頃は常に「クエスチョンマーク」状態

新人って、もう存在が質問みたいなもんなんですよ。配属初日から、世界はすべて「?」でできています。日本製鉄のコマーシャルは「世界は鉄でできている。」って言ってましたけど、もちろん世界は鉄でできていません。「?」でできています。

そうじゃないですか? ぼくは新人のころ、すべてにおいてわからないことだらけでしたよ。

たとえば……

・「なんで配属がここなんだろう」
・「この業界ってずっとこんなにスピード早いの?」
・「先輩の“ちょっと待って”って、いつまで待てばいいの?」
・「“今度教えるね”って、具体的にいつ?」
・「会議でメモ取ってるけど、これ誰かに送るんだっけ?」

そしてなんといってもこれが最大のクエスチョンですよね。

「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」「そもそも、私って必要?」

クエスチョンは日々追加されていきます。

・「“なるはやで”って、今日中って意味ですかね? そもそも、なるべく早くの略で合ってるのかな」
・「“一回通して”って、どこまで仕上げればOK?」
・「“打ち返し”って、ただ返信することじゃないの?」
・「“一度戻し”って、どう戻すのが正解なんですか?」
・「リマインドって、どのくらいしつこくていいんですか?」
・「みんな何時に帰ってるんですか? 自分だけ早い気が……」
・「みんな何時に帰ってるんですか? 自分だけ遅い気が……」

ツールもわからないことだらけじゃないですか?

・「このメール、CCに上司入れたほうがいいのかな?」
・「Slackの“目のアイコン”って既読って意味?」
・「カレンダーの“予定あり”って、何をしてるんだろうか?」

悩みすぎると、どんどん哲学的になっていきますよね。

・「“大丈夫です”って、本当に大丈夫って意味なんですか? 合ってます? そもそもこの世に大丈夫なんて存在するのかな……」
・「“あとで話そう”って、それって今日のうちですか? 明日? もしくはもう話さないという意味の意訳? ここから自分はどうすればよいの?」
・「“この件、握っておいて”って物理的にじゃないですよね? 手を使わないタイプの握りですよね? 握り飯って飯視点だと“握られ”ですよね?」

はい、これらのクエスチョンはすべて過去の自分ですね。新人だったあの頃を思い出し、涙を流しながら思い出しました。あの頃は質問するのが怖かった。質問をして、なにかを言われるのが怖かった。かといって、いきなり「尺合わせしてPDFカンプとバラし作って」と言われても、異国の言葉かあるいは呪文かと思ったし。とにかくわからないことだらけだった。

でももっと辛かったのは、「質問すること」そのものが怖かったってことです。

先輩たちはいつも忙しそうで、「ちょっとだけいいですか……」と声をかけるのにも勇気がいりました。これ読んでる新人の方はCINRA JOBを読んでいるくらいだからかなりリテラシーが備わっているほうだと思いますが、じつは昔って今よりも忙しくて乱暴な時代だったんですよ。日本全体が。殺気立っていたんですよ。20年以上前は。

だから声をかけるタイミングをずっと見計らっていて、結局その日は何も聞けませんでしたなんてこともありましたよ。

質問の仕方には、型がある

そんな僕を救ってくれたのが、とある先輩の言葉です。

「質問する前に一回自分で考えてみた? 質問って、“考えた痕跡”があるかどうかだけで、受け取り側はぜんぜん違うから」

この言葉で、質問に対する姿勢が変わりました。たとえば、こういう違いですね。

・「これは何ですか?」 → NGではないけれど、丸投げ感が強い。
・「こういう意味かなと思ったんですが、合ってますか?」→ 自分の仮説を添えるだけで、相手の受け取り方が全然変わります。

たとえば「数を明示する」というのをやってみてはどうでしょう? これはすごく効きます。「ちょっと3点だけ確認させてください」と言うだけで、相手は構える必要がなくなります。「たくさん聞きたいことがあって……」って言われると、聞かれる側もドキっとしてしまいます。

なので、1点・2点・3点くらいが現実的。自分としては「2点だけ確認させてください」と言われた翌日に「お忙しいところすみません、15点ほど確認させてください」と言われたら「ギャガーなのかな?」と思って、ちょっとうれしいかもしれません。

それと、いきなり「この件どうしたらいいですか?」と聞かれると自分の場合はパニックになります。なので、たとえば「この素材ってA案用ですか?」みたいに、答えやすい「小さな問い」から入ると、頭もすぐに回答モードになります。その流れで、「じゃあB案の場合は別の素材にしたほうがいいですか?」 と次に続ける。このパターンは非常に助かります。あなたの先輩も質問にちゃんと答えられるのか、ドキドキしているものです(たぶん)。

それらの型をマスターしたら、次は 「なぜ今その質問をしているのか」と、「答えたら何が進むのか」をセットで伝えることを覚えましょう。「これを教えてください」ではなく、 「このあと外部に出す資料なので、先にこの部分だけ先輩に確認したくて」と伝えるのです。

質問は、ただ答えをもらうだけのものではありません。先輩の思考を動かして、先に進める「設計図」なんです。

こんな風に自身の体験を思い返しながら型を書いてみましたが、個人的にはこういう型を持って質問してくる新人はちょっと怖いなって思います。こなれ過ぎてるなと。極論、1年目は何も考えずに思うがままに「全然わからないっす!」って質問しちゃっていいと思うのですが、いちいちうるさい先輩もこの世にはけっこういると思うので一応これらの型は頭の片隅に入れておいて損はないかと思って書きました。

質問でわかる人間性のあれこれ

新人のときに質問力を鍛えると、その先の人生でおおいに役立ちます。質問力を鍛えるといっても、シンプルに「たくさん質問をする」だけでよいです。そのことで、自分が質問される立場になったときに即座に回答することができるのです。それはクライアントに対してもそうですし、この先あるかもしれない転職の際の面接でも役に立つでしょう。

面接で「まわりの人に、あなたはどういう人だと言われますか?」と聞かれることってけっこうあるじゃないですか。ぼくが実際にその質問をされたとき、とっさに出てきたのは「そうですね……本質を見抜く人には『まじめな人』と言われて、思考の浅い人には『変な人』って言われますね」でした。

この回答は、おそらく人を選びます。しかし、自分が受ける企業はそもそもある程度相性がよいので、大人にはそこそこウケて、まあまあ無双できます。

ですが自分としては面接で無双できることよりも、とっさに出てきた回答が自分にとって「これ以上ないくらいのリアル」だったのが大きな収穫でした。 あのとき、変に取り繕ってありきたりな回答をしてしまったら、そんな自分に絶望してその場で切腹しているかも。質問は、ときに自身の本音をあぶり出すための強力なツールになるのだなと実感しました。

また、質問に関してこんなエピソードもあります。

これは知人Aさん(人事担当者)の話なのですが、Aさんが入社前の内定者たちに「入社前にビジネス著作権検定に合格しておく」という課題を出しました。そしてAさんは「君たちだけに受けろというのはフェアじゃない。だから自分も受検するよ。まあ私はこの業界に長くいるから落ちるわけないけどね。仕事で必要な知識だし。でも万が一、不合格だったら私は©マークのタトゥー入れるよ。落ちるわけないから」というジョークをかまして、内定者たちは笑ってそれを聞いていたそうです。

そして内定者が新入社員になったある日、人事担当者Aさんの手首に©マークのタトゥーが入っているのを発見。

6,600円だったそうです。

新入社員たちは「人知れず検定に落ちて、しかも本当にタトゥーを入れていた。別に約束もしていないのに。しかもなぜ誰にも言わないんだろう……」と衝撃を受けたそうです。

新入社員が「なんで教えてくれなかったんですか?」と聞いたらAさんは「質問されてないから」と答えたそうです。世の中にはそういう人も存在します。「聞かれないから、答えなかった」というスタンスの人もいるのです。だから、気になることやわからないことがあるならば、質問をするべきなのです。

質問することは、自分を守ること

なぜ新入社員は「質問すること」が大事かというと、それは知識のない自分の身を守る一番の武器だからです。不安って、ほとんどが情報不足から来るんですよね。

たとえば、上司の言葉の意図がわからない。誰が何を決めてるのかが見えない。みんな帰ってるのに、自分だけオフィスに取り残された気がする。

そんなとき、人はだんだんネガティブなストーリーを自分で作り始めるんです。「嫌われてるのかも」「役に立ってないのかも」って。

でも、それってだいたい質問不足なんです。

「これって、どういう意味ですか?」
「次にやるべきこと、これで合ってますか?」
「この方向で進めても大丈夫ですか?」

そう聞けるかどうかが、あなたのメンタルを守る最初の防衛線になります。

「質問力」を鍛えると、未来の自分が助かる

質問することは、恥じゃない。甘えでもない。未来の自分のために、今できる最もスマートな準備です。そして、質問を重ねていくと、ある瞬間に気づくんです。

「あ、これ、後輩からもそのうち聞かれるな」

自分が何に詰まったか、何が怖かったかを記憶している人ほど、誰かに寄り添える人になれる。ぼくは自分がどんなに忙しくても質問されたらすぐに嫌な顔をせず答えるような人間になりたいと思っています。それは 「質問できずに困っていた過去の自分」がいたからです。「あの頃のリトルひろしは質問できなかったよなあ……」って今でも覚えているから、優しくしてあげたいんです。

もうひとつ、大事なことを言わせてください。

質問に答えてくれる人は大事だけど、「“答えを出さないまま、いっしょに悩んでくれる人」は、もっと大事です。

僕が新人のころ、企画の方向性を先輩に尋ねたとき、こう言われました。

「おれもわからないなあ。どうしようかね……」

当時は「え、それでいいの? 哲学的な回答なの? どういう意味?」と思いましたが、いまならわかります。答えがないからこそ、自分のアイデアを出す意味があった。あの「曖昧なままの返答」が、僕にとっては最大の信頼だったんです。

新人のときは、まず「質問力」を身につけよう

質問力って、実は「最初に身につけるべきビジネススキル」だと思うんです。資料の作り方も、メールの書き方も、プレゼンも、ぜんぶ質問できることで上達する。そして何より、わからないことを「わからないまま」にしない技術が、どの業界でもとんでもなく強力な武器になる。

質問できる新人は、ちゃんと見てもらえる。質問の質が高い新人は、信頼される。質問を繰り返す新人は、成長が速い。これはいろんな先輩が言っていることの受け売りですが、たぶん正しいからみんなが口を揃えて言うのでしょう。

「質問できる人」になると、ある日こう言われる

数年後、あなたのもとに新人がやってきて、こう言うかもしれません。

「○○さんって、話しかけやすいんですよね」

これ、すごい褒め言葉です。かつて「質問できなかったあなた」が、今度は「質問される側」になれたという証拠。質問される側になったときに、初めて見える景色があります。

・“なんであのとき答えられなかったのか”
・“どうして怖く見えていたのか”
・“どんな一言が、安心につながるのか”

質問に救われた人は、質問で救える人になる。質問しづらい人って今振り返るとだいたい仕事ができないとされている人、もしくは問題児とされている人だったかも。ちなみに前職(インフォバーン・メディアジーン)では質問しづらい人はいなかったですね。それ以前はちゃんといましたね! 名前は書かないけど、確実にいた!

最後にひとつだけ、覚えていてほしいこと

さんざん質問について書きましたが、質問に対して意外とAIが全部答えてくれるような時代になっちゃってませんか? ひょっとすると先輩よりも優秀かもしれない。いや、絶対に優秀です。というか、回答を出すという点においては人間よりも遥かに優秀です。

一応、今回はスギタさんの質問に答えるかたちで「質問力が大事だよ」という答えを提示しましたが、本心ではもう質問力の時代は終わりを迎えていると思っています。質問≒プロンプトは大事ですが、そもそもの問いを見つけること、問い続けることが本当は大事だと思っています。

とはいえ、質問力は新人が最初に持てる「自分を守るための小さな武器」です。次回のこの連載のテーマも、あなたの質問から始まります。ですから気軽に質問を送ってくださいね!

まとめ
・質問力は新人が最初に身につけるべきビジネススキル。
・質問には型があるけど、とにかく実践あるのみ。
・人事担当Aさんはぼくです。「質問されないと答えないよ」という人もいるので気をつけよう。

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