CINRA
|
サービス向上アンケートご協力のお願い 詳しくはこちら

退職エントリはやめておけ。人事が綴る綺麗な会社の辞め方

終身雇用の神話が崩れさった現代において、「退職」は誰にとっても身近なテーマかと思います。今回の「若手クリエイターのお悩み相談所」では綺麗な辞め方について、人事としてたくさんの方を見送ってきた田汲さんが綴ります。

退職を考えている人はぜひご一読を。

  • テキスト、写真:田汲洋
  • 編集:吉田薫

Profile

dummy alt text

田汲洋

新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。その後、某雑誌主催の大喜利世界大会に出場して優勝。ここで思いっきり進む方向を間違える。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月より新卒採用担当となる

もうすぐ3月ですね。人事としては、そろそろ本格的に忙しくなる季節です。会社によっては異動の話が飛び交い始めたり、新しいメンバーの受け入れ準備を進めたり……。この時期、地味に緊張感が走るのが「突然ですが、辞めます」の報告。なぜこのタイミングで!? と心の中で叫びたくなることもしばしば。こういうことに慣れたくはないですが、やっぱり心臓には悪いですね。

でも、新しい人との出会いも多い季節。ちょっとしたワクワク感もあったりします。4月にスムーズなスタートが切れるように、ここは気合いを入れてラストスパート! それではさっそく質問に答えましょう。

「転職活動をしていたのですが、内定が出たので勤めていた会社をこの春に卒業します。まだ上司には退職することは言ってません。初めての退職なのでドキドキしています。なにか気をつけることなどはありますでしょうか。退職エントリなどを書くのはアリでしょうか。」 
映像制作会社 新卒4年目 ピョン吉

なるほど。本題とちょっとズレますが、ピョン吉さんは退職を「卒業」と言うタイプの人なんですね。もちろんそれを否定はしませんが、はたして会社を辞めることは本当に「卒業」なのでしょうか。「卒業」は、そもそも学校の話です。学校における教育課程を終えた人のための儀式です。たしかに、学生時代の「卒業式」って、あの空気感は特別ですよね。みんなで泣いて笑って、お別れの言葉を交わして、未来に向かって羽ばたく──それが「卒業」というものです。

でも、会社を辞めるのとは全然別物です。だって、卒業って「終わり」のイメージが強いですが、退職は「新たな始まり」なんです。むしろ、辞めた瞬間から新たな地獄が始まることだってあるわけです!!!!

会社を卒業したって言ってる方に聞きたいのですが、卒業証書をもらいましたか? 後ろで桜は咲いてましたか? その桜はソメイヨシノでしたか? 袴を着ましたか? ちゃんと着れましたか? 第2ボタンを取られましたか? 誰かの第2ボタンをもらいましたか? 黒板にメッセージやアートを書きましたか? それをSNSにアップしましたか? 歌を歌いましたか? レミオロメンの“3月9日”を歌いましたか? 帽子を空に向かってみんなで投げましたか?……etc

退職はただの退職。去る側も残る側も寂しくはありますが、その先にあるのは「次の仕事だけ」と覚えておきましょう。

退職後に必ず得る称号。それは「元◯◯」という肩書き

退職すると、必ずついてくるのが「元◯◯」という肩書きです。「元◯◯」という言葉が持つ重みは、意外と厄介です。この肩書きは、自分では選べません。退職した瞬間、勝手にラベリングされるのです。もしピョン吉さんが今現在、素晴らしい会社にいるとしても、元◯◯会社にいましたというのは控えたほうがよいと思います。というのも周りの人は「今なにをやっているのか」しか興味がありません。

「元◯◯会社です」「元◯◯◯◯◯のトップセールスです」と言うのはいまだに「以前◯◯高校に通ってました」「以前◯◯大学の学生でした」と言ってるのとほぼ同義だと自分は思ってます。でもそんな人いませんよね? 話のネタとして使うのはもちろんアリですが、肩書としては使わず、前を向いて進んでいくことが大事だと思います。

前職を背負って生きていく

とはいえ、退職したからといって、前職との関係が完全に消えるわけではありません。むしろ、どんな職歴でも、それは一生ついてくるものです。

業界が狭ければ狭いほど「元◯◯」という肩書きが影響を持つことがあります。「あの会社出身なら、こんなスキルがあるはず」と期待されたり、「あそこ出身なのにこれか…」と思われてしまったり。

ぼくは前職を10年以上前に退職したのに、いまだに当時一緒に働いていた人からいろいろなことを言われます。

「勤務中、赤いズボンしか穿いてなかったよね」
「仕事中、冬でもビーサンだったよね」
「いつもTシャツ着てたよね」
「ずっと同じ格好してたよね」
「ずっと◯◯さんに昼ご飯を奢ってもらっていたよね」

これ、本当につい最近も言われたことです。そのほとんどが仕事内容やスキルではなく、服装や生活態度のことばかりですが、ピョン吉さんもきっとこの先もいろいろなことを言われ続けることでしょう。自分でも忘れていたのに、周りは覚えているものです。

ぼくの場合は言われることが仕事とは関係のないことばかり。あの頃に自分がどんな働き方をしていたのか、不安で仕方ないのですが……。それなりのインパクトを残せていたに違いないとポジティブに捉えることにします。

だからこそ、辞めるときには「後腐れなく去る」ことが大切です。感情に任せて前職を批判しすぎると、思わぬところで自分の評判を落とすことになりかねません。前職とのつながりは、どこでどう再び関わることになるかわからないものです。無用な衝突を避け、去り際をきれいに整えておくことが、結果的に将来の自分にとってプラスに働くでしょう。

退職エントリはとりあえずやめとけ

ピョン吉さんは退職エントリを書くか迷っているのでしょうか。退職エントリを書くのは自由です。しかし、読む側の気持ちを考えたことがあるでしょうか。

「新たな挑戦をします!」
「この会社で多くのことを学びました!」
「感謝の気持ちでいっぱいです!」

こういった言葉を並べたところで、大半の人は「ふーん」としか思っていません。もちろんメリットもあります。たとえば起業するのであればそれがきっかけで注目されたり、仕事につながることもあるでしょう。ですが、退職エントリの9割は、自己愛と承認欲求の塊でしかないのです(ってAIが書いてました。ぼくはそう思ってないです!)。

読まされる側は、そんなに深く考えていません。本当に誰かに感謝を伝えたいなら、ブログやSNSではなく、直接伝えるべきです。上司や同僚に一言「ありがとうございました」と伝えるだけで、それは十分に伝わります。『ONE PIECE』のサンジが赫足のゼフに「くそお世話になりました」と言わずに、退職エントリで気持ちを伝えたらめちゃくちゃダサくないですか? この世の真実はだいたい人気マンガに書いてあると思っているので一応書きました。

退職メールはOK、でも適度にシンプルに

退職エントリは避けるべきですが、退職メールはもちろんOKです。お世話になった人に感謝を伝えるいい機会です。

シンプルに「お世話になりました。ありがとうございました。」で十分です。個別に思い入れのある人には、一言添えるといいでしょう。長々と自分語りをする必要はありません。

余談ですが、ぼくの元同僚Mさんは、社内一斉に送るメールに小説を書いて退職しました。しかもその内容は、「Mさん以外の社員全員が殺される」というものです。現実世界では自分だけがいなくなる会社という場所を、小説では逆に自分だけが生き残るパラレルワールドとして描いたらしいです。なかなか斬新な退職の仕方ですが、これは普通の人にはおすすめできません。

おすすめできないというか、アウトな事例かも……。

ちなみにMさんは入社したときからこの小説を5年間コツコツ書き溜めていたらしいです。完全にイカれています。

PDFの枚数にして38枚という長編。内容はさておき、いろんな人への感謝の気持ちも読み取れました。マンガ『はじめの一歩』の一歩とゲロ道の試合に近い感動がありました。殴りながら感謝を伝えるというか、中指じゃなく人差し指と親指を立てて「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー(Hasta la vista, baby)」と言って銃で撃ち抜く感じでした。撃ち抜いたあとに人差し指をしまって親指を立てて「Good」と言っているようでした。ですが、かなり高度な技だしパーソナリティにかなり依存する内容なので普通の人には長文はおすすめしません。(Mさんはその後も元いた会社の仕事をしているので、おそらく円満退社だったのでしょう)

感謝を忘れずに

ピョン吉さんが働いていのがどんな会社であれ、辞めるときには感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。楽しかったのならもちろんのこと、たとえ厳しい職場だったとしても、そこで得た経験が今の自分を作っています。最後に「ありがとうございました」と言うことで、円満に退職することができます。

いろいろ書きましたが、実は自分も今月で退職します。なんというどんでん返し! 10年間働いたこの会社には感謝の気持ちでいっぱいです。そして次は…さきほど退職メールのくだりで出てきたヤバいMさんと、街で見つけた小野くんという逸材と、小さな会社を作ることにしました。

現段階で銀行口座には1,000円しか入ってませんが、歌舞伎町で見かけた看板「掴もうぜ 掴みきれない 札束を」を目標にがんばります。

社名はトマソンブラザーズ。トマソンは赤瀬川原平の『超芸術トマソン』から拝借、ブラザーズは「この世で一番外資系っぽい名前」だからかっこいいかなと思って。3月以降は映像や音声コンテンツを作ったり、エンタメ系ポッドキャスト番組のディレクションをしたり、これまでの人事の仕事とはまったく違ったことを多めにやる予定です。それと、4月からは某教育機関の大学部の授業を持つ予定もあり、日本の教育を内部から破壊していこうと思います。

※これは退職エントリではありません。人事ではなくクリエイティブ系の仕事がメインなので、いつかピョン吉さんとも仕事ができると嬉しいですね。

まとめ

・どんな会社生活だったとしても、とにかく感謝の気持ちを忘れずに
・元◯◯を背負っていく覚悟を忘れずに
・承認欲求強めの退職メッセージは逆効果になるから気をつけよう

気になる

おすすめ求人企業

PR