フォロワーが多くないとダメって本当? 仕事でのSNSのつき合い方
- 2021/05/26
- SERIES
そんな若手のお悩みに、社会人の先輩がアドバイスする連載企画の第11弾。頼れる先輩は、クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在はインフォバーングループの人事を担当している田汲洋さんだ。
年明けに都心から郊外へ引越しをして生活スタイルが変わった田汲さんは、SNSをあまり見なくなったと言います。フォロワー数に惑わされず、SNSではたどり着けない「検索できないモノ」を探すことに、クリエイティブ業界におけるSNSとの向き合い方のヒントがあると語ります。
- 文・イラスト:田汲洋
- 編集:今井大介(CINRA)
Profile
田汲洋
新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月よりHR領域担当となる。
クリエイティブ業界に関わる人は積極的にSNSをやらないといけないの?
どうも。タクミです。
現在、企業のデジタルマーケティング支援やメディア運営などを行うインフォバーングループで採用担当をしています。ちなみに、前職は出版社の宣伝部で働いていました。
迷える若手クリエイターたちの質問に対して、真摯にお答えする連載第11弾。曲がりなりにもクリエイティブ業界で経験を積んできたぼくが、これまで経験したことをもとにアドバイスさせていただきます。
今回、読者の若手クリエイターからこんなお悩み相談をいただきました。
私はディレクターなのですが、仕事の依頼でイラストレーターさんなどのクリエイターを探すとき、ついクリエイターのSNSのフォロワー数を見てしまいます。ですが、そもそもフォロワー数って依頼の判断材料として大事なことなのでしょうか? また、クリエイティブに関わる人は自分でも積極的にSNSをやらないといけないのでしょうか?
映像制作会社 ディレクター4年目 太郎(男性)
ぼくはSNSをほとんどやっていなくて、見る専門だったのですが、最近は見ることすらあまりなくなってしまいました。というのも、年明けに都心から郊外へ引越しをして生活スタイルがガラっと変わったからです。それまでは仕事が終わって家に帰ってきたらゲームをしてインターネットを見て寝る、休日はゲームをしてネットを見て寝る、これの繰り返しでした。ですがいまでは休日になると洗車をしたり、植物に水をあげたり、洗濯をしたり、食器を洗ったり……。たぶんぼくは水を撒くことが好きなんだと思います。
Instagramに投稿を一切せず、CYBERJAPAN DANCERS(サイバージャパンダンサーズ)の写真をチェックするのみ。Twitterは好きな著名人のつぶやきを追いかけたり、新宿租界の情報をチェックしたり、トレンドをチェックする程度です。今回はぼくのようなSNSを使いこなしていない人間の意見として聞いていただきたいです。
「フォロワー数が多い=おもしろい、素晴らしい」とは限らないので要注意
SNSでは「フォロワー数が多い=よい」という風潮があるのは否めないですね。というのも、フォロワー数の多さが宣伝につながることがあるからです。もし、自分の手がけた映像作品をユーザーに届ける戦略のなかに、自身のSNS活用が入っているのであれば、太郎さんはSNSに力を入れるべきだと思います。
ただ、フォロワー数の多さがよいということはあっても、けして「フォロワー数が多い=おもしろい、素晴らしい」とは限らないので要注意です。
映像系のエピソードではないのですが、友人の編集者はヒット作をいくつも手掛けています。ですが彼のTwitterのフォロワー数は少なく、SNSで書籍の宣伝も全然していません。彼の場合、書籍の宣伝は会社の営業部や宣伝部に任せており、そういう人はほかにもたくさんいます。もちろんSNSを使いこなし、自分の書籍の宣伝を巧みに行い、売上につなげる方々もいらっしゃいます。そこを否定しているわけではありません。
そもそもSNSって適性がある気がしていて、太郎さんのように「自分でもSNSをやらなきゃいけないんでしょうか?」と考える人は、たぶん無理してやらなくてもよい気がします。それよりむしろ、会社員のディレクターとして映像制作に携わっている太郎さんが一番気をつけるべきことは「よい発注者になる」ということだと思います。
フォロワー数の多いクリエイターに発注しがち問題
おそらく太郎さんは発注者側なので、日々SNSを見ながらいい感じのクリエイターを探していることでしょう。クライアントワークでは、クライアントにそのクリエイターを選んだ理由を説明する都合上、どうしてもフォロワー数の多いほうを選ぶ場合があります。
VTuber関連の企画を手掛けている友人に聞いたのですが、「イラストレーターさんの場合、フォロワー数が多い人は『みんなが見たい絵を描ける人』なんですよ。トレンドをうまく取り入れて、営業や宣伝もできる人。認知してもらうことが目的の案件であれば、フォロワー数の多いイラストレーターさんに発注するのは正しい行為だと思います」とのことです。
フォロワー数が多いことが正義であることも場合によってはありえますが、発注者全員がフォロワー数を意識して企画を立ててしまうと、世の中には検索結果の上位のみが反映される制作物で溢れかえってしまうのでは?
これは個人的な趣味かもしれませんが、そもそもぼくがおもしろいと思った人はSNSをやってないことが多いように思えます。
シュヴァルさんというおもしろい郵便局の男性が昔フランスにいたのですが、彼はなんと、33年間も道に落ちている石を持ち帰り、その石で自宅の庭に城を建てたんです。郵便局員兼城クリエイターとも言えるでしょう。ぼくは20年ほど前に彼の庭にある『シュヴァルの理想宮』を見に行ったんですけど完全にイカれた男の所業でしたね。そもそも城がつくられたのが100年以上前の話なので、シュヴァルさんはSNSをやっていないんですが、もし当時Twitterがあったとしても彼は「今日はめっちゃ丸い石をひろいました」なんてつぶやかなかったと思います。
太郎さんのような映像ディレクターでいうと、ぼくは煽りVアーティスト(※)と呼ばれた佐藤大輔さんが大好きで、「ミルコ・クロコップVS美濃輪育久」の煽りVなんか1万回は見たと思います。毎年こどもの日になるとその試合のVTRを見返します(みなさんご存知だと思いますが、2006年5月5日に行われた試合です)。
佐藤さんが出演した阿佐ヶ谷ロフトのイベント(2010年ごろ)にも足を運ぶほど大好きなのですが、佐藤さんはTwitterで告知をする様子がなく、Instagramはやっているがフォロワー数がめちゃくちゃ多いというわけでもなさそうです。そもそもぼくはクリエイターとしての佐藤さんのファンというよりは佐藤さんがつくるVTRのファンなのです。自分がおもしろいと感じるクリエイターでもSNSで活発に発信しているとは限りません。
※煽りV…格闘技の試合の前に流れる選手紹介VTR
SNSではたどり着けない「検索できないモノ」を探すコツ
素晴らしいクリエイターすべてがSNSをやっているわけではありません。ですから太郎さんのような発注者は、自分なりの嗅覚を持って、検索結果に頼ることなくその企画に適したアサインをすることが大事だと思います。ではその嗅覚を養い、SNSでは検索できない情報にたどり着くためにはどうすればよいのでしょうか。冒頭でぼくはSNSをほとんど見ないと言いましたが、おもに以下の3つから情報を得ています。
・散歩
・ラジオ
・人との会話
一つひとつ説明していきましょう。
●散歩
仕事に行き詰まったら散歩をするようにしています。目に映るものすべてがメッセージだと思って歩いていると、いろいろな発見があります。この連載も行き詰まりまくるので、いつも散歩しながら内容を考えています。近所を歩き回ることがあまりにも多いので、最近は引越し先で不審者に思われていないか心配です。
●ラジオ
ぼくの友人のなかでも屈指の物知りである佐々木くんは、音楽や道路交通情報に関して異常に精通しているので、なぜそんなに詳しいのかを尋ねると、「仕事柄(理容室の店長)、毎日朝から晩までラジオを聴いているからかも」と言っておりました。作業しながらでも気軽に情報摂取できるのがラジオのよい点なのかもしれませんね。
●人との会話
ぼくは基本的に自分が知らないことは他人が知っているはずと思っているので、人との会話はとても大事です。かといって、ぼくはすごくおしゃべりというわけではなく、むしろあまり喋らないタイプなのですが……。
その昔、出張先の新潟でたびたび行く店があり、ひとりカウンターで飲んでいると、ぼくに気を使って誰かが話しかけてくれました。そこから会話が広がり、新潟エリアのさまざまな情報をゲットしていました。
いつも隣に座ってひとりで飲んでいた50代のHさんは某大企業の方だったのですが、名刺に「SHIGOTOHA2NOTSUGI@〜」というアドレスを入れて女性店員に渡していました。その「仕事は二の次」というアドレスを仕事でも使っていたせいで、会社からガチで怒られて左遷されたようです。ほかにも、たまたま隣にいた占い師に「新潟県は日本の形をしていて、ほかにもそういう土地はある。それらの土地はスピリチュアルな場所である」と教わったりしました。あれ、どれも役に立たない情報ばかりですね……。
いずれも、自分の目で見る、誰かの話を聞くというのがポイント。ぜひあなたのやり方で検索できない情報を取りに行き、発注者としての嗅覚を養ってください!
【まとめ】
・作品の宣伝につなげたいならSNSをがんばろう
・SNSよりもまず「よい発注者になること」が大事
・検索できないモノを探そう
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