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「好きなこと」を仕事に。異業種から「ポケモンカード」のゲームデザイナーへ

1996年に第一弾が発売され、以後20年以上にわたって愛され続ける「ポケモンカードゲーム」(以下、ポケモンカード)。今回は、そんなポケモンカードをつくるゲームデザイナーの相馬勇太さんにお話をうかがった。
もともとは店舗向け音楽配信サービスの営業マン、その後、子ども用玩具のマーケティング担当を経て、異業種である「トレーディングカードゲームをつくる人」へと転身した相馬さん。「楽しくて仕方ない」と語る現在の仕事に、いかにしてたどり着いたのか?
その歩みと、ゲームデザイナーという仕事の魅力について訊いた。
  • 取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
  • 撮影:丹野雄二
  • 編集:坂本怜央(CINRA)

Profile

相馬勇太

埼玉県出身。帝京大学文学部(現在は教育学部) 初等教育学科を卒業後、店舗向け音楽配信サービスの営業として2年間勤務。その後、子ども用玩具のマーケティング担当を経て、2018年8月に株式会社クリーチャーズに入社。現在はポケモンカードのゲームデザイナーとして活躍中。

ゲームデザイナーの醍醐味は、ポケモンの魅力をいかに引き出すか

―相馬さんは、クリーチャーズに入社してゲームデザイナーになられたとお聞きしました。ポケモンカードにおけるゲームデザイナーの仕事について教えてください。

相馬:その前にまず、ご存知ない方のために「ポケモンカード」について説明しますね。いわゆる、トレーディングカードゲーム*です。

そのゲームのルールや内容を決めるのが、ゲームデザイナーです。ポケモンカードでいえば、ポケモンらしいワザや特性、ポケモン同士の相性、HPなどのデータを決定し、ゲーム全体のバランスをみながら、面白いゲームになるようにしていくのがゲームデザイナーの仕事になります。

【*トレーディングカードゲームとは、各プレイヤーがコレクションしたカードのなかから組み合わせたカードの束(「デッキ」と呼ぶ)を持ち寄り、2人で対戦を行うゲーム】

―商品の企画から発売までは、どのような流れで進んでいくのでしょうか?

相馬:基本的に、企画、データ制作、イラスト制作、校正、印刷、発売という流れで進んでいきます。データ制作とイラスト制作は、状況により前後することもありますね。

企画では、最初にどのポケモンが登場するか、どんなテーマの商品にするかを決めます。次に、ポケモンの強さを決めるデータ制作、カードに登場するポケモンのイラスト制作があり、データとイラストが完成したら、デザイナーがカードのフォーマットに落とし込みます。そのカードに間違いがないか校正を行い、問題なければ印刷、発売となります。

「拡張パック(画像左)」と60枚入りの「構築済みデッキ(画像右)」

「拡張パック(画像左)」と60枚入りの「構築済みデッキ(画像右)」

―カード1枚1枚の特徴やバリエーションを考える際に、気をつけていることはありますか?

相馬:ゲームデザインをする上で、「ポケモンらしさ」を大切にしています。「ポケモンらしさ」とは、ポケモン1匹、1匹が持つタイプや特性、生物的特徴などのことです。ポケモンの世界では、完全な同一個体は存在しません。「このポケモンだからできること」を軸に、ゲームデザインをしています。

―相馬さんにとって、特に思い入れのあるカードは何でしょうか?

相馬:このイーブイのカードですね。

イーブイのプロモカード

イーブイのプロモカード

相馬:これはぼくが初めてつくったカードです。店頭で販売されるものではなく、イベントや販促時の特典として配るプロモーション用のカードですね。1枚のカードとして魅力的なものになるように思いを込めました。

―工夫したポイントを教えてください。

相馬:このカードの場合は、先にイラストが決まっていたので、イラストを軸に、「このイーブイはどんな状況にいるのだろう?」と考えました。森を走るイーブイの周りにはたくさんのモンスターボールがある。その一つがビリリダマです。イーブイは、気づかずにモンスターボールで遊んでいますが、誤ってビリリダマに触れたら感電してしまう可能性がある。そんなストーリーが浮かぶ絵だったので、ワクワクを表現する「こうきしん」と、コインを1回投げウラなら、このポケモンにも10ダメージというハラハラ感がある「ころころタックル」というワザをつけました。

―同じポケモンでも、イラストに描かれた状況や表情によってデータが変わるのでしょうか?

「ポケモンらしさ」を大切にする上で、イラストも、「ポケモンらしさ」を表現する大切な要素の一つです。なのでもちろん、参考にすることはありますね。

―イラストが先に制作されている場合、イラストありきでデータを考えるのでしょうか?

相馬:その時の開発状況によって変わります。イラストありきで考える場合もありますし、「こういう遊び方をしてほしいから、こんなカードが必要だよね」と、ゲームデザイナーの意向からデータを考える場合もあります。

音楽配信サービスの営業、子ども用玩具のマーケティング担当を経て、未知の世界へ

―相馬さん自身は、最初からゲームデザイナーを志していたのでしょうか?

相馬:いえ、子どもが好きで、大学では教師を目指していて。実際に、教育実習を経て小学校教諭免許状も取得しました。

ただ、就職先を決めるタイミングになると、いろんなことに挑戦してみたくなったんです。今考えると、自分の可能性をもう少し模索したいと思っていたのかもしれません。人と触れ合うことだけでなく、音楽も好きだったので、アルバイトの時に興味を持った店舗向け音楽配信サービスの会社で、営業職に就きました。飲食店などの店舗に、音楽配信サービスの導入を提案する仕事です。

―ゲームデザイナーとは畑の違う仕事ですね。

相馬:そうですね。当時はお店というお店に飛び込み営業をかけたり、1日100件を超えるテレアポを行ったり、とにかく無我夢中で取り組んでいました。同僚も、良い意味でライバル心が強くて、刺激的な環境でしたし。営業トップを目標に頑張っていましたが、2年目にその目標を達成することができました。

―2年目で早くも目標を達成したと……! 順調なスタートですね。

相馬:はい。ただ、目標を達成してしまったことで、新しい挑戦をしたいという意欲が芽生えてきたんです。営業はつくられたモノを売ることが仕事ですが、好きなモノを知ってもらう、発信する仕事をしたいという思いが高まってきて。ほどなくして子ども用玩具を扱う企業に転職しました。自分の慣れ親しんだ玩具を、もっと子どもたちに伝えたいという思いがあったからです。

相馬:その会社では、マーケティング担当に配属されて、専用WEBページやYouTubeなどのSNS、イベントなどで販促につながる企画を立てていました。「新しい商品を紹介するときに、どうすればファンに受け入れてもらえるのか」、「子どもにもわかりやすく、かっこいいと思ってもらうにはどのような要素が必要なのか」など試行錯誤を繰り返していました。その経験が、いまのゲームデザイナーの仕事にも活かされていると思います。

―子ども用玩具を扱う企業から、どのような経緯で現職に転職をされたのでしょうか。

相馬:仕事は楽しかったのですが、好きなモノを発信するだけでなく、作りたくなってしまって、それで、自分の好きなトレーディングカードゲームをつくる仕事に挑戦したいと思ったんです。実は大学のときにやりこんでいて、大会に出たり、オリジナルチームを組んでイベントに参加したりもしていました。

―とはいえ、まったく未経験の仕事ですよね。

相馬:はい。ですから、面接では熱意をしっかり伝えることが大事だと思いました。ぼくが思うポケモンカードの魅力や、仕事に対する思い、そして実際に自分がつくりたいもの。それらをスケッチブックに書いて、短い面接時間の中で精一杯伝えました。それが功を奏したのかはわかりませんが、縁あって入社することができました。

クリーチャーズのオフィス入り口では、ナッシー(アローラのすがた)が出迎える

クリーチャーズのオフィス入り口では、ナッシー(アローラのすがた)が出迎える

世界大会も毎年開催。現地で感じたポケモンカード熱

―ポケモンカードをつくるためには、当然ながらポケモンについて熟知しておく必要がありますよね。

相馬:その通りです。ぼく自身、幼少期はポケモンのアニメやゲームに親しんでいましたが、2002年に発売されたゲーム『ポケットモンスター ルビー・サファイア』以降遠ざかっていたんです。そういった状況だったので、まず過去のゲームをすべてやりこんでポケモンの名前を覚えました。時間があれば、都内の実店舗である「ポケモンセンター」を巡り、今売られている商品はどういったものがあるか視察もしていました。

―いまやポケモンの数は膨大です。名前を覚えるだけでも大変ですよね。

相馬:過去のゲームを通してキャラクターの名前だけでなく、ポケモンならではの演出や、ストーリーに関するさまざまな背景を知ることができるので、楽しみながら覚えられました。たとえば、ポケモンのアニメでも「いけ! ピカチュウ、10まんボルトだ!」と必ずワザ名を声に出してワザを繰り出すんです。ポケモンの世界において、ワザ名が持つインパクトは大きく、重要なんだと気づきましたね。

―なるほど。ちなみに、相馬さんが好きなポケモンは?

相馬:「ウツロイド」です。ポケモンカードには「どく」や「こんらん」、「やけど」といった「特殊状態」と呼ばれる要素があるのですが、ぼくは「どく」が好きなんです。ウツロイドは、どくタイプを持っていて、しかも見た目がかわいい! 大好きですね。

―単純な攻撃力とか、そういう派手な強さよりも、戦略的に戦えるポケモンに惹かれるのでしょうか?

相馬:プレイヤーの時から、強いカードを出して勝つより、戦略を駆使して勝機を見出していくことに興奮を覚えるタイプだったので、無意識に惹かれているのかもしれません。

―相馬さんはもともとトレーディングカードゲームをやり込んでいただけあって、プレイヤーとしての目線もカードづくりに活かされていそうですね。

相馬:そう思います。自分がプレイヤーだったときは、こんなカードが欲しかった、こういうイベントをやってもらいたかったという当時の思いを、仕事に活かしています。ただ、ポケモンカードの場合は年齢層の幅が広く、ライトユーザーから上級プレイヤーまでさまざまです。ですから、特定のターゲットに限定せず、広く受け入れられるものをつくりたいと思っています。

―なるほど。では、これまでに印象に残った仕事上の体験を教えてください。

相馬:参加したイベントはどれも心に残っています。ポケモンカードは世界大会*が毎年開催されていて、現地の雰囲気やポケモンカードがもたらす盛り上がりを肌で感じることができます。

また、台湾で行われたイベントでは現地のユーザーと開発者が対戦する企画があって、ぼくは開発者側として参戦しました。現地の対戦相手が「絶対勝ってやる!」と気合十分できてくれるので、こちらも全力でぶつかりました。こんな風に、誰もが同じ目線で対等に遊べるのも、ポケモンカードの魅力だと思います。

*「ポケモンワールドチャンピオンシップス」通称ポケモンWCS。ポケモンバトルの世界一を決める大会。カードゲーム部門、ゲーム部門などがある。

―そうしたイベントは、自分がつくったカードで実際に遊んでいるところを見る貴重な機会にもなりますよね。

相馬:はい。開発から世に出るまで半年から一年程度かかるので、発売されると達成感がありますが、実際にユーザーが手に取り遊んでいるのを見ると、さらに大きな喜びを感じます。特に、自分のつくったカードが対戦で使われていたら、感動しますね。

いつまでも大切にしてもらえるポケモンカードをつくりたい

―未経験からゲームデザイナーになって、苦労したことはありますか?

相馬:ものづくりの仕事は、知識や技術だけでなく、忍耐力も必要な仕事で慣れるまで大変でした。ただ、ポケモンが中心にあるおかげか、いろんなアイデアや思いが次々と湧いてきます。どんな遊びの要素があればポケモンらしいのか、トライ&エラーを積み重ねてより良いものをつくっていく。大変ですが、とても楽しく、やりがいのある仕事です。

クリーチャーズのオフィスには、ピカチュウなどのポケモンのぬいぐるみが並んでいる

クリーチャーズのオフィスには、ピカチュウなどのポケモンのぬいぐるみが並んでいる

―最後に今後の目標を教えてください。

相馬:カード1枚1枚のゲームデザインだけでなく、ポケモンカード全体に関わっていきたいですね。年間単位で商品のラインナップを考えて、どんな商品が必要なのか検討していくような仕事がしたいです。

またゲームデザイナーとしてまだポケモンカードゲームで遊んだことのないユーザーに、ポケモンカードゲームの魅力や面白さを、ものづくりを通して、伝えていきたいと思っています。

© 2020 Pokémon. © 1995-2020 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。

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彼女からもらった時計です。もともと時計が好きで、それまでは派手なブランドものばかりつけていたのですが、これは逆にシンプルなのが気に入っています。シンプルでカッコ良く、飽きないデザインになっているところがオススメです。
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