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音楽業界に飛び込むなら、今がチャンス!? 第一線で活躍するリーダーが次世代へ懸ける想いとは

いつの時代も、人気を博してきた音楽業界。人生で一度は関わりたいと思ったことのある人も多いのではないだろうか。しかし、そんな多くの人の憧れである音楽業界に携わる若者が年々減少し、市場そのものも衰退していると言われる。音楽自体が多様化し、それを取り巻く環境もめまぐるしく変化する今、業界はどのような方向に進むべきなのだろうか。

今回はクリエイターのマネジメントを軸とする総合音楽制作会社アップドリーム代表の山田公平さんと、ぼくのりりっくのぼうよみやSKY-HIなど、多くのアーティストのブランディングやプロモーションを手がけてきた岡田一男さん(株式会社ハレバレ代表取締役、株式会社CAMPFIRE執行役員、株式会社Candee社長室室長)を迎え、お二人のこれまでの歩みや、音楽を生業にする醍醐味、そして業界の現状をどう捉えているかなど、幅広く話を伺った。
  • 取材・文:金子厚武
  • 撮影:池田宏

成熟した音楽業界に起きた変化とは

CDのセールスがピークを迎えたのは、「メガヒット時代」と呼ばれた1998年。ミリオンセラーを連発する音楽業界に誰もが憧れたが、2000年代に入ると徐々に状況が変化。配信時代へ突入し、「過渡期」と言われ続ける2010年代においては、むしろネガティブな声を聞くことの方が多くなったように思われる。

—近年は「CDが売れない」など、音楽業界に対してネガティブな声を聞く機会が増えたように感じるのですが、お二人は現状をどのように感じていますか?

岡田:音楽に限らず、エンタメ業界に憧れる若い方が相対的に減っているなというのは肌感としてあります。僕が来てほしいと思うような人は、自分で起業したり、違う業界でチャレンジしている気がする。パッケージや配信の売り上げが厳しくなり、「じゃあ、他の事業でどう売り上げを伸ばすか」っていう中で、やっぱり縮小していることは否めないです。単純に「儲かってない」というだけではなくて、「潮流じゃない」という空気もあるというか。今はソーシャルグッドみたいな、社会貢献できる場所で働きたいという人が増えていて、優秀な人材がそういうところに流れているような感じもしますね。

山田公平さん(株式会社アップドリーム代表取締役)

山田公平さん(株式会社アップドリーム代表取締役)

山田:僕は音楽業界って仕組みとしてはすごく洗練されていて、何かを生み出す力は常にあると思うんです。じゃあ、なぜ調子が悪い印象を受けるのかというと、例えば、2000年代までって、エイベックスさんやビーイングさんとか、アーティストもスタッフもみんなが自信を持って派手な見せ方をしていたので、それに憧れる人が多かったと思うんですよ。でも、2000年代に入ると、市況の影響もあって、予算を減らされたり、引き締める方に向かい、スタッフが自信をなくしてしまった。それは、フロントに立つアーティストや周囲のファンにも伝染していきました。一方で、今のスマホゲーム業界やスタートアップ界隈は、みんな自信を持ってやっているし、社会貢献も同様だと思う。やっている人に自信があるから、そっちに人が流れている印象を受けます。

—以前と比べると、音楽業界に派手な人や目立つ人が減ったということですか?

山田:そう感じますね。昔は「学生時代はイベントサークルをやってました!」みたいな人の方が入りやすかったけど、今は「勉強して、資格を持ってます!」みたいな人の方が企業も採りやすいじゃないですか? そうすると、ちゃんとした会社にはなるんだけど、ちゃんとし過ぎると面白いエンタメは作れないと思います。当然、犯罪はダメですけど(笑)。グレーゾーンのスレスレを攻めないと、人に感動を与える物事を生み出すことって難しいと思うんです。

岡田:これまでは演者もスタッフも破天荒な人が多かったというか。最近は時代の流れでコンプライアンスが厳しくなり、リスクを背負って新しいことにチャレンジするような人がいなくなってきたのは確かですね。でも、それだと目黒の秋刀魚みたいな、油っ気が抜けた、パサパサした感じになっちゃうんじゃないかなって(笑)。

岡田一男さん(株式会社ハレバレ代表取締役、株式会社CAMPFIRE執行役員、株式会社Candee社長室室長)

岡田一男さん(株式会社ハレバレ代表取締役、株式会社CAMPFIRE執行役員、株式会社Candee社長室室長)

山田:スマホゲーム市場って、まだ未整備なことが多いじゃないですか? 常にグレーゾーンを攻めて、規制されても、何とか抜け穴を見つけようとする。そういうことができる環境の方が、物事は進んでいくんですよね。ただ、音楽業界はこの数十年でそれはやり尽くされていて、良くも悪くも洗練されてしまった。そういう状況なんだと思います。

「クリエイターを支えたい」、アップドリームの原点

20代前半までクリエイターとして活動してきた山田公平さんは、25歳のときに株式会社アップライツを設立。初期はいち早くiTunesのアグリゲーターとして楽曲の配信や管理を行い、その後は楽曲制作やレーベル、マネジメントを手がけてきたが、昨年志を同じくする音楽制作会社やクリエイターが集結。新たな音楽プロデュース集団として、アップドリームを起業した。

—山田さんが会社を新たに設立されたのは、音楽業界の課題に対する、ひとつのアプローチということでしょうか?

山田:そうですね。アップドリームはもともと関係のあった会社がチームとして集まっていて、今はスタッフと、マネジメントするクリエイター合わせて100名が所属しています。よく集合知と言われますけど、個人の力で突破するのが難しい状況なので、みんなで一度集まる必要を感じていました。もともと4年前に規模の大きいレコーディングスタジオをつくって、そこが緩やかに集合体へなっていったんです。今流行りの言い方をすると、シェアリングエコノミーってやつですかね。リソースをみんなでシェアして、よりよい音楽をつくっていこうと。

—設立のタイミングが昨年だったのは、何か理由があったのでしょうか?

山田:きっかけとしては、あるマネジメント事務所が閉じることになって、「面倒見てくれ」って話を持ちかけられたことですね。そこに所属していたクリエイターに仕事仲間が多くいたので、思い切って僕が旗を揚げた方が仕事しやすいかなって。クリエイターにとっても、所属先を明確にした方が、お仕事に繋がりやすいんですよ。作家事務所って本当に少なくて、今ヒットチャートを賑わせている作家はフリーの人の割合が多いんですけど、最初からフリーというのはハードルが高い。ちゃんと作家をバックアップできる環境が必要だと思いました。

—実際に、会社を設立したことでどんな効果がありましたか?

山田:それぞれ音楽に関する異なる領域で実力をつけてきたメンバーが集まったので、単なる足し算じゃなくて、いろんなことが掛け算になり、ドライブしましたね。例えば、これまで会社同士の交流はあまりなかったんですけど、今は会社を組み合わせてシャッフルチームを作ったりすることで、従来なかったものができるようになりました。あとクリエイターってすごく孤独で、特に劇伴作家はひと月に50~60もの楽曲を黙々と作るので、本当に心身ともに過酷なんです。海外だとみんなで集まって作ることが主流になってますけど、あれってクリエイターの寂しさを紛らわせる効果もあるんですよね。それが実現できたことも大きいと思います。

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—取り扱っているジャンル的には、アイドルもありつつ、メインはアニメの楽曲が多いですね。

山田:うちのコアスタッフはもともとJ-POP界隈の出身で、取締役であり作家の中西亮輔はm-floの楽曲をデビュー前から一緒に制作していました。でも、今は主にアニメの劇伴を作曲していて、そこには時代の変遷もあると思います。最近、会社や僕を訪ねてくる20代の作家は、アニソンをやりたいという人が圧倒的に多いですね。

—そこは業界内でのアニソンの盛り上がりを反映していると。

山田:そうとも言えますね。あとアニソンって、作家がクローズアップされることが多いんです。誰が作っているかに辿り着きやすいから、「この人みたいになりたい」って思える。少し前に、オリコンがオンラインチャートでクレジットを掲載しなくなりましたよね。あれって作り手にとっては致命的な話で、作詞家や作曲家、編曲家の匿名性が強くなるということなんですよ。中田ヤスタカさんですら「自分が前に出て行かないと埋もれる」とインタビューなどで言っていますからね。あのクラスがそんなことを感じているのであれば、若手や中堅は戦々恐々じゃないですか? だから、そういう人たちを支える必要があったんです。

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ぼくのりりっくのぼうよみやSKY-HIを担当する岡田一男が、
音楽業界の第一線で痛感したこと

ぼくのりりっくのぼうよみやSKY-HIを担当する岡田一男が、音楽業界の第一線で痛感したこと

2002年に新卒でエイベックスに入社した岡田一男さんは、2011年にアーティストマネジメントやクリエイターのエージェントなどを手がける株式会社ハレバレを設立。現在は日本のクラウドファンディングの草分け的存在である株式会社CAMPFIREや、モバイル動画コンテンツの企画・制作を行う株式会社Candeeをはじめ、数々の音楽事業に関わりながら、その活動範囲を広げている。

—岡田さんは2011年にハレバレを設立して、現在では様々なアーティストやプロジェクトに関っていますよね。

岡田:会社を作ったものの、ほぼフリーに近い状態でした。そのときは自分のペースで仕事をして楽しかったんですけど、ちゃんとヒットに携わってないと、知見が溜まらないんですよね。そう思い始めた頃に、レコード会社の人手が足りなくなってきて、経験がない人を雇うよりも、経験ある人を外注で雇った方が良いという流れになりました。それから、レーベルの人に誘われたりする中で、いろいろお仕事をいただくようになって。

—最近はレコード会社以外とお仕事されるケースも多いですよね。

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岡田:スタートアップって、音楽で言うインディレーベルっぽくて、みんながむしゃらで、熱量がすごいんです。その流れで、最近はソーシャルグッド、地域活性、動画、Eコマースなど、いろんなお仕事をやらせていただいています。今までの経験の中では得られなかったことが山ほどありますよ。「将来どうなるかわからないから」って何もしないのはもったいない。常に最前線に触れていたいと思って、気がついたらいろんなところに首を突っ込むことになっていたんですよね(笑)。

—最近のお仕事で、手応えを感じたのは誰とのお仕事でしたか?

岡田:ぼくのりりっくのぼうよみがクラウドファンディングで資金を集めて立ち上げたオウンドメディアと、SKY-HIのファンが運営するTwitterアカウントは、既存の音楽業界にはない情報発信の形だと思います。やっぱり、独創的なアイデアのあるアーティストと仕事するのは楽しいですね。今ってみんなリスクを気にし過ぎていて、「バンドマン不倫するな」とか、本当どうでもいいし、どんどん面白くなくなっている。業界全体がリスクを恐れて、どんどん味気なくなる中、どうやって自身の個性や音楽の面白さを伝えるか、アーティスト自身が今までと違うやり方を考えないといけない時代になってきていると思います。リリースタイミングでインタビューを受け、情報番組でミュージックビデオを流してもらい、音楽番組で歌唱して終わり。そういうことだけではヒットは生めないというか。でも、本当はそれってアーティスト自身ではなく、周りの人間が考えるべきで、そのためには、世の中で起こっているいろんな出来事や情報について自分で咀嚼して、センスを磨いていく必要があると思うんですよね。

次世代に求めるものは、「できるかどうかではなく、やるかどうか」

昔と比較して、確かにCDの売り上げは減った。しかし、構造そのものがドラスティックな変化を続ける今の音楽業界には、むしろ新たな可能性がたくさん眠っていると言えるはず。山田さんも岡田さんも、これからの若手に期待を寄せる。

—インタビューの冒頭で「有望な人材が音楽業界以外の分野に流れてしまっているのではないか」というお話がありました。とはいえ、もちろん今も音楽業界を志している若い人はたくさんいると思います。お二人はどんな人だったら一緒に働きたいですか?

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山田:どの業界でもそうだとは思うんですけど、人当たりが良いとか、挨拶ができるとか、まずは基本的なこと。あとはやっぱり「音楽やエンタメが好き」という気持ちですね。「なぜこの仕事をやりたいと思ったのか」という問いに答えられれば、それで十分だと思います。好きなアーティストの近くで仕事をしたいという動機でも全然良いと思いますしね。

岡田:僕は根性と情熱のある人とお仕事したいですね。今って音楽業界について「ブラック」とか「オワコン」とか、ネガティブな情報がネットに溢れていて、それを見て「大変そうだからいいや」ってなっちゃうのかもしれません。でも、もしやりたいって気持ちがあるなら、どんな形でも何かやってみた方が良いと思うんです。「どうやったら音楽業界に入れるんですか?」って質問されることも多いんですけど、今はSNSとかでいろんな人と繋がれるし、まずは自分で知恵を絞ってみてほしい。そこを自分で考えられないと、業界に入っても苦労すると思います。

—どんな形であれ、まずは一歩踏み出してみてほしいと。

岡田:音楽業界は大変そうに見えるかもしれないけど、やっぱり他の仕事では味わえない喜びがあります。レコーディングが終わったり、作品がヒットしたり、ライブでお客さんが泣いているのを見たりすると、音楽が好きなら絶対病み付きになっちゃうと思うんです。ネガティブな情報だけを見て、「自分には無理だ」って思う前に、まずは飛び込んでみて欲しいですね。

—マネジメントという仕事に絞ってお伺いすると、どんな適性が必要なんでしょう?

山田:根気だと思います。曲づくりやプロモーション、ライブの日程など、どれだけ良いプランを練っても、大体不都合が起きるんですよ。世の中に出ている成功例って、100個プランがあったらそのうちの1個か2個で、その影には数々の失敗があるんです。なので、失敗したとしても、アーティスト、上司、関係者と向き合って、それをちゃんと次に活かすことが大事。途中で投げ出さないという根気は、何かしら前に進めるうえで大事な能力だと思います。

—これからの業界を支える若い力がもっと育ってほしいですね。

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岡田:やっぱり、若い方とできる限り仕事がしたいというか。面白い人が増えると、自分が今まで見たことのないものを見せてくれるんじゃないかっていう期待もあるんです。「やられたー!」って僕も言いたいし、逆に言わせてみたい(笑)。どんな若い方が出てくるか、とても楽しみです。

山田:「AIに取って代わられる職業が増える」という話がありますが、音楽業界こそ代えが利かない職業が多いと思います。人が作り、パーフォマンスするものに、人は感動する。ありふれた言葉かもしれませんが、音楽には唯一無二の力があると思います。なので、永久就職を目指すなら、ぜひ音楽業界に来てほしいです。

Profile

株式会社アップドリーム

株式会社アップドリームは、株式会社アップライツ(代表:山田公平) / 株式会社ファーストコール(代表:太田雅友) / 株式会社アルタス(代表:中西亮輔) / 株式会社メメント(代表:桑原聖)がそれぞれのチームを引き連れ合流し、2016年に設立。総勢30名以上の実績あるクリエイターを専属マネジメントする総合音楽制作会社です。

音楽ビジネスの根幹である原盤制作と著作権開発に重きを置き、日々音楽制作の最前線にて業務を遂行しております。

また各社レーベル / レコード会社案件の音楽制作 / プロデュース請負、コンサルティングやアドバイザー業務、新規プロジェクトの発起、資金調達および資金提供など、制作会社の枠に留まらない業務も行っております。

この生まれたばかりの会社で、一緒に成長していける若きスタッフを募集しております。ご興味のある方、ご応募お待ちしております。

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