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「いきなりの移住はちょっと」という方へ。海と山に囲まれて働くサテライトオフィスのススメ

株式会社ココロマチ

株式会社ココロマチ

「都市と地方をつなぐ」をテーマにWEBメディア『ココロココ』を運営するココロマチ。メディアでの情報発信やイベントの企画開催などを通して都市と地方の移住・交流を促進してきた彼らだが、ついに自社初となるサテライトオフィスを構えたという。場所は関東最南端に位置する千葉県南房総市白浜町。廃校になった幼稚園・小学校の木造校舎をリノベーションした宿泊・商業施設「シラハマ校舎」の一室。決断までの背景と今後世に広めていきたいという働き方について、代表取締役の吉山日出樹さん、『ココロココ』編集長の奈良織恵さんに伺った。

WEBメディアで掲げた価値観を、リアルな場で体現

ココロマチのサテライトオフィスが入居する「シラハマ校舎」は2016年、南房総市にオープンした宿泊・商業施設だ。幼稚園と小学校だった木造校舎にはオフィスが入居し、レストランやゲストルームも併設されている。校門や建物内には昔の面影を感じられる部分も大切に残されている一方、外壁は黒で統一され、ノスタルジックでありながらスタイリッシュという稀有な存在感を放っている。なぜ、この場所にサテライトオフィスを構えようと思ったのだろうか。

吉山:2013年に都市と地方をつなぐWEBメディア『ココロココ』をはじめたのですが、活動を続けながら、メディアで発信する価値観をリアルに体現する場をつくる必要性を感じるようになりました。移住を考える人が最も気にするのはやはり仕事です。リモートワークや副業など、働き方は多様化してきましたが、会社員が好きな場所で働くことはまだまだ浸透していませんよね。なので、まずは自分たちから実践しようと思ったんです。東京以外に拠点を置くことは、距離的にも心理的にもハードルが高い。僕らが率先して取り組むことで、地方にサテライトオフィスを構えることに他の企業も興味を持ってくれるんじゃないかと思ってはじめました。

奈良:実は、南房総市の企業誘致を目的としたPRに関わっていて、里山と海の両方を堪能する体験ツアーや、空き公共施設を活用してローカルビジネスをつくるためのブートキャンプなどを企画してきたんです。何度も南房総に通っていたら、「サテライトオフィスを構えるならここかな」と思うようになりました。

シラハマ校舎の外観

シラハマ校舎の外観

吉山:もともとうちの会社は神奈川県藤沢市で創業しました。10年弱は、藤沢と東京の2拠点で仕事をしていたんですが、利便性の高さから東京オフィスがメインになっていき……。そういう意味で、今回のサテライトオフィスは弊社としても再チャレンジ。インターネットも発達し、様々な障壁がなくなりつつあるのに、働き方が変わらないなんておかしいと思ったんです。

コンセプトは“Pay as you wish” ココロとココロのつながりで「おためしサテライトオフィス」を広めたい

ココロマチとしては、この取り組みを他社にも広げていきたいようだ。

吉山:今は複数の企業でオフィスを共有していけるように話を進めているところです。他社に貸すにあたって、最初は「1か月1万円でシェアできる」とかいうのを考えたんですが、「1万円」と金額を決めてシェアすることになぜか違和感がありました。別にシェアサテライトオフィスで儲けようと思っているわけではなく、あくまでも『ココロココ』というWEBメディアでの価値観を体現する場所、それを多くの人に伝える場所が欲しいという考えなので……。だったら「1万円で」と紹介するのではなく、利用した人がそのときの気持ちで金額を決める「投げ銭方式」「Pay as you wish」の方が、ココロココのコンセプトに合っていて良いよね、という話になったんです。

代表取締役 吉山日出樹さん

代表取締役 吉山日出樹さん

吉山:導入のハードルを下げて、このサテライトオフィスやココロココに興味を持ってくれた人、共感してくれた人に、気軽に使ってもらえると良いなと思っています。きっと地域のことって、ひとつの会社が独占して何かをやることではない。いろんな地域のいろんな人の価値観が混ざり合ってやることに意味があると思うんです。そのためには「おためしサテライトオフィス」「ファーストサテライトオフィス」として、まずは一歩踏み出して欲しいですね。

実際、この南房総オフィスは社外の人にも開かれている。たとえば、アウトドアブランド「スノーピーク」で働く知人を招き、デイキャンプをする予定もあるのだとか。

シラハマ校舎からほど近い野島埼灯台からの景色

シラハマ校舎からほど近い野島埼灯台からの景色

奈良:サテライトオフィスというより、遊び場としても使ってきた感じですね。仕事には直結していないのですが、社員からも「ここをこういう風に使っていい?」という声が増えてきました。それぞれが得意なことを持ち寄ってコンテンツが増えれば、新しい人が訪れてくれる。今後はもちろんオフィスとしても活用しつつ、どんどん面白い場所にしていけたらと思っています。

『ココロココ』編集長 奈良織恵さん

『ココロココ』編集長 奈良織恵さん

吉山:これまでは企業や起業家を中心に取り組みを行ってきましたが、意外なことにオフィスが大学のゼミ合宿に使われたことがあったんです。僕は50歳を超えてますけど、20歳前後の学生たちと世代を超えたコミュニケーションが図れるなんて思ってもみませんでした(笑)。学生、会社員、経営者。お互いに利害関係もないですから、枠を超えてフラットな関係を築くことができる。これは嬉しい体験でしたね。

移住をせずに一時的な滞在だとしても、日常生活から離れることでチームビルディングが活発になるという効果もあるそうだ。「社員が増えたからオフィスを広げる」「クライアントの近くに支社を増やす」という発想以外でサテライトオフィスを設けることにも、意外なメリットが多く潜んでいる。

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南房総にあるのは、「何もない」良さ

南房総にあるのは、「何もない」良さ

ここで、シラハマ校舎で働く二人がご登場。「シラハマ校舎」を運営する多田朋和さんと、入居者であるレストラン「Bar Del Mar」のシェフ・瀧川幸雄さんだ。

多田:僕はもともと不動産業や内装業を生業にしていて、南房総に移住してからはリノベーションでシェアハウスをつくったりしてきました。シラハマ校舎に関しては、全国を探してもここまで状態の良い木造平屋は滅多にないんです。今もコワーキングスペースとなる部分を改築中ですが、やりがいはありますね。

左:レストラン「Bar Del Mar」シェフ 瀧川幸雄さん / 右:シラハマ校舎 多田朋和さん

左:レストラン「Bar Del Mar」シェフ 瀧川幸雄さん / 右:シラハマ校舎 多田朋和さん

瀧川:私はここに移住するまで、ロシアやヨーロッパを巡りながらシェフとして働いてきました。南房総に来たのは約1年前。ゼロからお店をつくることにも当然興味はありましたが、南房総のライフスタイルに惚れ込んだのが1番の理由ですかね。平日はシェフとして働きますが、休みの日はスタンドアップサーフィンを地元の人たちに教えたり。南房総は仕事と趣味をバランス良く楽しめる場所だと思います。

理科室を改装したレストラン「Bar Del Mar」

理科室を改装したレストラン「Bar Del Mar」

多田:ここには海と里山以外「何もない」。でも「何もない」って良いですよね。言い変えれば、未知の可能性を秘めているということ。都心部で定年を迎える60歳まで働くのもいいですが、僕は80歳まで南房総で現役として働けたら幸せだなと思っていて。そのために「今までにない仕事」をつくっているという感じですね。それに、ここの海や星空の美しさは本当に圧巻ですよ。

シラハマ校舎のところどころに学校の面影が残っている

シラハマ校舎のところどころに学校の面影が残っている

瀧川:都心からのアクセスも良いですよね。距離だけ見ると遠く感じますが、渋滞が少なく、移動へのストレスはまったくありません。今もレストランとは別にシラハマ校舎の一室を借りていて、横浜の自宅と2拠点生活を送っています。

奈良:実はサテライトオフィス設立を考えるより前に、『ココロココ』で多田さんにインタビューをしていたんです。そのとき、南房総に面白い人たちがどんどん移住してきていると知ったのも、南房総を選んだ理由のひとつになっていたのかもしれません。

移住・定住にこだわらない、「行ったり来たり」という考え方

地方と都市をつなぎ、最終的には人と人をつなぐことが重要だと吉山さんは考える。

奈良:私は横浜で生まれ育ち、田舎という田舎ではないのですが、2007年に父が岩手県の遠野に移住したことで、定期的に足を運ぶ機会が増えたんです。頼まれたわけでもないのに、友達と一緒に新幹線に乗って田植えや稲刈りをする。でも、田植えや稲刈りをするだけだったら、東京近郊でも体験できますよね。なぜわざわざ遠野まで行くかというと、やっぱりそこにいる人に会いに行ってるんだなって。この先どんどん人口が減っていくなかで、定住人口を奪い合うよりも、いろんな土地を行き来して交流する人が増えた方が楽しくなると思っています。移住・定住にこだわらず、「行ったり来たり」という状態も良いじゃないって。

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吉山:人だって、その地で採れるものと同じように風土に育まれる部分があると思うんです。僕らの立場はあくまで客人。外からの人間がその土地の人と交流することで新しい発見が生まれやすくなると思うんです。これからは地元の人と関わる機会をもっとつくっていきたいですね。もしかすると、今まで気づかなかったビジネスチャンスが掘り起こされるかもしれませんよ。

Profile

株式会社ココロマチ

ココロマチは「まち」と「ひと」をつなぐ、小さな会社です。ココロマチという社名は、人の「ココロ」をつないでいこうという想いと、皆さんに「ココロマチ」にしていただけるサービスを作ろうという気持ちを込めて名づけました。1997年の創業以来、私たちがこだわり続けてきたものがあります。それは街の個性とそこに暮らす人々の魅力を発信したいという想い。わたしたちが提供しているすべてのサービスはこの想いを起点に生み出されています。

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