幼い頃から好きだったテレビの世界で、音声の仕事を担当している石堂遼子さん。彼女は、「面白いテレビを作りたい」という熱い思いを持つことが、技術職にとっても必要だと語る。では、視聴者からは見えづらい、すぐれた番組作りにとって欠かせない「音声」の仕事とは、いったいどんなものなのだろう? 大変だけれど、やりがいも大きいテレビ業界で生きる彼女に、この仕事ならではの楽しさを語っていただいた。
プロフィール
- 石堂 遼子
1983年、東京都出身。慶應義塾大学 大学院理工学研究科卒業後、株式会社TBSテレビ入社。現在は、技術局 制作技術部にて、音声技術のミキシング業務等を行う。おもな担当番組に『有田とマツコと男と女』、『火曜曲!』、『ライブB』などがある。
インタビュー・テキスト:小林宏彰 撮影:すがわらよしみ(2013/1/8)
テレビの魅力を知った『水曜どうでしょう』
―石堂さんは、幼い頃からテレビ好きだったんですか?
石堂:そうですね。ただ小学生ぐらいまでは、親が厳しくて21時には寝かしつけられていたんです。そのため話題のドラマも見られなかったりして、逆にテレビに対する「飢え」を持つようになりました。そんなふうに育った私にとって、決定的な出会いになったのが『水曜どうでしょう』という番組でした。
—北海道のローカル番組としてスタートし、全国区に人気が広がっていったんですよね。出会ったきっかけはなんだったのでしょう?
石堂 遼子
石堂:父親が、単身赴任で札幌に行っていたときに観ていたようで、東京に帰ってきてからもテレビ神奈川でやっていた再放送をチェックしていて。リビングのテレビで観ているところへ、たまたま私が通りかかって「面白そうだな」と思って観始めたのがきっかけです。その後、大学生になってからはどっぷりハマっちゃって。ファンクラブに入ったり、北海道に行ってイベントに参加したりもしていましたね。
―北海道のイベントまで……(笑)。ただ大学では理工学部に進んでいらっしゃいますよね。テレビの仕事とはちょっと縁が遠いようにも思えますが、どんな学生生活だったんでしょうか?
石堂:パソコンも好きだったので、情報工学を勉強しようと思い理系の学部に進んだんですが、性格的には完全に文系でしたね。システムや論理に還元しきれないような「面白いもの」が好きでした。大学時代に特に打ち込んでいたのは、「矢上祭」という文化祭の実行委員としての活動でしたね。大学が駅から遠く、さらに理系のキャンパスだったために雰囲気も質素で、集客するのがなかなか難しかったんです。そこで、キャンパスまでの道のりを飾り付ける装飾局を新たに設置したり、広報局長という立場から、集客を増やすために練ったいろんな戦略を実行していました。
―「文化祭」というイベントを、より魅力的にする工夫をと。
石堂:そうですね。いま振り返れば、文化祭以外にもアカペラサークルでライブを企画したり、高校生の頃も演劇部で部長をしていたりと、面白いコンテンツやイベントづくりを裏方の立場から支えることに、ずっと興味を持ち続けてきたんだと思います。今の仕事も、そういった活動の延長線上にあるものだと思っています。
「音声」は、収録現場のすべての音を録る
―そしてTBSテレビに入社した石堂さんですが、「技術職」での採用だったんですね。
石堂:もともとは、バラエティ番組を作りたいと思っていたので制作希望だったんですが、そっちでは受からなくて。でもTBSは制作のほうで落ちても、技術職を志望できたので、制作の視点を持った技術を目指そうというふうに気持ちを切り替えました。現在は「技術局 制作技術部」の音声班で仕事をしています。
―お仕事の内容は、どんなものなんでしょうか?
石堂:現場のありとあらゆる音を録り、放送で流す仕事です。出演者の声から、客席の拍手や笑い声、また料理でお肉が焼ける音だったり、スポーツ番組であれば歓声や競技の音、歌番組ならアーティストの歌声や楽器の音など、ありとあらゆる音を録ります。似た職種に、録ったものへ新たに音を加える「音響効果」があるんですが、それとは別の仕事ですね。
―音声担当として入社すると、どのような順番で仕事を覚えていくのでしょう?
石堂:最初は機材の名前を覚えるので精一杯でした。マイクの種類はとてもたくさんあるんですが、型番で呼ぶ習慣があるので、とても覚えにくいんです。「MKH416」というマイクは「41(ヨンイチ)」と呼ぶんですが、それとは別の「414」というマイクも同じ呼び方をする時があって、すごく紛らわしくって。ほかにも「33609」と5ケタで呼ぶ機材があったり……。
―暗号みたいですね(笑)。では、実際の担当業務とは?
石堂:まずはスタジオでマイクをセッティングしたり、出演者にピンマイクをつけたりするフロア業務から始めます。チーフになると調整室に入って、音量や音質の調節を行うミキシング業務が中心になりますね。私は、今ではチーフとしてミキシングを担当する番組が多いです。
—ちなみに音声さんといえば、男性スタッフが多そうなイメージがあるんですが……。
石堂:そうですね。女性も増えてきていますが、男性は多いです。でも、私はもともと理系出身なので、周りが男性ばかりという環境には慣れており、むしろ働きやすいですね。すごく溶け込んでしまっているので、もうちょっと女性扱いしてほしいなと思うこともありますが(笑)。
—(笑)。あと、テレビ業界といえば良く耳にする話ですが、結構徹夜続きになることもあるんですか?
石堂:音声の仕事は、まずセッティングをして、本番で音を録り、そして撤収作業という流れなので、収録や生放送とその前後に業務が集中しているんですね。そのため制作スタッフのように、毎日寝不足になるようなことはあまりないです。ただドラマの収録などでは、朝まで現場が続いたりといったこともあると思いますが、スタジオであれば遅くなるにも限度がありますから。私が担当しているのは、スタジオで収録する番組が中心なので、比較的気持ちの余裕を持って仕事に取り組むことができています。
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