Column 連載

言葉の魅力、再発見

名物ラジオアナに聞く「言葉の極意」。斉藤一美が30年追求する描写力の裏側

「自分の言葉で、リスナーの頭のなかのキャンバスに絵を描きたい」。そう語るのは、ラジオ局・文化放送アナウンサーの斉藤一美さん。現在は、毎週月曜日から金曜日に放送の報道番組『斉藤一美 ニュースワイドSAKIDORI!(以下、SAKIDORI)』キャスターを務めていますが、2017年3月までは20年に渡りスポーツアナウンサーとして活動していました。斉藤さんがプロ野球中継番組で磨き上げた「完全描写」のワザ、そしてそれを支えた「取材の極意」とは? 歴30年のいまもなお奮闘し続けるラジオアナウンサーの言葉から、「自分らしい表現」と向き合うためのヒントに迫ります。

プロフィール

斉藤一美
斉藤一美

1968年、東京都出身。文化放送アナウンサー。新入社員として入社後、4年目の1993年から『斉藤一美のとんカツワイド』パーソナリティーを務める。1997年から20年間、スポーツ実況を担当。2017年からは、報道番組『斉藤一美 ニュースワイドSAKIDORI!』に出演中。
https://twitter.com/joqrkazumi

取材・文:原里実(CINRA) 撮影:西田香織

起きてから寝るまでひたすら、ニュース、ニュース、ニュース

—アナウンサーのみなさんは、放送以外の時間をどんなふうに過ごされているのですか?

斉藤:担当する番組によって、起きる時間寝る時間、時間の使い方、まるで違ってきます。いまは報道番組担当なので、朝はなるべく早く起きます。朝のワイドショーをわっと見つつ、新聞に目を通す。ラジオ番組も聴きます。聴きながらラジオ体操します。体を目覚めさせて、大体朝の10時過ぎくらいに家を出ます。

出社したら新聞各紙をチェックします。さらにはニュースサイトをひたすら見ます。それから番組で取り上げるニュースの下調べをしていくと。あっという間に放送が始まる午後3時半になっちゃいますね。時間がいつも1、2時間足りないなって思うんです。

文化放送 斉藤一美アナウンサー

文化放送 斉藤一美アナウンサー

—ひたすらニュースを追いかけているんですね。

斉藤:ずっとニュースですね。起きてから寝るまでニュース、ニュース、ニュース。平日の放送前、毎日午後3時29分までは、ひたすら体にニュースを取り込みます。食事にたとえるなら、味わう前に詰め込んでる感じ。

『SAKIDORI』も3年目に入ってから、だんだん「味わいの違い」がわかりかけてきました。ニュースの当事者たちの考えや内面に、放送前でも想いを馳せる余裕がようやく出てきたっていうんですかね。

リスナーの頭のなかのキャンバスに絵を描きたい。その絵描きになりたいな、と

—ニュース番組の前は、長らくライオンズのプロ野球中継番組『文化放送ライオンズナイター』(以下、ライオンズナイター)で活躍されていましたね。選手の一挙手一投足を逃さない「完全描写」にこだわるようになったのは、なぜだったのですか。

斉藤:ラジオには映像がないので、リスナーは耳からしか情報が得られない。だから「ひょっとしたら自分の言葉で、聞き手の頭のなかのキャンバスに絵を描けるかもしれない。その絵描きになりたいな」って思ったんです。

たとえば、「投げた、打った、ショートゴロ、取った、一塁送球、アウト」。当時の実況では、これだけで済まされている場合も多くありました。でも実際はゴロひとつとっても、打球の飛び方は多種多様。地を這うように細かいバウンドなのか。高く弾んでるのか、弾んでるならどこらへんまでか。「レフトスタンドへホームラン」といったって、レフトスタンドって広いんですよね。

だからこれはまだ細かく描写する余地があるんじゃないか、それがラジオのアナウンサーなんじゃないのかと。

短い時間で伝えられる情報量を増やすために、ひたすら滑舌を磨きました

—試合はどんどん展開していきますから、限られた時間のなかですべてを伝えるのは大変ですよね。

斉藤:そうですね。細かく語れば語るほど、言葉数は多くなります。ボールが動いている間に、「投げた、打った、ショートゴロ、左に動いてバックハンドすくい上げた、ボールを右手で握る、踏ん張った、振り返る、一塁送球、ギリギリ、ファースト伸びた、取った、アウト」。細かく言うほど、早口になる。情報量を増やしつつも、聞き取りやすさを損なってはいけないので、ひたすら滑舌を磨きました。

「野球の放送って、テレビは解説者、でもラジオはアナウンサーのものなんだよ」という言葉を、いまはライオンズのゼネラルマネージャーになられた渡辺久信さんからもらったことがあるんです。「わが意を得たり」、そう思いました。それからずっとある意味、唯我独尊で(笑)、自分の技を磨き続けてきました。

『文化放送ライオンズナイター』は、ライオンズ応援を全面に打ち出したプロ野球中継番組

『文化放送ライオンズナイター』は、ライオンズ応援を全面に打ち出したプロ野球中継番組

選手が日頃何を考え、どんな練習を積み重ね、どんな人生を歩んできて、いま球場に立っているのか?

斉藤:あとは野球そのものが、もちろんわかっていないといけない。ひたすら見続けて勉強していると、1年目よりは2年目、2年目よりは3年目とだんだん知識が増えていきました。20年目を迎えてもなお新たな発見があったりして、奥深く、面白かったですね。

—選手一人ひとりへの取材も、徹底的に行われていたそうですね。

斉藤:選手が日頃何を考えて、どんな練習を積み重ねて、もっといえばどんな人生を歩んできていま球場に立ってるのか。それをしゃべりに活かすためですね。

……野球マンガの『巨人の星』に出てくる、星明子というキャラクターを知ってますか。

—主人公の星飛雄馬の、お姉さんですよね……?

斉藤:そうです。いつも飛雄馬を木陰から見てる。あれが取材の基本だと、ぼくは思ってます。

Next Page
取材では「どうしても」という質問だけ。練習のための貴重な時間を割いてもらうわけですから

バックナンバー