「憧れの上司がいない」と悩む若手へ。クズな先輩からも、学べることはある!
- 2020/04/22
- SERIES
そんな若手のお悩みに、社会人の先輩がアドバイスする連載企画の第7弾。頼れる先輩は、クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在はインフォバーングループの人事を担当している田汲洋さんだ。
「新人時代に出会ったクズすぎる先輩から、人として大切なことを学んだ」と語る田汲さん。憧れの先輩がいない若手に贈りたい言葉とは?
- 文・イラスト:田汲洋
- 編集:吉田真也(CINRA)
Profile
田汲洋
新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。その後、某雑誌主催の大喜利世界大会に出場して優勝。ここで思いっきり進む方向を間違える。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月よりHR領域担当となる。
「職場に尊敬できる先輩がいない」は、よくあること
どうも。タクミです。
現在、企業のデジタルマーケティング支援を行うインフォバーングループで採用担当をしています。ちなみに、前職は某出版社の宣伝部などで働いていました。
迷える若手クリエイターたちの質問に対して、真摯にお答えする連載第7弾。曲がりなりにもクリエイティブ業界で経験を積んできたぼくが、これまで経験したことをもとにアドバイスさせていただきます。
先日、読者の若手クリエイターの方からこんなお悩み相談をいただきました。
出版・エンタメ業界に就職したのですが、尊敬できる人が会社にいないことが悩みです。入社前は「仕事をバリバリこなし、センスも良くてカルチャーへの造詣が深い先輩ばかりいる」と思い込んでいました。でも、いざ入社してみると想像と少し違っていて……。皆さん優しくしてくれて、大変お世話になってはいるのですが、「こういう人になりたい!」と強烈に憧れるわけではありません。心から尊敬できる先輩って、なかなかできないものなのでしょうか?
出版社 新卒2年目広告営業 リンコ(女性)
なるほど。入社前に「理想の上司像」を固めすぎたパターンですね。あるあるです。単刀直入に言ってしまうと、「仕事をバリバリこなし、センスも良くてカルチャーへの造詣が深い」とか、そんな『BRUTUS』の仕事特集に出てくるような人は滅多にいません。職場環境としては普通ですので、ご安心ください。
ただ、憧れる先輩が誰一人いない職場は、たしかにやるせないですよね。若手の頃は「あんな人になりたい」という思いが、モチベーションにつながったりもするので。リンコさんが勤める会社の規模はわかりませんが、そこそこの社員数ならば、もっと多くの人と接してみてはいかがでしょうか。話してみないと、カルチャーへの造詣が深いかどうかはわかりませんし。
あと、普段から接する人に「憧れ」の気持ちはなくても、どこかしらの「尊敬できる部分」なら見出せるかもしれません。良いところがひとつもない人のほうが珍しいですから。まずは人の良いところを見つける視点が大事。そういう視点を持つと「自分は人から尊敬されるような行動ができているのか?」と、おのずと自身の行動を振り返るようになり、成長にもつながると思いますよ。
新型コロナウイルスの影響で感じる、職場の人たちのありがたみ
リンコさんは、先輩について「優しくて、大変お世話になっている」とおっしゃっていましたが、そう思える先輩がいるだけで、十分恵まれている環境だと個人的には感じました。職場でのパワハラやセクハラが頻繁に問題視されるご時世ですからね。
さらにいえば、今年4月に入社した新卒社員の方は、新型コロナウイルスの影響で出社すらしていない人も多い。弊社もそのうちの一社ですし、新卒社員はまだ先輩に会えてすらいません。この状況を考えると、周りに優しい先輩がいるだけでも心強い環境だったんだなと、リンコさんも身に染みて感じているのではないでしょうか。
仕事をバリバリこなし、センスが良くてカルチャーへの造詣が深い人こそ尊敬する先輩である……その考えは、あくまでリンコさんの価値観でしかありません。リンコさんの憧れの基準には当てはまらなくても、「優しい」「お世話になっている(信頼できる)」というだけで、その先輩は尊敬に値するとぼくは思います。
ちなみにぼく自身も現在、自宅で仕事をしています。仕事以外の時間は外出せず、ゲームをしています。ゲームをしていない時間は、YouTubeで本田翼さんのゲーム実況動画とかを見ています。つまり、仕事かゲームしかしていません。2択の生活です。はっきり言って不安です。
一方で、たくさんの人が新型コロナウイルスに感染している現状に向き合うと、いまはとにかく「STAY HOME」です。普段、仕事ができるのかできないのか、センスが良いのか悪いのかなどはもはや関係ない。
極端にいえば、変わりゆく時代や社会を生き抜くだけでもすごいことなんだって、ぼくは今回の件で思いました。つまり、生きているだけで丸儲け。「そうだ、将来子どもができたら『いまる』と名づけよう」と思っている人も多いのではないでしょうか。
新宿二丁目で失禁。自他ともに認める、クズな先輩との思い出
少し話が逸れましたね、すみません。リンコさんからの相談を聞いて、ぼくが以前働いていた職場に、自他ともに認めるクズな先輩がいたことを思い出しました。その先輩の名前は、朝倉さん(仮名)。彼は4、5歳年上の先輩でした。
ぼくの部署に異動してくることになり、「経験豊富で非常に頼りがいのある先輩がくる」と事前に噂が回ってきました。まだ新人だったぼくはとてもワクワクしながら、一緒に働ける日を心待ちにしていたのを覚えています。
朝倉さんはぼくの部署に異動してきて早々、「飲みに行きましょうか」と誘ってくれました。当時、あまり先輩と飲みに行く機会がなかったので、ぼくは嬉しくてホイホイついて行きました。
彼が行きつけている神保町のお店で飲みつつ、仕事やプライベートのあれこれを夜中までお話ししました。そろそろ帰ろうか……というとき、朝倉さんが一言つぶやきました。
「いま、ちょっと持ち合わせが……」
年上ですし、明らかにぼくよりも高給なはずですが、とりあえずその場はぼくがお会計を支払いました。その後、「じゃあ、もう一軒行きますか」と言われ、タクシーで新宿二丁目に行きました。
朝倉さんは新宿二丁目のお店で、ホステスさん(女装したおじさん)に向かって「かわいいねぇ、かわいいねぇ」と言いながら酒を飲み、カラオケを嗜みつつ、最終的にはおしっこを漏らしておりました。
しかも、漏らしたにも関わらず、ありえないくらい堂々としていたんです。泥酔している状態だったら、さすがにぼくも怒っていたかもしれませんが、ちゃんと意識があり、いたって冷静だった。衝撃的でした。情報過多な夜でした。ちなみに、お会計はもちろんぼく。その日からクズな先輩と過ごす日々がスタートしたのですが、これは序章に過ぎなかったんです。
「クズだと思って構いません」。新人からお金を借りるための低姿勢な交渉術
後日、「飲む→新宿二丁目に行く→漏らす」は、朝倉さんの定番コースだと知りました。朝倉さんとの忘れられない思い出は、まだまだあります。とあるイベントの仕事帰り、幕張駅で突然こう言われました。
「クズだと思って構いませんので、2,000円貸してください」
理由を尋ねると、帰りの電車代がないので貸してほしいと。もちろん貸しました。ここまで低姿勢な交渉はなかなか珍しいなと感心しました。40歳を過ぎて新人の後輩に電車代の2,000円を借りることはなかなかできません。
百歩譲って、どうしても借りなければならない状況だとしても「クズだと思って構いませんので」という意味不明なエクスキューズをつけることなど到底できません。でも、彼はそれができるのです。しかも、よく考えたら都内から幕張メッセまでの交通費は片道2,000円もかからないはず。
また、とある会議では、事前打ち合わせもなしに、その場でさらっとこう言われました。
「じゃ、ここの仕切りはタクミさんで」
ぼくは新人。しかも、どう少なく見積もっても、いや客観的に考えても、彼が担当の仕事でした。まるで『君の名は。』のように「あれ、もしかしてぼくら途中から入れ替わってる?」と錯覚するくらい、見事な丸投げでした。見事すぎて言葉が見つかりませんでした。
クズな先輩からも、学べることがある。朝倉さんに教えてもらった大切なこと
あらためて振り返っても「クズだなぁ」と思うのですが、彼には尊敬すべきポイントもあります。それは「人から好かれている」ということ。他部門、偉い人、先輩、後輩、どの人に聞いてもクズという言葉が出てくる彼を「嫌い」と言う人はいませんでした。
それはクズだけど素直で謙虚さがあり、他人を貶めたりすることがなく、悪口も言わない人だからだと思います。少なくともぼくは、前述したエピソードで「傷ついた」という認識はありません。
何気ない行動で悪気なく他人を傷つける人も、世の中にはたくさんいる気がしますが、彼にそんなところはありませんでした。ひたすら彼がクズであるだけ。純度100%、混じりっ気のない純粋無垢なクズに出会ったのは生まれて初めてでした。
もちろん人として1ミリも尊敬はしていませんが、「人に愛される」ことの大事さとその秘訣を、朝倉さんから学んだような気もします。
海や山も、尊敬に値する。憧れの先輩がいない若手に贈りたい言葉
リンコさんに贈りたい言葉があります。それは「我以外皆我師」。小説『宮本武蔵』で有名な作家・吉川英治が、その著書のなかで記した言葉です。「心がけ次第で、他人でもモノでも、自分に何かを教えてくれる先生になる」という意味です。
ぼくらは、親、友だち、学校の先生、映画、音楽、小説、マンガ、海、山、川……いろいろなものから何かを吸収し、学んで成長します。つまりは、生活のなかで触れるものすべてから学ぶべきことはあるのです。
その良い例として、人のことをあまり尊敬していなさそうな後輩ユースケくんから、こんなエピソードを先日聞きました。
「ある友人に5,000円貸しています。彼はいつもめちゃくちゃ金欠で、いろんな人から5,000円ずつ借りるという『分散型借金』をしているんです。この前、そいつと会ったときに、旅のお土産として6,000円くらいの『鉄の剣』をもらったんです。その心意気に、正直シビれました 」と言っておりました。
まず、自分の友人がいろんな人に金を借りまくっていたら、リンコさんはどう思いますか? きっと縁を切る人もいるでしょう。でも、ユースケくんは、借金の金額を上回る「鉄の剣」を買ってきてくれた友人の心意気に胸打たれた。一般的には「クズ」に認定されるであろう友人にも、素敵な一面があると解釈したのです。ぼくはそんなユースケくんのことを素敵だなと思い、褒めました。ね、「我以外皆我師」でしょ?
リンコさんは「自分の思い描いた憧れの人がいない」とおっしゃいますが、もっと他人の良い面に目を向けるよう、意識して過ごしてみてはいかがでしょうか。どんな先輩からも、学べることはあるはずです。一緒に働く人の良い面をたくさん知り、吸収してください。そうすれば、やがてリンコさんにたくさんの後輩ができたとき、リンコさんご自身が「憧れられる先輩」になれると思います。
とはいえ、つねに「人の良い面を見出そう」という意識を持ち続けるのは難しいですよね。「人は悲しいぐらい忘れていく生き物」(引用:Mr.Children『Tomorrow never knows』)ですから。それはぼくも同じです。ですから、その気持ちを忘れないために、この記事を毎日読むと良いと思います。ルーティン化しましょう。いますぐブックマークしておいてください。
【まとめ】
・「仕事をバリバリこなし、センスも良くてカルチャーへの造詣が深い人」など滅多にいない。
・まだまだ社内の人と喋っていないのでは? いろんな人とお話ししましょう。
・自然やモノでさえも教えてくれる。どんな人からも学ぶべきことはあるはず。
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