ふざけた仕事にも需要がある。「酒場ライター」パリッコの働き方とは?

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大衆酒場文化を中心に執筆を行っている、酒場ライター・パリッコさん。日常的に酒場へ通い、酒にまつわる連載や本を多数執筆しています。2018年には、持ち運び用の椅子を野外に設置して飲む「チェアリング」をライターのスズキナオさんとともに提唱し、一躍ブームを巻き起こしました。もともと会社員だったパリッコさんは、どのようにして酒場ライターになったのでしょうか? 「好き」が仕事になったストーリーを、お気に入りの店でうかがいました。
  • 取材・文・編集:服部桃子(CINRA)
  • 撮影:有坂政晴(STUH)
  • Profile

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    パリッコ

    酒場ライター。ほか、DJ、トラックメイカー、漫画家など。FUNKY DANCE MUSIC LABEL「LBT」代表。酒好きが高じ、雑誌、WEBなどの媒体で居酒屋に関する記事を多数執筆している。主な著書に『つつまし酒』(光文社新書)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ほろ酔い!物産館ツアーズ』(少年画報社)、『チェアリング入門』(Pヴァイン)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒の穴』(シカク出版)。
    http://www.lbt-web.com/paricco/

会社員時代に趣味から始めた連載が、ライターの仕事につながった

ー今回は石神井公園にある沖縄料理屋「みさき」をご紹介いただきました。ここにはよく通われているのですか?

パリッコ:12年前くらいに石神井公園に引っ越してきたので、10年くらいは通っていると思います。でも、毎週カウンターにいる常連みたいな感じではなくて、たまにふらっと訪れる程度ですね。このお店のすごさは、1回行っただけでママが顔を覚えてくれるところ。温かくて、ホーム感がすごいんですよ。

パリッコさん

パリッコ:(メニュー表を)あらためて見ると品数多いですね。いつもはフーチャンプルを頼むのですが、今日はソーメンチャンプルにしてみます。あと、アーサー天ぷらを頼もうかな。

ソーメンチャンプルとアーサー天ぷら

ーいまパリッコさんは酒場ライターとしてさまざまなお店をレポートしています。お酒はどんなところが好きですか?

パリッコ:やっぱり、飲むと楽しくなれるところですかね。20代の頃は、飲み放題のあるチェーン店によく行ってました。安くて、みんなでわいわいできれば良かったんです。最近は若くても酒場の魅力にさっさと気づいていろいろめぐる人も多いですけれど、ぜんぜんそんな感じではありませんでした。

ー渋い酒場の良さに気づいたのはいつ頃ですか?

パリッコ:30代になる手前くらいですね。その頃、友だちの家が高円寺にあって入り浸っていました。で、ある日駅前にある「大将」というお店に入ってみたら、雰囲気がすごく良かったんです。そこで古い大衆酒場の良さに気づき、いろいろ行くようになりました。

ー「酒場ライター」として活動しようと思った経緯も教えてください。

パリッコ:そもそも仕事にしようとは思ってなくて、流れに身を任せていたらこうなっていました。

大衆酒場めぐりが日常になってきた31歳の頃、友だちがなんか面白いことをやりたいと言って、突然「ピコピコカルチャージャパン」という読み物サイトを立ちあげたんです。そこで「なんか連載やってよ」と言われたので、行った居酒屋の記録的なものなら書けるかも、と。やるからには書きやすくて続けやすいものにしたいと思い、始めたのが「大衆酒場ベスト1000」という連載。次第に、「読みました」という人から仕事をいただくようになったんです。

「ピコピコカルチャージャパン」の連載「大衆酒場ベスト1000」。パリッコさん曰く「ほかの厳しい締切がある仕事が忙しくなってから、しばらく更新がとどこおっていますが、現在145回までが公開されてます」

ーライターになろうと思って始めたわけではないんですね。

パリッコ:そうですね。当時は会社員でしたし、書き始めの頃はそもそもライターという仕事があることもいまいちわかっていなくて、本当に日記感覚で書いてましたね。ただ、昔から本を読むのが好きで、特に大学生の頃に東海林さだお先生のエッセイにハマって、以降食エッセイばかり読んでいました。だから、食べ物系をテーマに文章を書くことへの憧れはあったかもしれません。

本にもWEBにも載っていない。まだ未知の店を探して街に出る

ー連載をするうえで意識していたことはありますか?

パリッコ:回を重ねるごとに、「この店は何が良いんだろう」とか、しっかり自分のなかで噛み砕いてから書かなければいけないと思うようになりました。この店の魅力ってなんだろう、酒場の魅力ってなんだろう、って。

ぼくは、チェーン店でも小規模な大衆酒場でも、絶対その店だけの良いところが何かしらあると思ってます。昔は味や値段で店を選んでいたけど、それよりも、お店の人や雰囲気とか、集まる常連さんの魅力のほうが重要になってきました。

たとえば、短冊のメニューに誤字が多いとか。そういうのもちょっととぼけていて可愛いし、その店の語るべき魅力になりますよね。原稿に起こしたときも、そっちのほうが読んでいて楽しい。

2杯目はシークワーサーサワーにチェンジ

ー酒場の情報はどうやって収集していますか?

パリッコ:2パターンありますね。WEBや雑誌で連載している記事は、編集部の人が提案してくれることが多いです。いままで知らなかったけど行ってみると良いな、みたいな。逆に、個人的なエッセイで「好きなお店を紹介してください」と依頼されたときは、ネットに情報が出てないお店のほうが面白いので、事前に調べず、行ったことのない街に出かけて適当にお店へ入ることもあります。

ー自分から行動しないと見つからないことってたくさんありますもんね。

パリッコ:そうですね。未知の店に入ってみることを繰り返して、面白い店の情報をストックしていきました。名酒場みたいな有名店は、本にもWEBにもいろいろ情報が載っているから、ぼくがこれ以上書かなくても良いと思います。

ーパリッコさんはオリジナルのおつまみレシピをよくつくっていますが、それらのアイデアはどうやって思い浮かぶのでしょうか?

パリッコ:家で晩酌するのも好きで、スーパーをめぐって「これで何ができるかな?」とかはよく考えてました。そうやって偶然生まれた美味しいおつまみのレシピ記事をWEBで書いていたら、『漫画ゴラク』から仕事の依頼がきて、「晩酌ほろ酔いクッキング」というテーマでしばらく連載していました。2週間に1回、記事を書かないといけないから、酒場探しと同じでつねに考えているようになるし、そうすると勝手に思いつくんです。

ー考え続けているうちにふっとアイデアが降りてくる?

パリッコ:そうですね。スーパーで食材を見たときにカチッとハマったりして。考え続けることも大事だし、実際に手を動かすことも大事だと思います。たとえばアボカドと何かを合わせたレシピを見たら、ほかにも何か選択肢がないか考えてみる。そうすると意外なレシピが生まれたりしますね。つねにおつまみに対して好奇心を持っていろいろと試行錯誤するから、思いもよらないものが生まれるのかもしれません。

「これはやらない」をゆるく決めて、無理なく続けること

ー酒場ライターになった経緯と似てますよね。どちらも楽しんで続けていたら、仕事になった。

パリッコ:好きなことを突き詰めると仕事になっていくみたいな話、聞くじゃないですか。それが偶然見つかっただけだと思ってます。

ー酒場ライターをやってきたなかで大変だったことはありますか?

パリッコ:基本はないですね。ただ原稿書くのが面倒くさいぐらいで(笑)。しいて言えばかなり昔に、お店に行ってレポ記事を書くお仕事があったんですね。そこがニューオープンしたばかりのお洒落なレストランみたいなところで、自分がお金を出してまたこの店にくるだろうかと考えたときに、行かないと思ってしまった。ぜんぜん悪い店じゃないのですが、自分の「好きな感じ」とは離れていたんです。

結局お仕事はさせてもらいましたが、良いお店でしたって紹介しているのに自分のなかでは100%そうとは思えなくて、あとから後悔しました。それからは、自分が納得できない仕事は断るようにしています。

ーすごく嫌な仕事ではないけど、自分がやるべきではないと思った?

パリッコ:そうですね。たとえば、インスタ映えするお店が好きな人も絶対いると思うんです。でも、自分では何度も通うようなお店ではないから、それならそこを好きな人が書けばいい。無理してぼくが書くより、ずっと良いものに仕上がるはず。もしちょっと違うなって思いながらもそういう仕事を続けていたら、いまのような仕事のスタイルは確立できてなかったかもしれません。

ーたしかに、ライターになるには「何でも書かなきゃ」といったところもありますが、自分の得意なことを仕事にしたいのなら、仕事の受け方も考える必要がありそうですね。

パリッコ:ぼくはそう思います。結果論でしか言えないですけどね。現在の状況は、いまだけたまたま、運良く許されているだけだと思ってるところがありますから。

でも、何かしらそういう自分なりのポリシーはあったほうがいいと思います。「これだけをやっていく」じゃなくて、「これはやらない」みたいな、少しゆるめにして。あとは、無理なく続けること。ぼくの場合、「大衆酒場ベスト1000」だったら100回続けたあたりで仕事をもらえるようになったので。100回で絶対どうにかなるってことではないけど、続けていたらかたちになるんじゃないかな。

好きなことだから、好奇心を持って仕事に取り組める

ーパリッコさんにとって、美味しいお酒やつまみを楽しむ時間はどのような意味がありますか?

パリッコ:ぼくは、人生に自分が生まれてきた意味とかあるわけ無いと考えています。ただ偶然ここにいるだけだと思っているので、だったらできるだけ居心地よく過ごしたい。それがぼくにとっては楽しくお酒を飲んでる時間ですね。

ー自分は何をすべきか、とか考えたことがないということですか?

パリッコ:そうですね。ただ、あとづけですけど、こういうふざけた仕事をする人もたまにはいたほうが、世の中的にバランスが取れるんじゃないかとは思いますね。真面目な内容ではないけど一応お仕事になっているので、自分に需要があるとしたら、そういう部分なんじゃないかなって思います。ありがたいことに、いまは平均して毎日1本締め切りがあるくらいのペースでお仕事をさせてもらってるんですけど、ぜんぜん苦じゃない。酒場が好きだから、ずっと好奇心を持って取り組めるのだと思います。

ー決して無理をせず、正直に自分の「好き」に従ってきたからいまの活躍あるんですね。本日はありがとうございました!

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