何もできない“カス”から、一流デザイナーへの道

チームラボ株式会社 久冨 伸彦(クリエイティブDiv. デザイナー)

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サイエンス・テクノロジー・デザイン・アートなどを融合し、革新的なサービスを世に送り続けているチームラボ。“ウルトラテクノロジスト集団”を名乗り、国内外から注目を集める彼らだが、そんな最先端の“チーム”に新卒で入社し、大規模WEBサービスのデザインを担当しているのが久冨伸彦さんだ。建築のデザインを学ぼうと大学に入学するも、授業には出席せず、コンビニのアルバイトとフットサルに明け暮れていた日々……。進路に悩みながらも、畑違いであるWEBの世界に飛び込んでから、5年が経過した。「入社した当初はカスみたいなものでした」と語る久冨さんが、チームラボのデザイナーとして活躍するまでの道のりとは?
  • Profile

    久冨 伸彦

    1984年生まれ。山口県山口市出身。名古屋市立大学 芸術工学部生活環境デザイン学科を卒業後、2007年4月に新卒でチームラボへ入社。主に大規模WEBサービスのデザインを担当している。

洗脳? マインドコントロール? 
進路に迷ってたどり着いたチームラボ

―大学で建築デザインを学び、現在はWEBデザイナーとして活躍されています。建築に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?

久冨:もともと両親が建築好きだったことがきっかけです。自分たちの一軒家を建てるときに、建築の研究をしてハマってしまったみたいで。うちの母は背が小さいんですけど、建築家に無理を言ってキッチンや収納などの高さを、母の身長に合わせて設計してもらったりしたそうです。それで、「いつかは息子の設計した家に住みたい」と盛り上がってしまったらしく、僕の目に入るところに建築関係の雑誌をやたら置きだして(笑)。まあ、一種の洗脳みたいなものですね。

—「洗脳」ですか(笑)。

久冨 伸彦

久冨:はい。自分は建築家になるものだと自然に思い始め、気づけば理系の勉強をするようになっていました。ただ、昔から絵を描くのは大好きだったので、デザインにはもともと興味があったんだと思います。大学を選ぶときは、ガチガチな建築科よりももっといろんなことを学べるところを選んで。それでプロダクトや映像なども学べる、名古屋市立大学の芸術工学部に進学することにしました。

―どんな大学生活でしたか?

久冨:いわゆる真面目な学生ではなく、あまり授業にも出ていなくて。ほんとコンビニのアルバイトばかりしていて、大学に行くのはフットサルをするときくらい……(笑)。でも、課題を提出しなければ単位がもらえないので、ずっと遊び呆けていた訳ではないです。なかでも、仲間たちと集まって夜通し制作しているときは楽しかったですね。休憩時間に煙草を吸いながらお互いの課題のことを共有してアドバイスしあったり。そうこうしているうちに、「自分は何故、建築をやりたいと思ったのか……?」と悩みだしてしまって。

―「洗脳」が解けてきたと(笑)。

久冨:それまで、親の既定路線に乗っている感じでしたけど、自分の本当にやりたいことについて考えるようになりました。一時は映像に手を出してみたりしましたが、やっぱり合わないなと思って諦めたり。それで学校を変えた方がいいのかと、本当に思い詰めて考えたこともあったくらいです。

―それで答えは出たんですか?

久冨:いえ、答えはでなかったです。それこそ苦悩の日々でした。ただ、モノ作りをやりたいっていう軸はブレなかった。何故だかわからないけど、嫌いではなかったんでしょうね。それで気づけば就職活動に突入してしまいました。

―どんな職種を受けたんですか?

久冨:自分のやりたいことに疑問を持っていたのですが、やっぱりものづくりに携わりたいという軸は就職活動でもブレていなかったので、一旦建築から離れて考え直そうと、広告代理店や出版社など手当たり次第、デザイン職で応募しました。デザイナーになりたいといいながらも、別に何のデザイナーになりたいというのはなかったんです。そんななか出会ったのが、チームラボでした。

「あぁ、人生終わったな」と思った瞬間

―それでチームラボのどんなところに魅力を感じたんですか?

久冨:とにかく、変なところです(笑)。面接を受けに行ったときは移転する前のオフィスだったのですが、壁が黄色く、床が青だったり、赤だったり。なんだここは? って(笑)。選考の過程で音楽のWEBサービスに関するグループディスカッションをやっていたときも、たまたま近くを通りかかった社員に採用担当者が講評を求めたりしていましたし。だけどその社員が、そんな無茶ぶりにも的確な答えを出してくれた。なんだかゆるいんだけど、しっかりしている。

―一般の新卒就活生から見れば、不思議な光景かもしれませんね。

久冨:あと、最終面接の最中に社長の猪子が弁当食べていたんですよ。さらに、「建築やっている面白い学生がいるからおいでよ」と電話で他の社員を呼び出したあと、まだ面接は終わっていないのに別のミーティングに行っちゃったりして。「あり得ないだろ、この会社!」って(笑)。

―(笑)。でもそんな自由な雰囲気に惹かれたと?

久冨:そうですね。でも、ただ自由なだけではなく、締める所は締めている。後は、採用を通していろんな社員と接して、単純に「この人達、頭がいいな」って思ったんですよ。例えば、高校のころは勉強で絶対に敵わない人がたくさんいたんですけど、大学に入ると周りにいるのはだいたい同じレベルの人じゃないですか。そんな環境に物足りなさも感じていたんです。だから、チームラボに入社すれば、自分をもっともっと高めることができるんじゃないかって思いました。

―なるほど。でもそれまで、WEBデザインを専門に学んできたわけではなかったと思うのですが、入社したあと苦労しませんでしたか?

久冨:はい。それはもう、はじめは「カス」みたいなものでしたね。

—カスですか(笑)?
 
久冨 伸彦

久冨:なんせ、右も左もわからない状況ですから。とにかく先輩に分からないことを聞きながら仕事を覚えました。はじめは本当に「わからないことがわからない」っていう状態からの出発だったので。

—でも、チームラボに入社できたということは、久冨さんにどこか光るものがあったのではないでしょうか?

久冨:しいて言えば、根性ですね。

—どういうことですか?

久冨:実は、チームラボには一度、不採用の通知をもらっているんです。もともと進路に悩んでいて、WEBデザイナーにこだわっていたわけでもなく、選ぶ基準は「どの会社で働きたいか」の一点だけだったんですね。今思えば本当に馬鹿だったと思いますが、チームラボの最終面接が終わったあとに「ここしかない!」と思い込んでしまって、会社のエレベーターを降りたらすぐに、内定をもらっていた会社や選考が進んでいた会社全てに断りの電話を入れてしまったんです(笑)。それで、そのあとチームラボから不採用通知がメールで届いたので、「あぁ、人生終わったな……」と思いました。

—壮絶ですね……(笑)。でも、その場で他の内定蹴るって凄い決断ですよね。そこから、どうやって内定まで漕ぎ着けたのでしょうか?

久冨:不採用を知らせるメールの最後に、「もし、スキルを磨きたいなら課題を出してお手伝いします」というような感じのことが書いてあって、もうそこにすがるしかないと。1つの課題を提出した後、すぐに最終的な合否が出るかと思っていたのですが、結局4つほどの課題をこなして、内定をもらえたのは3月5日でした。課題をこなしたからって全ての人が採用されるわけではないと思いますが、僕の場合は3月まで粘り続ける根性が認められたんだと思っています。

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WEBも建築も大きな違いはない

WEBも建築も大きな違いはない

—入社してからは、どのような仕事を?

久冨:まず手掛けたのは、携帯の物々交換サイトです。内定前に出された課題を通して少しはWEBのことを学んでいたのですが、やっぱりまだ分からないことが多かったため、先輩に聞きながらとにかく必死に取り組んだことを覚えています。一度は不採用をもらっていますし、WEBのデザインはホントに素人だったので、「自分はカスだ」と言い聞かせて、はじめのうちは周りの人の言うことを全て受け入れて実行するというスタンスで臨んでいました。

—そんな実践を重ねて、徐々に成長していったと。

久冨 伸彦

久冨:「もっと、自分の意見を言った方がいいよ」とお叱りを受けることもありましたが、全てを受け入れる姿勢だけは頑なに守っていましたね。でも、そのうち他の人がどのようなものを良いと言うのか、悪いと言うのかについての基準が分かってきまして。その基準を踏まえたうえで、作品を自分が持つ美的感覚のフィルターにかけられるようになり、はじめて意見をガンガン言えるようになりました。

—他人の良し悪しの基準が蓄積されたことで、自分の世界観を作ることができたんですね。

久冨:今でも人の言うことは否定せずに、一度は受け入れるように心掛けています。他人が思ったことは、ユーザーも同じことを思うということですから。WEBサービスを作る場合、見た目のデザインも大切ですが、ユーザーが使いやすいように操作性を高めることも重要です。例えば、デジタルカメラで撮影した画像を、写真集のようなブックにして届けるサービス「PHOTOPRESSO」を作ったときには、エンジニアと相談しながら使いやすいインターフェイスのデザインを実現しました。ユーザーがWEB上で編集作業をするわけですから、操作性にストレスを感じたら、途中で止めてしまいますよね。つまりデザイナーのエゴだけでは、良いサービスを作ることができないんです。

—では学生のときに学んでいた建築とWEBの共通点はありますか?

久冨:それは少なからずあると思います。当時、名古屋市立大学で教授をしていたデザイナーの川崎和男先生が、「デザインは思いやりだ」というようなことを仰っていたんですね。最終的に使う人のことを考えて、導線や情報を設計していく手法は建築でもWEBでも、なんでも同じだと思っています。

—冒頭の話に似ていますね。お母さんの身長に合わせて一軒家を建てたという。

久冨:やっぱり、まだ洗脳されているのかな(笑)。

みんなが幸せになったら、それでいい

—現在は入社6年目ということですが、チームラボで働く魅力とはなんでしょう?

久冨:チームラボではプロジェクトごとにチームを組むことが多いため、プロジェクトのたびにその時のメンバーにあったやり方が求められるんです。そうすると当然、自分の役割も変わってきます。大変だけど、そこが面白いところですね。うちの会社には同じやり方に固執することを嫌う社員が多いので、その都度、最高のサービスを作るために工夫をしていく。

—良いモチベーションに繋がりそうですね。

久冨:一方、クライアントも「面白いことをやってほしい」と求めてくるケースが多く、期待されている分、もちろんプレッシャーもあります。「クライアントが思う面白さ」=「良いもの」ではない場合もあり、それをどう説得するかが難しいところです。もちろん、逆も然りですが。でも、最終的に面白いものを作らなければ、うちに頼んでもらっている意味がないので、そこは妥協せずに突き詰めて行きたいところではあります。

—では最後に、今後の目標をお聞かせください。

久冨 伸彦

久冨:あんまり具体的な目標はないんですよ。スタートラインがカスだったので、ものごとをフラットに見るようになったせいか、固定観念にとらわれずに今までの経験を生かして活躍する場があるならば、どこにでも飛び込んでいきたいと思っています。WEBの世界の移り変わりも激しいですし、チームラボ自体にもプロダクトや展示など新しい案件が増えてきています。

—形にはとらわれないと。そんな久冨さんのものづくりにおけるポリシーとは?

久冨:そうですね……。特にWEBのデザインを極めたいとかは全くないんですよ。だから職種にこだわりはないんです。でも、みんなが幸せになったらいいな。些細なことでもいいですけど、クライアントもユーザーも僕も幸せになる。僕のつくったサービスを多くの人に使ってもらったら、幸せな人がより増えるみたいな。なので常にアンテナを張って、新しいことを否定せずに、人々を幸せにできるような仕事ができれば最高だと思っています。

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    女性ファッション誌

    大学のころから、女性ファッション誌を読むのにハマッっています。「女性って、こういう企画が好きなんだな」と仕事の参考にすることもありますが、本音を言うと、純粋に女性のファッションを見るのが好きなんです。ファッションの幅が男性より広いですし、可愛い女子がお洒落な服を着ているのを見ると、テンションが上がります。特に、街角スナップがお気に入りで、「そのアウターとスカートを組み合わせるんだ!」などと、感心しながら眺めています。もちろん、デザイン関係の雑誌も読んでいますが、僕のオフィス机には女性ファッション誌がいっぱい置いてあって、仕事の合間に読んでは疲れを癒しています(笑)。