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【オフィス図鑑vol.2】クラシコム:「自ら行きたくなる場所」をつくる、暮らしのカンパニーのオフィス論

ここ2年で数十社の会社に取材をさせてもらっているが、勢いのある会社はオフィスにも独自のこだわりを持っていることが多いように思う。

連載『オフィス図鑑』では、「会社にとってのオフィスとは?」「オフィスと事業はどうつながる?」など、オフィスについて探究するべく、個性豊かなオフィスをかまえる企業に取材を実施する。

Vol.2では「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムにお邪魔させていただいた。

2007年に北欧食器のECサイトからスタートし、ライフスタイルを紹介する記事を発信したり、『青葉家のテーブル』などオリジナルドラマをつくったり、あらゆるサービスやコンテンツを通して「フィットする暮らし、つくろう。」というミッションを遂行している。

商品からコンテンツに至るまで、一気通貫して自社の哲学を通わせるクラシコムのオフィスもきっと、「フィットする暮らし」が体現されているはず。ワクワクしながらオフィスのドアを開けた。

目指したのは「いきたくなる場所」

クラシコムは創業以来、事業拡大に合わせて引越しを繰り返しながらも、一貫して国立市にオフィスを構えている。国立は東京都で初めて「文教地区」(※)として指定された、教育と文化が息づく閑静な場所。オフィスの立地からすでに、丁寧に暮らす喜びを提供するクラシコムの価値観を体現しているのだ。

今回訪問したのは、2024年に完成したばかりの新オフィス。オフィス作りのプロジェクトを主導したコーポレートクリエイティブ室・佐藤崇さんにお話をうかがった。

※都市計画法に基づき、学校、図書館、美術館などの教育・文化施設が集中するエリアに対して、市町村が条例で指定する「特別用途地区」。パチンコ店や風俗店など、教育・研究環境にふさわしくない施設の建設が制限される。治安がよく閑静な住宅街が維持されるエリア

佐藤崇さん。株式会社クラシコム コーポレートクリエイティブ室マネージャー。フリーランスのグラフィック・プロダクトデザイナーを経て、2012年に同社初のデザイナーとして入社。コーポレートおよび新規事業のビジュアルデザイン、オリジナル商品のアートディレクションとデザインに携わる。

佐藤さんたちはオフィス作りを始める際、コンセプトとして「行きたくなるオフィス」を掲げたという。どのように決まったのか聞いたたところ、やはりコロナ禍による働き方の変化が影響していたそうだ。

「(オフィス作りが始まったころ)ちょうどコロナ禍でリモートワークが広がっていた時期で、『オフィスはどうあるべきか』が社会的にも問われていました。私たちも『暮らしのカンパニーとして、その問いへの答えは何だろう』と模索していて。

行き着いたのが、『自ら集まりたくなる場所にする』というコンセプトです。全員分の席は要らない、チームビルディングと集中作業のための場所にする——そのためには行きたくなる場所じゃないと誰も来ないよね、という流れで決まりました」

空間は人が入って完成する

「自ら行きたくなる場所」は言葉にするとシンプルだからこそ、形にしていくうえでは具体のイメージのすり合わせが重要だったはず。どういったイメージを持っていたのだろうか。

「代表・青木と副社長・佐藤と『どんな感じにしたいか』を話し合うなかで出てきたテーマが、レストランや自宅のような雰囲気にしたい、というもの。アアルトのアトリエみたいな感じがイメージに近いよね、と。

洗練されすぎず、ほっこりした感じもあって親しみやすい、というビジョンが最初にありました」

北欧を代表する建築家、アルヴァ・アアルトのアトリエは、シンプルで洗練されている一方で、人の気配がする場所だと思う。

そんな理想を目指すために、デザイン事務所「SIGNAL Inc.(シグナル)」にオフィス設計を依頼。しかし、最初に上がってきた案は「ちょっと違う」と感じたそうだ。

「シグナルさんが最初ご提案してくださった案は、装飾性がをしっかりと持たせて、空間自体で『北欧、暮らしの道具店』を表現しようとするスタンスでした。それもとても素敵だったのですが、私たちの描いていた方向性とは少しニュアンスが異なる部分もあって。

いま振り返って言語化すると、私たちは人やものが動くことで完成する空間をイメージしていたんだと思います。オフィスの主役は、働くスタッフと生み出された商品なんです。だから余白が必要で、空間それ自体に情報量を詰め込みすぎないようにしたかったんです」

コミュニケーションを重ねて完成したオフィスは、白を基調にギリギリまで装飾性をおさえつつ、必要なものはぴったりと必要な場所におさまっている、そんなオフィスだ。

『北欧、暮らしの道具店』のWEBサイトも、温かみのある雰囲気が目を引くけれど、それは商品が中心となっているからこそで、サイトのつくり自体はとてもシンプルだ。

サイトもオフィスも「人と暮らし」を大切にしているからこその心地よさなのだろう。

細部へのこだわりが「居心地のよさ」を作る

シンプルで洗練されているけれど、家にいるような居心地のよさと温かみがある。この絶妙なバランスの秘密は、オフィスの細部にあるようだ。

佐藤さんは、細やかなこだわりについて教えてくれた。

「青木から、『夕暮れ時でもオフィスに昼間のような光が入ってくるような雰囲気にしてほしい』というリクエストがありました。明るすぎず、でもほっこりしすぎない光。

照明器具メーカー・遠藤照明のショールームに行って、最終的に美術館などで使われる高演色(※)の光源を採用しました。だからこのオフィスは自然光のような光で、白がとてもきれいに見えると思います。

あと、会議室が3部屋並んでいるんですが、カーペットの縞模様がつながるようにぴったりそろえています。空間がつながって広く見えるようにするためです。会議室のガラス張りの壁越しにカーペットが地続きに見えるので、意識しなくても視覚的に広がりを感じてもらえる。コストはかかったのですが、粘り強くまわりを説得しました(笑)」

※LED照明などが物体を照らす際、太陽光下に近い自然な色合いを再現できる特性(演色性)が高いこと

自然光のような照明や、開放感を生み出す視覚効果——話を聞くまでは気づきにくいポイントだけれど、なぜか居心地がいい。そんな人間のメカニズムまで設計に落とし込む姿勢に、「フィットする暮らし」を追求してきたクラシコムの本気を見た気がした。

集中とコミュニケーションの両立のために

クラシコムは出社とオンラインのハイブリッドな働き方を採用している。1日の出社人数は平均すると社員の三分の一程度。そのため、デスクはフリーアドレスだ。佐藤さんはフリーアドレスならではの欠点を解消したかったと語る。

「フリーアドレスの席って当たり外れがあるじゃないですか。端っこだと集中できるけど、真ん中だと両隣と前に人がいて気が散っちゃうみたいな。どこに座っても集中できるようにしたかったんです。

でも一方で、デスクの間に壁はつくりたくなかった。来社した方からどんな人が働いているか見えるようにしかったのと、社員同士が気軽にコミュニケーションをしやすくしたかったからです。

だから正面だけでなく横にもパーテーションを設けつつ、閉鎖的にならないように高さを調整して、実寸で試しながら決めていきました。高さはおよそ100センチくらいです。

集中とコミュニケーションの両立が、オフィス作りにおいて達成したいことの一つでした」

デスクを見学させていただいたところ、座ると目線より少し上、ギリギリ目が合うか合わないか程度の高さ。でも、腰をちょっとあげたら隣や前の人と話すことができる。

「空間も作れる」会社へ

クラシコムのオフィスには、代表・青木さんが購入したアートが点在している。会社として事業につなげるなど何か狙いがあるのかたずねたところ「いまはまだ模索中」と答えてくれた。

「どの壁にも絵がかけられるように下地を入れてあります。また、作品をかけたときに照明が当たるようにも設計しました。

入り口の3匹の鹿は、沓沢佐知子さんの作品で、青木が発注して作っていただいたそうです。この3匹は僕たちがマニュフェストとして掲げている『自由』『平和』『希望』を表しています。

理念をアートにしたらどうなるか、という実験ではありますが、事業につなげるなどは考えていません。販売ではない、アートと別のつながり方がないか模索しているところですね」

コンセプト設計にはじまり、コミュニケーションを意識したデスクのレイアウト、心地よさを追求した照明やインテリアの選定、そしてアートの活用。佐藤さんの話を聞きながら、このオフィス作りはクラシコムがこれまで手がけてきた多様なオリジナルプロダクトと同じ、ものづくりの延長線上にあるのだと感じた。

だから取材の最後、オフィスが完成したことで会社にどんな変化をもたらしそうか、佐藤さんに聞いてみた。

「現場レベルで言うと、こういう大きいものを作るときは、設計事務所と施工会社の間をつなぐプロジェクトマネジャーが必要だということを学んだり、事業者とのコミュニケーション方法を体で覚えたり、たくさんの学びがありました。

会社的には、オフィス作りから派生して『実店舗を持ちたいね』という話もでてきています。オフィスをつくる経験があったからこそ、店舗も『自分たちで作れる』という感覚を持てた。それは大きいです。

クラシコムで作れるものが一つ増えた感覚なので、これがどう広がっていくか楽しみですね」

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