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会社員もかなり楽しい。兼業ライターの岡田悠が綴る、「趣味」と「仕事」の幸福な関係性

「社会人として働きながら、好きなことや新しいことにチャレンジしたい」

そう考えていても、なかなか踏ん切りがつかなかったり、始めるきっかけがないという方は多いのではないでしょうか?

連載『働きながら、好きなこと』では、企業で働きつつさまざまな分野で活躍されている方々が、仕事を続ける理由や忙しい日々のなかでの時間の取り方、「いまの生き方を、人にも勧めたいか?」についてコラム形式で語る企画です。

第2回は兼業ライターとして活動し、著書『0メートルの旅』『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』『1歳の君とバナナへ』などを刊行している岡田悠さんが登場。

文章を書き始めたきっかけや、育児をしながらの兼業のリアル、本業を続ける意味などを綴っていただきました。
  • 文:岡田悠
  • リードテキスト・編集:廣田一馬

内輪で調子に乗り、書き続けた文章

会社員として働きつつ、5年ほど前から、兼業で執筆活動を行なっている。本で旅行記を書いたり、『オモコロ』等のWebメディアで企画記事を書いたりしている。どれも本業とはおよそ関係なく、役に立たない内容ばかりで、そういうことを書くのが好きだ。

むかしから文章を書くことが楽しくて、学生時代にはmixiで長文の日記を書いては、友人から「おもしろい!」とコメントがつくのに快感を覚えていた。どんなひどい文章でも、内輪も内輪同士だから、基本的に褒められてばかり。お陰で調子に乗って書き続けた。

mixiの次はFacebook、その次はTwitter。SNSを変えては友達に向けてテキストを書き続け、褒められてまた調子に乗り、今度はnoteにたどり着いた。noteになっても、ただ友人からの「内輪褒め」だけを求めた。

だがある夜、ひとつのnoteが拡散された。『経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった』というイランへの旅行記だった。何の偶然が重なったのかわからないが、たくさんの知らない人に、自分の記事が読まれるのは不思議な感覚だった。友人から褒められたときとは、また違った嬉しさがあった。

こうしてますます調子に乗った僕は、もっと記事を書いてみたり、いろんなコンテストに応募してみたりして、なんやかんやあって、いまに至っている。

振り返れば、最初から広く読まれようとブログを書いたり、出版を目指したりしていたら、読まれなかったし、挫折しただろうし、なにより調子に乗れなかったと思う。

いまではスマホをちょっと触れば、世の中のあらゆる才能を突きつけられてしまう。内輪で調子に乗ることは、そういった世界ではますます難しくなっていくけど、それでもなにかを始める際には、大事な要素だと思ったりする。

仕事と執筆と育児。時間の使い方の難しさ

さて、兼業で悩ましいのが、時間の使い方だ。

本業の会社員はフルタイムなので、基本的には平日の夜と休日を、執筆時間にあてている。

ただ僕の記事には「Googleマップと連携させたエアロバイクを半年間漕いで日本縦断する」とか、「ドコモの歴代の取扱説明書554冊を全部読んで、メールの例文に出てくるドコモ太郎の人生の年表をつくる」とか、やたらと時間がかかるものも多く、そういった変な記事を書くには、時間が足りない場合も多い。

その際は、有給をとって記事を書く。本末転倒感があるかもしれないが、僕の場合、執筆活動は限りなく「趣味に近い仕事」なので、余暇を潰すというより、余暇を過ごしている感覚が強い。

……というのが、「いつ書いてるの?」という質問に対する、子どもが生まれるまでの回答だった。

だが子どもが生まれてからは、時間を確保するのが難しくなった。さらに第二子が生まれて、もう無理になった。夜は風呂や寝かしつけがあるし、休日は朝から晩まで、体力の尽きるまで一緒に遊ぶ。これまで執筆していた夜と休日の、両方が無くなってしまったのだ。

困った。正直、現在進行形で困っている。とりあえず今は(この記事もそうなのだけど)、早起きに成功した朝や、子どもの昼寝中などに書いている。だから早起きができない日や、子どもが昼寝しなかった日は、原稿が全然進まない。ただ、時間の制約があるからこそ、以前より集中して取り組めているような気がする。そう思うようにしている。

仕事と執筆と育児。3つを完璧に兼ねるのは僕のキャパシティでは難しく、時には締め切りを延ばしてもらいながら、のらりくらりやっているのが現状である。

「全然違うタイプの人と居心地良く過ごせる器」として便利な、会社という存在

とは言いつつも、本業の会社員はまだ続けようと思っている。理由は、会社員が好きだから。

会社員でいれば、自分とは全然違うタイプの人と、ひとりではできない規模の仕事ができる。そのあと、一緒にお酒を飲んだりするのもかなり楽しい。
本業ではソフトウェアの企画設計をしているのだが、エンジニアやデザイナー、営業の人たちは僕とはまったく異なる発想をする。そういった全然違うタイプの人と一緒に働けるのも、やっぱり楽しい。タイプの違いがストレスにつながることもあるけど、楽しいと思うことのほうが、断然多い。

それは会社というフィルターを通して、何年も同じ文脈を共有しているからだと思う。発想が違っても、目指すところは似ているから、気持ちよく過ごすことができる。
「全然違うタイプの人と居心地良く過ごせる器」として、会社というのは便利な存在だ。

あと、より守りの側面で言えば「経済的・精神的に安定する」というのも、やはり会社員の本業を続けるメリットだ。本業があるおかげで、副業では無理に仕事を受ける必要もないから、書きたいことだけを書いていられる。
執筆活動がふるわない時期は、「まあ本業で頑張っているし」と自分に言い訳することもできる。逆もまた然りで、本業の調子が悪くても、「まあ執筆があるし」と、これまた言い訳ができる。自分に言い訳できることは、精神的な安定をもたらしてくれる。

ただ一方で、本業を辞めてみたい、と考えることもたまにある。ひとつは先ほど書いたように、時間が足りないから。書きたい記事が山ほどあるのに、書けないのはもどかしい。考えていた企画を先に誰かにやられた日なんかには、「くそ〜! 本業さえなければ〜!」と大いに悔しがる。

また、兼業だと持続的ではあるものの、物書きとしてこれ以上大きく跳ねたりはしないだろうな、とかぼんやり思ったりもする。単純に確率論で、専業の方が圧倒的な時間を文章に費やすことになるから、活躍できる確率が上がるからだ。(これは自分の場合、という話であり、もちろん兼業で大活躍している人はたくさんいる)

ここらへんは心の安定とのトレードオフなので、どちらがいいという話ではない。ただ、辞めてみたらもっと違う楽しさが待っているのか?という興味は、つねにちょっとだけある。

仕事の「連鎖」を利用する

「趣味を仕事にするべきか?」と訊かれることが多い。

わからない。

趣味の性質にもよるだろうし、一概には言えないと思う。僕も実際、はじめは「仕事にしなくても、別にひとりでnoteに書けばいいか」と考えていたし。

ただ趣味を仕事にしてみて、【連鎖】というメリットを感じたので、最後にそのことについて触れたい。

仕事には、連鎖する、という特性がある。ひとつの仕事をしたら、それがまた他の仕事につながるのだ。

たとえば冒頭に書いたイランへの旅行記は、その後『0メートルの旅』という本で書籍化された。そしてその本の宣伝をするため刊行記念イベントをやったところ、仲良くなったゲストとPodcastの仕事が始まった。さらにそのPodcastで盆踊りの話をしたら、盆踊り団体の人と知り合って、一緒にマレーシアの盆踊り大会に行くという仕事が生まれた。

趣味で閉じていたら、ただの「バズった旅行記」で終わっていただろう。それが本という仕事に変換されたことで、イランがマレーシアにまで連鎖した。このプロセスがとても楽しい。

なぜそういうことが起こるかというと、仕事にはお金が絡むからだ。そしてお金というものは、つねに流れる先を探している。
記事を出したなら、本にしよう。本を出したなら、PRイベントをしよう。イベントをしたなら、それをコンテンツにしよう。
お金が流れ、仕事が連鎖する。別に収益やPRが目的ではなくても、それを大義名分として利用することで、楽しそうな企画にどんどん取り組める。だから趣味を仕事にすれば、もっと趣味を楽しめる可能性があるのだ。

ただこれも、あくまで好きなことを楽しむための、ひとつの手段に過ぎない。
結局のところ僕は、「どうやったら書くことを、もっと楽しく、もっと続けられるのか?」ということばかりを、これからも考え続けるのだと思う。

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