片山正通のマネジメント術。「Wonderwallが目指すのは、ジャズのセッションのようなチーム」

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インテリアデザイナー片山正通と彼が率いるWonderwallは、建築・空間のデザインを介して、先端的な都市とそこに息づく文化を体現してきた。海外のユニクロ旗艦店やDEAN&DELUCA、東京・青山の「INTERSECT BY LEXUS-TOKYO」など、数々の都市の「顔」を生み出してきた。それゆえに、Wonderwallには華やかできらびやかなイメージがある。しかし、それは彼らの本当の姿だろうか? 今回のインタビューでフォーカスするのは、片山と彼を支えるスタッフ。チームとしてのWonderwallの素顔に迫ってみたい。

Wonderwallは、転換期を迎えている

2009年に建てられ、8度目の夏を迎える北参道のオフィスは普段とちょっと違う佇まいで取材陣を迎えてくれた。というのも現在、東京オペラシティギャラリーで開催されている「片山正通的百科全書 Life is hard… Let’s go shopping.」展に、片山が蒐集したアート作品、アンティークの多くが出張中だからだ。作品がほとんどないレアな状態のミーティングルームで、インタビューはスタートした。「Wonderwallの社内体制は、この数年で大きく変化しているんですよ。」そう話すのは、片山の右腕として十数名のチームを舵取りするデザインディレクターの坂巻陽平。彼は、入社した当時をこんな風に振り返る。

坂巻:僕が入社した9年前は仕事の90%以上を片山が担当し、片山からのアイデア、指示を受けてスタッフ全員がサポートに徹する、いわばワンマン体制でした。もちろん悪いことではないのですが、会社という組織の発展性を考えると、それは必ずしもヘルシーな状態とは言えませんでした。

左:デザインディレクター 坂巻陽平 / 右:代表取締役 片山正通

左:デザインディレクター 坂巻陽平 / 右:代表取締役 片山正通

片山:武蔵野美術大学で教鞭を取り始めたことも大きいし、歳をとると病院に通う必要もあるから、物理的に時間が限られてくるんですよ(苦笑)。もちろんまだまだ自分で手を動かして現場に関わっていたいと思うし、実際やってもいる。でも、みんなに頼る決断をすることがチームをもっと先に進めるために必要だと気づいたんです。

坂巻:一番の改革は、ミーティング方法の変化です。現在は、社長である片山、中間にいる僕、そして新人も含めたプロジェクトスタッフ全員が集まって、それぞれの意見、アイデアを出し合って議論します。そこでの片山の役割は、審査員やメンターのように、僕たちの仕事の是非を確認すること。そして実務的な仕事をスタッフが担うことで、片山の活動をもっと自由にしていこうと取り組んでいます。

改革の成果の代表例がある。2011年5月、香港にオープンしたバーラウンジ「Ozone at The Ritz-Carlton」だ。坂巻は、ここで初めて片山と共にプロジェクトを主導する立場になった。Wonderwall入社以前から海外ホテルのインテリアデザインを手がけてきた彼にとって、念願の仕事だったという。

Photo : Nacása & Partners Inc.

Photo : Nacása & Partners Inc.

オゾン層を思い起こさせる「Ozone」は、その名のとおり、ホテルの最上階、海抜490メートルの天空に広がる至極の空間だ。ドレープ型に造形された白い人造大理石や、葉脈などの自然の造形をデジタル化したかのようなデザインは、片山が立ち上げた「Edenic Experiment(実験的な楽園)」というコンセプトを体現している。老舗のザ・リッツ・カールトンが、顧客ターゲットを、50歳以上から25〜45歳へとシフトしたのは、香港が国際的な経済都市として生まれ変わりつつあるからだ。坂巻に求められたのは、香港とホテルの新しい顧客層との関係を視覚的・体感的に実感できる空間だったわけだが、組織としてのWonderwallの転換期にそれがオーダーされたのは、ひょっとすると偶然ではなく必然だったのかもしれない。ちょうどこの頃から、Wonderwallはワンマンから個々人のオリジナリティを活かす時代へとゆるやかに移り変わっていった。

「インテリアデザイナーが音楽家とつながって、作品やプロジェクトを生み出せる場所ってそうはないと思うんです。」

新しい世代のスタッフにも話を聞いた。 入社2年目の山内夏広と1年目の瀬川慧理は、Wonderwallでもっとも若いスタッフだ。日々、先輩や上司の仕事に触れながら経験を積んでいる最中の2人だが、山内と坂巻の間には、入社以前に奇妙な縁があったのだという。

山内:僕は桑沢デザイン専門学校でプロダクトもファッションも学んでいたのですが、全ジャンル楽しかったので専攻をどれにするか決めかねていました。ある日、学校の図書館で読んだ『FRAME』というオランダの雑誌に、ザ・リッツ・カールトン香港のラウンジバーが取り上げられていたんです。その写真に衝撃を受けて、インテリアデザインの道に進もうと決意しました。

山内が目にしたのは、坂巻が念願叶って手がけることになった、あの「Ozone」だった。軸芯となるコンセプトが基底にありつつも、視覚的な美しさ、そこから想起される楽しさがコンセプトを乗り越えていくかのような空間に一目惚れしたのだ。

山内:もちろん坂巻と会うのはずっと先のことです。告白すると、Wonderwallの名前さえも当時は知らなかったんですけど(苦笑)。写真を通して見た「Ozone」が自分の人生を左右することになったのは確かです。

新卒で入社した山内とは違い、瀬川は建築設計事務所での2年間の勤務経験を経て、今年1月にWonderwallに加わった。

左:山内夏広 / 右:瀬川慧理

左:山内夏広 / 右:瀬川慧理

瀬川:前職で大きい建築を作るダイナミズムや緻密さから学ぶところが多かったのですが、私の関心は身の回りの手に取れるものにあって。身近なところでリアリティを感じられ、もっと生活や趣味に関わる空間の設計をしたいと思ったんです。そんなときにふと思い出したのが、学生時代に聞いた片山の特別講義でした。インテリアデザイナーであると同時に、コーディネーターやコレクターの顔も持っている片山が、様々なジャンルの人たちとの交流からプロジェクトを展開することに惹かれました。それがWonderwallに入社を決めた理由です。

片山:瀬川はサカナクションの山口一郎さんが好きなんだよね(笑)。

瀬川:(照れながら)はい。インテリアデザイナーが音楽家とつながって、作品やプロジェクトを生み出せる場所ってそうはないと思うんです。Wonderwallの関心の広さは、自分の好きな音楽やアートと一緒に何かをつくれる予感に満ちていると思っています。

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博覧強記な片山正通とのブレストは、楽しくも厳しい?

博覧強記な片山正通とのブレストは、楽しくも厳しい?

先に述べたように、2人の新人デザイナーも交えながら率直な議論をするのがWonderwall流のミーティングスタイル。しかし、そこには仕事とは別の厳しさもあるようだ。

坂巻:Wonderwallの組織改革で片山の自由な時間を増やしたのは、その感性がやはり仕事にも活きてくるから。個人の所蔵作品で展覧会が開かれるほど、片山は「消費の鬼」ですからね(笑)。ファッションや音楽、アートなどあらゆる分野に興味を向けて、どんどんものを買い集め、経験や知識をインプットしていく人です。トレンドが移り変わり続けていくコマーシャルの世界で、これからも時代の波を捉えて欲しいと思っています。

片山が、多様なジャンルに興味を持つ博覧強記的な人物であることを繰り返し強調してきたが、その膨大なインプットに対して、スタッフたちは自身の興味・関心に磨きをかけ、個々のオリジナリティをもって立ち向かわないといけないのだという。

山内:僕たちと片山の見ているもの、触れているものが違うのは考えてみれば当たり前で、そう簡単に太刀打ちできない。でも、だからこそ自分の好きなものの魅力を片山に伝えたい、唸らせたいという想いは、日々のモチベーションになっているところがありますね。例えば、最近僕がハマっている賛美歌。日本国内だと教会で歌われるくらいのイメージだと思うのですが、欧米圏だとアリーナ規模で「賛美歌フェス」が開催されているんですよ。万単位の人たちが一斉に神に赦しを乞う空間は、圧倒的なんです。

片山:気になるんだけどさ、あまりにも遠い世界だから具体的な姿が想像できないんだよね(笑)。

山内:魅力が伝わるまでがんばってプレゼンし続けます(笑)!

坂巻:山内のように「自分の好きなものを誰かと共有したい!」っていう意識と、いつも外にアンテナを張り巡らせておく姿勢がないと、デザインの仕事は続けられないと思うんです。コマーシャルの仕事をする限り、クライアントも時代の要求も常に変わっていく。自発的に探求することが、Wonderwallでは求められるんです。

「おせっかい」すぎるデザイン事務所

建築やインテリアに関わる会社は東京だけでも星の数ほどある。激しい競争のなかでWonderwallが支持を集め続けるのは、もちろん高いデザイン力によるものだが、理由は別のところにもある。

片山:Wonderwallは「おせっかい」な会社だと思います。インテリアデザイン事務所と名乗りながら、もっとも口を出すのはコンセプトや戦略といった、造形以前の要素。そもそも僕自身がデザイナーになりたかったわけではなく、世の中にある楽しいものを大人になっても手放したくないと思う人間だったことが大きいかもしれない。自分が興奮しないもの、楽しくないことには関わりたくないし、もしも関わるならば自分たちの手でより楽しい、面白いものにしたいんです。

その初源的な信念は、ときにクライアントが契約していた施設用地すらも変更させてしまうほどだ。

坂巻:ある企業のブランディングスペースを作りたいという要望から始まったプロジェクトで、ファッションやライフスタイルと結びつけながら、自社ブランドを若年層に浸透させる、というコンセプトでした。でも既に決まっていた敷地は銀座のど真ん中。僕らは、長い歴史を持つ大人の街・銀座に、若者が集まるイメージをどうしても持つことができませんでした。そこで、青山を中心にいくつもの物件・土地を調べ、オーナーとも交渉し、絶対に間違いない用地をクライアントに提案したんです。

片山:やっていることは、不動産屋さんですよね。しかも、銀座よりも青山の敷地の方が狭かったので、面積によってギャランティが変わる僕らにとっては相対的に損をしているわけです(笑)。でも、クライアントが依頼してくれた案件が、面白くもならず、失敗するのは絶対にイヤなんです。それに、心の底から良いと思ったものをつくりたいじゃないですか。

坂巻:実直なんです。クライアントのご機嫌を伺うことは無く、必要なことをちゃんと言う。従来のインテリアデザインは、決まった要件に対して、それに沿った造形的な線を引くことでしたが、僕らはそれ以前に「何をしたい? 何をする?」という部分からデザインしていきます。なかには、ショールームだった依頼を、シアターとカフェラウンジの複合施設に変えてしまったケースもありましたね。

社内やクライアントとの喧々諤々の議論を重ね、コンセプトの方向性を明確にするところまでで全体の進捗度は50%ほど。そこから始まるのが造形的な作業と、建築空間に配置するコンテンツのキュレーションである。

坂巻:体験を含めたデザインをする以上、かたちと同じ水準で、音や匂いが重要になります。どんなジャンルの食事やドリンクを用意するか。誰の創造する音楽が、もっとも空間に馴染むのか。そういった中身の設えは、「消費の鬼」である片山の経験と知識が物を言います。

インテリアデザイナーとしては越権とも言える仕事ぶり。しかしそれは、クライアントの怒りではなく、厚い信頼を得る要因になっている。

片山:デザインは地道な積み重ねを要する仕事ですが、アイデアを生み出すときは唐突な飛躍がブレイクスルーになって、次々とアイデアが湧き出してくる。少しずつ様子を見ながら、ちょっとずつ足したとしてもよくならないってことは、実はみんな気づいてるんですよ。でも「スケジュールを進めなきゃ」「仕事をしなきゃ」っていう焦りや義務感が邪魔をするんです。

「突飛な飛躍」によってアイデアが、「地道な積み重ね」によってデザインが、それぞれ成り立っているという片山の言葉を忘れないようにしたい。それは、Wonderwallの先端的で華美なイメージは、決して定型的なメソッドを反復してできあがっているのではないということを意味する。前提から再考し、自ら提案したコンセプトの実現に全力を傾ける。実直で妥協のない姿勢こそがWonderwallの核心なのだ。

ジャズのように、個がそれぞれのプレイスタイルを活かせる会社に

高いクオリティと、強烈なオリジナリティが求められるWonderwallの仕事は率直に言って厳しい。しかし、だからこそ得られるものは大きいと、坂巻、山内、瀬川は声を揃える。では、片山がつくり上げ、その下の世代が舵取りを行う現在のWonderwallが求める人材像とはどのような人なのだろうか?

坂巻:シンプルに、野心と欲望のある人です。Wonderwallは決まったことをルーチン的にこなす場所ではなく、変わり続ける場所であり、同時に自分のやりたいことが実現できる環境でもある。そのグラウンド(場)の特長を活かして、自分が何をしたいかを持っている人に来て欲しいと思っています。欲深い人間って、自分が好きなことに対して妥協しない人だと思うんです。それは、造形でもいいし、音楽でもいいし、料理でもいい。それを一種のコミュニケーション手段として、自分だけじゃなく、周囲も楽しませることのできる人。そういう人が集まればWonderwallはもっと面白い集団になっていくと思います。

瀬川:坂巻の言うように、いろんなことに興味を持っている人と働きたいですし、自分もそうでありたいと思っています。建築について何時間でも話し続ける情熱も必要ですが、実際に物件を使うのは、多彩な趣味趣向を持った普通の人たち。インテリアや建築だけではない、広い視野を身に付けたいです。

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山内:今の僕は、片山や坂巻と比べたら、何もできないし、何も知らないに等しい。求められる要求に対して、十分に応えることができない未熟さを日々痛感しています。でも見方を変えれば、新卒でWonderwallに入った僕は、この異常に高いスタンダードしか知らないということでもある。そして、これからの自分の基準になると思うんです。もちろん、ここで過ごす時間は大変ですが、それは決して悪いものではない。そういう気持ちを共有できる人、楽しみを見出せる人と働きたいですね。

片山:マイルス・デイヴィスがカルテットをつくるときの基準は、自分が好きなプレイヤーを集めることでした。コルトレーンとかに演奏させて、マイルスは客席側にいて見ているんだよね。まあ最後に出て演奏してもっていっちゃうんだけど(笑)。それは僕にとっての理想でもある。いろんな面白いこと考えているスタッフを見て喜びたい。それをまとめて、Wonderwallという一つのかたちにするのって、めちゃくちゃかっこいいと思うんです。Wonderwallという現象を利用してやろうという野心を持った人に来て欲しい。その代わり、こちらは君の才能を利用したいとも思っている。そうやって、お互いの利害が一致することって幸せじゃないですか?

意思をもった職人として自立しつつ、同時に相手とコミュニケーションやセッションすることへの貪欲さも併せ持つ人々がWonderwallに集まるとしたら、それはジャズメンの精神に似ていると思う。

片山:デザイン、クリエイティブの仕事は、特殊な仕事。ライスワークとライフワークという言葉があるけれど、後者を大事にしたい人たちがデザイナーだと思うし、そう思っていたい。だから自分のやりたいことを明確に持って、Wonderwallに来て欲しい。でも「なんとなく」で来ると大変ですよ(笑)。

  • Profile

    株式会社ワンダーウォール

    ワンダーウォールは、インテリアや空間などの設計を中心に「場」をつくり、度々訪れたくなる「体験」を提供するデザイン会社です。

    私たちは、「この会社が作ったからかっこいい」ではなく「好きなものを辿ってみたら、すべてこの会社が手がけた物件だった」と本能的に惹かれる物件を作りたいと思っています。だから、肩書きではなく、いろいろな人の集まったチームで働くことを大切にしたい。「片山正通設計事務所」ではなく、「ワンダーウォール」という社名にしたのは、その想いからです。

    クライアントの驚く顔を見るためには、机で図面とにらめっこしているだけでは足りません。例えば、映画・音楽・アート・旅先の風景など……。好きなものや、培った体験を、空間に反映していく。日々の生活から「ワンダーウォールらしさ」という個性を形づくり、柔軟な発想力で期待を遥かに越えていきます。

    私たちの手がけるものは、成功も失敗も、世界中から360度、常に注目されています。(もちろん失敗はダメですが。)そのプレッシャーは、ある意味では成長できる機会でもあると思っています。私たちにとって、自分の家の「ドアノブ」と、何十億円もする案件の「ドアノブ」は一緒。同じくらい自分ごととして考え、一切妥協せず、プロフェッショナルとして最高のものを提案します。

    いつの時も、一番勢いのある企業からオファーがある存在でいたい。そのために、常に会社をアップデートさせていく必要があります。その中核を担ってくれる方を募集しています。

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