一度聞いたら忘れられないチャレンジングな社名ながら、NTTドコモや竹中工務店、日本製紙クレシアなどのナショナルクライアントや官公庁からの信頼を着実に得てきた右脳事件。2021年に「映像制作の会社から、体験コンテンツ全体のエクスペリエンスデザインを担う会社へ」という新たなヴィジョンを打ち立て、2022年2月には、設計デザインにこだわり、簡易スタジオも備えた新オフィスへ移転するなど、つねに変化し続けている。
この記事では、そんな右脳事件の若手メンバーにフォーカス。それぞれ個性的な経歴を持ち、映像業界の他業種から転職してきたプロデューサーの宮原健太さん、櫻井薫さん、ディレクターの南口真輪さんの3人に、入社前後のギャップや、実際の働き方について話を伺った。インタビューを進めるなかで顕著になったのは、右脳事件で働く人のあたたかさと、業界の常識を覆すような穏やかで柔軟な働き方だった。
- 取材・文:山本梨央
- 撮影:豊島望
- 編集:佐伯享介(CINRA編集部)
なぜ、右脳事件に転職を決めた?前職で気づいた「自分のやりたいこと」にチャレンジができる環境がそこにあった
―宮原さん、櫻井さん、南口さんはそれぞれ転職で右脳事件に入社したとお聞きしました。前職でも映像関連のお仕事をされていたのですか?
宮原:私はテレビの制作会社で、子ども番組のアシスタントディレクターとディレクターをしていました。そこでの仕事も充実していたのですが、もう少し企画など自分のやりたいことをやってみたいなと思っていたんです。プロデューサーとして採用してくれそうな会社を探していて、出会ったのが右脳事件でした。
櫻井:ぼくも大手CM制作プロダクションで、地上波で流れるCMの制作進行をしていました。いわゆるプロダクションマネージャー(以下PM)という職種だったのですが、できればもっとお客様と直接やりとりしてみたくて。それに、大きい会社だったのでプロデューサーになるまでに8年くらいはかかりそうだった。一度フリーランスとして半年ほど働いてから、CINRAに載っていた右脳事件のインタビューを読んで興味を持って、面接を受けたんです。(参考記事:2012年に掲載した『右脳事件が扇動する「面白さ」』、2018年に掲載した『「右脳事件」って何者?奇抜な社名に隠れた、チームワークと映像制作への想い』)
南口:私は大阪の映像制作会社でPMをしていました。転職先を探しているときに、「自分で手を動かしてつくれる」と書いてあったのが印象的で。PMとして働いているあいだは自分で映像をつくっているという実感があまり得られなかったので、「ここだけ受けたい!」と思ったんですよね。結局、転職活動では右脳事件1社だけを受けました。
宮原:私も転職活動の1社目でしたね。正直、「イケイケのクリエイターしかいなかったらどうしよう」とは思ってましたよ(笑)。でも面接のときに面接官が言っていた、「働いている人のことも大事にしたい、お客様のためになるものをつくって、なおかつ自分たちも楽しく過ごしたい」という言葉が印象に残りました。
南口:右脳事件って尖った社名じゃないですか。だから社員の人あたりの良さには、入社前後でギャップがありましたね。私も宮原といっしょで、もっとスーパーおしゃれな人たちが、クールにスパッと仕切っている感じだったらどうしようと思ってたんです(笑)。でも実際は、よく笑う人が多いし、温かみがあって親しみやすい。ブレストの機会もオープンに開かれていることが多いから、チャレンジするハードルが低めに設定されている気がします。
とにかく面白い企画を立てるのが好き。だけど、1人がハードになりすぎないようチームでサポートする。それが一体感も生む
―実際の案件では、お客様からどのような依頼があるのでしょうか?
櫻井:右脳事件は「企画」と「演出」を売りにしているので、企画からご依頼いただくケースが多いのですが、時々「こういう企画でつくってください」と決め打ちでオーダーされるお客様もいらっしゃいます。そのような場合も、まずはお客様の課題や制作の目的からヒアリングし、もっと課題解決につながる企画がないか一回考えさせてください、ぼくたちならもっと面白くできるから少し時間をください、とお願いしてみるようにしています。右脳事件は企画するのが好きなんですよね。
そこでしっかりと結果を出せば、次は企画の段階からご相談いただくことができるようになりますしね。
櫻井:企画の業務はプランナーがメインで担当しますが、案件によってはプロデューサーが企画したりディレクターが企画したり、みんなでブレストをしたり。そこは誰がやってもいいことになっています。ちなみに制作や営業、マーケターの職域も、それぞれがプラスアルファの業務として担うことが多いです。一見大変そうと思われるかもしれませんが、担当案件については裁量を持たせてもらえるので、自分自身でスケジュールも組みやすかったり、調整しやすかったりと、とても理に適った環境だと思います。
―映像業界というと、昼夜を分かたず働く、というようなハードなイメージを抱く方もいるかと思うのですが、柔軟で健全な働き方を実践されているのですね。お仕事をするなかでも実感することは多いですか?
宮原:そうですね。たとえば、ぼくがプロデューサーとして動いていた案件に先輩プロデューサーがPMとして入ってくれたり、案件が重なって大変なときにはタスクを巻き取ってもらったりしたこともありました。そんなふうに、ポジションをフレキシブルに変えながら制作を進めていったり、業務量が過多になったときは誰かにお願いしたりと、お互いにサポートしあいながら働いています。案件をしっかり管理できているなと感じますね。
南口:私も1人でいくつもの案件を担当していて、スケジュールの変更が発生して編集が同じタイミングに重なってしまったことがあったんです。その状況って絶対に大変なんですけど、チーム内で役割分担をしてもらえて。絶対的な物量が1人に偏らないようにチームづくりもできているんだと思います。
櫻井:たとえば、とある官公庁さんからのご依頼で、お話いただいてから1か月半で映像8本、ロケ地も日本各地8か所、出演者を14人手配するという案件があったんです。もちろん、衣装なども揃えないといけない。正直、絶望的な日数でした。
南口:私がカメラアシスタントとして入って、宮原さんも制作で一緒に動きましたよね。
櫻井:そうそう。プロデューサーだけでなく、企画、演出、編集、撮影までできるディレクターがチームにいるのは本当に心強くて。1分ほどのドラマもので、2日間で企画を作って、2週間後には撮影もできていました。あのときは右脳事件の一体感を感じましたね。そういった差し迫った局面では、代理店やクライアントの確認期間など、しっかりと仕切る力も問われると思いますが、この案件ではそういったコミュニケーションも上手くできました。
南口:2年前くらいに、商品プロモーションの案件をディレクションしたときにも右脳事件の一体感を初めて体感しましたね。当時の私としてはちょっと大きめの撮影で、関わる人がびっくりするほど多かった。これだけたくさんの人が関わる案件で、自分で現場を仕切って撮影を終了させないといけないと考えたら、前日は緊張で眠れないかと思いました。まぁ、ちゃんと寝たんですけど。
宮原:寝れたんだ(笑)。
南口:はい(笑)。撮影日までは私とプロデューサーの二人で動く時間がほとんどでしたが、撮影当日には技術スタッフとして来ている先輩たちもたくさんいたんですね。そうしたら「このカットはこっちの方がいいかもね」とか一緒に考えてくれるスタッフが急激に増えた。いろんなプロが集まってチームで映像をつくっていくというか。転職したときに求めていた、「自分の手で映像をつくっている実感」が得られたお仕事でした。
映像だけでなく、体験もプロデュースする。右脳事件が考える今後の展開
―右脳事件では、映像にとどまらない分野を取り扱う案件も増えているそうですね。たしかに、これだけマルチに考えて動ける方々が集まったチームであれば、可能性の広がりも感じられます。
宮原:そうですね。たとえば、2022年は、プロバスケットボール「Bリーグ」ファイナルの空間映像演出を右脳事件で担当しました。決戦となる会場で流す様々な映像コンテンツの制作をすべて担当させていただいたのですが、WEBやSNS向けの動画制作とは異なり、来場されたお客様がその「空間」で「体験」する映像の制作となりますから、右脳事件では「空間体験演出」と捉えて制作に臨みました。決められたフレームの中での映像演出ではなく、それが放映される空間をも演出することが求められていると考えているわけです。
―なるほど。その映像の制作から、体験のプロデュースまでどう展開していったのでしょう?
宮原:たとえばオープニングでは、映像だけではなく、照明や炎などの特殊効果演出もある。そういった「空間全体にアプローチする演出要素」を組み合わせて、コンテンツを制作する形となりました。当然、フレームに合わせて映像を制作するだけではなく、空間をどのように演出するか、来場されたお客様にどのように楽しんでいただくか、という「体験」そのものをデザインしていく案件となります。そういった広がりに、右脳事件としての可能性を感じています。
櫻井:そういう案件も、自由な発想でディレクションできるのが右脳事件の強みだと思っています。社内のスタッフもキャラクターが立っているのでいろんなアウトプットができるけれど、さらに外部パートナーとしても凄腕の美術さんとか、誰にでも交渉できるキャスティングさんとかにも参加していただくことがあります。そういった心強い外部パートナーさんと関係を深めているので、映像だけじゃないお仕事でも十分に対応できていますね。
南口:映像ディレクターとして培った「ディレクション」というのは手法の一つであって、イベントなどにも応用していけると思います。自分らしいディレクションという方法を確立しておけば、その演出力などもほかのフィールドで流用していけますしね。
フラワーアレンジメントやブラインドサッカー……レクリエーションや研修で、楽しみながらチームワークを強化
―お聞きしていると、個々人の裁量が任されているだけでなく、柔軟なチームワークあってこその働き方に思えます。そうした環境を保てる秘訣が何かあるのでしょうか?
南口:多くの会社は現状をキープしながら着実に、ゆっくり時間をかけて変わっていく印象があります。でも、右脳事件はクオリティーチェック体制ひとつとってみても、毎年見直している。また、心理的安全性の高いチームづくりのために全社員で「マインドフルネス」について学んだり、アーティストの方を講師に招いて、ノンバーバルコミュニケーションについて屋外ワークショップを実施したり。そんなふうに、より良く変わっていこうという意思は、他社よりも強いかもしれません。
宮原:ボトムアップでの意見も採用されやすいですし、制度も柔軟に変わりますよね。
「心理的安全性の高いチーム」を目指そうと全員が意識し始めたことで、社内コミュニケーションにも柔軟さを感じます。たとえば日々忙しく仕事をしていると、社員同士でも同じチームや同じ案件に関わっている人としか話す機会がないというケースも多いと思います。その点、右脳事件は宿泊研修やレクリエーション、ランチ会や卓球大会などの機会を定期的に設けているので、社員同士がプロデューサーもディレクターも先輩後輩も関係なくコミュニケーションを取りやすくなっている気がします。
櫻井:レクリエーションの企画も自分たちで考えています。そもそも右脳事件は体育会系のノリはないので、ちょうどいい温度感で実施できていますね。
この前はぼくの提案がきっかけで、お花屋さんを呼んでフラワーアレンジメントの企画を社内でやりました。みんな最初は花に興味があるわけでもないし、「なんやそれ」という雰囲気だったけど、最後には「お花かわいい!」ってなっていて(笑)。
南口:ブラインドサッカーも面白かったですね。視覚を奪われた状態でいろんな人と話しながら取り組むというのも、普段できない経験を通してコミュニケーションを考え直す機会になりました。
社内で業務以外の濃いコミュニケーションを取ることで、心理的安全性が高まっていることも実感できます。若手でも臆することなく意見が言いやすい環境になることで、社員のパフォーマンスが上がったり、お客様に提案できるアイデアが豊かになったりと、クリエイティブの面でも良い影響が出ているのではないでしょうか。
宮原:レクリエーションは遊び半分のようで、真剣に楽しんで遊ぶ。それが案件にも生きている実感があります。
この2月にはタイで海外研修をする予定です。そういう部分も一緒に楽しんでいける人に入社してほしいですね。
南口:私も楽しめる幅が広い人と一緒に働きたいですね。変化していく会社でもありますし、その変化や自分の成長を楽しめる人にとってはおすすめです。
櫻井:それから、根本的なところですが、やっぱり映像づくりが大好きな人、自分はもちろん誰かを喜ばせることが好きな人には向いていると思います。これまでも映像を制作してきたけど、環境を変えて次のステップへ進みたい方にもいいでしょうね。
宮原:映像はもちろん、ほかのジャンルへの展開にも関わってみたいという好奇心旺盛な人と、これから新しいことにもチャレンジしていきたいです。
Profile
右脳事件は映像制作に特化した制作チームとして、これまで20年間、5,000本以上のコンテンツを世に送り出してきました。
そのこだわりは「自分たちの手でコンテンツを生み出す」こと。
他人のものではなく、自分たちのアイディアをもとに、自分たちの手を動かしながら、コンテンツを生み出すこと。そしてそれをもって、誰かに喜んでもらうこと。
それが、右脳事件が大切にしてきたコンセプトです。
だから、これまでに制作してきたコンテンツすべてが、紛れもなく「自分たちがつくったもの」と考えています。
2023年、創業から20周年を迎え、右脳事件は新たなフィールドへの「拡張」を始めています。
コンテンツのデザインだけではなく、コンテンツから生まれる受け手のあらゆる「体験」そのものをデザインするチームへ。
これまで通り、映像をメインとした「FRAME Design」を主軸にしつつも、これまでに培った映像制作スキルを武器に、空間演出を軸とした「SPACE Design」、メタバースやXRを活用した「VIRTUAL Design」、メディアミックス演出を行なう「COMPOSITE Design」、そして動画マーケティングやクリエイティブコンサルを行なう「CONSULTATION Design」へとフィールドを「拡張」し、あらゆる「体験」を「デザイン」するチームへ「進化」しています。
「右脳」は「創造性を司る」もの。
「事件」は「人々の記憶に残る」もの。
これが、私たちのチーム名。
あなたがつくりたいものは、「コンテンツ」なのか?
それとも、「体験」なのか?
さあ、右脳事件へ。