ユニクロが商品撮影を内製化。ECの写真から顧客満足につなげる秘策とは?
- 2019/08/21
- FEATURE
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- 取材・文:笹林司
- 撮影:玉村敬太
- 編集:吉田真也(CINRA)
「ECサイトが、旗艦店」。ユニクロ全体に根づく共通認識とは
—ユニクロはいま、EC事業に力を入れています。その理由を教えてください。
渡邉:ECでの購買はすでに一般化していますが、店舗で接客を受けて試着をしなければ購入に踏み切れないというお客さまも、まだまだいらっしゃいます。
そういった方々にも安心してECサイトを活用してほしい。実店舗に行かずとも、EC内で商品の素材やサイズ感を確かめられたり、探していた商品を簡単に見つけられたりできる。そんなECサイトをつくることで、年齢、国籍、環境などに左右されず、より幅広い層のお客さまに満足していただくことを目指しています。
小磯:ECサイトの売れ筋や流行りの色などは、即座に店舗にもフィードバックされます。逆に、店舗で売れているものを、ECで打ち出すこともできる。そうしたデータを参考にして、ブランド全体の在庫の調整や、販売の優先順位づけも可能になります。
世界中にリアル店舗を持つユニクロだからこそ、店舗とECが融合すれば、お客さまがどこにいても一人ひとりに合った商品をおすすめできる。「欲しいものが、欲しいときに手に入る環境」を提供できるんです。
渡邉:ユニクロの共通認識としてあるのは、「ECサイトが旗艦店」という考え方。ECサイトは店舗と違い、実在庫の保管場所を気にする必要がありません。だから、どの店舗よりも品揃えが良い。また、EC限定の商品も用意しています。そういった意味で「旗艦店」という表現を使っています。
—なるほど。小磯さんがリーダーを務める「グローバルデジタルアセットマネジメントチーム(以下、デジタルアセットチーム)」は、どういった役割を担っているのでしょうか?
小磯:ECサイトのなかにある、すべての商品詳細ページを管理しています。わかりやすくいえば、実際に商品を選んでカートに入れるまでのページです。つまり、ECの全売上は、われわれが管轄しているページを通して生まれています。
「商品名・説明文・サイズ・値段・画像」などの商品情報を各担当部署のデータベースから集めて、取りまとめて全世界のECサイトに反映させています。
いままで、「画像」はマーケティング部が撮影したものをEC用に加工してアップしていました。しかし、ECにおいて画像の質と量の充実は、売上を左右する大きな要因のひとつです。だからこそ、販売状況に応じてよりフレキシブルに対応できるよう、カメラマンやレタッチャーなどの画像制作担当をデジタルアセットチームで内製化して、強化することにしました。
コンテンツが一瞬で古くなる時代。ECの肝となる「写真」にも、質とスピードが求められる
—なぜ画像制作担当を、マーケティング部からデジタルアセットチームに移したのでしょうか?
小磯:いちばんの理由は、ECの生命線でもある「スピード」です。商品詳細ページを訪れたお客さまの情報は、デジタルアセットチームでつねにチェックできます。しかも、特によく見られている写真や、適正な写真の枚数などの情報がリアルタイムでわかる。それを検証してすぐに反映するためにも、撮影やレタッチ業務を内製化することが、もっとも合理的でした。
片山:私はマーケティングの部署にいますが、画像制作チームがECサイト制作部署に移った現在も密に連携して動いています。
マーケティング分析のための正確なデータを収集するには、なるべく多くの人にリーチし、少しでも長くサイトに滞在していただく必要があります。しかし、いまは社会全体として情報の更新スピードが猛烈に速くなり、一人ひとりの情報消費量も圧倒的に増えて、コンテンツが一瞬で古くなってしまう時代になった。
つまり、コンテンツの質だけでなく、アップデートするスピードがどんどん重要になってきている。だからこそ、お客さまの目に留まる写真や動画をより多く、そしていち早く更新できる体制が必要なのです。
—「スピード」のお話が出ましたが、「質」という観点ではいかがでしょうか?
片山:画像のクオリティーに関しては、マーケティング部と画像制作チームで綿密にすり合わせしています。マーケティング部が持つ「ユニクロらしい」テイストやトンマナづくりの知見を生かしつつ、シームレスに動いていく必要があると考えています。
ファッションは「見た目」が大事ですからね。お客さまがECの商品をカートに入れるかどうかは、写真の良し悪しで決まるといっても過言ではありません。
お客さまの後悔をなくしたい。画像制作の工夫ひとつで、顧客満足につながる
—商品紹介ページに写真を掲載する際、どのようなことを意識していますか?
小磯:やはり閲覧数はつねに意識していますね。閲覧数が多いのに売れない商品などは、理由を徹底的に調べます。一例として、モデルの着用画像が1枚しか掲載されておらず、色のパターンを1色しか見せられていなかったケースがありました。
すぐにほかの色でもモデル着用の撮影をしたところ、売上は増加。しっかりと紹介すれば売れるのに、画像で訴求できないのはもったいないと感じた事例です。
河田:ほかにも、商品の実物を見ていないことが、お客さまの後悔につながらないようにしたいと思っています。
たとえば、「思ったよりも厚手だった」という返品理由が届いた商品の場合、生地感が伝わるようなアップの画像を掲載したり、コーディネート写真も季節感が伝わりやすいものにしたりしています。
小磯:お客さまが返品するということは、何かしらの理由があるはずですし、ほかのお客さまも同じことを思っている場合が多いんです。
ですので、ECサイトに寄せられた返品理由などを綿密に分析し、お客さまが気になりそうなポイントをわかりやすく撮影するようにしています。
片山:「普段着」だからこそ、着心地や機能面を伝えるのが肝心なんです。個人的な意見ですが、ユニクロの服を撮影するのは、アパレルブランドのなかでもいちばん難しいと思います。
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- なぜユニクロの服を撮影するのは難しい? 「かっこいい」だけが正解じゃない
なぜユニクロの服を撮影するのは難しい? 「かっこいい」だけが正解じゃない
—なぜユニクロの服の撮影は、アパレルブランドのなかでもいちばん難しいのでしょうか?
片山:われわれは、単に華やかさやかっこよさを追い求めたブランドではありません。コンセプトは「LifeWear」。本当に着心地が良く、高品質でファッション性があり、誰にでも手が届く価格の「究極の普段着」です。
かっこよく見せたいなら、シワを取り、余計なふくらみをまっすぐにするレタッチがいい。しかし、それをやり過ぎると「誰もが着こなせる洋服」には見えなくなります。それでは、「LifeWear」ではありません。
河田:目指しているのは、見たときに一瞬で「普段着」と認識できる画像。そのうえで、「自分が着こなしているイメージ」をしていただくことが重要なんです。
職人気質よりも、チームワーク。みんなでお客さまの期待に応えたい
—河田さんは2019年6月にレタッチャーとして転職してきたばかりだそうですね。ユニクロでの仕事をどう感じていますか。
河田:携わる範囲が広いですね。ただ単にレタッチをするだけでなく、商品の特徴を伝えるためにはどういったスタイリング、アングル、ライティングがいいのかなど……撮影前の段階からチームで話し合います。
そしてなにより、自分が携わった画像によってどれだけ商品が売れたかがわかる。売上が伸びれば嬉しいし、反応が薄かったり返品が多かったりしたら悔しい。ある意味、「接客」をしている気分ですね。
—モチベーションも上がりそうですね。
河田:フリーランスや制作会社など一部のレタッチャー、カメラマンの間では、商品紹介ページを「ささげ業務」と言うことがあります。「撮影、採寸、原稿」の頭文字をとって、「ささげ」。機械的に分業作業を行い、ひどいときは何に使われるか、どこに掲載されるのかもわからないこともある。つくったものを暗闇に「捧げ」ている感覚です。
でもユニクロの場合は「ECが旗艦店」だと思っているからこそ、サイト上で商品の良さを伝えることに、チーム一丸となって取り組みます。「流れ作業」という認識ではなく、お客さまのことを考えて主体的に仕事ができる。やりがいは大いにありますよ。
小磯:チームで働くメンバーに求めていることは、3つ。ひとつは「お客さま志向」であること。まさに、先ほど河田が話した、店舗の販売員ではなくても、接客をしているような感覚は大事です。
2つ目は、チームで仕事ができること。場合によっては商品を企画したデザイナー本人から商品説明や想いを聞いて、撮るカットを決めたりすることもあります。
そもそもユニクロは、部署の垣根を越えて、力を合わせて働く企業文化がある。だから、チームワークを大切にできることは、ユニクロで働くうえで絶対に必要な要素です。
そして、3つ目は「実行力」です。ユニクロには「商売=実行」という文化が根づいています。机上の空論ではなく、行動に移して必ずやりきることが大事。そのマインドを持つ仲間と、これからも一緒に働きたいですね。
渡邉:カメラマンやレタッチャーとしてのスキルだけを、職人的に極めたい人は向いていないかもしれません。自分の職種スキルを活かしながら、「チームで大きなビジョンを達成したい」という人がユニクロには合っていますね。
人に着られてこそ、服は生命感を帯びる。動画にも注力していきたい理由
—最後にデジタルアセットチームがチャレンジする今後のビジョンについて聞かせてください。
小磯:5Gの実用化も間近ですし、動画にも注力したいです。動画の魅力は、商品の特徴や良さをまとめて伝えられること。特に、雑貨と動画は相性がいいんです。カバンならどの程度の容量があるのか、折りたたみ傘なら使い方はどうするのかなど、すでに一部動画を活用した説明を盛り込み、効果も上がっています。
渡邉:洋服も、写真より動画のほうが、素材の柔らかさや性能を伝えやすいと思います。
「LifeWear」は、人が着た状態で、服がもっとも生命感を帯びるようにデザインされています。つまり、その人の一部になったときに、服がすごくいい状態に見える。この魅力も、動画ならより簡単に伝えることができるはずです。
—たしかに動画で見ると、より洋服の特徴がわかりやすそうですね。画像の強化についてはいかがでしょうか。
小磯:さらなるスピード感を追求していきたいですね。いまは、展開する全カラーがわかる画像や、モデルの着用画像を揃えて、予告のようなかたちでECサイトにアップしている商品が一部あります。これをもっと増やしたいと考えています。
それによって、お客さまの反応が事前にデータで取れれば、売れる可能性が高い商品や色の在庫を手厚くすることもできる。そうすれば、「欲しいものが、欲しいときに手に入る環境」にまた一歩近づけるかと。
片山:さらに欲をいえば、顧客それぞれの属性や滞在時間、閲覧履歴、購入履歴などに応じて、お出しする画像の枚数や種類を変えられるのが理想だと思います。ゆくゆくは、テクノロジーを使って、よりOne to Oneに近いマーケティングができたらいいですね。
Profile
『ユニクロ』を中核ビジネスとして、『ジーユー』『セオリー』『コントワー・デ・コトニエ』『プリンセス タム・タム』『J Brand』など複数のブランドも展開しています。今回はその中でも主力となる『ユニクロ』での募集となります。『ユニクロ』は1984年に1号店をオープンし、ロードサイド店を中心にチェーン展開を行ってきました。1998年に都心への出店を開始すると同時に、フリースキャンペーンを展開し、日本中にユニクロブームを巻き起こしました。その後はショッピングモールへの出店、銀座・新宿・大阪といった大都市圏の繁華街へのグローバル旗艦店、グローバル繁盛店の出店も行っています。
『ユニクロ』は、企画・素材開発・素材調達・生産・物流・販売までを一貫して行うSPA(アパレル製造小売業)として、高品質なカジュアルウエアを手頃な価格で提供し、他社に真似のできない独自商品を販売し、日本のアパレル市場の6.5%のシェアを占めています。
ユニクロ事業の成長の軸足は海外へ移っています。海外進出は2001年9月の英国に始まり、2018年8月末現在の店舗数は、国内827店舗に対し海外1,241店舗で、海外事業の売上高はユニクロ事業全体の約51%を占めています。特に中華圏(中国大陸・香港・台湾)、韓国、その他東南アジアでの出店により、高成長が継続しています。
2006年に立ち上げたジーユー事業は、低価格でファッション性が高いブランドとして、日本市場で成功を収めています。店舗数は2018年8月末現在393店舗まで拡大し、売上高は1,000億円を突破しました。『ジーユー』も『ユニクロ』同様、SPAのビジネスモデルによる独自商品を開発し、競争力が高いブランドに育っています。
8月21日(水)19:00〜、六本木にてECサイトのアートディレクター・デザイナー職座談会を行います。ぜひエントリーくださいませ。
https://www.fastretailing.com/employment/ja/fastretailing/jp/career/event/joblist/detail/?id=1217