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刺激しあう。だから、貪欲になれる。サン・アドのクリエイターが語る、制作の裏側

株式会社サン・アド

株式会社サン・アド

宣伝広告の枠にとどまらず、クライアントのビジョン・ミッション設計などのコンセプトワークやロゴ・ネーミング開発、商品パッケージやプロダクト制作、イベント、ウェブの制作、さらには空間デザインまで幅広く手がけるサン・アド。これだけの守備範囲の広さでありながら、内部のクリエイターを中心にしてチームを組むことが多いというのも驚きだ。

この記事では、さまざまな領域でクリエイティブに携わっているコピーライター/クリエイティブディレクターの岩崎亜矢さん、内藤零さん、アートディレクターの藤田佳子さん、白井陽平さん、デザイナーの石田和幸さんに取材。具体的な事例を通して、どのように働いているのかを伺った。インタビューのなかで印象的だったのは、「楽しい」という言葉をメンバーたちがたびたび口にしていたこと。根源的にものづくりを楽しむというスピリットが、創業当時から脈々と受け継がれていることを感じさせるインタビューとなった。

サン・アドのプロデューサーの仕事に注目した記事はこちら
  • 取材・文:山本梨央
  • 撮影:鈴木渉
  • 編集:佐伯享介

競合プレゼンでの勝因は「チームワーク」

―サン・アドさんにはアートディレクター、デザイナーやコピーライターなど、数多くのクリエイターが在籍していますが、人数構成が特徴的だと伺いました。

藤田:広告の制作会社は、デザイナーの人数に対してコピーライターの人数が極端に少ないケースもあるのですが、サン・アドはアートディレクター・デザイナーとコピーライターの人数比にそこまで差がないのが特徴かなと思います。

各職種の仕事内容はそれぞれ多様な領域にわたっていて、たとえば私のようなアートディレクターは、パッケージデザインからブランディング、店舗の空間イメージまで担当することがあります。隣の席のアートディレクターは全然違う仕事をしていたりするので、とても刺激になりますね。

―クリエイター同士が刺激を与え合う環境が社内にあるのですね。そういった社風が反映されている事例を、具体的に教えてください。

岩崎:日華化学株式会社デミ コスメティクスが新たに展開する「DEMI DO」というオールターゲット向けのスカルプケアブランドのお仕事は、競合プレゼンで受注したものなのですが、じつはこのプレゼンのときに選んでいただいた理由が「チームワーク」でした。プロデューサーやアートディレクター、コピーライターなど、プロジェクトに関わったメンバー全員が刺激し合い、持っている力をフルに生かした結果だと思います。

私はクリエイティブディレクター/コピーライターとしてこの案件に関わって、スカルプケアをもっといろんな人の毎日と距離が近いものにしていくため、「一生、この髪とあそぼう」というタグラインをご提案しました。私自身も出産後に髪の毛が抜けた経験があり、スカルプケアの重要性をかなり痛感していて。「一生」という重みのある言葉、「あそぼう」という軽い言葉、異なるイメージの言葉を組み合わせることで興味を効果的に喚起させながら、パッケージデザインも従来のスカルプケアとは異なる、かなり明るくおしゃれな、躍動的なイメージでアートディレクターの藤田が緻密に構成してくれました。

藤田:「DEMI DO」という岩崎が提案したネーミングから人が一歩前に進むようなイメージが浮かび、これまでのスカルプイメージになかったような「わくわく感」を演出したいなと思って取り組みました。

DEMI DO「DEMI DOと4人の女_30秒篇」CM映像。作家の川上未映子さん、モデルの畠山千明さん、バレエダンサーの豊田遥夏さん、モデルの雅姫さんが登場するこちらのCMを始めサン・アドが中心となり制作。

藤田:スカルプケアというと機能性を訴求する印象があったのですが、「DEMI DO」では機能性よりもデザイン性を重視したオープンマインドな明るい佇まいを目指しました。スカルプケアのネガティブなイメージを払拭し、自分の髪の毛と自分らしいスタイルで楽しく生きていくためのケアである、というメッセージを伝えるための世界観を作っていきました。

岩崎:ネーミングからブランディング、パッケージデザイン、広告、プロモーションと多岐にわたる大型案件でしたので、一人ひとりの負担はかなり大きかったと思います。そんななか、若手の活躍、デザイナーの石田やアシスタント・プロデューサーの竹馬には本当に助けられました。まさにサン・アドの部を超えたチームワークで乗り切ることができたと思います。

石田:サン・アドの先輩はどの方も尊敬する部分があり、それぞれ違うかっこよさがあるので、「うまくついていけるように」と思って動いていました。今回、僕はプロモーションの担当として啓蒙の冊子などを作っていたのですが、任せるところは任せていただきつつ、先輩のもとで学べるチャンスもあり、様々なことにチャレンジできる環境だったと思っています。

左から岩崎亜矢さん、石田和幸さん、藤田佳子さん

左から岩崎亜矢さん、石田和幸さん、藤田佳子さん
岩崎亜矢さん。コピーライター/クリエイティブディレクター。主な仕事に、GINZA SIX ネーミング、サントリー「どうぞ、ほどほどの人生を」、サントリー×コカ・コーラ「誰よりも同じ未来を見つめる存在。それが、ライバルってこと」、JINS「私は、軽い女です」、ツインバード「ぜんぶはない。だから、ある」、村田製作所「この奥さんは、介護ロボットかもしれません」など。長年行っているハンバートハンバートのクリエイティブディレクションや、書籍『心ゆさぶる広告コピー』、『僕はウォーホル』、『僕はダリ』(すべてパイインターナショナル)なども。
石田和幸さん。デザイナー。東京造形大学卒。イヤマデザインを経て、2020年サン・アド入社。デザイナーとして、日華化学「DEMI DO」、サントリー「サントリー梅酒」 、セイコーウオッチ「by Seiko watch design」などを担当。NTTドコモ「TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION」ではプランニング・アートディレクションを担当。グラフィック「1_WALL」ファイナリスト、The Choice入選、JAGDA賞ノミネート、JAGDA新人賞ノミネート、東京TDC賞ノミネート。
藤田佳子さん。デザイナー、アートディレクター。2011年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻修了。同年サン・アド入社。主な仕事に、東京駅グランスタ「ふくらむちゃん」、サントリー「山崎蒸溜所 GIFTSHOP」、「サントリー天然水 北アルプス 信濃の森工場」、「香林居」、日華化学「DEMI DO」など。’19年JAGDA賞、’20-21年ADC賞受賞。’23年JAGDA新人賞受賞。

職域が違っても、いいアイデアは採用する

―石田さんがご活躍されたもう一つの案件として「サントリー梅酒〈山崎蒸溜所貯蔵梅酒ブレンド〉」2023年春のキャンペーンについてもお聞きします。それまではイラストを使用した親しみのあるプロモーションだったようですが、どういった経緯でリニューアルしたのでしょうか?

内藤:このキャンペーンは私がクリエイティブディレクター兼コピーライターとして担当していたのですが、初年度の仕事が動き始めた2020年にアートディレクターの福地掌が、入社直後の石田をデザイナーとしてアサインしました。グラフィックやムービー、WEBを制作するので、さまざまなメディアのクリエイティブを一通り経験できるのではないか、という意図だったようです。

石田:この商品は、ウイスキーの古樽を使って梅酒を貯蔵し、それをブレンドするという特徴を持っています。今回、カジュアルさよりも本格感や品質感のあるテイストを出したいというご要望があり、お酒を飲むシーンよりも、ボトル自体を主役に見せるのが良いのではないかと考えました。グラフィカルな写真が印象的なフォトグラファー・金子親一さんのファンだったこともあり、ぜひ撮影をお願いして、彼の目で梅酒の新しい世界観を切り取っていただけないかと考えました。

写真中央、内藤零さん

写真中央、内藤零さん
内藤零さん。コピーライター/クリエイティブディレクター。大学中退後、フリーター(コンビニ店員)などを経て2004年にサン・アド入社。最近の主な仕事は、ハーゲンダッツ ジャパン「スプーンクラッシュ」テレビCM・交通広告、鹿島建設「GREEN KAJIMA」新聞広告、タカラトミー「人生ゲーム」テレビCM、小松製作所「企業」テレビCM、TOKIUM「社名・サービス名」ネーミングなど。主な受賞歴はTCC新人賞、JAA広告賞銀賞、毎日広告デザイン賞優秀賞・部門賞・準部門賞、広告電通賞優秀賞、日経広告賞部門賞など。

内藤:アイデア会議で石田からフォトグラファーの金子さんの資料が出されたとき、全員が「いいね!」となりました。ユニークな世界観で、かつ梅酒の「いいもの感」がしっかりあるということで、すぐに企画も採用されました。このグラフィックの世界観を中心に据えてCMやWEBも展開されていったので、石田も嬉しかったのではないでしょうか?

石田:心のなかでは跳んで喜んでいました(笑)。このお仕事を経験して、僕が前職で経験してきたデザインの知見を、広告の仕事にも応用していけるかもしれないという手応えを感じました。

「サントリー梅酒〈山崎蒸溜所貯蔵梅酒ブレンド〉」の広告ビジュアル。2021年春と2022年春のキャンペーンでは親しみのあるイラストを使用した表現だったが、今回は本格感・品質感のあるテイストのビジュアルとなっている。

「サントリー梅酒〈山崎蒸溜所貯蔵梅酒ブレンド〉」の広告ビジュアル。2021年春と2022年春のキャンペーンでは親しみのあるイラストを使用した表現だったが、今回は本格感・品質感のあるテイストのビジュアルとなっている。

「サントリー梅酒〈山崎蒸溜所貯蔵梅酒ブレンド〉」のブランドムービー。

石田:デザイン以外の面でも、たとえばラフの段階でコピーを自分で書いて入れると、そこからニュアンスやキーワードを拾い上げて実際のコピーライティングに活かしてもらうこともあります。そういった柔軟さも、サン・アドの特徴だと思います。

内藤:このグラフィックに入っている「気になるじゃないか。」という手書きのコピーは、私ではなくCMプランナー・演出家の柴田がムービー企画のコピーとして考えたものです。プランナーが書いた言葉が採用されたり、コピーライターが考えたことが映像に組み込まれることもあります。

岩崎:サン・アドはあらゆることを自分たちで行なう会社なので、仕事の領域も広い。つまり、仕事を越境できるチャンスがある、という面白さがあります。コピーがうまいアートディレクターがいたり、CDをやるプロデューサーがいたり。いいアイデアに、職種は関係ない。だから、貪欲な人ほど楽しめる環境ではないかなと。

創業者の山口瞳さんや開高健さんが作家になってからもコピーライターを続けていたことなども考えると、「ひとつに決めつけない」のはサン・アドの伝統なのかもしれません。ちなみに、ミュージシャンとして活躍するアートディレクターもいます。

他のどこでもなく、サン・アドでしか実現できない仕事がある

―サン・アドさんの会社の文化という話題が出ましたが、1986年から長く続いているサントリーの適正飲酒を促すモデレーション広告についてもお聞かせください。2022年11月にリニューアルしたそうですね。

岩崎:このお仕事は、弊社のアートディレクター・葛西薫が長年担当していたものですが、今回ガラッと一新することになり、アートディレクターの白井と私のペアでやることになりました。仕事を始めるにあたり、葛西からは、「いままでのことは気にせず、自由にやっちゃいなさいよ!」と言ってもらい、気が楽になったことを覚えています。長年担当していたということはもちろんですが、そもそもが尊敬する、大好きな先輩ですからね。

白井陽平さん。アートディレクター。2001年サン・アド入社。主な仕事に、青森県「青天の霹靂」ブランディング、虎屋「季節の羊羹シリーズ」パッケージデザイン、サントリー「モデレーション」広告、「サントリー大隅」広告、「サントリー黒烏龍茶」広告、「PR TIMES」広告、「宣伝会議」装丁、「年鑑日本のパッケージデザイン」装丁など。東京ADC賞、毎日広告デザイン賞、日本パッケージデザイン大賞。

白井陽平さん。アートディレクター。2001年サン・アド入社。主な仕事に、青森県「青天の霹靂」ブランディング、虎屋「季節の羊羹シリーズ」パッケージデザイン、サントリー「モデレーション」広告、「サントリー大隅」広告、「サントリー黒烏龍茶」広告、「PR TIMES」広告、「宣伝会議」装丁、「年鑑日本のパッケージデザイン」装丁など。東京ADC賞、毎日広告デザイン賞、日本パッケージデザイン大賞。

白井:アイデアはいろいろ考えましたが、やはり最初に思いついたのは、弊社の創業メンバーの一人であり、サントリー「トリス」のキャラクター「アンクルトリス」で知られる柳原良平さんのイラストでした。柳原さんのイラストは、お酒の文化を親しみやすく伝えてきた核でもあると思っています。ここは柳原さんのイラストをモチーフにするしかない、と思い、そのイラストのタッチを受け継いで新たにオリジナルのキャラクターをつくることにしました。

岩崎:白井が絵を描く参考のためにと、映像部の若手がアンクルトリスの古いアニメーションを全部集めてくれました。ディレクターの柴田含め、実際にアニメーションを制作する際にも、「この動きを参考にしよう」とみんなで話し合いながら“柳原さんアニメ”を研究し、緻密につくっていきました。

白井:じつは、今回新たに描いたものでは、柳原さんのイラスト特有の男性の描き方を使って、女性を描いていたり、逆に女性の描き方を男性に取り入れたりしています。トリスのイラストが多く描かれていた1950~1960年代は男性中心の表現だったからか、女性のイラストには表情があまりなかった。いまの時代に合わせて新しくするなら、時代の変化を汲んだものにしたいと思い、描き方を工夫しました。それによって男性女性隔たりなく、いきいきと描くことが可能になったと思います。クリエイティブとして柳原さんの血を受け継いでいるサン・アドだからこそチャレンジできた表現だったのではないかな、と。

いまなおCMに登場するサントリー「トリス」のキャラクター「アンクルトリス」。その生みの親である柳原良平氏のタッチを生かした、このキャンペーンのための新キャラクター「ほどほどな仲間たち」が楽しく動き回るムービーやグラフィックを制作。すべてのイラストは柳原氏のご遺族のチェックを受けており、氏のトレードマークとも言える「Ryo」のサインも入っている。

いまなおCMに登場するサントリー「トリス」のキャラクター「アンクルトリス」。その生みの親である柳原良平氏のタッチを生かした、このキャンペーンのための新キャラクター「ほどほどな仲間たち」が楽しく動き回るムービーやグラフィックを制作。すべてのイラストは柳原氏のご遺族のチェックを受けており、氏のトレードマークとも言える「Ryo」のサインも入っている。

サントリー ドリンク・スマート ほどほどの話 # 001『居酒屋での攻防』篇 30秒

岩崎:この話をいただいたときに、「葛西さんみたいに、30年以上も元気で仕事に取り組めるかな」という不安は正直ありました(笑)。でも、このフォーマットであれば、他の誰かに引き継いでいってもきっとうまくいくはず。そういうアイデアは強いと思います。ちなみに、キャラクターの名前は、開高健から「カイコさん」(女性)、山口瞳から「ヒトミさん」(女性)、柳原良平から「ヤナギさん」など、ゆかりのある人たちから名前を拝借しています。葛西からも実は名前を拝借し、「カオルさん」という女性キャラにしました。

―CMソングもとても耳に残る印象的なものでした。作詞は岩崎さんが担当されたとのことですが、どういうプロセスを経て完成したのでしょう?

岩崎:適正飲酒を訴えようとすると、お説教のようになってしまいがち。でも、それはしたくなかった。それは、そもそも自分がお酒が大好きで、かつ、お酒にすぐ甘えてしまうタイプだったから。自分が言われて嫌なことは言うのはやめよう、優しさと楽しさをベースにしよう、そのなかで「ほどほどに飲む」ことの大切さをじわじわと浸透させていきたいと考えました。作曲家の菅野よう子さんからは、「4〜5歳児が口ずさめる、簡単な『あ』などの母音で始まった方が歌いやすい」というアドバイスを受け、最初のは書き直し、2回目のものが採用されました。

白井:菅野さんが「お酒を飲んだ人でもわかるくらいの簡単さ」と仰っていたのは、たしかに、と深く納得しました。難しすぎる歌詞は、お酒を飲んだらわからない、と。

岩崎:曲が出来上がったとき、ちょうど私の子どもが4歳だったのですが、本当に繰り返し歌ってくれて。「ほどほどっ〜♪」という子どもの歌を聞きながら、言葉と歌、アニメが合わさると強いなあ、としみじみ思わされました。

作詞を岩崎亜矢さん、作曲を菅野よう子さんが担当。歌は土岐麻子さん。

社内外のクリエイターや土地からもインスピレーションを受ける

―クリエイター同士で刺激を与え合う環境がサン・アドにあるということがとても伝わってきます。白井さんがアートディレクターをされた青森県のお米「青天の霹靂」は、10年かけて品種改良された新しいブランド米のブランディングを担当し始めて、さらに10年近く経っているそうですね。

白井:そうですね。サン・アドではブランディング戦略、ネーミングの選定、パッケージデザイン、コミュニケーション全般(CM・GR・WEB・PR・イベント・キャンペーン)まですべてに関わっていて、毎年度、新しいコミュニケーションを企画し制作実行しています。

このプロジェクトは毎年、企画の段階から、クリエイティブディレクター含め3人のコピーライターがいたり、映像部のディレクターやプロデューサーたちなどたくさんの人達が関わっている仕事で。全員個性が強くて。毎回、大いに議論しつつ、切磋琢磨しながら積み重ねている非常に楽しい仕事です。

―いわゆる他のブランド米とはかなり印象の異なるグラフィックが気になりました。

白井:ブランド米に関して青森は東北のなかで後発だったのですが、だからこそ、広告表現においても他県と違うことをしていかないと差別化できないと考え、いわゆるタレント広告を行なう県が多いなかで、あえて青森県に実際に住んでいる素人の方々をモデルとして起用することにしました。住んでいる方々に出演していただくことで、まずは地元の人たちにこのお米を好きになってもらう。その次に全国の人に好きになってもらおう、と。出演してくださった方々も、オーディションをしたわけではありません。映像部のスタッフが何週間も前から現地に行って、道端で声をかけたりしながら探し当てた人たちです。地道に足で稼ぎながらつくったグラフィックです。

デビュー当時「青天の霹靂」の広告グラフィック。青森県各地の様々な人たちに出演していただいた。

デビュー当時「青天の霹靂」の広告グラフィック。青森県各地の様々な人たちに出演していただいた。

―ブランドイメージの爽やかなブルーは、どういったイメージで決まったのでしょう?

白井:実は、このお仕事を始めるまで青森に行ったことがなくて、なんとなく暗い印象を抱いていたんです。でも実際に現地に行ってみると、とても爽やかで明るい。そこで見た景色や、緑や空、海の色が新鮮に感じました。青森の人たちの奥ゆかしさの先にある、根っこの部分のラテン的な明るさを表現していくのが良いかなと思ってこのカラーリングにしました。

青天の霹靂のパッケージデザイン

青天の霹靂のパッケージデザイン

白井:やはりその土地の空気を吸ってイメージに置き換えていくという作業は大事ですね。青森は訪れる度に可能性の宝庫だと感じますし、青森自体を好きになったからこそ、10年近く経った今でもこの仕事を続けられているのだと思います。

―その土地らしさというポイントに関連して、藤田さんがアートディレクションを担当された金沢のホテル「香林居」についてもお聞かせください。このホテルがある香林坊は、兼六園や金沢21世紀美術館にもほど近い美景地区として知られています。

藤田:九谷焼をはじめとする世界の工芸品を扱うギャラリー・眞美堂の築50年のビルをリノベーションするプロジェクトで、用途がまだはっきりと決まっていない初期の段階から関わっていました。建築の再生を託されるという、サン・アドにとっても初めての取り組みでした。アートディレクションで深く関わりだしたのは、建物をホテルとして利用することが決まってからです。

―ホテルをつくることに決まった際、パートナーとして「HOTEL SHE, KYOTO」などを手がける株式会社水星の龍崎翔子さんにお声がけされたそうですね。社内だけでなく、刺激を受けられる外部パートナーとの組み方もサン・アドらしさなのでしょうか。

藤田:金沢らしいものを取り入れたホテルは既にたくさんあったので、同じようなことをしてもつまらない。また50年の歴史がこの建物の良さでありつつ、リノベーションするにあたって色々な制約が生じることは想像できたので、何か宿泊以外の付加価値が必要そうだとチームで話していました。数ある候補の中から、その土地ならではの新しい価値のあるホテルづくりをされている龍崎さんはじめ水星のみなさんとご一緒することになりました。龍崎さんからは、香林坊という地名の歴史から、蒸溜や処方という発想をいただきました。それを踏まえて、クリエイティブディレクターの藤村が「新しい金沢時間を処方する」というコンセプトをつくりました。

香林居で過ごす時間を表現したグラフィック

香林居で過ごす時間を表現したグラフィック

―ホテルのアートディレクションとなると、関わる範囲もとても広そうです。

藤田:そうですね。アートディレクションの領域として、V.I.をはじめ、アメニティなどの館内ツール、コラボレーションアイテムのパッケージ、サインなどのデザインをしました。また、空間ディレクションにも関わって、トーン&マナーを決めたり、インテリアやお部屋におくアートなども監修しました。それにより様々な作り手と協働しましたが、コンセプトやデザインの方向性を言語化して共有することで、それぞれが思い描く理想が混ざり合い、統一した世界観が醸成されていきました。

リノベーション前からあった、象徴的なアーチ状のファサードに注目し空間の世界観を構築。既存の古い壁・床の素材も資産として活かした。

リノベーション前からあった、象徴的なアーチ状のファサードに注目し空間の世界観を構築。既存の古い壁・床の素材も資産として活かした。

アーチのモチーフはブランドアイデンティティにも昇華。内装やサイン、客室装備品など、館内のいたるところに反映した。

アーチのモチーフはブランドアイデンティティにも昇華。内装やサイン、客室装備品など、館内のいたるところに反映した。

―異業種の方とチームを組んでの仕事も多いのですね。石田さんが関わったNTTドコモの歩きスマホ防止キャンペーン「TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION」は、ファッション業界とのコラボレーションでしたね?

石田:これは歩きスマホ防止の啓蒙を、ファッションショーを通して行なうというキャンペーンで、「RequaL≡」というファッションブランドとコラボレーションして展開しました。「RequaL≡」のデザイナーである土居哲也さんをはじめ、ファッションショーの演出家の方、ポスターなどで展開する写真を撮影していただいたフォトグラファーの方など、さまざまなクリエイターにご参加いただきました。そういったクリエイターの方々と一緒の現場に立ってディレクションすることで、多くのことを学ぶ機会になりました。

「TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION」は、若年層をターゲットにした「歩きスマホ」の防止をテーマにしたプロジェクト。イベントやそれにまつわるGRやウェブサイト、ムービーの企画・制作をサン・アドが担当した。既視感のあるマナー広告とは異なるアプローチでインパクトを与えるために、「歩きスマホをしてしまう人の人間心理」を表現したファッションコレクションを制作し、日本最大のファッションコレクション『東京コレクション』にて発表した。

「TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION」は、若年層をターゲットにした「歩きスマホ」の防止をテーマにしたプロジェクト。イベントやそれにまつわるGRやウェブサイト、ムービーの企画・制作をサン・アドが担当した。既視感のあるマナー広告とは異なるアプローチでインパクトを与えるために、「歩きスマホをしてしまう人の人間心理」を表現したファッションコレクションを制作し、日本最大のファッションコレクション『東京コレクション』にて発表した。

「TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION」コンセプトムービー

―石田さんは、この案件ではデザイナーではなくアートディレクターとして携わったそうですね。

石田:はい。アートディレクターとして一人で担当した案件としては初めてでした。クリエイティブディレクター・プロデューサーの荒木をはじめ、コピーライターの本田やアシスタント・プロデューサーの竹馬など、社内でも若手のメンバーでプランニングしていく過程も楽しかったですね。広告は納期や予算を踏まえながら考えることも多いですが、違ったジャンルの方々と協業することでその枠を外して考える経験を積めた気がします。自分でもいろいろな提案をして、それが実際に形になっていったのも嬉しかったです。

岩崎:サン・アドのアイデア会議ではコピーライターもデザイナーも、もちろん他の職種も参加するのですが、思考回路がみんな違います。違うがゆえにわからないときもあるけれど、逆にわかり合えない気持ちよさもある。性格も思考も違う人と組むだけで違う空気が生まれるのも、「サン・アドの仕事が楽しい」と思える大きな理由かもしれません。

どんな人と働きたい? 多種多様な回答

―最後に、これからどんな人とサン・アドで働いていきたいか、お一人ずつ教えていただけますか?

石田:僕はこのなかだと一番若手なので、その目線でいうと「一緒に切磋琢磨できる仲間」ですね。日々実感しますが、さまざまなことに積極的に挑戦したいときに、それを受け入れてくれるどっしりと構えた先輩がたくさんいます。いろんなものごとに手を伸ばして、挑戦したい人にとっては楽しめる環境なのではないかと思います。

白井:一言でいえば、「柔軟性がある人」です。これから先、デザイナーという職業やコピーライターという職業がどうなっていくのか、まだまだわからない。だからこそ今後は、柔軟性が重要なキーワードになっていくでしょう。芯があってどんなアウトプットになっても対応できる人は、現在も、おそらく未来にも求められますし、自分自身もそうありたいです。

藤田:「どんな状況も楽しめる人」です。仕事の領域が広い会社だと思うので、その分、いろんなことに挑戦する機会があります。それを大変と思うのか、チャンスととらえるのか。自分なりに楽しむつもりでポジティブにとらえ、「つくる」ということの経験値として自分に還元していける人が良いのではと思います。

内藤:「こんな人」と規定できないような、サン・アドらしさがない人も良いのかもしれません。「ちょっと違うな」と思うものを持つ人同士が同じ環境にいることが、いい刺激になると思うので。

岩崎:「つくることに対して欲深い人」かなと。若い頃は必要以上に遠慮しがちで、自分自身もあまりでしゃばらないように、場の空気を読んで意見を引っ込めてしまうこともありました。でも振り返ってみると、ものづくりの現場ではそういう遠慮は要らなかったな、と。楽しいばかりではなく、仕事にはもちろんつらい局面はやってくる。けれど、アイデアを考えているときや、誰かとアイデアを交換するとき、本当にただただ楽しいんですよね。それは、真剣に、貪欲に、つくることを考え抜くからだと思うし、そういう人がサン・アドにはたくさんいます。なのでぜひ、そんな感じでお互い刺激しあいながら、つくることを欲深く楽しめる人と一緒に仕事をしたいな、と思います。

待ってます!

Profile

株式会社サン・アド

サン・アドは日本最古の広告制作プロダクション。

1964年、開高健、山口瞳、柳原良平らサントリー宣伝部出身者が中心となって創業しました。

サントリーのさまざまな製品はもちろんのこと、さまざまなほかクライアントの広告を手がけ、数多くのクリエイターを輩出しています。

その「人間味のある上質な表現を通して、日本人の生活に役立つ仕事をする」という精神は、創業から変わらず、今も受け継がれています。

現在116名(2024年4月時点)の社員が在籍するオフィスでは、制作に携わるすべてのスタッフが一堂に会して、ワンフロアで働いています。

映像制作を業務とするチームが、クリエイティブディレクター、アートディレクター、コピーライター、プランナーといったクリエイティブスタッフと、こんなにも物理的に近い距離で仕事をしているのは、ほかに類を見ない環境といって差し支えありません。

そんな環境から生まれるのが、クリエイティブの力を信じ、より丁寧なものづくりを心がける私たちの信条です。

どんなに突き抜けた発想も、綿密な計画や、地道な創意工夫の積み上げがなければ、ひとの心に届くものにはなりません。

そこにあるアイデアを、どこよりも良いかたちで具現化してゆく。

そんなプロフェッショナル集団を目指しています。

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