
お寺からメタバースまで。多様な領域でクリエイティブを生むMUZIKAが実践する、デザインの本質
- #スキルアップしたい
- #若手が活躍できる
- 2022.10.14
- FEATURE
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- 取材・文:石塚振
- 撮影:kazuo yoshida
- 編集:吉田薫(CINRA編集部)
ゲーム業界で感じた「アートディレクター」の必要性
―戸取さんは現在、クリエイティブディレクター/アートディレクター として活躍されていますが、どのようにキャリアをスタートさせたのですか?
戸取:武蔵野美術大学でデザインを学んだあと、1997年に新卒でSEGAに入社しました。グラフィックデザインで最先端なことができるのはどこだろう?と考えたときにゲーム制作かな、と思いまして。
入社後は、アーケードゲームをつくる部署で「CRAZY TAXI」というゲームのデザインを担当することになりました。CGでキャラクターや車をつくったり、いまで言うUIを考えたりする仕事です。

MUZIKA代表の戸取瑞稀さん
―入社当初はゲームグラフィックデザイナーとして活動されていたんですね。
戸取:そうですね。同時に、個人で雑誌の『WIRED』にイラストを描いたり、広告のグラフィックに携わったりもしていました。 そういった仕事の現場で、アートディレクションを担う人に出会って、ゲーム業界にもこの役割の人がいたほうがいいのでは、と思うようになったんです。
―ゲーム業界にはアートディレクターのような人はいなかった?
戸取:他社のことは詳しくはわかりませんが、当時はいなかったですね。逆に言ってしまえば、いなくてもつくれていたので必要性も感じられていなかったと思います。
自分としては、「そもそも何でこれが必要なのか?」という前提部分から深掘りして考えるアートディレクションを、ゲームでも実践できたらいいんじゃないか、と思って当時の上司にかけ合ってみたこともあったのですが、想いは汲んでくれつつも、大きい企業ですしすぐに導入するのは難しいという話でした。
戸取:ちなみに、いまも度々ゲーム制作に携わっているのですが、現在はデザインを統括して指針を示す役職の人がいるのが一般的になってきたので、ゲーム業界もぼくが会社に在籍していた頃とは変わってきていますね。
情報があふれている世の中で活きる、「尖った表現」とは
―その後、2005年に退職・独立されますが、きっかけなどはあったのですか?
戸取:大きい企業なので、年次が上がるにつれて管理職的な能力が必要になってきたからというのが一番の理由ですね。会社に勤めるクリエイターなら悩んだことがあると思うのですが、やっぱり、できるだけ手を動かしてものをつくりたいという想いが強いんです。それと、8年働かせてもらって、色々な仕事を経験した事もあり、ひとりでも生計を立てられそうという目処がついたタイミングでもありました。
独立後は、10年ちょっとフリーランスをしていたんですが、社会的な信用や、取引先との関係性を考えて、会社という体制をとったほうがいいかもしれない、と思うようになり2017年にMUZIKAを設立しました。

MUZIKAがオフィスを構えるco-factory渋谷。東京電力パワーグリッド社の変電施設内にあった元社宅フロアを、リノベーションのうえ再利用したクリエイター専用のシェアオフィス。入居者は、それぞれのクリエイティブ領域を活かしながら、渋谷区の課題を解決する試みやアイディア提出を年に数回行っているとのこと。左からアートディレクター / チーフデザイナーの沖田弘志さん、戸取さん、デザイナーの中山佐奈美さん
―MUZIKAはアイデンティティとして「Niche & Sense」を掲げていますが、どういった経緯でこの言葉を選んだのですか?
戸取:会社設立前から一緒に仕事をしていたコピーライターの方に、「外部から見て、MUZIKAはどのように見えるのか?」と聞いた際に出てきた言葉なんです。でも当初は、「ニッチ」は「狭い」「マイナー」といったネガティブな意味もありますし、「センス」も主観的な側面を持つので、「難しい言葉だな」と思っていました。
―たしかに、抽象度が高い言葉でもあります。
戸取:はい。なので、「Niche & Sense」という言葉は、MUZIKAとしてさまざまなプロジェクトに参加するなかで、徐々に「なるほど」と腹落ちしていった感じです。というのも、ぼくらがクライアントから求められるものに共通しているのが「尖った表現」なんです。言いかえれば「ここにしかないもの」「ほかで見たことのないもの」になるのかなと。
―なかなか難しいオーダーですね。
戸取:そうですね(笑)。でも、もともとぼくらも、そういった「尖った表現」をしたいと思って仕事をしてきたので、クライアントに求められるものと自分たちの目指しているものが、一致しているということでもあると思っています。
ぼくらがそのためにやってきたことは、膨大な情報やコミュニケーションのなかから、選んで削ぎ落として、「これだ」と思える表現に落とし込む作業です。そうした自分たちのこれまでの仕事を踏まえて、ニッチは「研ぎ澄まして、一点を突く」、センスは「膨大な情報のなかで何を研ぎ澄ますのかを判断する」という意味で解釈して、アイデンティティとして掲げています。
結果的に、メンバーの行動指針になっただけではなく、MUZIKAの機能や役割を、クライアントをはじめとした社外の人に向けて、わかりやすく示す言葉にもなったと感じています。

2019年にロゴデザインも一新。「もしMUZIKAという人格がサインを書いたら」というアイディアのもとデザインした(MUZIKA Instagramより)
表現とクライアントとのコミュニケーション双方に現れる「MUZIKAらしさ」とは?
―では「Niche & Sense」を実践していくために、どんなことに重点をおいているか教えてください。
戸取:ひとつは、メンバー一人ひとりのセンスとスキルを活かす努力をすること。案件の割り振りも、その人に合うものや特有のセンスとスキルが活きるものを渡すようにしています。
また、どんな表現においても、何が本質なのかを見つけ出し、それを研ぎ澄ますことが重要だと考えているので、そのためにクライアントと密にコミュニケーションをとることも大切にしています。ぼくらが掲げている「Niche & Sense」には、表現だけでなく、こうした議論や本質を追求していく作業も含まれているんです。
―なるほど。では具体的に案件でどのように実践しているか、印象に残っているプロジェクトはありますか?
戸取:ひとつは「GO!GNSS.GO!JAPAN.」という内閣府による宇宙関係のプロジェクトです。宇宙にある人工衛星と地球にあるアンテナを使って取得したGPSのデータを、世界の研究者や民間企業がダウンロードできるサービスで、ぼくらはウェブサイトの全体設計とコンセプト設計、そしてデザインに携わりました。この案件に関しては、表現の面とクライアントとのコミュニケーションの双方の面で、MUZIKAらしさが出せたのではないかな、と思っています。
―どういった点で、「MUZIKAらしさ」を発揮できたのでしょうか?
戸取:表現の面では、当初は単に「データを取得するためのサイトをつくってほしい」というオーダーでした。でも「本当にそれだけでいいのだろうか?」と与件に疑問を持つところからスタートし、「サイトを使う人の気分はどのようになるべきか」、といったことを突き詰めて考えていくことにしたんです。機能がメインで求められるサイトでは使いやすさを重視しがちですが、それだけだと味気ないものになってしまうんですよね。結果的には操作している人の気持ちが高揚するような、「何かすごいことをしている」と感じられる表現が必要だという考えに辿り着き、使いやすさは担保しつつも、SFや近未来的な要素を取り入れたサイトを設計していきました。

「GO!GNSS.GO!JAPAN.」のウェブサイト。ユーザビリティを担保し、エンターテイメント性を盛り込んで、ユーザーのモチベーションが上がるようなデザインにこだわっている
戸取:コミュニケーションの面では、自分たちの考えを、内閣府に対してプレゼンし、受け入れてもらえた、と言う点にMUZIKAらしさが出ていると思います。デザインの共通言語を持っていないクライアントと一緒に仕事をすることも多いぼくらのプレゼンは、独特なところがあるので。
―「独特」というと?
戸取:まず、クライアントがイメージしやすいよう、プレゼン資料にはサイトの完成形に近いデザインのイメージ画像なども盛り込んで、より最終的なアウトプットをイメージできるようなプレゼンをしています。「こういったページの見え方にすることで、ユーザーにはこういった行動が期待できます」といった説明を、実際に画像を見せながら説明していくんです。
また、Tシャツをつくってクライアントの方々にプレゼンの際に配って着てもらったり、提案の日が七夕だったことに合わせて宇宙から会話を広げていったり、最初の段階でチーム感や、楽しい雰囲気をつくっていくようにしました。

実際にプレゼンの際に配ったTシャツとポロシャツ
戸取:こうした、資料の完成度を高く設定したり、チームとしてやっていきましょう、という雰囲気をつくるために何かしらのサプライズを盛り込んだりしたプレゼンを、MUZIKAでは心がけていますね。
アウトプットはあくまで結果。そこに辿り着くまでのプロセスが仕事の本質
―そういったプレゼンを行うようになったきっかけは何かあるのでしょうか?
戸取:若い頃に打ち合わせに参加するなかで「いいな」と思った他の人の提案の仕方を自分なりに解釈して、実践していくなかでいまのプレゼンのスタイルになっていきました。
特にクライアントに対して初めて行うプレゼンは、ぼくらのスキルやセンスが活かせるような場をつくるうえでとても大切で、力を入れています。クライアントに「ここに仕事を任せたら楽しそうだし、より広がりが出そうだな」といった印象を持ってもらい、ワクワク感を持っていただくことで、クリエイティブのイニシアチブを握っていくんです。
―そうすることで、より深いコミュニケーションが行えるのですね。
戸取:そうです。例えば、「この目的の達成のために、この表現をしてほしい」という依頼であっても、目的と表現が噛み合っていないときもある。「こういうオーダーをもらったけど、目的達成のためには全然違うものを作成したほうがいいと思う」という提案もいいモノをつくるためには必要ですが、クライアントとの関係がちゃんと築けていれば、スムーズに受け入れてもらえるはずです。
ぼくらの仕事の本質は、思考や議論を重ねて、本当に必要なものは何かを見極め、つくっていくこと。どのような案件においても、この作業が必要になってきますが、そのためには、クライアントと率直に対話ができる信頼関係が不可欠なんです。

小学館とLATEGRA社との共同プロジェクト、メタバース「S-PACE」。MUZIKAは全体クリエイティブディレクション、アートディレクション、デザインを担当している

東京外国語大学「多文化共生イノベーション研究育成フェローシップ(MIRAI)」のコミュニケーションデザインを制作
―お寺やメタバースなど、幅広い案件を手がけられていますが、本質は同じだと。
戸取:表現物だけを見ると、同じ会社がやっているとは思えないくらい幅があるかもしれません。ただ、アウトプットはあくまで結果であって、そこに至るまでの「突き詰めていく」という作業は同じです。
お寺のプロジェクトは「お墓が売れない状況で何をすべきなのか」を考え、ヒアリングするなかで、最終的には「自分とは何か?」を突き詰めるための商品の開発を行っていきました。メタバースも同様で、インターネット空間でアバター、ひいてはアバターを操作する人は何をすべきなのか、を突き詰めていきました。どんな与件があっても、一度、「人間」の根源的な部分に立ち戻って考えるという部分は変わらないですね。
「ゼロから考える」ことの難しさと面白さ
―活動の場が広がっているかと思いますが、企業として今後、実践したいことやチャレンジしたいことはありますか?
戸取:チャレンジとしては、ぼくらのつくったものを体験する人がどのような生活を送ってもらえるといいかなど、より立体的なものや公共的なものにもデザインの考え方を広げられるような仕事に挑戦していきたいですね。MUZIKAは現状、グラフィックデザインをベースとしたコミュニケーションが強いのですが、クリエイティブディレクション的な発想をもとに、できる領域があればいろいろとトライしてみたいなと考えています。
―そうしたMUZIKAの今後に向けて、どのような人と一緒に働きたいですか?
戸取:自分がイメージしたものをかたちにできるスキルと、MUZIKAの表現や考えにシンクロできるセンスを持っている人ですね。センスは一般的に「センスがいい」という話でもないので難しいですが、目指したい方向性がいま話してきたような、ぼくらの考えと合致しているといいな、と思っています。
ぼくらの仕事は、ゼロから考えることがほとんどです。目的以外は何も決まっていないところからスタートする案件もあれば、いただいた依頼を根本から問い直し、一度ゼロにしてから考えるという案件もある。簡単ではないですが、自分のスキルやセンスを最大限に活かせるチャンスや面白さもあると思います。やりたいこと・やってみたいことがある人ほど、MUZIKAの考えのもと、強く広く活動できるし、活動してほしいです。
Profile

MUZIKAでは、他では出来ない表現やスキルを大切にし、「Niche & Sence」というキーワードをコーポレートアイデンティティに掲げています。そのためにも、メンバーの持つデザインスキルとデザインセンスをとても重要視しています。
仕事内容は、主に企業ブランディング、コンテンツブランディングが中心で、会社としてはクリエイティブディレクション、アートディレクション、デザインの機能を備えています。デザインコンサルの側面を持ちながら、CI、ゲーム、メタバース、映像、アニメーション、WEB、紙媒体など多種多様なクリエイティブをアウトプットし、クライアントの抱える課題に対して解決すべくサポートをしています。
自身の持ちうるデザインスキルとデザインセンスを多様なクリエイティブで発揮したい方、ぜひ一緒にMUZIKAで働いてみませんか。