音楽業界とアニメ業界を、デザインとグッズ製作の現場から支えたい

株式会社 楽日

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ライブやフェスの会場で、Tシャツなどのグッズを買ったことのある人も多いのでは? 楽日はそんなグッズやCDなどのパッケージデザインを手がける会社。アーティストと二人三脚でデザインを決める背景には、作品への深い愛情がありました。
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    株式会社 楽日

    「楽しい日」と書いて「ラッカ」と読みます。人気アニメや音楽アーティストのデザインを手がける会社です。

    当社は「音楽」と「アニメ」のクライアントをメインにデザイン、企画、制作、販売業務などを行う会社。

    著名なアーティストや人気アニメのCD、DVDのパッケージからTシャツやポスターなど、様々なグッズや販促物の企画・デザインを、クライアントとの直接取引で手掛けています。

「好き」を仕事にするために歩んだ苦難の道

学生の頃から絵を描いたり楽器を弾いたりすることが好きで、デザインや音楽にまつわる仕事に就きたいと思っていた加藤さん。しかし、両親から「アートや感性でメシは食えない」と大反対され、憧れの美大は受験することさえも叶わなかった。大学進学を断念し、入社したのはサッカー用品を取り扱うスポーツメーカー。小さな貿易会社だったこともあり、商品企画から営業、細かな事務作業に至るまで、幅広い業務を担当することになった。しかし意外にも、加藤さんはこの仕事をきっかけに、一度は諦めたデザインの道を再び目指すことになる。

加藤:新卒で入社したのが今から20年ほど前。ある時、海外のスポーツブランドの国内展開用の販促物を制作するように言われたんです。その当時は会社にワープロしかなく、さすがにそれでカタログを作るのは無理だろうと思い、デザイン事務所の力を借りることにしました。手描きのイラストやワープロを駆使し、さらに雑誌の切り貼りで作ったイメージをもとにデザインを依頼。その後デザイン事務所から上がってきたラフを見て衝撃を受けたんです。「僕が手作業で作ったイメージがこんなにかっこよくなるんだ!」って。

代表取締役・加藤晴久さん

代表取締役・加藤晴久さん

その後、加藤さんは勤めていた会社を辞職。デザイン事務所の門を叩くために、まずデザイン学校を卒業しなければと一念発起した。必死でお金を貯めて購入したばかりの車を学費捻出のために売るなど、迷いは一切なかったという。卒業後は晴れてデザイン事務所に就職した。

加藤:実は、デザイナーではなく「デザインもわかる営業企画」として入社したんです。その頃には、絶対に自分で手を動かしてデザインをしたいという気持ちよりも、自分が熱中できる仕事をとってきて、人とコミュニケーションをとりながらモノづくりをしていきたいという気持ちの方が大きくなっていました。

ようやく願った業界に足を踏み入れた加藤さんだが、そこで満足したわけではなかった。会社としては未知の領域だった音楽業界の仕事を獲得すべく、様々な道を模索したのだ。

加藤:当時はインディーズ音楽が好きだったのですが、全国にチェーン店を持つ大手CDショップがインディーズの情報を紹介するフリーペーパーを作っていたんですよ。こうした情報誌に携わることができたら、もしかすると音楽業界の仕事を開拓できるかもしれない。そこで担当者に、「デザインをやらせてほしい」とお願いし続けました。そうしたら、店頭POPやフライヤーの制作を任せてもらえることになり、あるタイミングでフリーペーパーのデザインもやらせてもらえるようになったんです。そこからいろんなレーベルやマネジメント会社との繋がりができました。僕が今も音楽業界との仕事ができているのは、このとき無我夢中で走った経験があるからです。

デザイン事務所で実績を積んだ後、加藤さんはアパレル商社に転職した。社内ブランドの販促ツールなどを制作するデザインチームを新しく立ち上げる話が舞い込んだからだった。独立を視野に入れつつ、チーム作りを勉強する目的での転職でもあったが、ファッションの仕事をする傍ら、前職からの繋がりで音楽業界からの仕事も請け負っていた。ここでファッションと音楽を融合させた展開で実績をつくる。会社からは加藤さんが代表の子会社を作ると打診があったが、「ゼロからやってみたい!」と独立へ踏み出した。

自身と会社の成長のきっかけは「凛として時雨」と「RADWIMPS」

2006年には自らの会社として楽日を設立。初期の楽日では、加藤さんが得意とする音楽業界の仕事のみをしていたそうだ。しかも、アーティストマネージメント会社とインディーズメーカーにしぼって。メジャーメーカーからの案件は受けない。それが独立当初に決めたことだった。

加藤:10年以上前のことになるけれど、音楽業界の移り変わりを見てきて、これからアーティストマネジメントとインディーズがもっと伸びてくるはずだと思っていたんです。それから、今ほどCDが売れなくなるんじゃないかと予想していました。そうなると、ライブの付属品みたいな捉え方をされているグッズ(物販)が、なくてはならないものになる可能性が高い。そのうちに予想していたとおり、グッズの売り上げがアーティストの活動を支えているんだなと実感する場面が増えていきました。立ち位置としてはアーティストとデザイナー、場合によっては事務所の担当者をつなぐHUB。例えば、音源(作品)やツアータイトルを元に僕がグッズのテーマやアイテムを考えて、アーティストとデザイナーに方向性を詰めてもらったりしています。

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なぜそこまでグッズにこだわるのかを聞いたところ、加藤さんは「グッズはバンドの分身。バンドから切り離された別のものではないから」と答えた。なかでも、強く記憶に残っているのが「凛として時雨」のグッズ制作だという。

加藤:「凛として時雨」のモノづくりでは、音楽性にもあるように激しくも繊細なアートワークをどれだけグッズに踏襲できるかが求められます。毎度、僕とTK、そしてアートワークを担当するYukiyo Japanとでトライ&エラーを繰り返す実験性の高いモノづくりになっており、探究心を掻き立てられるような刺激をもらいます。

楽日と加藤さん自身を成長させてくれたのは、「RADWIMPS」だそうだ。

加藤:もともとRADWIMPSはインディーズ時代から知っていたのですが、メジャーデビューをし、注目度も上がっていたので、まさか僕に話がくるなんて思っていませんでしたね。嬉しい反面、正直、うちのような駆け出しの会社が規模的にも受け止められるのかという不安もありましたが、〝やりたい”という気持ちが不安を凌駕しました。RADWIMPSとのモノづくりは言葉では言い表せない次元にあるというか、型にハマらないバンドなので、常にいろんなものにアンテナを張っていられます。

インディーズのアーティストを中心に手掛けてきた楽日(ラッカ)にとって、ツアーの動員数も桁違いというRADWIMPS。彼らのグッズを担うからには、アイテムのクオリティだけでなく、さまざまな数字とのバランスをとることや、そのプロセスも重要だという。

加藤:作ったものを納品して終わりではなく、原価と販売価格との兼ね合いも考えますし、その売れ行きも気になります。チームの一員でありたいというのかな。必要以上に関わらなければリスクを負わなくていいけれど、その分自身の成長もない。一緒に成長していくというのが一番いい付き合い方なんじゃないかと思っているんです。それをRADWIMPSというバンドを通して教わりました。そしてRADWIMPSに限らず、少しでも踏み込んで、良い意味でプレッシャーと責任を背負いながら、これからもアーティストと共に創っていきたいと思っています。

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似て非なるアニメ業界と音楽業界。
その「違い」が制作にもたらすメリット

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その「違い」が制作にもたらすメリット

では、もうひとつの軸となっているアニメについてはどう考えているのだろう。楽日にアニメ部門がある背景には、設立して丸2年が過ぎた頃に入社したスタッフの存在があった。案件の導入口、アニメ業界における知識や技術など、必要な要素が微妙に違うため、音楽とアニメは全くの別チームとして分けているのだという。

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加藤:「音楽とアニメのモノづくりって似ているでしょ?」と言われることがあるのですが、僕たちにとっては、似て非なるものです。デザインの入口もグッズ制作の終着点も実はたくさんの違いがあるんです。この違いは現場にいないと伝わりにくいのですが、少なからずスタッフがより夢中になれる方に配属しています。

異なるジャンルを並行することのメリットを訊ねると、「僕自身がアンテナを張っていられること」と加藤さん。似て非なるものとはいえ、同じ時代で起きていること。一方での経験が、もう一方へ活かせた経験も少なくない。戦略を練り、一歩を踏み出す上でも重要なヒントとなるのだ。

加藤:アニメに関するイベントも増えてきたので、音楽業界で培われたモノづくりの知見が生きています。音楽とアニメ、どちらかひとつをやるだけでは得られないノウハウというものが、間違いなくあります。

見えないところで、失われつつあるクリエイティブな空間を、守りたい

冒頭でも触れたとおり、楽日は今年で10周年を迎える。この節目にあたる年に、「共創(=共にものを創る)」をテーマにしたWEBマガジンとフリーマガジンをリリースするのだという。自社のPRメディアにする気はまったくない。モノづくりの現場の実態を伝え、価値あるモノづくりのカタチを存続させることが目的だという。「そこには発信者のチカラが必要なのですが」と前置きしながらも、加藤さんはこう語った。

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加藤:ものを創るという仕事をしていて、工場で働く人のチカラがなければ続けてこれなかったということを改めて感じています。日常生活では工場に行く機会なんてなかなかないと思うのですが、工場って独自の創意工夫が詰まったクリエイティブな空間なんですよ。熱があり、魂が込もった現場がそこにはあるんです。しかし、その現場は見えにくい。僕たちが創るメディアがそういった現場に光を当てることで、若者がその存在に気づき、その素晴らしい技術や精神を未来に継承していくためのひとつのきっかけになれたらと思っています。

加藤さんが学生時代に憧れたこの世界だが、「入ってみればエンタメ業界は地味なことの積み重ねだと気付いた」という。特にグッズの制作を担っていると見えてくるのが製品工場の現状。一時期はライブ興行の盛り上がりから大量生産が重視され、海外の安価な工場に発注が集中した。その結果、廃業に追い込まれてしまった国内工場を目の当たりにしてきたそうだ。最近では小ロットで生産ができる国内工場に需要が戻りつつあるが、若い働き手がほとんどいない。この状況に、加藤さんは危機感を抱いているのだという。

加藤:例えば、Tシャツのプリント工場を取り上げます。新しいメディアでは、人気アーティストやアニメのグッズ製造の現場を撮影し、リポートする予定です。そうすることで、ミュージシャンのファン・アニメファンの目にも届くし、興味を持ってもらえると思うんですよ。100人のうち、たった1人でも工場で働きたい人が出てくれば状況もきっと変わってくるはず。「若者が育たない」というより、まずはこんなに誇らしく、クリエイティブな世界があることに気付いてもらうことから始めなければならない。そして、どんなカタチでもエンタメ業界と触れ合う方法があるんだってことを伝えていけたら、モノづくりの未来はきっと明るいと思います。