働き方、職種、国籍を越える。これからのクリエイティブに必要な「越境」とは
- 2018/05/31
- FEATURE
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共同創業者である出村光世さんと荻野靖洋さん、金沢拠点代表の宮田大さん、自由な組織を下支えするバックオフィスの丑田美奈子さんにお話を伺った。
- 取材・文:小沢あや
- 撮影:岩本良介
カオスな状態が、良いクリエイティブが生まれる空気につながっている
ここ数年、「副業解禁」や「リモートワーク」など、自由な働き方を推進するワードが飛び交っている。だが、Konelは2011年の創業当初から、自然と柔軟な働き方を実践していた。それは共同創業者のワークスタイルがもともと多様だったことに起因するそうだ。
—出村さんは、外資系コンサルティング企業に所属しながらKonelを創業しています。その後も広告代理店でプロデューサーを兼務するなど、経営者と会社員の二足のわらじを履いていたそうですね。
出村:もともとはコンサルタントとして、郵政や防衛、放送など、国のインフラに関わる大型プロジェクトに従事し、左脳をフル回転させるような仕事をしていました。その反動で思い切り右脳を使ってクリエイティブすることを欲し、フリーランスになったばかりの荻野とKonelを立ち上げたんです。
出村:Konelでは、手触りのある制作が心から楽しめたので、もっとダイナミックな仕事に取り組みたいという欲求が大きくなりました。そこでクリエイティブ業界を俯瞰するために、Konelを経営しながら広告代理店の東急エージェンシーに入社しました。
東急エージェンシーでは、クリエイティブユニットであるTOTBのプロデューサーとしてさまざまな経験をし、たくさんの仲間ができました。いまはKonel経営者としてのウェイトを高めるために、会社員の籍は抜きましたが、名刺は持ち続けながら、クライアントニーズに合わせて自分の肩書きを使い分けています。
—どのように肩書きを使い分けているのですか?
出村:メディアバイイングが伴う案件は、広告代理店としてお手伝いするほうがクライアントにとってメリットが大きくなります。いっぽうで、自分たちが持っている仮説を試すためのプロダクト開発や、スタートアップ企業の支援はKonelで推進することが多いです。
最近では、ある大企業のCMO(マーケティング責任者)も兼任し、マーケティングチームの組織づくりをしたり、広告代理店に発注したりすることも増えてきました。事業会社、広告代理店、制作会社、3つの顔を持っていると、見えてくることが多くて刺激的です。
—やりたいことを我慢せずに、両方続けてきたわけですね。
出村:そうですね。やりたいことが複数あるから選ばなきゃいけないという固定観念は古臭いと思っています。ぼくの働き方がこんな感じなので、Konelのメンバーもいろんな仕事との掛け持ちが多く、半分は現役フリーランスで構成されています。他企業との兼業者も在籍しており、最近はリクルートやバスキュールなどからも業務委託でメンバーが集まってきました。
Konelでは、デザイナーがプログラムを書くし、エンジニアがコピーを書く。ベトナム人が日本語でオンラインのミーティングに参加するし、韓国人が英語でアメリカ人スタッフに話しかけている。さらに、夜になると昼間違う会社にいた人が出社してくる。こんな「カオスな状態」が、良いクリエイティブが生まれる空気につながっていると感じます。
フリーランスとしての限界を超えられる組織のあり方
—フリーランスの期間が長かった荻野さんから見て、Konelとはどういう組織ですか?
荻野:ぼくは創業当初から、フリーランスとしてKonel以外の仕事も続けています。フリーランスは自分の裁量で仕事を進めていける利点はありますが、課題もあります。一番大きいのは成長意欲とキャパシティーが吊り合わなくなってしまうこと。
たとえば、5年前から懇意にしているクライアントの仕事を楽しく続けているものの、当時のスキルセットに合った難易度や単価のままで続けている人は多い。本当はもっと難易度も単価も高い仕事にチャレンジしたいのに、昔からのつき合いの仕事にキャパシティーの一定量を割かれてしまうので、どうしても動きがとりづらくなるんです。
でもKonelの一員になると、メンバーやパートナー企業の方々とチームで仕事に取り組めるので、懇意にしているクライアントの仕事をチームで対応しながら、新しい仕事にも取り組めるんです。
荻野:また、Konelというカオスな組織に刺激を受けたデザイナーが、よりクライアントのビジネスに貢献したくなり、エンジニアや映像クリエイターを巻き込んで統合的なクリエイティブを行うこともよくあります。
クライアントワークでは試す機会が少ない技術を自社プロジェクトで実験することも多いので、ぼく自身、フリーランスだけのときより学習意欲が高まっているように感じます。こういった環境に共感して、フリーランスを続けたままKonelのドアをノックしてくれる人は多いですね。
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- そこで生活したいから、そこに拠点をつくる。東京から地方、海外へ
そこで生活したいから、そこに拠点をつくる。東京から地方、海外へ
—Konelは「働く場所」に関しても自由な取組みをされていると伺いました。いま取材をさせていただいている馬喰町オフィスは、全体がシェアオフィスでもあるんですね。
出村:築50年の3階建ビルに惹かれて、創業5年目のときに引っ越してきました。当時の会社規模では持て余す広さの物件を勢い余って借りたこともあり、自然とシェアオフィスにしようという発想になりました。クリエイターが交差する場所になれば良いと思い、「FACTORY」という名前で開業したところ、大阪のクリエイティブ集団やドローン映像のチーム、地方創生NPOなど多彩な人々が使ってくれるようになりました。
出村:ワークスペースとして使っていたフリーランスのコピーライターが、気づけばKonelにジョインしていたこともあります。1Fはアートスペースとして、アーティストや美大生が不定期に展示を行っています。どんどん人が交差して、もっとカオスになれば良いなと思っています。
—そして、宮田さんは金沢拠点をベースに仕事をされているそうですね。
宮田:数年前までは東京の制作会社で働いていたのですが、自分の地元で働くことを選び、金沢のプロダクションで映像製作やデザインを行なっていました。そのあいだもKonelのクリエイティブディレクターとして東京の仕事を受託していましたが、だんだん金沢の仕事をKonelのメンバーでやっていきたいという欲が高まり、プロダクションを辞めて、金沢の拠点を立ち上げたんです。
ただし、金沢だけにこだわるつもりはありません。これまでどおり県外の仲間とチームを組んで仕事をしたり、東京移住希望や二拠点生活に挑戦するクリエイターとも広く関わったりしていきたいと思っています。そこで、金沢の伝統ある茶屋街「東山」にもFACTORYをつくりました。
宮田:ぼく自身もプランニングからディレクション、デザイン、コピー、コマーシャルソングの歌詞まで、分け隔てないものづくりをしていますが、プロダクトやIoTなど、もっといろんな仕事に携わりたいと思っています。
そういった面でも、金沢は良い意味で変わったクリエイターが多く、面白い企画やアイデアには必ず手を上げて協力してくれる人がいます。デザインやアートに造詣が深いこの街で、自分たちの欲望をかたちにする「Konelのクリエイティブ」を発信していきたいですね。
—ご自身の生活や、やりたいことを大事にした結果、金沢拠点が生まれたわけですね。
荻野:それはベトナム拠点も同じなんですよ。以前、経済産業省のプログラムで、ベトナムの工学系大学の教員がインターンシップにきてくれたのですが、帰国後もKonelの仕事を続けたいと言ってくれて、自分が所属しているCan Tho大学の研究室と産学提携を結ぶことになりました。いまではKonelが大学に設備投資をして、IoTのラボをつくり、研究開発を進めています。帰国するからKonelを卒業するという、安易な発想にならなかった彼を尊敬しています。
「誰かの承認を得るために待つくらいなら、すばやくかたちにして社会に投げかけたほうがロスは少ない」
—丑田さんは、最近大企業から転職されたそうですね。
丑田:前職は駅ビル運営会社で、主にマーケティングに従事していました。やりがいのある仕事を長年勤めたうえでの転職は軽い決断ではありませんでしたが、結婚や出産などライフステージの変化が訪れるなかで、新たなことにチャレンジしたくなった私をKonelが受け入れてくれたんです。
—大企業との違いを感じる点はどんなところですか?
丑田:衝撃的だったのが、「許可を求めるな、謝罪せよ」という言葉。エンジニアの人にとっては有名なフレーズらしいんですが、初めて荻野からこの言葉を聞いたとき、自分はこれまで許可を取るためにかなりの時間を費やしてきたことに気づきました。
荻野:誰かの承認を得るために費やす時間って、すごくもったいないですよね。それなら先にかたちをつくってしまい、具体的に議論ができる状態にもっていくほうが、合意形成も極めてスムーズです。もし間違いがあったとしても、あとから謝ったほうがロスは少ない。そもそも物事を先回りして考えていれば、謝らなきゃいけないようなミスなんてなかなか起きないし。仕事を早く進めるためにも、この思考は大切にしています。
丑田:Konelには、まさにそのとおりのカルチャーがあり、驚きでした。大企業で何か新しいことを始めるときには、それなりの承認プロセスが存在します。そのことで安心して進められる一方、承認を取るあいだに世の中が変わってしまったり、尖った企画の角がいつの間にか取れていたりなんてことも。
Konelでは仮説ができたらまずは共有し、1人のアイデアを多角的なメンバーで揉み、筋が良ければプロトタイプを先につくります。それを早々に世に開示し、社会に投げかけながらかたちを変えていくんです。
つまり「許可を取るより、やってみて間違っていたら謝ればいい」というスタンスでスピーディーに検証を繰り返す。そんなチームに触発されて、バックオフィスメンバーの私も二児の母としての実体験をもとに「ギルティフリーな子ども向けお菓子」をつくるプロジェクトを立ち上げました。金沢など地域の素材にデザインの力を加えつつ、シリーズ化を目指しています。
目の前の「欲望」に全力で向き合う。そんな個が集団になると強い
—それぞれ本当にやりたいことを実現されていらっしゃるのが印象的です。「欲望を、形に。」が会社のビジョンとのことですが、実践するためのコツはありますか?
出村:関わるメンバーがエンドユーザーの欲望を想像できるお仕事のみお請けする、というのがKonelの理想です。メンバー自身がエンドユーザーである場合は最高です。シンプルですが、それがクリエイティブのパフォーマンスを最大化するための最低条件だからです。
こういう場合、私たちもエンドユーザーとしての視点が強く入るので、クライアントとの議論が活発になりがちですが、その分、良いコミュニケーションができていると思います。その成果もあって、最近はマーケティングやプロモーションの仕事だけでなく、経営会議に呼ばれてクリエイティブ視点の討議を交わすことも増えてきました。
荻野:積極的に自社プロジェクトを走らせるようにしています。「いまこれがトレンドだから」といった社会的な潮流とは別に、自分が欲しいものをつくることが大事。そのほうが、純度を高く保ってクリエイティブできるし、その経験がクライアントワークに活かされたり、時にはプロトタイプがそのまま売れてしまったりします。依頼ありきではなく、欲望ありきで生まれたアイデアがかたちになって、サービスやプロダクトとして売れていくのは嬉しいですね。
これからも、個性が違うメンバーたちの欲望がどんどん混ざり合って、よりカオスなチームをつくっていきたいと、ボードメンバーの四人は語る。組織論やマネジメント技法からではなく、個の欲をぶつけ合う過程でつくられるバランスが、良いクリエイティブを生む環境につながっていると確信しているからだろう。
Profile
Konelは東京 / 金沢 / ベトナムに拠点をおくクリエイティブカンパニーです。人間の欲望を起点として、世の中をアップデートするクリエイティブを形作っています。挑戦していきたいことが大幅に増えてきたため、全方位的に新しい仲間を募集します。
【誰がいるのか】
Konelには、ディレクター / エンジニア / プランナー / グラフィックデザイナー / UXデザイナー / コピーライター / プロデューサー / 大学教員など様々な職能を持つプレイヤーが働いています。大半のメンバーが複数の職能を掛け持っているため、デジタル・リアルといった境目を全く持たず柔軟な視点で仕事に取り組んでいます。あらゆる職能を歓迎し続けた結果、5か国の多国籍なメンバーになりました。
【どうやって仕事が生まれるのか】
マーケティングとクリエイティブのスキルを軸にして、アウトプットを形作っています。仕事やプロジェクトが生まれるきっかけは、様々です。過去の実績を見て、仕事の依頼が来たり、アイデアがあり、マッチする企業に企画を持ち込んだり、ただ欲しくて、自ら作ってしまったり。定型な仕事はないため毎度立ち上げが大変ですが、気の多い人はとても楽しめます。
【何をしているのか】
大手企業から海外のスタートアップまで、幅広いクライアントワークと、メンバーの個人的な欲望から生まれた仮説を実証するための自社プロジェクトを両輪で回しています。いくつかのプロジェクトを下記に例示します(制作実績参照)
【Konelで働くと得られること】
・“自分がやりたいこと”を出発点に、それを様々な形で実現できること
・多様な仲間と化学反応を起こしながら、自分の領域を広げられること
【こんな人を求めています】
Konelは“欲望を形に”をビジョンとして、欲張りな人を求めています。それは我が強いということではなく「アレもコレもしたい、全部やりたいから選びたくない」という人生に対して欲張りな人です。
「企業は個人のやりたいことを成すための器」が創業メンバーの持論です。器には、資金・個性的な仲間・世の中からの信用という材料が詰まっています。自分の欲望を形にするために、いかに料理するかが溌剌と働くためのポイントです。
Konelを使いこなす意欲がある人、お待ちしています。(コネル金沢は2018年4月にオフィスを東山近くのリノベーションビルに移転しました。金沢へのIターン・Uターンも大歓迎です。)
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