「編集力」はすべての仕事に役立つ。インクワイアが考える未来の編集者像

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社会をアップデートするWEBメディア『UNLEASH』編集長、ライティングスキルの共有化を目指すコミュニティーサービス「sentence」オーガナイザーを務める編集者のモリジュンヤさん。代表取締役を務める編集デザインファーム「inquire(インクワイア)」は、フリーランスの編集者が集い、「社会が変容する媒体をつくる」という理念を掲げ、独自の編集チームのあり方を模索している。「これからは新たな編集視点が必要」と語る代表のモリジュンヤさんと、編集者の小山和之さん、向晴香さんに、編集視点を持つことで得られることや、未来の編集者像について語ってもらった。
  • 取材・文:笹林孝司
  • 撮影:豊島望

新しいかたちの編集者コミュニティー。インクワイアという組織のあり方

—まずは、インクワイアという組織の枠組みを教えてもらえますか。

モリ:ぼくが代表取締役を務めていて、そのほかは、フリーランスの編集者やライター、個人のスキルを生かして副業でクリエイティブワークなどをしている人がインクワイアに関わっています。全国各地にいるメンバーは30人ほど。プロジェクトベースで、それぞれのスキルに合った業務をお願いしています。

—フリーランスの編集集団とも言えると思いますが、中心になるメンバーもいらっしゃるのですか。

モリ:コアメンバーは7、8人で、ぼくの考えやインクワイアの目指す方向性により共感して、深く関わってくれている人たちですね。彼らは編集業務だけでなく、ディレクターのような立場で、複数のプロジェクトに携わっています。向と小山も、コアメンバーという立ち位置ですね。

代表取締役のモリジュンヤさん

代表取締役のモリジュンヤさん

—向さんと小山さんはコアメンバーとのことですが、インクワイアに所属する以前はどのようなお仕事をされていたのですか?

向:私は大学在学中に翻訳アルバイトを経験したのち、テックやソーシャル系メディアで記事を執筆していました。その後、副業でライターの仕事をしつつ、教育系のベンチャー企業でマーケティングを担当。そのなかで、求人サイトでインクワイアを知って応募し、少しずつ仕事で関わるようになりました。いまは、フリーで編集、ライターを続けています。

小山:ぼくは大学卒業後、建築設計事務所を経て、デザインコンサルティング会社に入り、ディレクションやオウンドメディアの立ち上げ、編集などを行いつつ、フリーの編集者、ライターとしても活動していました。そこで、モリさんを取材する機会があったんですけど、そのときに話されていた編集に対する考え方に興味を惹かれて。

その後、インクワイアが主催するライターのコミュニティー「sentence」が開催したスクールに参加した縁で、会社員と個人の仕事を続けながら、インクワイアの仕事にも関わるようになりました。

編集者・ライターの向晴香さん(左) 編集者の小山和之さん(右)

編集者・ライターの向晴香さん(左) 編集者の小山和之さん(右)

—給与形態はどのようになっているのでしょうか。

モリ:給与形態は、コアメンバーや普通のメンバーという区分けはなく、お願いしている仕事によって異なります。月額固定でお支払いする人もいれば、何本原稿を書いたかによってお支払いする人もいますし、そのハイブリッドでお支払いする人もいますね。

—インクワイアでは具体的にどういった案件や業務を行っているのですか?

モリ:自社メディアやライティングコミュニティーの運営をしつつ、クライアントワークを行っています。クライアントワークでは、編集パートナーとして、メディアのコンセプト設定、事業と連動する目標設定、運営体制の構築、コンテンツ制作など、メディア運営全般を支援することが多いですね。

—それだけ多くの仕事があるなかで、コアメンバーにはどのように仕事を振り分けているのでしょうか?

モリ:ぼくはコアメンバーと2か月に一度くらいの頻度で面談をしていて、興味があることや得意分野、伸ばしたいスキルなどを共有しています。それを踏まえたうえで、個人の仕事との兼ね合いを見つつ、インクワイアとコアメンバー、両方の能力を伸ばしていけるような案件にジョインしてもらっています。

—ただ仕事を振るのではなく、個人と組織の双方に良い影響を与えることを前提に進めていくのですね。

モリ:インクワイアは、いわゆる会社的なピラミッド型の組織ではありません。上意下達ではなく、コミュニケーションを取りながら、業務範囲を決めているんです。

自社メディアの運用のほか、外部の編集コンサルティングやブランディング戦略などの業務を請け負う(画像提供:インクワイア)

自社メディアの運用のほか、外部の編集コンサルティングやブランディング戦略などの業務を請け負う(画像提供:インクワイア)

クライアントワークで最も重視する点は、読み手に「学び」や「得られるもの」があるコンテンツかどうか

—インクワイアでは、クライアントワークを請け負う場合、企業のどのような点を重視していますか?

モリ:インクワイアでやるからには、質の高いコンテンツをつくりたいと考えています。クライアントワークを請け負うときの流れとしては、まず、企業がコンテンツで達成したいビジョンを伺って、私たちの理念「社会を変容する媒介役になる」と重なる部分があるかどうかを確認します。

また、中長期的に関わることができるかも重要です。インハウス体制などを構築し、継続して価値が生み出せるような案件を請け負っています。

小山:先ほど理念の話がありましたが、インクワイアが大切にしていることは、読み手に学びや得られるものがあり、変化につなげられるか。つまり、本質的な価値があるかが重要なんです。そこを重視するからこそ、メンバーも本質的な価値は何かを考え続け、メディアと共に成長できるのだと思います。

向:インクワイアが制作するメディアやコンテンツでは、小山が話したとおり、学びや得られるものがあるかを重要視しています。そういった制作物をつくりたい場合、どのような文脈で語るべきか、なぜいまその情報を世の中に届ける必要があるのか、といった問いにも向き合わなければいけません。考えることがとても多いし、頭を使います。しかし、編集の技術的なノウハウだけでなく、より思想的な部分を学べる。それは大きなメリットだと思っています。

小山:さまざまな得意分野を持つメンバーがいるのも大きいですね。お互いの経験や知識を共有し合うことができますし、それぞれが得意とすることに注力できる。自分が苦手な仕事は、得意なメンバーにやってもらうほうが効率もいいですから。

向:フリーランスだと、一人で仕事をすることも多く、孤独を感じるときもあります。でもインクワイアがあることで、「コミュニティーに属している感」が得られる。また、関わる組織が複数あると、どれか一つで煮詰まっても、別の仕事が気分転換になることもあります。私にとっては、大きなメリットです。

モリ:フリーランスのコアメンバーのほかにも、副業で関わっているコアメンバーが2、3人います。本業はフルタイムで別の企業で働いて、副業としてインクワイアの広報やプロジェクトマネジメントなどを手伝ってもらっています。

地方から関わってくれているメンバーも多く、リモートワークを前提とした働き方をとっているので、副業で関わるメンバーも仕事のしにくさは少ないのではないかと。最近は副業可の企業も増えてきましたが、まだまだ、受け入れる企業の準備が整っていない。インクワイアでは、柔軟な働き方の実験を積極的に行って、個人に合った、さまざまな働き方ができるようにしたいですね。

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「未経験でも、編集はできる」。これからの時代に求められる編集者像

「未経験でも、編集はできる」。これからの時代に求められる編集者像

—モリさんは、インクワイアで「編集的な考え方」を社会に浸透させていきたいと考えているそうですが、それはなぜでしょうか?

モリ:ぼくはもともと、「編集者になりたい」と考えていたわけではありませんでした。現場で課題解決に取り組む人たちの姿を可視化したい、情報の非対称性をなくしたい、価値ある情報の流通を手助けしたいという気持ちから、WEBメディアに関わるようになったんです。

最初に関わったメディアは『greenz.jp』で、企画を立て、取材をし、原稿を調整するといった、いわゆる一般的な編集者の仕事をしていました。でも2010年当初はまだWEBメディアも少なく、「編集者」といえば紙媒体に関わっている人を指す言葉だと思っていたので「WEBの記事をつくっている自分は編集者といえるのだろうか」という疑問が常にありました。

—モリさんにとって「編集者」のイメージが画一していたと。

モリ:認識が変わるきっかけとなったのは、『greenz.jp』前編集長の兼松佳宏さんにすすめられ、後藤繁雄さん(編集者、クリエイティブディレクター)の『ぼくたちは編集しながら生きている』という本を読んだこと。その本には、「ほとんどの人は、人生において編集作業をしていて、それを活用するといろいろなことができる」と書いてありました。

ぼくはそれまで「職業としての編集者」のイメージに囚われていたのですが、それをきっかけに編集というものを柔軟に捉えられるようになりました。それと同時に、「編集」という考え方やスキルは職業としての編集者以外にも役立つと考えられるようになったんです。暮らしやビジネスのさまざまなシーンで編集能力を発揮すること、つまり「編集の拡張」が必要だと思っています。

—「編集の拡張」について、もう少し具体的に教えてください。

モリ:たとえば、デザイナーがデザインを行う過程で用いる、特有の「デザイン思考」という概念があります。世界的なデザインコンサルティングファームのIDEOが発信していったことで、すべての問題は「共感」「創造」「実験」で解決できるというものです。一般企業でもこのデザイン思考が取り入れられるようになり、いまでは、事業開発や経営戦略のレイヤーにおいても語られるようになりつつあります。

この動きを編集でも再現できないか、と考えています。編集者が編集を行う過程で用いてきた考え方を整理していくことで、いろいろな場面で編集を応用することができるんじゃないかと。

—具体的には、どのような仕事に編集のスキルが活かされると思いますか。

モリ:たとえば、対面する人の魅力を深ぼりするようなキャリアのカウンセリングやコーチングの仕事は、インタビュースキルが必要で、とても編集的だと捉えています。

最近は副業解禁など、自分に合った働き方を選べる社会になってきていますが、自分がやりたいことや興味があることを知らない人も多い。そんなとき、インタビュースキルを持ったカウンセラーがしっかり話を聞き、潜在的なニーズや強みを言語化、構造化、さらに文脈を把握することで、やれることや、やりたいことを整理するお手伝いができる。こうした編集的な視点は、ほかにも事業開発や組織づくりに活きるのではないかと考えています。

—インクワイアで実際に「編集視点」を応用して取り組んでいる業務はありますか?

モリ:ある企業の新商品やコンセプト開発のプロジェクトチームに加わり、リサーチやワークショップへの参加などをしています。そこでは、ぼくたちが日々の取材やリサーチで掴んでいるビジネスのトレンドや消費者インサイトの変化などをチームに共有していますが、これはまさに編集の領域での貢献ですよね。

また、オウンドメディア運営のインハウス化がトレンドの傾向としてあります。そのため、コーポレートブランディングのコンテンツ戦略や設計から関わるという仕事も始まっています。インハウスエディターの採用や編集力の内製化など、組織の情報発信力の向上に力を入れたい企業に対して、ぼくらが編集として培ってきたノウハウをつなげることで、組織自体の価値を高めることに貢献できるのではと考えています。

海外では、会社の文化を醸成したり、思想を浸透させたりするための役割を果たす「カルチャーエディター」という仕事も登場しています。組織づくりに編集として関わるというのは、この先、大きな可能性を秘めています。

—それはつまり、いままでのような「編集者」を経験したことがない人でもインクワイアで仕事ができるということでしょうか。

モリ:そう思います。たとえば、情報を集めて分析する社会学者やマーケターなどは、同じような考え方で仕事をしてきた人ではないでしょうか。少なくともインクワイアにおいては、経験の多様性は、これからの編集者にとって重要な財産になると考えています。向も小山も、別業界の知識や経験を、編集者の仕事に生かしながら働いていますしね。

モリさんがオーガナイザーを務める『sentence』が主催したイベントの様子。(画像提供:インクワイア)

モリさんがオーガナイザーを務める『sentence』が主催したイベントの様子。(画像提供:インクワイア)

「編集力」を身につければ、生きづらさも解消されるはず

—未経験者でも編集能力を身につけられるよう、工夫していることはありますか。

モリ:じつは、編集という仕事は、知識や経験が意外と共有されていません。たとえば、工業生産の現場やプロジェクトマネジメント、マーケティングなどは、長年の知見が蓄積され、ノウハウ化されています。

しかし、編集は個人のスキルに頼る部分や経験に基づくものが多く、体系化がされていない。暗黙知になっているものを形式知化し、伝えられるようにするのも、私たちが目指すことのひとつです。そのために、ワークショップデザインや調査研究を行う株式会社ミミクリデザインと協力して、「編集」の共同研究も始めました。

—編集の知識を、より多くの人に伝えられるようにノウハウ化しようとしているということですね。編集視点を持つ人材が増えることで、社会はどのように変わっていくのでしょうか?

モリ:現代社会の課題の一つに、「社会は豊かになっているのに、幸福度が上がっていないという状態をどう解決するか」ということがあります。問題はとても複雑で、従来の課題解決のアプローチが通用しなくなっています。しかし、そこに向き合っていけるのが、新しい編集視点だと考えています。

いま、生きづらさを感じている人も、編集の視点をもって自己を分析すれば、いずれやりたいことや興味を持てることが見つかるはずです。さらに、少しずつやりたいことを実行に移すことで、自分の進むべき道が見えてくる。

さらにその人が、自らの試行錯誤の軌跡を発信することができれば、多くの人が自分の可能性を考えるきっかけになるはず。そうやって、人が誰かの変化の媒介となっていくことで、世の中の生きづらさや漠然とした不安が徐々に解消されていくのだと思います。

—「編集力」には生き方や考え方だけでなく、世の中を変える可能性もあると。

モリ:そう思います。個人が編集の視点をもって自己分析をし、どう叶えていくかを考えることは、すなわち、会社や組織が変わっていくことなのだと思います。「編集視点」が事業化されて多くの人にアプローチできれば、社会に影響を与えることもできるかもしれない。編集にはその可能性があるのだと思います。

実際、北欧のビジネススクールでは、個人のクリエイティビティーとチームメンバーの多様性を活かして組織の変革を行い、イノベーティブなビジネスを生み出すためのアプローチを教えているそうです。

まずは人が変容すること、それが、企業や組織、さらには社会全体の変容につながります。その「変容」のきっかけを、インクワイアがつくりたい。その理念に共感してくれた仲間を育て、一緒に世の中を変えていくような仕事をしていきたいです。

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インクワイアは、メディア運営やコンテンツ作成、イベント企画、リサーチなどさまざまな活動を通じて、社会の変容の媒介となるために活動しています。

私たちは、従来の編集の枠に留まらず、事業や組織の開発、コンセプトやビジョンの構築、組織へのカルチャー浸透など、多岐にわたる活動を積極的に行っています。

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