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設立10年を迎えたIN FOCUSのいま。「王道ではない、自分たちだけの戦い方」を追い求めた軌跡

IN FOCUS株式会社

IN FOCUS株式会社

この10年、デジタルクリエイティブの世界は大きく変化した。その背景には、社会全体の変化はもちろん、「コロナ禍」の存在もあっただろう。

昨年2022年で設立10周年を迎えたIN FOCUS。20歳のころ、マネージャーとして勤めていたクラブでのフライヤー制作をきっかけに単身渡米し、米サンフランシスコでWEBと写真を身につけ、多岐に渡る領域で活動していた井口忠正さんが立ち上げた同社。「WEB・映像・グラフィック・写真」という4軸のデジタル表現を進化させ続けている。

そんなIN FOCUSはこの10年をどう振り返り、これからの10年をどう予測しているのか。代々木公園駅から歩いてすぐ、ところどころコンクリートが剥き出しになったビルを拠点とする同社を訪ねた。

さまざまな専門領域を持つ仲間たちが机を並べるだけでなく、大きなシャッターを開けて奥にたたずむスタジオでは、IN FOCUSと親交のあるアーティストが作品制作を進めている。代表の井口さんと副代表の水口達也さんに話を聞くと、IN FOCUSの確固たる信念が浮き彫りになった。
  • 取材・文:山本梨央
  • 撮影:豊島望
  • 編集:生駒奨(CINRA編集部)

「10年前から軸はブレていない」。IN FOCUS設立からの軌跡

–IN FOCUSは2022年が10周年だったとのことですが、設立から間もなかった2014年のインタビューでは「WEB・映像・グラフィック・写真」の4軸を掲げていましたね。この10年での変化はどのように感じていますか?

井口:4つの軸はいまも変わっていません。変わったことといえば、当時は「代表であるぼく(井口)=IN FOCUS」というイメージだったのが、いまはメンバーも30名を超え、より多様になった点ですかね。ぼくたちはブランディングからじゃないと受けない、と決めているわけでもないので、WEBだけ、映像だけでお仕事を受けることもあれば、ゼロからのブランディングに携わらせていただくこともあり、案件ごとに本当にさまざまなんです。

IN FOCUS代表取締役の井口忠正さん

IN FOCUS代表取締役の井口忠正さん

水口:10年かけて、点と点だったものがつながってきた印象があります。とくに映像は、この10年で時代とともに大きく変化していると思います。

たとえばWEBサイトに映像を埋め込むにしても、WEBと映像それぞれのデザインだけでなく、WEBの演出と映像のエフェクトやトランジションなど「動き」のクオリティーやトンマナも一緒のほうが気持ちいいじゃないですか。そこのクオリティーの担保ができるのは「WEB・映像・グラフィック・写真」の4軸をブレずに続けてきたからだと思います。あとは、コロナ禍以降でECサイトの需要は高まりましたね。

副代表でチーフWEBディレクターの水口達也さん

副代表でチーフWEBディレクターの水口達也さん

井口:ECサイトについては「かっこいいし、買いやすい」というのがより求められるようになりました。数年前までは「ブランディングサイトとECサイトは分けたほうがいい」というのがベーシックだったんです。それがとくにコロナ禍以降大きく変わり、ECサイト自体でブランディングをしたいという企業が増えてきました。

水口:ユーザー体験までを含めてブランディングしたい、という意識が高まりましたよね。ランディングページ(LP)だったらプロモーションとしてうまく機能しないといけない。ECサイトだったら購入してもらわないといけない。そういう結果につなげるための技術も怠らずにアンテナを張り続けています。

トライアンドエラーを繰り返し、その過程も共有する。「本質」を考えたクライアントとの向き合い方

–強みである4軸を活かしながら、ブランディングを求められることも増えてきたんですね。IN FOCUSとしては「デジタルブランディング」という言葉をどう捉えているのでしょう?

井口:じつはそんなに言語化をしていないというか、あえて明確には定義していなくて。でも確実に言えるのは、誰が発信者として「デジタルブランディング」という言葉を使うのかによって意味合いが変わってくると思うんです。

たとえば、広告代理店が「デジタルブランディング」と言うときには、「デジタル広告を活用すること」になりますよね。ぼくたちはやっぱりデザインの会社だから、アウトプットの見せ方に関わるブランディングということになる。

水口:ブランディングって目に見えないので、数値化することが難しい。結果が出るまで数年かかることもあります。クライアントの本質的なところにフォーカスして、ユーザーに気づいてもらうようにする。そのために、人の記憶に残るというのは大事かなと思っています。

井口:短期的な数字を追っていくのももちろん大事だけれど、ぼくたちが得意とするのは水口も言ったとおり「記憶に残る」ということ。長い目で見て印象に残るようなビジュアルづくりにはこだわっていきたいですね。

水口:もちろん、クライアントによってはブランドが確立し、ビジュアルなどがすでに完成された状態で、WEB制作を任されるというケースもあります。その場合には、サイトの動きをどうこだわるかなどアイデアを出していく。ファッションブランド「TOGA」のWEBサイトはそのケースになります。

「TOGA ARCHIVES」のブランド初となる公式オンラインストア。IN FOCUSが制作を担当した。オンラインストアでは、コレクションラインの「TOGA」をはじめ、すべてのラインを展開している

「TOGA ARCHIVES」のブランド初となる公式オンラインストア。IN FOCUSが制作を担当した。オンラインストアでは、コレクションラインの「TOGA」をはじめ、すべてのラインを展開している

水口:逆にゼロから一緒に考えたいと要望されれば、ワークショップを設計して、ぼくたちも客観的な視点を持った参加者として一緒にクライアントに混ざって「このブランド(会社)ってどんなイメージ?」という輪郭を明らかにしていきます。

井口:大事にしているのは、ぼくたち自身が「権威的にならないこと」。幅広くできる会社にはなったけど、恣意的になりすぎず、来た球を打ちまくっていたらなんでもできるようになったのが正直なところです。

それに、チャレンジはずっとし続けていきたいんです。トライアンドエラーを繰り返して、その過程も共有し、糧にしながら、クライアントにとって最適な答えを一緒に探っていく。かっこよくすることと、権威的であることは別ですからね。

水口:依頼されたことのうち、問題となっているのはどこなのかを見極めて、いろんな視点からアプローチしているのがIN FOCUSらしさと言えるのかもしれません。クライアントが考えていることと、IN FOCUSが提案していることの差分を認識し、徐々にすり合わせながら進めていくというか。

井口:コーポレートサイトにも「多様なデジタル表現を交差する事により新しい視点を提案する」という言葉を掲げています。問題解決とは言っていない。「WEBサイトの制作を依頼されたけど、CI/VIから提案したほうがいい」とか、IN FOCUSとしてどこから参画するべきなのか、自分たちなりに提案しています。

その柔軟な動きができるのは、4軸あるうちのどれかひとつに偏らず、チーム内にも多様なスキルを持ったメンバーがいるからかもしれないですね。

隣の席に「スペシャリスト」がいる。職域を横断して学び続ける強さ

–幅広いスキルを持った方々を採用しているというだけでなく、社内でもスキルアップのワークショップを行なっていると聞きました。具体的にはどんなことをしているのですか?

井口:毎年、社員との個人面談の際に「何をやりたい?」と聞いているんです。昨年は半数以上のメンバーから3Dを学びたいという声があり、それもWEB、映像、グラフィックなど部署の垣根を横断したものだったので、時代が3Dにシフトしていることを感じました。

水口:日頃からSlackなどでどんな作品がよかったとか、どの技術が気になるとか、最新情報を社内で共有するようにはしていて。部署が違っても同じ案件に関わる可能性が高いから、トレンドへの目線も合わせておきたいですからね。昨年は「3Dだ!」ってなったんでしょう。

井口:3D講習を実施することになったときには、3DCGの会社から先生を招いて、2時間ずつ5回のワークショップを開きました。映像で使うだけでなく、WEBやグラフィックでももちろん使える。この講習に参加したスタッフのなかから、3Dは初めてだったけれど実際の案件に活かせるようになった人もでてきました。

IN FOCUSが制作した「KAONAVI TOWN PROJECT」。誰もが個性を活かして活躍できる未来を思い描くカオナビが「すべての個性がワークする街」のコンセプトのもと、未来の街を体験できるサイトとしてローンチした。サイトから3DCGの制作までクリエイティブすべてをIN FOCUS社内で一貫して担当したという

IN FOCUSが制作した「KAONAVI TOWN PROJECT」。誰もが個性を活かして活躍できる未来を思い描くカオナビが「すべての個性がワークする街」のコンセプトのもと、未来の街を体験できるサイトとしてローンチした。サイトから3DCGの制作までクリエイティブすべてをIN FOCUS社内で一貫して担当したという

水口:講習を通してあらためて気づいたことは、みんなとにかく向上心が強い。クリエイティブに対し、真摯にひたむきに考えているのかなと思います。

井口:たしかに。真面目に働いているからうまくなる、という人が多いですね。うまくなりたいというモチベーションが高いメンバーだからこそ成立していることだとも思います。そのぶん、飲み会とかになると、本当にみんな仲良く喋る。それだけ仕事中の集中力がすごいんだろうなと、いつも思います。

「いまのメンバーが初期メンバーだと思っている」。IN FOCUSが描く未来

–水口さんは2022年から副代表になったとのことですが、初めてのIN FOCUSメンバーだったそうですね。当時のIN FOCUSはどんな印象でしたか?

水口:前職はいわゆるWEB制作会社でした。会社の仕事をするかたわら、VJもやっていたんです。VJとして参加したイベントに、カメラマンとして入っていたのが井口で。そこで本職がWEBという共通点もあって盛り上がりました。

当時、自分で担当していた業務では表現できる幅が狭かったので、井口がつくったサイトを見て、ビジュアルに映像や写真が全面に出ていて、そんなかっこいいサイトをクライアントワークで実現しているのが衝撃でした。

井口:冒頭にもありましたが、2022年で10周年という事もあり10周年展を開催しました。この1年で8人も新メンバーが増えたこともあって、会社として振り返るには良い機会でしたね。

IN FOCUS10周年展の様子。これまで関わったクライアントやコントリビューター、友人らが集まった(画像提供:IN FOCUS)

IN FOCUS10周年展の様子。これまで関わったクライアントやコントリビューター、友人らが集まった(画像提供:IN FOCUS)

水口:10年を振り返ってみたら、だんだん人が増えていって、事務所も移転して、という旅をしているような感覚で。その度に毎回「いまいるメンバーが初期メンバーだ」と感じるんです。

–世の中の多くの会社は、創業から10年以内に大きな壁にぶち当たると言います。コロナ禍もあったなかで、IN FOCUSがここまで拡大・成長を続けられているのはなぜだと考えていますか?

井口:前提条件としてまず運がよかったと思ってます。ぼくらが特別秀でているわけではないというか、同じようなスキルで、同じようなことを考えている人はたくさんいると思います。でも、WEBも映像もグラフィックも写真も統合的にデジタルブランディングとして捉え、良いものをつくっていきたいと思い続けてきたことは、結果的にはIN FOCUSの独自性のひとつになっていたのかもしれません。それが結果的に良い方向に作用したのかも、と思います。

水口:いまは情報があふれている時代だと思います。いろんな価値観や多様性に触れていると、求められるものも増えていって、そのなかで何が大事かを気づくことは難しいと思う。

IN FOCUSはクリエイティブのメンバーだけでなく、良い個性を持っている人が多いです。共有し合い、尊重し合い、理想の自分を見つけていく。そのために、一人一人と向き合い一緒に進んでいけたらいいなと思います。

井口:ひとつの専門性を極めるというより、複数を有していきたいと思っている人だとより楽しめる環境だとは思います。ぼく自身も、コロナ禍前から考えていた海外事業に再チャレンジをしたく準備を粛々と進めています。

自分の表現したいものがあったり、こういうものをつくりたいという想いがある人たちがチームとして集まり、それぞれの個性がIN FOCUSのレイヤーとなって新しい視点を提案する。そんな自分たちだけの戦い方ができるチームでありたいなと思っています。

Profile

IN FOCUS株式会社

IN FOCUSは2012年に創業した東京のデジタルブランディングスタジオです。

企業やブランドの核となる概念やコンセプトの表現としてWEB、映像、グラフィック、写真といったデジタル領域におけるさまざまな性質をかけ合わせることを得意としています。

ディレクター、デザイナー、プログラマー、プロデューサー、映像作家、ライターといった専門性の高いメンバーがデジタルを共通項としてクリエイティブを並列に捉え、統合することにより新しい視点を提案します。

2022年よりクリエイティブスタジオ「CONTRAST」の運営をスタートしました。

自社のギャラリーとしてだけでなく、クリエイターに寄り添ったスペースとして一般にも広く開放し、枠に囚われず実験的、かつ利用者によって継続的に再構築されていく空間を運営しています。

2024年には、コロナのためストップしていた海外事業「IN FOCUS NEW YORK」が再始動します。

このたび、さらなる領域にチャレンジするため新しい仲間を募集します。

ぜひご応募ください。

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