大企業の傘下に。イメージソースが最先端を走り続けるために選んだ道
- 2017/09/22
- FEATURE
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- 取材・文:加藤将太
- 撮影:岩本良介
あのイメージソースがD2Cと資本提携!?
2017年3月15日、デジタルクリエイティブエージェンシーのイメージソースが、NTTドコモ傘下のD2Cに子会社化されるというデジタル業界を揺るがすニュースが報じられた。
D2Cは前述のNTTドコモに加え、電通、エヌ・ティ・ティ・アドの3社で設立した、デジタル全般のコミュニケーションプランニング、プロデュース、ディレクションをグローバル展開する会社。独立系クリエイティブエージェンシーの先駆者的存在にあたるイメージソースは2018年に創立20周年を迎えるわけだが、代表取締役社長・クリエイティブディレクターの小池博史さんは、今回の業務提携は節目のタイミングを迎えるにあたり、極めて大きな決断だったと振り返る。
小池:制作会社として向かうべき方向は様々ですが、イメージソースがどこに向かうべきなのかを考えた時に、やはり根本的に作り手として集中できる環境作りが必要だったんです。僕らはクリエイティブを通じて、面白い体験を生み出す100年経っても存在する制作会社でいたい。その想いに至った時に、制作領域で集中して作るための方法を模索しました。
業務提携先としていくつかの候補が出たなか、イメージソースは身を預ける先をD2Cに決めた。
小池:僕らが実現したい制作に専念できる環境というところでいうと、提携先として制約を持ちたくないという気持ちに対して理解がある相手を望んでいました。たとえば、「他の代理店さんと仕事してはいけない」とか「他の自動車メーカーの仕事をやってはいけない」とか、業務提携の契約上にいろいろな縛りが出てくることもあります。D2Cの場合もNTTドコモと電通とエヌ・ティ・ティ・アドが出資している特殊な会社なので、ソフトバンクやKDDIの仕事をできるのかという懸念も少なからずあったのですが、ありがたいことにいわゆる競合条件のない契約を交わすことができたんです。D2Cとしては、デジタルに特化したコンテンツに強みを持ちたいという狙いもあったので、お互いの利害が一致したんですね。
業務提携のメリットは、資金面よりも「研究開発の情報共有」
カンヌライオンズをはじめとする世界各国の広告祭でも多数の受賞歴を誇るイメージソースは、常にデジタル領域を中心に最先端の技術を駆使したクリエイティブを発表してきた。実際のところ、D2Cとの業務提携によって、いくつかの変化が表れている。
小池:D2Cの親会社は国内最大手の通信キャリアにあたるNTTドコモですし、なおかつ先端技術に対しての研究施設も保有しています。なので、僕らが今後やっていきたい発信型のクリエイティブにおいて、NTTドコモから早い段階で最新情報を得て、それに対するアウトプットを僕らが開発することができるのではないかと考えました。実際にR&D(研究開発)の情報共有は始まっていて、開発段階の素材を僕らが料理するということは既に起きていますし、実業務ではNTTドコモの大型案件やスパンの長い案件などが入ってきています。
イメージソースがD2Cの過去の事例を発掘して、ブラッシュアップさせるという関わりも生まれてきているという。
小池:NTTは三浦半島の先に「YRP(横須賀リサーチパーク)」というR&Dの施設を所有しているんです。一つひとつの開発に長く取り組んでいて、僕らのような制作会社では抱えきれないような大規模なデータや仕組み、技術を持っている。しかしアウトプットの見せ方が非常に勿体ないと感じるプロジェクトが多いんです。そこで僕らが見た目を良くするなど、手の施しようがたくさんあるんですよね。
D2Cがもっとも関心を示しているのは、やはりイメージソースが培ってきたクリエイティビティや数々の実績が物語っている制作力である。業務提携後、小池さんはNTTグループの経営会議に毎週出席するようになり、過去の制作事例について各所から質問されている。
小池:たとえばティファニーの「Hand meets Hand」はどういう事例なのかとか、社長をはじめ各部署のマネージャーから結構聞かれますね。5月にD2Cの周年パーティーがあったとき、配属部署を発表するなかで顔認識システムを作ったんです。舞台に上がった新卒社員の顔を認識して、配属部署を機械が読み上げる演出を取り入れたら、それが結構盛り上がったんです。他にもD2C本社のエントランスに「Flip-Dots Wall」という壁が白黒に反転して文字やビジュアルが表示されるインタラクティブコンテンツを設置して、僕らのプレゼンテーション的な活動をしています。
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- デジタル制作業界はさらに競争激化。これからまたトップを走り続ける
デジタル制作業界はさらに競争激化。これからまたトップを走り続ける
2018年に創業20年目を迎えるにあたり、改めて経営層である小池さん、藤牧さん、こいけさんにその胸の内を聞いてみると、デジタル領域の現状を踏まえた上で、それぞれのビジョンを語ってくれた。
藤牧:正直なところ、どこもプロダクションが平均化してきているというか。イメージソースに依頼しないと出来ないというものが少なくなってきたように感じていたんです。そこを強めていくために僕らはR&Dに取り組んでいくべきだと考えていて。いろいろなテクノロジーが増えていくなか、手足と頭を止めずに動き続けていく必要があるので、そういう意味でもR&Dはわかりやすく自分たちのプレゼンスを高めていく手段なんです。今後はクライアントワークに取り組むなかに出てきた考え方をR&Dにシフトすることで、いろいろな相乗効果が生まれてくると思います。
唯一無二のオリジナルを生み出す。それはモノを作るプロダクションの真骨頂であり、数々のアワードを受賞してきたイメージソースがもっとも評価されてきた核の部分でもある。
こいけ:クラスですごく面白いことを考えている才能あるやつっているじゃないですか。そういうユニークな人がイメージソースを就職先として選んでくれる。大雑把に言ってしまうと、そういう会社にしていきたいと思っていて。というのも、今のデジタル広告業界に面白いものを作れる人が実際に入ってきている感覚がしないんですね。そこに僕らが「デジタルのクリエイティブはイケてるんだぜ」と印象付けて、業界自体を盛り上げていきたいですね。
小池:これまでデジタルのクリエイティブの中で、僕らが先端を走っていると実感するシーンが多かったのですが、実は最近は少し置いていかれた感があったんです。特にここ2,3年はインスタレーション的なアウトプットを多く手がけてきましたが、どこか息切れしたのか継続していけなかったものもあって。その間に気づけば僕らが後発的なポジションになってきていると感じたところが結構ありましたね。なので、今すぐにテコ入れせねばという危機感を持っていますし、「さすがイメージソースだな」って業界を振り向かせる作業がここ1,2年で必要なんじゃないかなと。そこからまたトップを走り続けて、面白いものを作り続けるというスタートを切り直したい。だから今はその温め期間なんだと思っています。
R&Dを通じて、唯一無二の発信型クリエイティブを
新しく楽しい価値ある体験を生む制作会社であるために、イメージソースはいわゆる受託案件だけに依存することなく、R&Dを強化したクリエイティブプラットフォームの構築に注力している。その代表的な例は今年の8月に実施した自社プロジェクト・IMG SRC PROTOTYPESだ。
IMG SRC PROTOTYPESはプロトタイピングを意識的に継続して取り込んでいく実践と実験の場として、Microsoft HoloLensやGoogle Tangoといった最新技術を使用したアイデアを、実際に体験できる機会として設けられた。社外からも参加者を募っており、プロトタイプやデバイスに興味があれば、誰でも参加できるイベントだ。
藤牧:R&Dは去年できなかったこともあり、今年は着実にやっていきたかったので、提携後の第1弾として8月に行いました。今回は4日間の開催で、幅広い参加者に来ていただけたという印象です。
こいけ:今回のPROTOTYPESは結構密度が濃かったですね。お盆時期にもかかわらず、1週間のうちに結果として8件も新しい仕事の相談を受けました。内容としても、企画から一緒に考えられるものが多くて。
小池:これまでもR&Dには長く取り組んでいて。発信型のクリエイティブを目指すなか、今後は仕事全体のこうした開発が3,4割を占めるくらいにしていきたいと考えています。「こういうものを作って欲しい」という注文を受けるより、「イメージソースのこの技術を使って新しいことを一緒にしたい」という依頼を増やしたいです。今回の業務提携でそのためのリサーチの場が整ったところ。そうすれば受託での仕事でも、私たちが持っている技術をアップデートしたものが多く展開できると思います。今はゴールを定めずにいろいろチャレンジしていきたいですね。
実業務だけでなく、福利厚生・インフラ面においてもNTTグループという大企業がこれまでになかった効果をもたらしている。
小池:やはりNTTグループなので、天変地異がない限りは倒産しないというか(笑)。僕らが集中して制作するためのプラットフォームとして、安心感がある環境作りというのは大事だと思っていて。小規模の会社は景気の流れに左右されがちなので、基盤があるというのは働き手にとって安心感をもたらしてくれます。あとは、今まで手探りでやってきた昇給制度が透明になってきたというか。制作会社って意外と不透明なところが大きいと思うんですが、自分が何年勤めてこれくらいの給料設定になるというのがわかるので、キャリア設計がわかりやすくなるんじゃないかと。
ものづくりに専念する。その意味において自社のプレゼンスを高めるために、クライアントワークだけでなくR&Dを通じて独自性の高いクリエイティブを作り出していく必要性があるというわけだ。
小池:常に面白いことを考えるという土壌が会社にあるのは夢がありますよね。そこをやり続けようというのが僕らのビジョン。制作会社って一代で倒産してしまうことが多いと思うんですけど、代替わりしても文化を保ったまま続けていけるはず。そういった未来永劫続いていく会社づくりをしていきたいんです。
Profile
イメージソースは、デザイン×テクノロジーの可能性を追求し、常に新たな体験を創出することをミッションとしている「クリエイティブブティック」です。
WEBサイトやアプリ、デバイスのほか、インスタレーション(デジタルクリエイティブを融合させた豊かな体験づくり)を強みとして、デザインと最新のテクノロジーを駆使した、最適なデジタルコミュニケーションを企画・制作しています。