作品で「場の記憶」を刻みたい。HERE.がつくるのは、空間映像という体験

株式会社HERE.

気になる

Share :

トップアーティストのライブビジュアル、プラネタリウムのプログラム、商業施設のプロジェクションマッピング。HERE.は、画面ではなく「空間」へ投影する映像を専門としたプロダクションだ。見る人の「体験」そのものを演出する作品は、どのようにつくられているのだろうか?
  • 取材・文:宇治田エリ
  • 撮影:有坂政晴(STUH)
  • 編集:立花桂子(CINRA)
  • Profile

    株式会社HERE.

    HERE.は新しい時代の映像表現を専⾨に手がけるデザインスタジオです。

    たとえばプロジェクションマッピングや、ライブのステージビジュアル。VRやプラネタリウムで流れるオリジナルコンテンツなど。場所や音楽に合わせた映像を作り、空間全体を魅力的に演出させるのが得意です。

    ■ドーム映像
    「最も先進的」として世界一に認定された多摩六都科学館プラネタリウムではドーム状の大型スクリーン映像を制作。Schroeder-Headzの生演奏と共に上映しました。以来、プラネタリウムライブは定期的に開催するように。音楽の力を最大化させる表現に特化しているからこそ、任せていただけているプロジェクトです。

    ▼Schroeder-Headz Planetarium Premium Live『HORIZON』
    https://www.cinra.net/event/20161217-schroederheadz

    ▼音楽家haruka nakamuraが提供した楽曲に合わせて、映像を制作。コニカミノルタプラネタリウムで、楽曲の生演奏に合わせて上映しています。
    https://www.cinra.net/interview/201806-harukanakamura

    ■ステージビジュアル
    ライブでは空間をひとつのステージセットと捉えてビジュアル演出を考えます。どんな技術を使って、どんな映像を流したらアーティストの世界観がより伝わるか? 音、歌詞、照明など、場を構成するそれぞれの要素を一体化させ、ひとつの表現を作り上げていきます。時にはステージセットのデザイン段階から携わることも。

    ■プロジェクションマッピング
    投影される建物の歴史や、場所にまつわるストーリーのリサーチからスタート。映像に合わせた曲を含めて提案する機会もあります。

    どのプロジェクトも、クライアントと直接やりとりをしながら進行。企画段階から携わるので、自由な発想が活かせたり尖ったことに挑戦できたりするのも醍醐味のひとつです。

    スタッフは皆、映像や音楽、新しいことが大好き。それらを組み合わせて、今までにない空間を作り上げることを心から楽しんでいます。だからこそ、人の心を深く揺さぶる体験を生み出すことができるのかもしれません。

    私たちと一緒にHERE.の可能性を広げてくれるメンバーを募集します!

新しいだけではない、「ここ」でしか体験できない映像をつくる

—コーポレートサイトには「新しい時代の映像表現を専⾨に手がける、ビジュアルデザインスタジオ」と書かれています。「新しい時代の映像表現」とはどういうものですか?

土井:アーティストのライブに使われるCG映像やプラネタリウムのプログラム、商業施設でのプロジェクションマッピング映像などですね。HERE.という社名の通り、ぼくたちは「ここ」という空間でしか体験できない映像を制作しています。

心が動く瞬間は、体験してこそ生まれる。そういった信念を持ち、単に「目新しい」だけの映像ではなく、物語性を持った映像表現にも挑戦しています。

株式会社HERE. 代表取締役社長 / ディレクターの土井昌徳さん。大学では一般の学部に在籍していたが、VJ活動をきっかけに、CG / VFXを学ぶ専門学校へ入学。卒業後はCGプロダクションで経験を積んだのち、2015年にHERE.を設立した

株式会社HERE. 代表取締役社長 / ディレクターの土井昌徳さん。大学では一般の学部に在籍していたが、VJ活動をきっかけに、CG / VFXを学ぶ専門学校へ入学。卒業後はCGプロダクションで経験を積んだのち、2015年にHERE.を設立した

—なぜCMや映画といった普通の映像ではなく、「空間映像」にフォーカスしたのですか?

土井:映像表現の手法としての可能性を感じたからです。プロジェクションマッピングも、最初はトリックアートの一種として注目を集めましたが、あれだけの面積を投影できるなら、これまでにはない演出もできるでしょう。映画のような物語性のある表現を持ち込むことだって可能です。

それに、ビジネスとしての可能性を感じたことも大きいですね。アートで終わるのではなく、社会性をもった「仕事」として広げていける確信もあり、2015年にHERE.を立ち上げました。シンプルに、ぼくが新しいもの好きだからという理由もありますが(笑)。

生み出すのは、「何か不思議なものを見た」という記憶に残る体験

—CMや映画など「画面」を前提とした映像に対して、空間映像にはどのような価値があるのでしょうか?

土井:CMや映画は、あくまでも「映像を見る / 見せる」という目的ありきのもの。一方、HERE.が手がける空間映像は、「何か不思議なものに出会った」という体験そのものに価値があります。アーティストのライブなら、お客さんはアーティストの世界観を体験しにいく。商業施設なら買い物をしに行く。それらの体験に付加価値を与える映像ですね。

—つまり、人の体験を演出するための映像ということですね。

土井:HERE.の作品でいえば、2016から2018年にかけて、新宿伊勢丹で上映されたプロジェクションマッピング「ミュージアムキューブ」があります。これは、クライアントの「商業施設のデッドスペースにコンテンツを取り入れて、入店体験の価値を上げ、購買につなげたい」という要望から生まれた作品です。

季節やイベントに合わせて、各フロアの踊り場にある壁面にさまざまなプロジェクションマッピングを展開しました。開催中は買い物途中の方や子どもが立ち止まって見入ってくれましたし、映像が変わるたびに見に来てくださる方もいました。

伊勢丹新宿店で展開された「ミュージアムキューブ」(画像提供:HERE.)

伊勢丹新宿店で展開された「ミュージアムキューブ」(画像提供:HERE.)

—私もこの作品を目にしたのですが、とても記憶に残っています。お父さんやお子さんが、不思議そうに見入っていたことを思い出しました(笑)。

土井:百貨店に連れて行ってもらった特別な記憶は、大人になっても覚えていますよね。「何を買ってもらったかは忘れたけど、大きな噴水があったな」とか(笑)。同じように、空間映像は「何か不思議なものを見た」という、記憶に残る体験を生み出すことができるんですよ。

—ほかに、これまでのなかで印象的な作品はありますか?

松下:東京スカイツリーにある『コニカミノルタプラネタリウム“天空”in東京スカイツリータウン(R)』で、ライブ用に制作した4K映像ですね。プラネタリウムでは、平らな面ではなくドームシアターに投影する必要があります。そのためにドームマスターというフォーマットを使って、魚眼レンズで見たときのような全天周映像を制作しました。

株式会社HERE. ディレクターの松下藍さん。テレビ局の2DCGデザイナーを経てフリーとして活動後、2019年4月にHERE.へ入社。土井さんは専門学校時代の後輩にあたるという

株式会社HERE. ディレクターの松下藍さん。テレビ局の2DCGデザイナーを経てフリーとして活動後、2019年4月にHERE.へ入社。土井さんは専門学校時代の後輩にあたるという

山田:私は『NHK紅白歌合戦』や椎名林檎さんのコンサートに使用された映像が印象に残っています。制作の苦労を間近で見ていたので、実際にステージを目の当たりにするとなおさら感動しました。

株式会社HERE. 制作進行の山田梨紗さん。音楽系の仕事への憧れから、大学在籍時にCINRA.JOBを通じてインターンに応募。映像制作は未経験ながら、2018年4月、正式に入社を果たした

株式会社HERE. 制作進行の山田梨紗さん。音楽系の仕事への憧れから、大学在籍時にCINRA.JOBを通じてインターンに応募。映像制作は未経験ながら、2018年4月、正式に入社を果たした

資料だけではわからない雰囲気を知るために、デザイナーも現場へ

—空間映像をつくるうえで、心がけているモットーを教えてください。

土井:現場に足を運ぶことです。プロダクションのデザイナーは会社にこもって作業をすることが多いですが、HERE.では作品が投影される現場へ同行してもらいます。

—それはなぜですか?

土井:たとえば、「建物の周りは木に囲まれている」といった、資料には書かれていない情報は実際に行ってみないとわかりません。そういう数値だけではわからないスケール感や五感で捉える現場の雰囲気は、表現にも反映できますから。

それから、DJやVJを経験しているメンバーが多いので、音楽との親和性も大切にしています。単に音響としての役割だけでなく、曲の歌詞や展開に合わせたストーリー性を演出に盛り込むようにしています。

Next Page
音楽の世界観を映像で表現するコツは、アーティスト本人を憑依させること?

音楽の世界観を映像で表現するコツは、アーティスト本人を憑依させること?

—アーティストのライブ演出も多く手がけていますが、彼らの世界観を映像で表現するためには何が必要なのでしょうか?

土井:企業からのオーダーとは違い、ライブ映像はアーティストの世界観を伝え切れるかどうかが大切。そのためにぼくはまず、アーティストの作品に共感して、アーティストに成り切る精神状態をつくり、曲の情景やアーティスト本人の情感を思い浮かべます。憑依と言ってもいいかもしれません(笑)。

そうやって自分のなかに一旦落とし込んでから、作品として視覚化していきます。曲の世界観や場の空気に合う映像づくりの感性は、VJ活動で養いました。

椎名林檎ライブツアー2018『椎名林檎 (生)林檎博'18 -不惑の余裕-』ではオープニングのCG演出を担当した(画像提供:株式会社HERE.)

椎名林檎ライブツアー2018『椎名林檎 (生)林檎博’18 -不惑の余裕-』ではオープニングのCG演出を担当した(画像提供:株式会社HERE.)

松下:土井さんは右脳的な発想が得意なので、私はそれをどう具現化するかを考えることが多いです。左脳的な役割ですね(笑)。

ライブ映像の制作では、会場全体の空間に対してセットがあり、アーティストがステージ上にいて、観客が客席にいるという前提を意識する必要があります。つねに「映像が壁紙のように溶け込んでいるか?」「アーティストを引き立てられているか?」と問いかけながら、デザインを組み立てています。

仕事の醍醐味は、自分のクリエイションで誰かの「場の記憶」を刻めること

—普段はどのように仕事を振り分け、案件を進めているのでしょうか?

松下:案件の種類や納期にもよりますが、基本的にみんなでワイワイ話しながら、なるべく得意分野や希望に沿うようにスタッフをアサインしていきます。

土井:HERE.の仕事は、クライアントからの「お任せ」案件も多いんですよ。少数精鋭であることを活かして、みんなでアイデアを出し合い、意見を交換しながら、内容を具体的に詰めています。

—HERE.や「空間映像」ならではの醍醐味は何ですか?

山田:誰よりも最初に作品を体験できることです。それから、ライブの本番に立ち会うと、お客さんのリアクションを肌で感じられるところも魅力だと思います。椎名林檎さんのライブに携わったときは、映像とオーケストラが融合したオープニングを実際に見て、とても感動しました。

松下:自分でつくったものを、大きな空間で体験できることは大きいですね。以前はテレビ番組のオープニング映像やCGをつくっていたのですが、手がけた作品が放送されることにだんだん慣れてしまいました(笑)。ですが、HERE.でつくる「空間映像」は、つくり手である私自身も感動してしまう。お客さんと感動を共有できることが、仕事の喜びにつながっています。

土井: 2D映像は発展の限界に達しつつあるので、これからはサイネージや空間映像が主流になっていくのではないでしょうか。最先端の技術を使った空間映像の制作には、やりがいと将来性の両方を感じています。

現実の空間に映像が投影されることで、ライブ感が生まれ、つくり手としても「自分がその空間を動かしている」という高揚感を得ることができる。自分のクリエイションによって、誰かの「場の記憶」を刻んでいけることもこの仕事の醍醐味だと感じています。

2018年12月から2019年10月まで有楽町マリオン『コニカミノルタプラネタリア TOKYO』にて開催されていた『LIVE in the COLORS -w/Piano session-』。アンプラグドの生演奏と最新鋭のドーム映像の融合によって、新たな音楽・映像体験を楽しめる

2018年12月から2019年10月まで有楽町マリオン『コニカミノルタプラネタリア TOKYO』にて開催されていた『LIVE in the COLORS -w/Piano session-』。アンプラグドの生演奏と最新鋭のドーム映像の融合によって、新たな音楽・映像体験を楽しめる

見るものから体験するものへ。空間映像に秘められた可能性とは?

—デジタルサイネージやプロジェクションマッピングなどの技術が発展し、さまざまな空間で映像が求められる時代になりました。

土井:5G化が進むことで、「映像を視聴する」ことの価値も変わり、映像業界は大きく進化していくでしょう。ARやVRといった映像での仮想体験が発展していく一方で、今後はライブや購買のような実体験も重視されていくと思います。

現在手がけている中国の商業施設の案件も、空間映像にエンターテインメント要素を取り入れ、体験価値の向上を図っています。たとえば、いままでは什器に並べてあるだけだったフラワーベースに映像演出を加えることで、商品の見え方は大きく変わり、記憶に残るものになります。

土井:ビジュアルマーチャンダイジング(店舗などで視覚的要素を演出する販売の手法)は、これから次のフェーズに入っていくはず。それにともない、空間映像のニーズもさらに高まると思っています。人の心を瞬間的にぐっと掴んで離さない、「場」の体験価値を上げる映像をつくっていきたいですね。

個人の趣味や好みを活かせるから、必要なのはクリエイションのルーツ

—仲間として一緒に働きたい人はどのような人ですか?

土井:「空間映像」というジャンルを一緒に切り開いていきたい人ですね。作品の一部分ではなく、企画の根本から関わりたいクリエイターは歓迎です。自分で必要とされるものを読み解き、アイデアをかたちにしていける方を求めています。

ツールや表現は日々進化していますから、新しいテクノロジーに意欲的な方もいいですね。たとえばデザイナー職なら、2DCGデザイナーとして2、3年ほどのキャリアがあれば、3DCGの技術が未熟でもぜひ応募してもらいたいと思っています。

千駄ヶ谷の閑静な住宅街にオフィスを構えるHERE.。社内には多彩なジャンルの本やゲーム、漫画が所狭しと並べられている

千駄ヶ谷の閑静な住宅街にオフィスを構えるHERE.。社内には多彩なジャンルの本やゲーム、漫画が所狭しと並べられている

松下:HERE.は少数精鋭なので、分業制ではありません。だからこそ一人ひとりが幅広い経験を積めますし、スキルアップにもつながると思います。フットワークが軽く、「2、3年経験を積んだけど、そろそろ次のステップに進みたい」と思っている方は成長できる環境だと思います。

山田:私の場合、大学3年生のときにインターンとして働き始め、それをきっかけに入社しました。インターンは書類やデータの整理など会社の庶務がメインですが、慣れてくるとアーティストのライブ会場や収録現場に同行し、現場の経験を積むこともできます。自分の携わった映像が実際に流れ、会場の空気が変わる光景を目の当たりにすれば、この仕事の魅力が伝わるはずです。

土井:HERE.には好きなものに影響を受けて仕事をしているメンバーばかりで、それが作品にも滲み出ています。音楽好きも多いですよ。趣味や好みを活かせる案件もあるので、選考の際はその人のルーツを聞くようにしています。「これが自分のルーツだ」と言えるものがある方は、ぜひそれをクリエイティブに活かしていただきたいです。

社員はアルバイトなどを含め8名。小規模なプロダクションながらスケールの大きな案件も多く、これからの時代に求められる新たな表現を追求することができる。和気あいあいと穏やかな雰囲気も魅力のひとつだ

社員はアルバイトなどを含め8名。小規模なプロダクションながら規模の大きな案件も多く、これからの時代に求められる新たな表現を追求することができる。和気あいあいと穏やかな雰囲気も魅力のひとつだ