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クラウドファンディングこそ、世界を動かす。

ネット上で支援を募り、プロジェクトに必要なお金を集める仕組み「クラウドファンディング」。日本でも、コンテンツと支援者を結ぶ新しい購買のかたちとして徐々に浸透しつつある。2013年にリリースした『GREEN FUNDING』は、「モール型」というコンセプトを掲げる、クラウドファンディングポータルサイトだ。ロックバンド「SOUR」の『Life is Music』MV制作プロジェクトの制作資金集めとして利用され話題になったのも記憶に新しい。「世界でも話題になるほどの、質の高いプロジェクトを応援したい」と語る彼が、クラウドファンディングを通して、世の中に何を伝えたいのか。お話を伺う中で見えてきた、同氏のコンテンツづくりに賭ける想いに迫った。

一流クリエイターのすごさを知った電通時代

数あるクラウドファンディングサービスの中でも、『GREEN FUNDING』はどのような想いで、どのように運営されているのだろうか? その原点を知るため、代表の沼田健彦さんの学生時代から話しをスタートしたい。東京大学在学中はテニスに明け暮れる一般的な大学生だったという沼田さんが、経営とマーケティングに興味を持ったのは恩師との出会いからだという。

沼田:大学三年の時、ブランドマーケティングの第一人者である片平秀貴先生のゼミに入りました。入ゼミ面談のとき、先生から「ブランドは何で作られると思う?」と質問されて、「経営者の志だよ」と言われたことは今でも忘れられなくて。この一言が、僕の原点だと思っています。

その後、片平ゼミで経営やブランドについて議論を深めていくうちに、マーケティングへの興味が高じ、大手広告代理店である電通への入社を決めたという。

入社後は営業職に配属され、クライアントはANAを担当。媒体営業や商品のCM・グラフィック制作担当など多方面に渡る業務を経験した。なかでも記憶に残っているのが、電通出身のクリエイティブディレクター・佐々木宏氏が率いる「シンガタ」との仕事だと話す。

株式会社ワンモア 代表取締役 沼田健彦さん

株式会社ワンモア 代表取締役 沼田健彦さん

沼田:佐々木さんが立ち上げた「シンガタ」とお仕事させてもらっていたのですが、クライアントから予め「あんしん、あったか元気!」とキャッチコピーが決められた企業広告の制作依頼があって。それを見た佐々木さんが「イニシャルにもうひとつ『A』があればANAのAが3つ揃って『トリプルA』だな」といって、「あんしん、あったか、あかるく元気!」というコピーが生まれたんです。結果ANAさんにも評価され、歴史に残る広告になり、佐々木さんに改めて畏敬の念を覚えました。あのときの衝撃は未だに忘れられないですね。

言葉の力一つで世の中が動く場面を目撃した電通時代。数字や効率だけでなく、コミュニケーションの力を信じる沼田さんの思想に大きな影響を及ぼしたと言える。

沼田:ときにはロゴのサイズを1ミリ変えるか変えないかに、何度もクリエイターやクライアントとやり取りすることもある。ネット業界では「安い値段で請ける作り手がたくさんいるんだからスピードと効率重視で」という発想を好む人もいますが、僕は必ずしもそれだけではないと思う。人の心を生み出すものは、熱や想いが必要。その熱を生み出すには時には、手間ひまや時間が必要なこともあります。

徐々に感じた、インターネットの潮流

一方、沼田さんが電通に入社した当時は、インターネットの広告やPRの重要性が、現在ほど社内に浸透していなかったという。

沼田:当時はmixiの画面を社内で開いていたら、「なんだそのオレンジの画面は?」と言われるくらいの感じでした(笑)。ただ、ANAさんは航空券のネット販売にいち早く取り組んでいたので、すでに既存メディアの予算が削られ、かなりの広告費がインターネットに投下され始めていたんですね。それで、「若いからネットのことが分かるだろう」という理由で僕がネット広告の担当に任命されて(笑)。

その後、ネット広告の様々なプロジェクトを手掛ける一方で、担当していた雑誌やラジオなどの既存メディアへの出稿は徐々に減っていった。この頃、後にクラウドファンディング立ち上げに影響を与えた、ある「課題」を発見したのだという。

沼田健彦さん

沼田:雑誌やラジオなどのメディアは、媒体運営だけでなく、イベントやプロジェクトを手掛けていることも多く、広告出稿だけでなく多くの協賛依頼がきます。ただ、意義があり、イメージの良いプロジェクトでも、クライアントはすべてを受けていたらキリがない。こちらからお断りを入れるわけなのですが、何人かの担当の方に「協賛がなかったらどのように進めるのですか?」と聞いてみたところ、「自費で出し合ったり、関係者でお金を持ちよって、成立させたりすることが多い」と。そのとき、世の中にはそういう形で成り立っているコンテンツがかなりあって、逆に資金の問題を解決できる仕組みがないことを学んだんです。

同時に、そういった意義のあるプロジェクトが、ネットを使ったマッチングでお金を集める時代がくるのではないか、とも思ったと言う。そんな経緯から、異動の時期には、迷わずネット関連の部署を希望したが、それは通らなかった。最前線ではインターネットの激流が起きはじめているという現実と、自分が立たされている現場とのギャップに歯がゆい思いをしていたという。

沼田:お世話になった先輩方に迷惑をかけることはわかっていたんですが、今までどおりのビジネスを守る役割に、自分の人生を賭けられないなと思ったりもしたんです。今思えば、幼稚な考えかもしれませんがね(笑)。ちょうどそんな時期に、フェアトレードでサッカーボールを製造している会社を経営していた友人と話をする機会がありました。直感だったんですけど、思い切ってそのベンチャーに飛び込んだのが2008年のことです。

エモーショナルな価値にお金を払う時代がくる!

もちろん、大手企業である電通からベンチャーに転職するのは、かなり勇気のいる決断だった。

沼田:走っている電車から飛び降りるくらいの覚悟で臨みました。ベンチャーといっても当初はわからないことばかりでしたが、経営を「現場」で学ぶことができましたから、今でもここでの経験には本当に感謝しています。

転職した株式会社イミオは、SFIDAというデザイン性の高いサッカーボールのブランドを手掛ける会社。パキスタンなどに生産拠点を持ち、児童労働のない健全なフットボールビジネスの実現を目指している。

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沼田:会社に投資してくださる方やお客様は、サッカー好きな人ばかり。SFIDAの想いに心から共感してくださっていたと思います。ある株主さんに言われたのが、他メーカーの製品が機能的ベネフィット、つまり使いやすさなどが理由で売れている一方、SFIDAの製品は想いやデザインなど、情緒的なベネフィットで購入されることが多い、ということ。例えば、好きなサッカー選手がデザインしたボールが子供たちにプレゼントされるというプロジェクトがあったら、欲しいと思う人は結構いるのではないか? と議論したり。そういう経験からも、エモーショナルな価値にお金を払う時代が、これから来るのではないかと感じていて、海外の事例を調べたところ、行き着いたのがクラウドファンディングだったんです。

電通時代に感じたプロジェクトと資金のミスマッチの問題も、クラウドファンディングなら解決できるのではないかと、大きな可能性を感じたという。

沼田:「これはすごい!」っていう感覚がありましたね。アメリカで先行していたサービス「Kickstarter」や「Indiegogo」などは、面白いプロジェクトやコンテンツに投資して、出来上がったら支援者に対してきちんと一定の見返りがある。これなら、フェアトレードのような社会貢献につながるようなものでも、映画でも音楽でも、いいアイデアにはお金が集まり、それを形にすることができると思ったんです。

その後、2011年にイミオを退社した時には、クラウドファンディングによる事業構想を描き出していた。

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良いコンテンツとは新しさだけではない

良いコンテンツとは新しさだけではない

起業にあたり、様々なトライ&エラーをしながら徐々にコンセプトを研ぎすましていき、いよいよ2013年、クラウドファンディングサイト『GREEN FUNDING』はスタートした。

「モール型」というコンセプトを掲げる同サービスは、ビジネスモデルでいうと『楽天』や『ZOZOTOWN』に近い。システムとページを企業に貸し出して商売をしてもらうプラットフォームだ。他のクラウドファンディングサービスはAmazon型が多く、運営側がプロジェクトを立ち上げる。対して、『GREEN FUNDING』が選択するモール型サイトにはどのようなメリットがあるのだろうか?

日本初のモール型クラウドファンディングサイト『GREEN FUNDING』

沼田:まずは信頼感だと思います。クラウドファンディング自体の認知度は日本ではまだまだ低いので、これまで「よくわからないな」って思っていた人も、有名な企業やメディアがやっているなら、ということで起案者や支援者も参加しやすくなると思うんです。だからこそ、『GREEN FUNDING』ではメディアや企業の皆さんとクラウドファンディングサイトを共同で運営していて、そうしたパートナーの方々の新しいビジネスに一緒に取り組ませてもらっている、っていう意識が強いんです。

共につくりあげていく意識。「モール型」という仕組みには、人の縁を介してまわりを巻き込むという、クラウドファンディングならではの精神を体現しているともいえる。また、それと共に沼田さんのコンテンツに賭ける強い想いがあることも、『GREEN FUNDING』を特徴づけている。

沼田:インターネットの世界では、既存のコンテンツビジネスやメディアは時代遅れ、みたいなことを言われがちです。たしかに仕組みが古くなっている部分もありますし、その仕組みにしがみつくような人もいるのかもしれない。そういうものに対立構図を作って革命を煽るみたいな方法はカッコいいと思うけど、僕はそういうやり方はあまり好きじゃないんです(笑)。既存のコンテンツビジネスをしている中にも革新的な人も大勢いますし、圧倒的な知識と品性を持っていて尊敬できる仲間や先輩も多い。例えば、今雑誌が売れなくなったと言うけど、それは雑誌の機能が落ちただけであって、編集者の力が落ちた訳ではないと思います。だから、新旧関係なくコンテンツに関わる企業、メディア、クリエイターと一緒に、もう一度日本から生みだされるコンテンツの質を上げていきたいんです。

クラウドファンディングの本質と民主主義的な面白さ

最近では、PARTYの川村真司さん、清水幹太さん、TYMOTE の井口皓太さんといった一流のクリエイターが関わったミュージックビデオの制作資金を調達。目標金額50万に対して90万円の支援が集まった。

沼田:昨年、井口君と出会ったことがきっかけで実現したプロジェクトです。資金を集め、バンド「SOUR」による新曲『Life is Music』のミュージックビデオを制作しました。90万円って現在のクラウドファンディングの世界ではそこまで大きい額ではないんです。でも出来上がったクリエイティブの質は、今までの日本のクラウドファンディング業界のなかでも群を抜いてナンバーワンだったと自負しているし、事実、この作品は動画サイトの『vimeo』でピックアップにも挙がりました。結局、クラウドファンディングで重要なことは『人と人の縁』と『生まれてくるコンテンツの質』なんです。いくらお金が集まったとかではなく、どういう人たちを巻き込むことができて、どれだけ良いものが出来上がり、どれだけ世の中を動かしたか。そこに尽きると思います。

SOUR “Life is Music”

そうした仕組みが、新しい才能を世に送り出すことにもなると沼田さんは語る。こうしている今も次々とプロジェクトが生まれているのだ。クラウドファンディングの仕組みによって素晴らしいコンテンツが生まれることを社会に提示していくことも、沼田さんの壮大なビジョンの1つ。プロジェクトの幅も出版、スポーツ、映像・映画、食、ファッション……と広く、企業からクリエイターまで様々の人達とのディスカッションを通じ、プロジェクトを成功へと導いている。

沼田:いままではお金の問題で実現できなかったことだって、今はクラウドファンディングのおかげで実現できることもある。そういった意味では、コンテンツとお金の新しい関係が生まれているとも思うんです。アーティストも一般人もメディアも企業も関係なく、想いさえ通じれば、今は赤の他人である一般ユーザーからも支援を受けられるという時代。多くのプロジェクトの実現によって、「自分もやってみたい!」という人が増えていけば嬉しいですし、そんな民主主義的なところこそ、クラウドファンディングの面白さだと思うんです。

『GREEN FUNDING』の先にある想い

2014年現在、国内でもクラウドファンディングサービスが複数立ち上がっており、資金調達のしやすさやサービスの影響力のアピールに各社力を入れている状況だという。そんななか、『GREEN FUNDING』はどうしていくのか? 沼田さんのコンテンツづくりへの想いは力強い。

沼田:やっぱり人間が巻き込まれたり、本当に感動する作品(コンテンツ)って、ただカッコいいというよりも、「ここまでやるのか!」っていうくらいの力の入ったものだと思います。人知を超えた魂って、やっぱり伝わりますし、自ずと質も上がっていくと思うんです。過去のプロジェクトの事例でも、本気で映画を作っている人がプロジェクトをやっていると、そのプロジェクトの熱も、コンテンツの質も、ものすごく高くなります。僕自身もそこに携わることを誇りに思いますね。

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広告づくりに奔走した代理店時代、ものづくりを手掛けたベンチャー時代と、数々の場を踏んできた沼田さんの考える先。そこには単なるお金儲けではない、人の縁と想いが動かすビジネスがある。

沼田:コンテンツやものを作ることは、細部に向かえばこだわればこだわるほど無限の深さがあるものだと思いますし、逆に広げようとすると、際限はない。だから僕らは、細部をこだわる想いを大切にし、人と人の縁で周囲を巻き込み、世界や、もしかしたら宇宙にまで飛び出していくプロジェクトを支えていきたい。そういうコンテンツやものづくりをお手伝いできたら一番嬉しいですね。もちろん、クラウドファンディングはまだまだわからないことも多いですし、今後の全容だってすべてが見えている訳でもない。だからこそ、クラウドファンディングを通じてコンテンツづくりに携われる喜びを感じていきたいし、多くの人達と『GREEN FUNDING』を盛り上げていきたいと思っています。

Profile

株式会社ワンモア

ワンモアは「未来を企画する会社」です。

CCC(TSUTAYA)グループのスタートアップとして、クラウドファンディングサイト『GREENFUNDING by T-SITE』を運営。2013年4月のサービスイン以来、720を超えるプロジェクトと総計11億円以上の資金調達 / マーケティングをサポート。

代官山蔦屋書店・SHIBUYA TSUTAYAなど全国約1,500のリアル店舗 / 約6,000万人のTポイント会員と連携し、革新的なプロダクト・ワクワクするコンテンツをインキュベーションしています。

2017年からはクラウドファンディングを活用したコンテンツ開発事業をスタート、チーム一丸となって世界を動かす「企画」の創造に挑んでいます。

■信条(クレド)
1:人と人の縁を仕事に
2:良心に問う
3:チームワークこそ重んじる
4:知性を武器にする
5:生の情報を知る

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