CINRA

「なぜ日本人は日本人だけで働くのか?」グランドデザインが中国に進出した理由

東京、上海、香港にオフィスを構え、アジア企業のブランディングやプロモーションなどを手がけるグランドデザイン。2000年代初頭、発展の途を辿る中国市場に進出する国外企業が相次いだが、年々と勢いは落ち続け、そのほとんどが撤退を余儀なくされた。そんななか、独自のポジションを確立しているのがグランドデザインだ。中国におけるクリエイティブの醍醐味や3拠点を横断する意義について、代表の西克徳さんに訊いた。

「なぜ日本人は日本人だけで働くのか?」

東京に本社を構えながら、上海と香港にもグループ会社を展開しているグランドデザインがアジア市場に進出することになった理由には、代表の西克徳さんが30代の頃に味わった海外での経験が関わっていた。

西:海外のデザインアワードを受賞する機会に恵まれ、授賞式に参加するためにドイツやチェコなどを訪問していたんです。そのとき海外のクリエイターたちと言葉を交わして気づいたことがありました。海外の制作会社では、仮に10人くらいの企業規模だとしても、スタッフの国籍がひとつの国に絞られるということはありえないんですよ。フランス人、イギリス人、ドイツ人とさまざまな背景を持ったスタッフがいる。彼らは会議の時にドイツ語で話していたと思えば、突然英語に切り替えて、コミュニケーションしやすい言語をリベラルに選びます。そういった光景を目の当たりにして、なぜ僕ら日本人は日本人だけで集まって働こうとするのだろうと不思議に思いました。

代表取締役 西克徳さん

代表取締役 西克徳さん

スタッフの国籍や言語が多様であるということは、それだけ豊富な感性を「会社の強み」として抱えられることでもある。日本のクリエイティブ企業が持つ特殊な傾向に対して西さんが覚えた疑問は、やがて危機感へと変化していった。このままでは欧米のダイバーシティが生み出すイノベーションに負けるという危機感から、急成長マーケットとして注目されていた中国に拠点を構えることを決めたのだった。

西:最初は上海に会社をつくりました。上海は貿易で栄えた巨大な港町。外部との接触や外国人の人口が多いからこそ、最新のトレンドに寛容な環境だと思います。ここで活動する人々はデザインについても敏感ですね。それに金融の中心都市でもあるので、まずは上海に進出するのがいいのではないかと考えました。

上海が計画的に練られた進出だったのに対し、次の香港進出の過程は少し毛色の違ったものだったという。

西:実は会社としてどうしても香港に拠点を構えたいという思いはなかったんですよ。上海オフィスの立ち上げメンバーが香港に我々へのニーズがあると言い出したことがきっかけです。じゃあ、やってみようかという感じで支社をつくりました。香港は独特な街でね、97年までイギリス領だったということで基本的な言語は英語ですし、中国とイギリスの文化が混ざっているので、街全体に刺激が溢れています。オフィスの隣の物件にはヨーロッパ企業、反対隣にはアメリカ企業、なんてことも珍しくありません。ここで感じられるのは、アジア一番のダイバーシティです。仕事をする上でも、自分の視野を世界に広げるには良い環境だと思っています。

中国市場で戦うということは、メジャーリーグに挑戦するようなもの

実際のところ、中国のクリエイティブ事情、消費マーケットにはどのような特徴があるのだろうか。

西:中国では2000年くらいから急速にIT・デジタル化が進んでいるので、テレビ・雑誌・新聞以上にデジタル広告のニーズが非常に高いんです。携帯電話はガラケーをスキップしてスマートフォンから使いはじめています。スマホの所有率は日本と比較にならないほど高い。デジタル広告の仕組みについても、日本より一歩先を進んでいると思います。このままいくと、2020年を過ぎた頃には中国がIT技術の分野はアメリカに匹敵するんじゃないかと。現時点で、Googleやfacebookに対抗できるくらいのポテンシャルを秘めている企業がたくさんありますしね。

granddesign_2

中国のなかでもとりわけ上海には、世界各国を代表するナショナルブランドが集まってくる。西さんは、そんな各国の代表が揃い踏みするような状況をわかりやすく体感できるのは家電量販店の売り場だという。

西:たとえば、テレビを買いに行くとしますよね。日本だと5〜10種類くらいですが、上海では世界から集まった30種類くらいのメーカーのテレビが売り場にずらっと並んで同じ映像を流しているんですよ。その景色といったら圧巻です。ものすごく過酷な競争のなかシェアを獲得するというのはメジャーリーグで優勝するようなもの。日本ではそんなことを一度も思ったことがありませんでした。上海に来ると日本企業のサポーターになった気持ちで「負けるな!」と応援したくなるんです(笑)。僕らのクライアントの約8割は日系企業なので、いわば戦友のような感覚ですね。グローバル展開を目指すナショナルブランドのサポートができるというのはとても光栄なことだと思います。

Next Page
エアコンの熱で目玉焼きをつくるCM……?
日本ではありえない企画が中国でウケる理由

エアコンの熱で目玉焼きをつくるCM……?
日本ではありえない企画が中国でウケる理由

具体的に中国で「売れる」ブランディングとはどんなものなのだろう? グランドデザインが手がけたパナソニックのプロモーションムービーを例に、日本市場との違いを聞いた。

西:たとえばエアコンですが、日本では環境に優しい、電気代が安いといったエコナビをセールスポイントにしていますよね。ところが中国からすると、高額商品であるエアコンが「エコ」という観点で売れているということが意外なんです。中国の消費者がエアコンに求めている価値というのは、瞬時に暖めたり冷やしたりする基本機能の「温度」。僕らはそのインサイトを汲み取った上で、リミッターを外せば80度の熱風が出るエアコンのパワーに着目しました。日本ではありえないと思いますが(笑)、パナソニックのエアコンの熱を使えば30秒で目玉焼きができるというWEB-CMを企画制作したんです。

確かに、日本国内で生活していて、日本人だけで企画会議をしていてもなかなか出てこない発想のようにも思える。そうした、突飛とも思えるアイデアを実現できるのは、現地にオフィスを構えている強みでもあるのだろう。

granddesign_3

西:エアコンの例を掃除機に置き換えても同様です。日本において、音がうるさいモデルは敬遠されがちですが、中国では吸引力の訴求がポイント。基本機能が何よりも重要なんです。その価値観をブランディングの方針や広告デザインにいかに落としこむか。これはグローバル展開する際の特徴と言えるかもしれません。クライアントに提案した際、反対する方もいらっしゃいますが、広告が世に出てから最終的には納得していただけることが多いですね。メーカーが日本で築き上げたブランドイメージを崩さず、基本的にデザインやビジュアルのトーンは日本で培ってきたものを極めています。クライアントが日系、中国企業のどちらであっても、彼らが求めるのは、僕らがこれまで磨いてきたものですから。

目指すは「デザイン」を介したひとつのユニオン

グランドデザインが東京、上海、香港と拠点を増やしてきたという足跡を踏まえると、これからどこを新天地に選ぶのかが気になるところ。西さんに伺ってみると、意外にもそこに野心や執着は抱いていなかった。

西:僕らの手がけたものが世界的に評価されても、自分たちが国境を越えていなければリアリティがありませんからね。もし新たに拠点を構えるとすると、たとえばスタッフの誰かが故郷に戻らなければならなくなったタイミングかもしれません。「お前がうちを辞めて実家に戻るのはもったいないから、そこにに支社をつくろう」みたいな。香港に進出した時のようにスタッフの個人的な思いを尊重しながら、トップダウンではなく自然に増えていけばいいなと思います。それに僕は基本、愛憎入り混じりながらも日本という国が好きですから(笑)。

ちなみに現在、東京オフィスでは、香港人、台湾人のスタッフも共に働いている。それぞれの母国語と英語、そして不慣れな日本語を使ってコミュニケーションを図っているそうだ。彼らと共に過ごす時間のなかに、グランドデザインがグローバルに活躍できるヒントが隠されていた。

granddesign_4

西:目指すべきは「デザイン」を介したひとつのユニオンであり、国籍よりもその人の歩んできた背景、得意不得意といった個性を尊重する企業であることだと思います。特にクリエイターの価値って、まだまだ社会的に過小評価されていると思っていて。そこに二つの原因があると睨んでいるのですが、まずクリエイター自身が現在のメディアの変化とともに活躍する場を狭めがちであること。映像や紙、WEBなど活躍できるフィールドは多岐にわたるのに、自分の手掛ける範囲を限定するために個性を発揮しきれないのは非常にもったいないことです。もう一つは国内にこだわりすぎること。そもそもデザインや映像はノンバーバルなコミュニケーションが可能なのに、自分が外に出ないからか外で活躍できるチャンスを自ら失っているのです。国内では評価されないアイデアが、隣の国なら評価されることだっていっぱいある。日本やその他の地域を一瞬で行き来するセンスを持っていたら、国際化が進んだ未来の日本で絶対役に立つでしょう。

国籍ではなく「個性」を尊重し、携わる分野を限定せず、なおかつ活躍の場を広くアジアへと見渡す。それこそが今のグランドデザインをつくりあげた所以なのかもしれない。最後に、今後の展望について伺った。

西:クライアントの課題に対して、商品化する前段階から長期的に関わっていけるような存在になりたいですね。現状のエージェンシーからコンサルティングの要素を強化し、会社規模でステップアップしていきたい。そしていつか、アジアを代表するクリエイティブコンサルティング会社になっていたいと思います。

Profile

グランドデザイン株式会社

グランドデザインは、日本でオンリーワンを目指すクリエイティブカンパニーです。東京・上海・香港に拠点を置き、ブランディングを軸にプロモーションから商品企画やデザインまでを行います。

クライアントは日本国内に限らず、大手上場企業が多くやりがいの大きい仕事ばかりです。クライアントの課題をより良く解決するために、企画とデザイン仕事の分離を目指した結果、アウトプットの幅は広がり、映像・WEB・アプリ・グラフィックにまで及ぶようになりました。

あなたがデザイナーであるかWEBディレクターであるかに関わらず、クリエイターとして視野の広いアイデアと、それをハイレベルで実現するスキルを身につけやすい環境です。そもそもクリエイターにはもっと幅広いソリューションを求められています。

また日本にいながら主要な海外案件にも多く関わってもらいます。ディレクターは各拠点を往来しており、異なる価値観に対しクリエイティブで突破するスキルが身につくようになります。

さらに全スタッフは仕事の他に自分の興味を突き詰めることをミッションとして持ち、年間を通じ個人プロジェクトとして個展を開いたり、コンペに出品したり、ECシステムを開発販売したり多様な活動を行っています。異なる関心をそれぞれ突き詰めていく過程で、仲間の知見に助けられたり影響したりしながら、個性を磨き続けています。

すべてのクリエイターに必要な個性と、高い専門性と、国際感覚を同時に研磨できる学びの場であります。あなたが10年後、多くの人から必要とされるクリエイターになるために必要なスキルセットを我々と一緒に磨いていきましょう。

グランドデザイン株式会社

気になる

Pick up
Company

PR