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体験をデザインする時代へ。フォーデジットが挑む「サービスデザイン」とは

「デザインとは何か?」──その本質に真摯に向き合うフォーデジットは、2001年の創立以来、堅実かつ右肩上がりに成長を遂げているデザインカンパニーだ。WEBプロジェクトの戦略設計やデザインなどが高く評価され、大手企業のコーポレートサイト制作や海外プロジェクトのUI・UXデザインでも、その手腕を発揮している。近年は、ユーザーとクライアントを動的に結ぶ「サービスデザイン」の領域へと大きく展開。新分野をたくましく開拓中だ。そんな彼らが目指すサービスデザインと同社の将来像について、代表取締役・田口亮さん、取締役・末成武大さん、アートディレクター・石田康太さんに話を聞いた。
  • 取材・文:阿部美香
  • 撮影:永峰拓也

リーマンショック、分社化を経て再定義された「デザイン」の価値

フォーデジットの設立は、2001年。不動産プロモーションやアーティストのWEBサイトデザインを主な業務として輝かしい業績を積み上げながら、より早い成長を遂げるべく、2012年に分社化を果たした。

現在は、ブランディング、プロモーション、サービスデザインを手がける「FOURDIGIT DESIGN」をはじめ、不動産プロモーションに特化した「FOURDIGIT ESTATE SOLUTIONS」、WEBマネジメント、コンテンツ管理に特化した「ETHERGRAM」、次世代アンケートサービス・リサーチを手がける「CREATIVE SURVEY」、そしてクリエイター派遣を行う「Contents One」の5社に分かれ、それらをフォーデジットグループとして包括している。

JAL公式ブランドサイト

JAL公式ブランドサイト

JAL、TOYOTA、ベネッセコーポレーションなど、名だたる有名企業のブランドサイトデザインから、さらに一歩踏み出して、「サービスデザイン」領域へも果敢に挑戦。設立からおよそ16年。フォーデジット躍進の転機について、代表取締役の田口亮さんはこう語る。

田口:弊社はもともと不動産プロモーションを軸に成長してきたので、不動産分野に多大な影響を与えたリーマンショックは、会社の方向性や「デザイン」への向き合い方などについて改めて考え直す転機となりました。特にWEBデザインの分野は、派手でファッショナブルなデザインを指向しがちですが、本当に人の心を動かすデザインは、見た目の華やかさだけではありません。デザインがユーザーにどのような影響を与えるかといったシステムづくりから、デザインそのものの本質を捉えることが、これからのデザインに求められるものだと思ったんです。

代表取締役 田口亮さん

代表取締役 田口亮さん

当時のフォーデジットは、『Yahoo!不動産』のプロジェクトが軌道に乗り、運用オペレーターを含め、従業員が急激に増えた時期でもあった。会社全体のマネジメント力を混乱させないよう、専門分野ごとに分社化することで、組織力をより強固にする目的もあったそうだ。

田口:まずは弊社が長く培ってきた不動産分野を独立させることからスタートし、デザイン、サービス、運用マネジメント、データ分析など、グループ内で専門分野を持たせ、分社化しました。同じ社内で寄り掛かり合うのではなく、それぞれの会社が外に出て戦えるまでの力をつけようと。各セクションが自立した結果、リサーチから企画、デザイン、開発、運用まで、ワンストップ且つ、より高いレベルで内製することが可能になりました。チャレンジングではありましたが、きっとうまくいくだろうと確信していましたね。

デザイン業界において、オファーが集中する会社は、先鋭的な感覚と技術を持つ一部の花形クリエイターに支えられているところがほとんど。会社の方向性を転換する際に、フォーデジットのポテンシャルをもってすれば、「より尖った」クリエイティブカンパニーへと歩みを進めることもできたはずだ。だが、彼らはそちらを選ばなかった。

田口:クリエイティブカンパニーのあり方は、2種類に分けられると思うんです。花形クリエイターを会社のブランドにするか、それとも会社全体の組織力で戦うか。もちろんどちらも正解だと思うのですが、ものづくりって、誰か一人の力で完成できるものではないじゃないですか。日々、ユーザーの価値観や行動様式が目まぐるしく変化することに加え、クライアントの意識やニーズも変化しています。そんな世の中で、最後に求められるのは、「意味と価値があるデザイン」だと思っていて。それを高いクオリティで維持し、より進化させながら、提供していくためには、組織の機動力と経験から得るナレッジは必要不可欠だと思うんです。

フォーデジット流「サービスデザイン」とは?

「世の中に意味のあるものを創出する」。そんな確固たる信念を掲げる彼らが、今もっとも注力しているのが「サービスデザイン」だ。田口さんが言う質の高いデザインプロセスをもっとも活かせる分野だ。

そもそも「サービスデザイン」とは、サービスの送り手・受け手間の良質なインタラクションを起こすために、サービス全体を構成、網羅する要素をすべてプランニングしてまとめ上げること。その概念は1990年代にドイツで紹介され、欧米ではデザイン分野の中でも、より深く取り組んでしかるべき領域としてポピュラリティを得ているが、日本ではまだ根づいていない現状があると、彼らは言う。

田口:日本は、まだまだユーザー視点が足りないと思いますね。だからこそ、僕らが声を出してサービスデザインに特化していきたいと考えました。フォーデジットには、経験の豊富なデザイナーやアートディレクター、エンジニアが多くいますし、リサーチサービスで培った顧客調査力、分析力にも定評がある。テクノロジーとデザインをすべて共有できるシステムが、もともと社内に備わっていたんです。今まで僕らがやってきたことそのものが、サービスデザインへと舵取りをする際に、とても優位に働きました。

そんなフォーデジットのサービスデザインを牽引しているのが、取締役の末成武大さんだ。末成さんは大手情報通信会社で、キャリアサービスの立ち上げなどを手がけ、フロントエンドからバックエンドまで幅広く課題解決に取り組んできた。その経験をさらに活かすために、フォーデジットへ転職したそうだ。

末成:僕らの目指すサービスデザインは、たとえば空港を丸ごとつくるようなもの。飛行機が飛び立つためには、旅行者がいて、チェックインカウンターがあり、飛行機を飛ばすためのシステムや客室乗務員などがすべて揃って実現します。なので、フォーデジットが手がけていくサービスデザインは、オンラインだけにこだわりません。むしろ、もっとアクティブで実在的な、人々の暮らしに根ざしたカスタマーエクスペリエンスを、デザインを通して実現していくことなんです。

取締役 末成武大さん

取締役 末成武大さん

フォーデジットの立ち上げ初期から、JALの予約サイト、RICOHのグローバルサイトをはじめ、様々なクリエイティブを具現化してきたアートディレクターの石田康太さんも、同社のサービスデザイン領域で活躍する一人だ。優良なカスタマーエクスペリエンスを導くサービスデザインをつくり上げるため、ビジュアルセンスやテクノロジー、ユーザーデータを融合し、より使いやすく美しい UI・UX を実現している。

石田:単にUI・UXデザインだけに注力するのではなく、テクノロジーを活かした未来のインターフェイスを構築するのも、サービスデザインにおける僕の役割だと考えています。アートディレクターとしては、見た目のクオリティを高めることは大前提。その上で、単にオーダーに沿ってビジュアルデザインを組み上げていくのではなく、デザインプロセスのすべてに関わりながら、「プロジェクトが何を目指しているのか?」「真に実現しようとしていることは何か?」などをPOC(概念実証)の段階からしっかり理解するよう心がけています。ときにはクライアントの課題調査の一環として、ワークショップを開催し、自らファシリテートをすることもありますね。

末成:そこでデザイナーに求められるのは、感覚だけではなく、左脳的な要素だと思います。プロジェクトの意図するところを5W1Hから抽出し、フラットな状態から練り上げていく思考力も大切です。

田口:サービスデザインはプロデューサー、ディレクター、デザイナー、エンジニアといった、既存の職種や領域を越えて、プロジェクトにおける可能性を提示します。上流だけだったり、つくる部分だけをして終わりではないからこそ、本当にユーザーや顧客にも価値あるサービスに取り組むことができます。それが僕らのサービスデザインの価値だと考えています。

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「目に見えないデザイン」にこそ、本質が詰まっている

「目に見えないデザイン」にこそ、本質が詰まっている

そんなフォーデジットの目指すサービスデザインがもっとも具体的な事例として昇華されたのが、2014年4月から2017年3月末まで実施した『英国・マンチェスターにおけるスマートコミュニティ実証事業』への参加だった。

これはイギリス・マンチェスター郊外の公共住宅600軒にヒートポンプを設置し、日本の情報通信技術(ICT)を駆使して、電力のピークシフトをコントロールするというもの。フォーデジットは実験準備段階から約1年半にわたり参加。ユーザーリサーチや分析を行い、住民に配布されたタブレットのインターフェイスデザインや、現地スタッフと住民とのコミュニケーション設計などに落とし込んだのだという。

末成:実験に参加する住民に、弊社のサービスである『CREATIVE SURVEY』を使って、年収や家族構成、クリーンエネルギーに対する意識などをWEBアンケートで実施し、分析をしました。プロジェクトに参加してもらうためには、まず私たちが住民を理解することから始めることが大切です。

石田:インターフェイスデザインそのものへのリサーチだけではなく、実験のコンセプトやサービスを説明するためのセンテンスもユーザーに合わせて何パターンもつくってリサーチをしましたね。実際に現地のスタッフがタブレットを住民へ配布する際のコミュニケーションやシナリオを想定して、使い方のアナウンスやオペレーションも設計しました。インターフェイスがどれだけよくても、実際に使ってもらえなければ何の意味もありませんからね。

アートディレクター 石田康太さん

アートディレクター 石田康太さん

田口:目に見えるデザインの裏側には、必ず目に見えない大切な何かが隠されているもの。ユーザーの会話や行動、意識などを設計するのもデザインの役割です。このプロジェクトには、リサーチから設計、構築まで、弊社グループの強みが活かされ、僕らのサービスデザインの行方を考える上でも、手応えを得られた経験になりました。

国内でも同社のサービスデザインを活かす場は増えている。現在進行中という大手アパレルブランドの「未来の顧客体験」を具現化する映像プロジェクトでは、20代から60代までのユーザーアンケートを実施し、課題を抽出。ペルソナやジャーニーの構築、アイディエーション、ユーザーシナリオ、絵コンテ制作などクリエイティブも多岐にわたったという。最終的には、石田さんがスマートミラーのプロトタイプ制作まで手がけたのだとか。

石田:サービスデザインにおける、これからのデザイナーの役割の一つは、進化する技術を実生活に活かすこと。AR・VR機器をはじめ、マイクロソフトの「HoloLens」のようなMR(複合現実)デバイス、AIを使った「Amazon Echo」などの新しい音声入力デバイスを使って何ができるかを考えることが大切です。テクノロジーには常に敏感でいたいですし、今では最新デバイスやOSへの取り組みを、誰よりも早くキャッチアップし、実際に触れなきゃ気が済まないくらい(笑)。未来を創造する新しいデザインは、そこから生まれると思います。

「サービスデザイン」を多様なフィールドに活かす

常に未来を見据え、サービスデザインを武器にさらなる飛躍を続けるフォーデジット。彼らがこれから目指すこととは何なのだろうか?

田口:先ほど石田からもありましたが、AIやIoTといった生活に浸透していくデジタルテクノロジーを、どうデザインしていくかは一つの命題だと思います。前例のないデザイン、誰もまだ見たことのないものを、これまで培ってきたノウハウを活かし、具現化することが目標ですね。そのためには、デザインとテックの強みとして着実に新しい事例をつくっていくことが大きなミッションです。

石田:そのためにも、より好奇心旺盛な方々と一緒に仕事がしたいですね。サービスデザインには多様な専門性を持ったスタッフが関わります。自分の得意領域だけをカバーするのではなく、プロジェクトのゴールを見据えながら、チームとして取り組んでいくことが大切だと思います。

末成:将来的には、フォーデジット流のサービスデザインをかたちにし、スマートシティ、スマートオフィス、実店舗のデジタイズなど、多様なフィールドに活かしていきたいですね。実は、すでにベトナムや中国など、海外での取り組みも始まっているんですよ。日本でもサービスデザインをもっと浸透させることで、より豊かな日常体験が実現できると思います。それをフォーデジットが当たり前の顔をして牽引していけるよう、着実に業績を積んでいきたいです。

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そして、今後のフォーデジットのビジョンについて、田口さんはこうつけ加えた。

田口:そもそも、実験的な要素を含んだサービスデザインを実施するには、工数がかかりますし、デザイン文脈で実行できる人間も限られてきます。だから、大手企業やレバレッジが効きやすい大規模なプロジェクトが現時点では向いていると思います。そうなると、必然的に日本のトップ企業はグローバル市場を向いている僕らの資質を活かせる場は多くなる。弊社はアメリカ法人も設立していますが、今後はアジア圏を中心に業務領域を増やしていく予定です。日本企業のトップランナーとしてサービスデザインを推進し、フォーデジットをより成長させていきたいですね。

日本ではまだ馴染みの薄い「サービスデザイン」という概念を、国内の先駆けとして実体化し、発信していくフォーデジット。「デザインとは何か?」の答えは、まさに彼らが今、具現化しているプロジェクトそれぞれの中にこそ存在する。「もう間もなく、良い発表ができると思います」と田口さん。海外進出にも積極的な同社の動向と、これから提供される様々なプロジェクトに、今後も注目していきたい。

Profile

株式会社フォーデジット

FOURDIGITは、UXデザインといった上流の工程から、WEBサイト・スマホサイト・アプリの制作、運用更新、人材の派遣まで幅広くWEBのデザインに関わっています。

WEBの領域がこれまでのWEB制作だけでなく、私たちの生活の中まで大きく広がっていくなかで「本質的なデザインとは?」「クライアントやその先にいるお客さまのゴールとは?」を考え抜き、表層的でないデザインを追求しています。

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