「好き」を仕事にする喜びと苦悩って?エンタクルグラフィックスの若手が語る

株式会社エンタクルグラフィックス

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自らを「社交的なオタク集団」と銘打つエンタクルグラフィックス(以下、エンタクル)は、ゲームやアニメのWEBサイト制作をはじめとするクリエイティブワークで成長を遂げてきた。その成長の原動力は、社員それぞれの作品に対する「好き」の気持ちであり、その気持ちを最大限に活かす働き方にある。

今回登場するデザイナーの平岡智哉さんと、東南アジア事業部で働くマレーシア出身のKelvin Kek Ken Leeさんも、「好き」が高じてエンタクルにたどり着いた。「好き」を仕事にすることが生み出す良い影響や、感じている仕事のやりがいとは? 執行役員の相山敏明さんも交えて話をうかがった。
  • 取材・文:タナカヒロシ
  • 撮影:豊島望
  • 編集:市場早紀子(CINRA)

自分の「好き」を突き詰められる環境

仕事へのモチベーションを高める方法として、真っ先に挙げられるのは「好きなものを仕事にすること」ではないだろうか。デザイナーの平岡さんは、物心ついた頃には特撮映画やゲームが大好きだったという。

平岡:ぼくは大阪出身なのですが、以前は地元のWEBデザイン会社に勤めていました。前職ではナショナルクライアントの割と堅めの案件が多かったのですが、たまたまゲームの案件に携わる機会があって、それがすごく楽しかったんです。

ゲーム系の案件は表現の幅も広いし、扱うものが自分の好きな作品だと、いろいろなアイデアが浮かびやすい。それに、アイデアを盛り込もうというモチベーションにもなる。もともと特撮やゲームが好きだったこともあり、もっとエンタメ系に特化したいなと思って、エンタクルにやってきました。

残念ながら、まだ特撮映画案件は手がけていませんが、いまはゲームやアニメなどのエンタメ系のWEBデザイン制作がメイン業務です。モーショングラフィックスを使って、ゲームのプロモーションビデオなどを作成することもあります。

デザイナーの平岡智哉さん

近年、ゲーム産業が急速に成長している東南アジアにいち早く着目したエンタクルは、2018年に現地法人を設けるなど積極的に展開している。東南アジア事業部でプロジェクトマネージャーを務めるKenさんは、マレーシア出身。『ファイナルファンタジーVII』でゲームにハマったのをきっかけに、マレーシアで3D、2Dを学びながら日本語の勉強も始め、来日したという。現在は日本の大学で国際コミュニケーションを専攻しながら、契約社員としてエンタクルに勤めているが、来春の卒業後は正社員になることが決まっている。

Ken:エンタクルの存在は、マレーシア人の親友がきっかけで知りました。私はマレーシアのクリエイティブ業界でも社会人経験があったので、以前からエンタクルの東南アジア事業部で働いていたその彼に、現地クリエイターをよく紹介していたんです。その後、彼から「一緒にエンタクルで働かない?」と誘われて(笑)。もとからゲームが好きなこともあり、入社を決めました。

プレイヤーとしてデザインする側ではないですが、プロジェクトマネージャーとして案件の管理をする立場です。好きなゲーム作品の案件を担当できるので、とても高いモチベーションで仕事に取り組めています。

東南アジア事業部プロジェクトマネージャーのKelvin Kek Ken Leeさん

彼らが高いモチベーションを維持できるのは、ゲームなど「好きなこと」を仕事にしているからだけでなく、その好きなことへ向かう気持ちを活かしやすい仕事環境にもある。エンタクルで手がける案件は、クライアントから直接請け負うものがほとんど。それが制作のクオリティーやタスクコントロールにも良い影響を与えているそうだ。プロジェクトの管理や社内全体のマネジメントを担当する相山さんが、そのメリットを話してくれた。

相山:エンドクライアントと直接制作を行う案件は、小さいチームになることが多いので、伝言ゲームのように仕事をパスし合うことが少なくなります。そうするとつくり手側は案件を自分ごと化しやすくなるし、互いのアイデアや意見などを共有しやすくなる。さらに、扱う題材が好きなものだからこそ楽しめるうえ、より良くするためのひと手間を惜しまない。その結果、手がけるものがブラッシュアップされて高いクオリティーに仕上げることができるのだと思います。

執行役員・プランナー・デザイナーの相山敏明さん

平岡:クライアント直というメリットは、ぼくがエンタクルに入社した理由のひとつでもあります。というのも、前職ではほとんどが代理店経由の仕事で。もちろん代理店を挟むことのメリットもありますが、「直接だったらもっと自分の思いをクライアントに伝えられるのに」と悔しく感じることが何度もありました。

それと、エンターテイメントって、この世に不可欠なものじゃないからこそ、「デザインで魅せる」ことが必要なんです。エンタメ業界のクライアントにはデザインに精通した人がたくさんいるので、そのプロフェッショナルたちに自分のデザインをぶつけて、直接フィードバックをもらったほうが、つくり手も成長できるし楽しめるはずです。

『モンスターハンターワールド:アイスボーン』公式サイト。エンタクルはデザインから構築まで担当した。※スクリーンショットの情報は、2019年8月30日時点のものです。©CAPCOM CO., LTD. 2018, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.

仕事は「自分の作品」ではない。若手がやりがちな失敗とは?

ただし、クライアント直の仕事は「好き」の気持ちさえあれば良いものではないという。現実には、モチベーションが高いゆえに苦労することもあるそうだ。

平岡:制作で「こういう動きを入れたい」と思っても、時間や予算の都合でできないこともあります。クライアントの温度感も、「とにかく良いものをつくりたい」という熱量があるときもあれば、「とにかく納期最優先で進めて欲しい」というときもある。こちらの思いをクライアントとどれだけ共有するかの塩梅で悩むことはありますね。

たとえ自分が好きな作品の案件に携われたとしても、全部が全部、自分の理想通りにつくれるわけではないですし、諦めないといけない部分もある。あくまで仕事なので、ときには割り切ることも必要だと思います。

相山:仕事の制作物を「自分の作品」扱いしてしまう失敗は、若手あるあるだと思います(笑)。仕事である以上、そこには目的や達成すべきゴールがあるので、そこを見誤らないことが重要です。ときにはクライアント側が、さまざまな理由で制作の目的やゴールにぶれが出てしまうことがあります。でも制作サイドは、最終的なゴールを見失うことなくコントロールしなければなりません。

その際にカギになるのが、自分の意見を押しつけるのではなく、連携しながらつくり上げる丁寧なコミュニケーションと、制作過程で起きる難題にも粘り強く向き合うこと。その結果が「良い仕事」につながるのだと思います。

平岡:実際、入社してすぐに担当した、スマホ向けのRPGゲーム『Ash Tale(アッシュテイル)-風の大陸-』の案件では、クライアントに直接ヒアリングするところから携わりました。それまでは、単純に「きれいなものをつくる」という意識が大きかったのですが、この経験で「案件のミッションはどこにあるのか」という、より上流の考え方ができるようになったので、大きな自信になりましたね。

平岡さんが入社後、最初にデザインを担当した『Ash Tale-風の大陸-』のタイトルロゴ(画像提供:エンタクルグラフィックス)

では、実際に担当する案件は、どのように決められているのだろうか。基本的にエンタクルでは、新規案件が入ると全社員に提示され、やりたいと手を挙げた人のなかから担当が決められているそうだ。

相山:やっぱり「やりたい」という気持ちがあったほうががんばれるので、できるだけ本人の気持ちを優先しています。でも、クライアント直の案件が多いことから、WEBサイト制作をきっかけに、そこからキャラクターデザインや動画、音楽制作など、派生した仕事につながることもあるので、手がけるクリエイティブの範囲や、個人のスキルや適性を考慮して、できるプレイヤーに声をかけることもあります。

とくに、私たちは海外事業も展開しているため、東南アジアの制作チームと連携する案件も。そのときはスキルだけでなく、コミュニケーションの適性も踏まえて担当を決めます。

Ken:日本とマレーシアでは文化的な差があることから、仕事に対する姿勢も大きく異なるため、コミュニケーションがとても重要です。日本は個人的な感情を抑えて、ある意味プロフェッショナルとして仕事を全うしますが、マレーシアは個人の感情を仕事に混ぜてしまう人が多い。規定に沿ってつくらなきゃいけないときでも、「こっちのほうが良いんじゃないか」と、勝手に自分の意見を入れてしまいがちなんです。そこは許容できるボーダーをしっかり理解して制作チームに伝えないと、円滑に仕事が進められません。

さらに私はプレイヤー兼通訳として、東南アジア含めた海外のクライアントや外部パートナーとの会議にもよく参加します。社内と同様に、言葉だけでない文化の違いや技術を正確に理解し、お互いに理解できるコミュニケーションを意識しています。そこは自分がマレーシアで学んだデザインや3Dのスキル、いま大学で勉強している国際コミュニケーションの知識が役立つので、大きなやりがいになっていますね。

「好き」のエネルギーを食いつぶさない、自由な働き方

「好き」をエネルギーにすることは、高いモチベーションを保てる一方で、オーバーワークに陥ってしまう可能性も。そんな問題を解消するため、エンタクルでは個人の工数を数字化して管理し、一人に負荷が集中しないシステムを導入しているそうだ。

平岡:前職では、なんとなく仕事を抱えた結果、オーバーワークになることもありました。ですが、いまは仕事量が見える化されているので、働きやすい環境だと思います。もちろん、夜遅い時間に公開しなければいけないときなど、やむを得ない理由で残業をすることもあります。そういう場合は、別の日に仕事量を調整するなど、働き方の自由は効きます。

Ken:やっぱり夜は趣味のゲームに時間を使いたいですし、インターネットで情報収集する時間も欲しいので、一人ひとりのキャパシティーが数字で管理されているのは、とても良いことだと思います。あと、すごくステレオタイプな話ですが、「日系の会社は本音が言えない」という噂をよく聞いていたんです。でも、エンタクルは話すときに建前がいらないし、自分の意見を尊重してくれます。良い意味で日本らしくない会社ですね(笑)。

実際に、毎週1on1の面談を行い、社員とのコミュニケーションも積極的に取っているという。

相山:面談の目的は基本的に、案件や業務上で抱えている問題や、キャリア目標などをヒアリングして、それをクリアするための具体策を一緒に見つけることです。ちょっとした要望や疑問でも話してもらうようにしています。少しでも働きやすい環境をつくりたいという思いは、創業からずっと持ち続けています。

平岡:いまはコロナの影響で休止中ですが、毎週月曜に社内にケータリングを呼んでランチ会をしたり、社員同士の会食費が月5,000円まで補助されたりと、社内コミュニケーションの施策も多いです。おかげでみんな仲が良いので、社内連携がスムーズになるなど、仕事にも良い影響があります。

社内ランチの様子(画像提供:エンタクルグラフィックス)

「ゲームやアニメが好き」でなくても良い

平岡さんやKenさんのように、ゲームやアニメ好きなメンバーが多いエンタクル。しかし相山さんは、同社に向いている人材について「ゲームへの愛より重要な要素がある」と語る。

相山:ゲームやアニメ系の案件が多いので、向いている人材について話すときは「社交的なオタク気質の人」と言うことが多いです。もちろん、そのジャンルに詳しければ理解も早いので武器にはなると思いますが、「オタク気質」でなくてももちろん良いんです(笑)。

重要なのは、自分のこだわりを持って、ものづくりができるかどうかにつきます。自分のなかで「ここまで達成しなければダメ」という軸があれば、そこからぶれないためにどうすれば良いかをつねに考えながら取り組むので、成長できるんです。

2020年は世界中でコロナという不足の事態を迎えた歴史的転換点だったが、じつはそれもエンタクルが新たな人材を求める大きな理由になっている。最後にそれぞれの立場から、今後の目標を語ってもらった。

相山:エンタクルをスペシャリストが集まる集団にしていきたいんです。いままではプロモーションのための公式WEBサイトやキャンペーン、PVなどの制作が主軸でしたが、コロナ以降は、いままでリアルでやっていたものをオンラインで展開するような案件の依頼も増えてきました。例えば、ユーザーにゲーム作品の展示を3Dで見せて鑑賞体験をさせたり、ECサイトの商品プレビューを手に取って見ているような操作性に強化したり。

そのなかには、いままで社内にナレッジの少ない技術やジャンルもあり苦労することもあります。ただ、これをチャンスとして、逆に新しいことに挑戦していき、エンタクルとしてできることを増やしていきたいと思っています。

平岡:個人的な目標としては、クライアントに自分のファンになってもらうこと。さらに将来は、映像や音楽もつくれるようになりたいです。まだまだ自分のスキルには満足していないので、いまは自主的に勉強しています。いずれその努力が、大好きな特撮作品の仕事につながれば良いなと思っています。

Ken:せっかくエンタクルに入れたので、私も好きな作品にもっと関わりたいですね。また、会社が東南アジア向けの事業を拡大しているなかで、私自身もマレーシアのゲーム産業にポテンシャルを感じています。マレーシアは3Dに強い国で、実際に、世界的にヒットしている多くの作品の3Dがつくられています。大きな目標としては、今後マレーシアで開発したゲームを日本でプロモーションしてヒットさせることなどにも挑戦ができたら面白いですね。

エンタクルグラフィックスに、クリエイティブの「源」聞いてみた

―クリエイターにおすすめの本を教えてください

向田邦子『父の詫び状』

このエッセイは、歳を重ね、読み返すごとに、その時々で感じることの変化を見つけられる不思議な一冊。(相山さん)

―人生の哲学がつまった映画を教えてください

『ガメラ3 邪神覚醒』

公開当時、ただの特撮大好き少年だった私にさまざまなことを教えてくれた作品。あの考えさせられるラストシーンは、自分の感性を成長させてくれた気がします。(平岡さん)

『ショーシャンクの空に』

望んでいたものではなく、与えられた機会をつかみ取る。窮地に至っても持つスキルをうまく活かせば、何とかなるはず。(Kenさん)

―普段、どんなものから情報収拾をしていますか?

「Kotaku (コタク)」

主にゲームなどの記事をまとめたアメリカのメディアです。日本でいう「ファミ通」的な存在。毎日このサイトから業界の最新情報を入手しています。(Kenさん)

―最近注目しているものを教えてください

ボードゲーム

家時間が増えたことで購入する機会が増えました。落ちのない話をダラダラとして「良い話だったね」とみんなで褒め合うだけの『ガムトーク』というゲームがおすすめです。(相山さん)

Profile

株式会社エンタクルグラフィックス

ENTACL GRAPHICXXXは、ゲーム系サイトをはじめ、アニメ・音楽・アパレルなどのWEBサイト制作を中心としたBtoCのエンターテインメント系コンテンツを多く手がける制作会社です。また、2019年秋にはマレーシアにクリエイティブスタジオを立ち上げ、日本と東南アジアのゲーム開発やプロモーションの橋渡しにも力を注いでいます。

WEB制作以外には、各種ゲームのUIデザインやプロモーション映像の制作も数多く手がけています。その他にも、グッズや印刷物・ロゴ・イラスト・音楽制作など、幅広いクリエイティブワークを行っております。

クライアントはゲーム・アパレル・音楽・テレビ番組関連などを中心としたエンターテイメント系が6〜7割を占め、その他は、学校や通信関連、広告代理店、などの大手企業になります。業務を評価いただいたクライアントからのリピートや紹介による受注が大半で、どんな案件にも120%の成果を追求する会社です。

また、通常の案件のほかに『本当によくわかるJavaScriptの教科書』の著書や、ENTENTSという社員発信の自社コンテンツ企画にも取り組み、『かおBINGO』というアナログポケッタブルゲームも、そういった企画の中から生まれました。