地方移住やローカルに真っ向から取り組むココロマチの挑戦

株式会社ココロマチ

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最近、「地方」に注目した動きが活発だ。特に東日本大震災以降は、都市部で会社に属して働くだけではなく、地方に住み、人と人との繋がりを大切にしながら過ごす暮らしを選択する人が増えている。そんな中、都市部で住まいを探す人向けの地域情報サービス「itot(あいとっと)」や、都市と地方の移住・交流を促進する「ココロココ」などのメディアを運営しているのが、港区にあるココロマチという会社。なぜ今、彼らは地域や地方に注目し、何を目指しているのか。

燃え続けるまちを見て、会社を飛び出す。

ココロマチ代表の吉山日出樹さんは兵庫県出身。大学卒業後は大手就職情報会社の神戸支店に就職し、兵庫県内の企業が県内の学生を採用するための情報誌を担当した。しかし、地方版情報誌は全国版に吸収される形で廃刊に。その後、東京に転勤になり、仕事に忙殺される日々を送っていた。しかしある日、吉山さんの人生を変える出来事が起こる。

吉山:1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生したのです。テレビで自分の出身地が火事で燃える惨状を見て、衝撃を受けました。そのショックがあまりに大きく、会社を飛び出してしまいました。退職後は復興に携わる活動をしようとしたのですが、東京と被災地を行ったり来たりするだけ。思うように力にはなれませんでした。いい加減に仕事を再開しなければいけないと思い始めた時に、やはり地域に根ざした仕事がしたいと思いまして。

出身地の惨状を目の当たりにして、より一層、「ローカル」への関心が高まった吉山さん。吉山さんが最初に手掛けたのは、北海道・オホーツクの地域おこしプロジェクトや東京・銀座の商店街の活性化などについての情報発信だった。

ココロマチ代表取締役 吉山日出樹さん

ココロマチ代表取締役 吉山日出樹さん

吉山:そうした活動を通して知ったのは、地方だけでなく銀座という華やかな都市部でも、“過疎”が進んでいたということ。バブル崩壊で都市部の地価が下がったため、銀座近くにもタワーマンションが建ち始め、人口は増えていましたが、地域活動に携わる人は年々減少していき、人と人との関係性は薄れていく印象でした。商店街にはもちろん外から人を呼び込むという機能もありますが、そもそもは生活する人のための場所であったはず。ですから、「その街に住む」という概念をPRする取り組みが必要だと思いました。住むことによって、人との新たな関係性を築いてもらい、街を活性化させるという発想です。

そして、この情報発信をきっかけにして、2006年に地域情報サービス「itot」を開設。現在では1,900を超える地域を扱っている。地域の不動産会社をクライアントとしているが、「物件を買ってもらう」ことを前面に押し出すのではなく、「街の生活空間と暮らしを買ってもらう」という想いでサイトを運営しているという。

「itot」のデザインを担当するのは、現在社内で唯一のデザイナーである山本潤さんだ。

山本:その物件のエリアをより魅力的に見せたいクライアントのニーズと、「itot」らしいそのエリアの生の情報を伝える切り口とのバランスを取りながらデザインするのがポイントです。実際に自分で足を運んで写真を撮りに行ったりもしました。

2度目の震災から生まれた、地方にフォーカスしたメディア「ココロココ」

さらに2013年には、地方移住やローカルな活動をテーマにしたメディア「ココロココ」をオープンした。「ココロココ」の立ち上げにも、“震災”が大きな影響を与えたという。

吉山:東日本大震災が発生して1か月くらい経ったときに、岩手県の陸前高田市を訪れました。「なにか自分たちにできることはないか」という想いを抱いて。しかし、現地に行ってみると街自体が津波に流されてなくなってしまっている。自分たちがこれまで「itot」でテーマにしてきた「街」とは一体なんだったのかと、無力感に襲われました。

これを機に、「ココロココ」の構想が徐々に出来上がり始めた。

吉山:人間は、誰かが困っている時に、「助けたい」という気持ちがわきます。震災直後は、誰もがそう思ったはずです。しかし、ただ「助けたい」ではなく、もし自分が困った時には「助けてもらいたい」と思うのが人間です。つまり、「助け合い」です。助け合いたい、支えあえたい、分かち合いたい。そんな心と心を繋ぐメディアを作りたいと思いました。

そう考えた時に、地域というテーマで仕事をしてきたココロマチにできることは何だったのか。

吉山:全国には、若者や次世代の担い手がいない限界集落が増え、存続の危機に瀕している地方コミュニティがたくさんあります。一方で、地方に移り住みたい、自分の能力を地方のために役立てたいと思っている若者も多い。「地方にあるもの」と「都市にあるもの」をお互いさまの精神で交換していけば、豊かな関係性をつくることができる。地方も都市も、もっと豊かで楽しい場所になると考え、「ココロココ」をスタートすることにしたのです。

「ココロココ」で編集長を務める奈良織恵さんは、地方の問題である「過疎」という言葉を単に人口が減る現象とは捉えていないようだ。

「ココロココ」編集長 奈良織恵さん

「ココロココ」編集長 奈良織恵さん

奈良: “過疎”とは、人口が少なくなる現象だけを指すのではなく、人々の“関係性”が希薄になることも含まれると考えています。逆に言えば、人口が少なくても、人々の関係性が密ならば過疎ではないとも言える。全国的に見れば人口が少なくなっていく現象は、これからも止めることはできないでしょう。しかし、その地域と関係する人口が増えていけば、人々はもっと豊かに暮らしていけるはずなんです。ただ移住を推進するのではなく、「ココロ」と「ココロ」の通った関係を作る。それが「ココロココ」のコンセプトなのです。

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住民票を移すだけではない、さまざまな「移住」の形

住民票を移すだけではない、さまざまな「移住」の形

「ココロココ」がコンセプトにしている移住は、ただ都市から地方に人口を移動させるだけではなく、“精神的な過疎”を防ぐ取り組みでもある。さらに、「ココロ」と「ココロ」を交換するためには、必ずしも移住しなければいけないわけではないという。

奈良:「ココロココ」では、住民票を移すような移住だけをお勧めしているわけではありません。観光だったら、一回行ったら終わり。でも、「人」に会いに行くような交流ができれば、「この人がいるから、また行こう」と同じ場所に何度も通ったり、そこに友達を連れて行ったりと、無限に繋がりが広がっていきます。「行ったり来たり」がもっと頻繁に生まれる世の中にしたほうが、地方も都市も楽しくなるし、もちろん、そこから本格的な移住に至るケースもある。そういう交流が生まれやすいメディアにしたいですね。

実際に、「ココロココ」のスタッフも取材先の地方に何度も通うケースがあるという。

奈良:取材で出会った人と、個人的に仲良くなって、会社に特産品のリンゴを送ってもらったり。「ココロココ」の記事を読んで、気になって個人的に地方まで人に会いに行き、自ら「行ったり来たり」の交流を楽しむようになる社員もいるんですよ。もしかしたら、移住してしまう社員も出てくるかもしれませんね(笑)。

デザイナーの山本さんは、ココロマチに入社してからは、地方や地域に対して以前よりも興味を持つようになったという。

デザイナー 山本潤さん

デザイナー 山本潤さん

山本:私が生まれた函館は明治・大正期の歴史的建造物が多いのですが、維持するのが大変でどのように保存するかが問題になっています。景観を維持しなければいけないので、改築もできず持ち主の負担になってしまっている。売りに出しても買い手がつかず、歴史的に価値のある建物が放置されてしまっている現状があります。そうした問題に目が行き始めたのも、ココロマチに入社して地方や地域について考えるようになったからだと思っています。

ココロマチが進める地方や地域への取り組みは、スタッフの意識も変えつつあるのだ。地域で活動している人が原稿を書いてくれることもある。これにより、ただ移住した人を取材するのではなく、「その後の暮らしがどうなったのか」「どんな悩みがあるのか」といった移住後の状況も、継続的に追えるようになっている。

さらには、地方自治体が「地域おこし協力隊」を募集する際のコンサルティングや告知も行っている。岩手県花巻市の「イーハトーブ地域おこしプロジェクトチーム」の採用の際には、募集要項のコンサルティングから、花巻の人や風土を伝える記事掲載、東京での採用説明会、花巻での現地ツアーなどを総合的にプロデュースした。「ココロココ」を通して地方にコミットする人が増え、またそうした人材がココロマチの協力者になるという好循環ができつつあるのだ。

奈良:「ココロココ」がきっかけになって移住した人が、運営に携わってくれる形になるのが理想的です。もちろん、移住は良いことだらけではありません。苦労もあります。実際に「移住 失敗」というキーワードで検索し、「ココロココ」のサイトを訪れる人が多い。ですから、移住のノウハウやお悩み相談といったコンテンツも、これから充実させていきたいです。2015年6月には「移住を悩むナイト」を開催するなど、WEBでの情報発信だけではなくリアルなイベントも定期的に行っています。

「ココロ」を持ち寄って、新しい働き方をつくる

最近では、地方や地域に着目したメディアが増えてきている。どのように差別化していこうと考えているのだろうか。

奈良:同じようなことをテーマにしたメディアは増えてきていますが、「競合」ではなく「協働」する仲間と認識するようにしています。特に地方の問題は自社だけではカバーできない部分もありますので、一緒に盛り上げていきたいという想いの方が強いです。実際に、地方移住をテーマとした雑誌『TURNS』さんと協力したり、地方の求人を多く掲載しているサイト「日本仕事百貨」さんが運営する場所をお借りしてイベント開催をすることもあります。

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吉山:私たちは株式会社であるため、まずは収益を確保することが重要です。収益がないと活動を続けていくことができませんから。その前提を押さえたうえで、シェアを奪い合うだけのマーケティング的な発想をするのではなく、「地方や地域を豊かにしたい」という想いを同じくするメディアと、新しい価値観を創造すべく、互いに支え合っていくべきだと考えています。それが「協働」という発想です。視点が違うもの同士が共に価値を見出していくような関係って単純に面白いんです。

これまで、地方や地域というテーマを通して、さまざまな事業を展開してきたココロマチ。これから、どんな事業を仕掛けようとしているのか。最後に、今後の展望について聞いた。

吉山:「ココロココ」などを通して、たくさんの方と触れ合わせていただきましたが、働き方に対して違和感を覚えている方が多いことがわかりました。当然、働くということは自立するということです。自立しているからこそ、他の人と繋がれる関係が築けるのです。そのうえで、現在構想している「ココロコラボ」では、コラボレーションやセッションを生み出しながら地域の仕事に取り組めるような仕組みを作ろうと考えています。まだ構想中なので、完成形は決まっていませんが、ローカルに入って仕事をする人の働き方を提示できるようなものにしていきたいと思っています。まずはイベントを開いて、参加者の意見も吸い上げながら形を検討していきたいです。

奈良:先ほど、「移住だけではなく交流」というお話をしましたが、週に3〜4日は都市部の会社に属して働き、その他の日は地方に行って何らかの仕事をしながら暮らしているという人も、まだ少ないですが徐々に増えています。「2拠点居住」というものです。そうした新しい文脈で働く人が増えるような取り組みをしていければいいですね。

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    株式会社ココロマチ

    ココロマチは「まち」と「ひと」をつなぐ、小さな会社です。ココロマチという社名は、人の「ココロ」をつないでいこうという想いと、皆さんに「ココロマチ」にしていただけるサービスを作ろうという気持ちを込めて名づけました。1997年の創業以来、私たちがこだわり続けてきたものがあります。それは街の個性とそこに暮らす人々の魅力を発信したいという想い。わたしたちが提供しているすべてのサービスはこの想いを起点に生み出されています。

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