クリエイターが考える「未来の仕事場」。コワーク界の先人co-labに聞く

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2017年にオープンした「渋谷キャスト」は、クリエイターが集い、イノベーションを生み出すクリエイティブな複合施設。オフィス、カフェ、住宅、ショップなどが集積するここは、先端的な文化の生まれる渋谷を象徴する場所として注目されている。そしてその中核の一つが、クリエイター専用のコワーキングスペース「co-lab」だ。世界的にも先駆けて2003年より通算10か所でコワーキングスペースを展開してきた彼ら。その背景には、ただ場所を貸し出す「不動産業」とは一線を画した哲学が込められている。他に類を見ない同社の取り組みと、多くのクリエイターたちに場を提供してきた彼らが考える「未来の仕事場」について聞いた。
  • 取材・文:萩原雄太
  • 撮影:相良博昭

co-labによる「いま」の集大成。「co-lab渋谷キャスト」に込めた思いとは?

—「渋谷キャスト」は、これからの渋谷を象徴する施設として注目を集め、2018年度のグッドデザイン賞も受賞しています。現在、co-lab渋谷キャストは、どのような方に活用されているのでしょうか?

栗原:デザイン、映像、建築をはじめとするクリエイターの他、AI、ロボット、クラウドなどを扱うIT系の会員が多いことに特徴があります。

私は美術大学の出身で、働きながら作品制作をしていたこともあるのですが、こういう環境に身を置いているとクリエイティビティーを触発されることも多いですね。

クリエイターのための複合施設「渋谷キャスト」内にある、co-lab渋谷キャスト

さまざまな職種のクリエイターの仕事場として使われている

佐藤:co-lab二子玉川のように職住近接している拠点の場合、自宅から徒歩で通えるサテライトオフィスとして使われるケースが多いのですが、渋谷は、さまざまなビジネスが集積し、立地が良いこともあって本社としての利用が多いです。

co-labは、クリエイター専用と謳っていますが、いわゆる絵が描けるような狭義のクリエイターだけでなく、クリエイティブワーカーと呼んでいる研究職やビジネスクリエイターのような広義のクリエイターもいらっしゃいます。

クリエイティブワーカーは、その発想の仕方や、目指すべき未来に向けて新しいものをつくっていく部分にクリエイティブな思考方法を持っています。狭義と広義のクリエイターがバランスよく同居している空間にすることで、新たな視座や能力が加わり、多様性からまた新たな発想が生み出されていますね。

左から、栗原那津子さん、田中陽明さん、佐藤千秋さん

—co-lab渋谷キャストは、クリエイティブ産業の発展支援をテーマとした「渋谷キャスト」の中核施設の一つとして位置づけられています。どのような経緯からco-lab渋谷キャストは立ち上げられたのでしょうか?

田中:そもそものきっかけは、東急電鉄さんをはじめとした複数企業との協働で、この敷地を東京都から借りるコンペに参加したことでした。

コンペ用の資料作成をco-labクリエイターにサポートしてもらい、受注後は、渋谷キャスト全体の施設コンセプトの提案や施設デザインディレクションを春蒔プロジェクトで担当しました。

開発計画を策定する段階から、co-labが入居することになっており、運営フェーズでの施設ブランディングに何らかのかたちで関わることになっていたんです。

普通、大規模開発の場合、計画策定の段階から、運営会社を決めることはあまりありません。しかし、コンセプトづくりの段階から運営まで一気通貫して関わることによって、施設の魅力を最大限高めていくアイデアが生み出せたのではないかと思っています。

渋谷キャストの場合、コワーキングスペースにクリエイターが集まり次々とアウトプットを生み出していくことで、活動が外に発信され、渋谷の魅力を高めていくというサイクルを生み出すことに成功しています。

渋谷キャスト外観

—計画段階から関わっているからこそ、ハードからソフトまでブレない施設ができあがったんですね。

田中:このように開発から運営までを一気に手がけることは、じつは約25年前、新卒で大林組に入社した頃から理想として考えていたものでした。

当時、設計部に在籍し、大規模な都市開発を行っていたのですが、そこではハードをデザインすることしかできず、完成した後の運営にはタッチできなかった。

そこで、会社を辞め、慶應義塾大学(SFC)の大学院でコミュニケーションアートを学び、卒業後にco-labを立ち上げたんです。約25年を経て、ようやく開発からデザイン、運営までを手がける理想的な仕事ができるようになりましたね。

不動産ディベロッパーが、「アート」や「信念」という新たな価値を求めはじめている

—これまで、co-labとして10か所あまり(閉鎖した施設も含む)のコワーキングスペースを手がけています。田中さんがコワーキングスペースを構想するにあたり、特に影響を受けた空間はどのようなものでしょうか?

田中:いろいろありますが、SFCのときに過ごした大学院棟のイメージが強いですね。槇文彦さんが設計した建物なのですが、そこには研究室の境がなく、広々とした空間が机で区切られている程度。

だから、政治系の研究室のすぐ隣で人工知能の話をしていたり、さらに隣ではアート系の学生が議論していたり……と、異なった分野の人々によるさまざまな声が飛び交っていたんです。

インターネットでは、自ら情報を検索するために、興味のある分野の情報しか得られません。しかし、そのような空間に身を置くと、まったく別のジャンルの情報が入ってきたり、まったく関わりのなかった人々との会話からアイデアが生まれることもありました。

大学を卒業後、SFCのような雰囲気の場所が世の中にないことに気づき、森ビルの文化事業部さまに「そんな場所をつくりたい」とプレゼンをしたところ、六本木の空いているビルを貸してもらうことになった。ここから、co-labの歴史がはじまったんです。

co-lab代官山の様子

—田中さんの発想の根幹にあるのは、大学院のオープンなスペースだったんですね。

田中:不動産賃貸業をしたいと考えていたわけではなく、友人や親しいクリエイターを集め、コラボレーション型で仕事をしていきたいというのが、co-labを立ち上げたいちばんのモチベーションです。当時は、まだコワーキングスペースなんていう言葉もない時代でしたね。

—設立から15年を経て、コワーキングスペースという文化はどのように変わっていったのでしょうか?

佐藤:私が美大生の頃に、友達から教えてもらって知ったco-labは「大人のクリエイターが集う秘密基地のような場所」というイメージで、知る人ぞ知る憧れの存在でした。

コワーキングスペース元年といわれた2010年ごろから、徐々にコワーキングスペースが一般化し、言葉自体の認知度も高くなりました。

その頃、われわれと事務機メーカーのコクヨさまと共同で「KREI / co-lab西麻布」を設立し、コクヨグループのインハウスクリエイターとco-labメンバーが協働する場所をつくりました。ついに、インディペンデントなクリエイターだけでなく、大企業もコワーキングスペースから生まれるイノベーションに注目しはじめたんです。

co-lab二子玉川の様子

—そんな時代を経て、コワーキングスペースを活用する新たな働き方が一般的になっていったんですね。

田中:この15年を振り返ると、常に新しい働き方の実験をしてきたように感じます。語弊を恐れずに言えば、そこには、ビジネスとしての側面だけでなく、社会実験的なアートという側面もあるんです。

co-labは、アートとしてのコミュニティーづくりと、建築としての空間づくりの両方を手がけているプロジェクトだと言えるかもしれません。空間を用意し、ファシリテーターを配置することによって、どのような場がつくられ、どのようなアイデアが生まれてくるのか? ということに興味があるんです。

そこに至ったのは、ぼく自身、アーティストとして活動をしていた経験があったことが大きいと思います。アートの本質は、自分の「信条」を探し出し、それによって共感を得ることであり、資本主義社会とは少し外れた軸にあるもの。じつは、いまの大規模開発では、こういった「アート」という価値観が求められるようになりつつあるんです。

渋谷キャスト外観。ガーデンは、訪日外国人などの観光客やワーカー、学生、地域の方々も訪れる、賑わいの場となっている

—都市計画に「アート」が求められているのですか?

田中:これまでの都市開発では、計画の「信条」となるコンセプトがないままに、何百億円もの資本が投下されて開発が進められることがほとんどでした。ビルのネーミングを決める際も、広告代理店が入り、広告としてのネーミングをしていたんです。

そんな巨大建築ばかりが増えてしまった状況に違和感を覚え、「建築にもっと魂を込めたい」「生きた建築をつくりたい」と長年考えてきたのですが、そこに共感していただけるディベロッパーが増えてきたのだと思います。

渋谷キャストは、「創造性を誘発する空間」という信条に基づいて生まれた施設です。この成功例を見て、多くのディベロッパーが「信条」の重要性に気づかれて、各地から話をいただくことも増えています。

ぼくらの仕事は、「信条」を軸にしながら、これに共感してくれる人と一緒に「アート作品」をつくるようなものですね。現代社会において意義のある活動だと感じています。

デザイン思考がきっかけになってデザイナーの存在や思考方法がビジネスの世界に浸透していったように、信条のようなものを表現するアートの意義が建築や空間を通して、多くの人に知られていけばいいなと思っています。

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クリエイター同士だからこそわかる、「ちょっと散らかった仕事場」がベスト

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—co-labの特徴は、コワーキングスペースに「コミュニティーファシリテーター(以下CF)」というスタッフが常駐していることです。CFがコミュニティーを活性化し、内部でクリエイター同士のコラボレーションが生み出されるそうですが、具体的にCFはどのような仕事をされているのでしょうか?

佐藤:入会希望者の審査にはじまり、メンバーさんと日々コミュニケーションを取りながら、良質なコミュニティーを維持開発していくのがCFの仕事です。交流やコラボレーション誘発のためのイベントを企画したり、「ここにこんなものがあったらいい」といった空間の仕掛けを常に考えたりしますね。

—どのようなイベントを企画しているのでしょうか?

佐藤:『プレゼンテーション会』というイベントを定期的に開催し、メンバー同士が深く自分の仕事をプレゼンテーションし合うことで、コラボレーションが生まれやすい環境をつくっています。また、カジュアルなお茶会やランチ会などを開催し、普段は共通点がない人々が話す場も用意していますね。

—その結果、どんなコラボレーションが実現していますか?

栗原:例えば、WEBサイトや紙モノの制作プロジェクトなどに、メンバーさん同士のチームで取り組んでいる姿をよく見かけます。毎日一緒の場所にいると打ち合わせもしやすいし、安心感もある。必ず入会審査をしているので、メンバーのクオリティーも担保されています。

佐藤:印象的なものだと、3Dプリンターを使ってものづくりを支援する株式会社カブクさんは、co-lab渋谷アトリエで出会ったFABLAB Shibuyaさんと意気投合し、会社の発展を急加速させて、大きな出資を受けるようになっていきました。

—co-labが会社の発展のきっかけになった?

佐藤:そうであったらうれしいですね(笑)。そんな出会いが起きやすい環境づくりをするのが、CFの大きな役割ですね。

—クリエイターに向けて場所を提供するにあたって、気をつけている点はありますか?

田中:co-labの内装デザインでは「余白」を大切にしていて、あえて素地を見せたり、ラフな素材を使ったりすることによって、使い手にとって編集可能な余地を残すようにしています。

クリエイターにとっては、すべてつくり込まれた空間より、自分で能動的に何か手を加えられそうな空間のほうが心地良く感じてもらえるのでは、と思うからです。

また、散らかっていたとしても、汚く見えないような空間構成をしています。これは私や、co-labで働いているCFに美術大学の出身者が多いことも関係しているのですが、クリエイティブなことに頭を使うときって「いい具合の散らかり具合」が大事なんです。だから、クリエイターが仕事をしやすい「適度なごちゃっと感」を保っておくのもCFの役割です。

佐藤:CFに求められるスキルは、クリエイターたちとの共通言語を持ち、心地のいい距離にいながらも、注意やお願いをしなければならないときには、きちんと話を聞いてもらえる関係性をつくっておくこと。そのためには、やはり自分自身も何かしらつくったことがある人のほうが、コミュニケーションの塩梅をわかっていることが多いですね。

気持ちいいオフィスづくりで用いられる「バイオフィリックデザイン」とは?

—各企業では、イノベーションを起こす場としてのオフィスづくりが課題となっています。長年、クリエイターに向けて仕事場を提供してきたco-labから見て、そんなオフィスをつくるためにはどのような工夫が必要だと思いますか?

田中:「バイオフィリックデザイン」を用いた空間がオフィスに求められるようになってくると思います。植物や自然光、自然素材などが使われている空間で仕事をすることで、働きやすくなり、生産性も向上するという考え方が世界基準になりつつある。

特にクリエイティブな発想は、人の「気持ち」に影響されるものですよね。バイオフィリックな空間に身を置くことで、気持ちよく仕事ができ、いい発想を生み出しやすくなります。

co-lab二子玉川の様子。オフィス中に植物が配置されている

佐藤:まだ日本では一般に認知は浅いですが、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)や、ESG(E:環境、S:社会、G:ガバナンス)という投資指標を意識する国内企業が近年加速度的に増えています。

つまり、世界的に「持続可能性」を重視したビジネスの展開が主流になってきている流れがあります。

バイオフィリックデザインを用いることは、そうした時代の流れに即しており、かつ人間性に回帰している現代社会からも強く求められているように感じています。

—人間の身体感覚にフィットする空間を提供することで、質の高いアイデアやイノベーションが生み出される、と。

田中:そもそも、日本では窓が開くオフィスが少ないですよね。欧米では、外気を感じられないオフィスには借り手がつきにくかったり、そもそも法律で窓を開けるよう定めていたりする国もあります。

先日、デンマークやオランダのオフィスを視察したところ、建物はすべて薄くつくられ、大きなビルでも必ず外光が入るように設計されていました。今後は「人間的に働ける空間」こそが、オフィスの絶対条件になっていくでしょうね。

—では、そんな時代を迎え、これからのコワーキングスペースはどうなっていくのでしょうか?

田中:CBREという世界的な不動産会社のデータによると、アメリカでは、2030年までにオフィスの30%がコワーキングスペースになると予想されています。いま、日本のオフィスにおけるコワーキングの割合は5%弱ですが、アメリカ並みの30%には届かないまでも、3倍の15%程度になることは考えられます。

—そのとき、働き方においても副業やフリーランスといったフレキシブルな方法がますます一般化していくのでしょうか?

田中:そうですね。また、企業としてもオフィスを自社で抱えるのではなく、コワーキングスペースで社員が働くことで、コストを下げられる。いま、大企業の一部では、自社のオフィスを減らして、社員の仕事場をコワーキングスペースにする動きが生まれつつあるし、建設中のオフィスビルに最初からコワーキングスペースが入ることも珍しくありません。この流れはより加速していくでしょうね。

—では、そんな時代を目前にして、春蒔プロジェクトでは、どのような活動を展開していくのでしょうか?

田中:渋谷キャストの仕組みやつくられ方の好例を受け、東京都心に限らず、さまざまな地方都市からもお話をいただいています。そういった場所で、コワーキングスペースをどのように機能させていくことができるのかが、今後挑戦していきたい課題です。

いま、ぼくらが目指しているのは「意思を持ったコワーキングスペース」をつくること。co-labでは、クリエイターたちが集い、集合知を形成しています。

そんな特徴を活かして、特に地方において、地域を活性化するためにどのような役割を担えるのか、co-labからどのような仕事を生み出せるのかを模索していきたいと考えています。ゆくゆくは、デザインなどのクリエイティブだけではなく、政策や経営などの課題を解決できる場所にしていきたいですね。

佐藤:それは、「シンクタンク」ならぬ、クリエイターたちが集合知によって課題を解決する「ドゥータンク」といったイメージの姿です。AIは過去のビッグデータに基づいて解答を出しますが、クリエイターは、アイデアとスキルによって未来を考えることができます。「ドゥータンク」としてのco-labにこそつくれる未来があると考えていますね。

  • Profile

    春蒔プロジェクト株式会社

    春蒔プロジェクトでは、建築を中心としたクリエイティブディレクション業務と、2003年から続くクリエイター専用シェアードオフィス「co-lab(コーラボ)」の企画運営をしています。

    ■クリエイティブの力を信じる
    本質的なクリエイター支援を掲げ、2003年から「co-lab」の企画運営で培ってきた優良なクリエイティブネットワークやノウハウ。コミュニティファシリテーターはコラボレーション誘発やメンバー同士のマッチングをしたり、時には渋谷の真ん中や多摩川の河川敷でパブリックなイベントを開催して、クリエイターの創造性を社会に還元していきます。私たちは、クリエイティブ な人々が街に集うことで、街がさらに良い方向へ変わっていくと考えています。

    ■「都市の未来」にコミットする
    10名ほどの小さな会社ですが、建築のクリエイティブディレクション業務では、大手デベロッパーと直接契約で、大規模な都心駅前などの再開発事業に携わり、co-labメンバーと協業して何十年後の未来の都市作りにコミットさせていただくことも。また代表は、建築やコミュニティデザイン関連の共著も数冊あり、プロジェクト・マネージャーは一緒に仕事をしながら、最新の物件で実践的に学べます。

    ■働き方は生き方のデザインでもある
    co-labは、渋谷、代官山、二子玉川などに拠点があり、リモートワーク、フレックスタイム、時短や日短など、個人の事情や職域に応じて多様な働き方のスタッフがいます。定期面談の内容を元に、雇用条件の見直しや業務負担の分散調整、新しい業務への挑戦機会を作るなどしており、近年の月間平均残業は20時間以下、有給は1時間単位で取得できます。

    ■仕事現場の自由な雰囲気
    スタッフはほとんど20〜30代の女性ですが、代表はもうすぐ50歳になる男性で、プロジェクト単位のパートナーも30〜40代の男性が多いです。拠点が数カ所あるので、全員が顔を合わせることは少ないですが、SkypeやSlackなどで自由に情報交換しています。バックグラウンドは、アート、建築、プロダクト、グラフィック、社会学など様々ですが、当社の業務は珍しいので未経験で入社する方がほぼ100%です。

    建築やコミュニティデザインの業界は初めてでも、実験的な都市の開発手法やコミュニティ作りにご興味のある方、私たちと一緒に実践してみませんか?

    春蒔プロジェクト株式会社