グスコーブドリ的働き方? 人や社会の役に立つためのbudoriの5箇条

株式会社budori

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「一緒に考え、共につくる」をポリシーに掲げ、ブランディングやデザイン、空間演出など枠に留まらないサービスを展開する株式会社budori。社名の由来は、宮沢賢治作の童話『グスコーブドリの伝記』からきている。主人公の生き方・考え方から受け取った5つのメッセージ──「自然とのあり方」「人の生き方」「思いの実現」「愛」そして「継承」──を実際の働き方の指針として取り入れている。設立から10年。理想論だけでは決して乗り越えられない年月だ。「世のためになる仕事」というテーマは変えず、どのように成長し続けているのか。これまでのbudoriの歩みを、代表の有村正一さん、ディレクターの納谷陽平さん、田中大士さん、そしてデザイナーの坂元沙也可さんに振り返ってもらった。

グスコーブドリから、budoriへ

宮沢賢治は『雨ニモマケズ』を執筆後、石灰工場の営業マンとして奔走していた。そんな晩年、人生の岐路に立ったときに自身を奮い立たせる思いで書いた作品が『グスコーブドリの伝記』だ。両親を失い、孤独の最中にあった主人公のグスコーブドリが仕事を覚えながら、農地を改善したり、火山災害を防いだりと苦難を工夫して乗り越え、人々に役立つことをしていく物語。代表の有村さんは「世の中にどのような役割を果たすのか」と企業としてのあり方を悩んだ時、この主人公の生き方を企業の人格としたいと考えたそうだ。

代表取締役 有村正一さん

代表取締役 有村正一さん

有村:ブドリは、不遇な環境の中でも勉学に励み、自然を愛し、周りの人や世の中の人々を思い、懸命に働いた人物です。どんな困りごとも、いろんな工夫を掛け合わせて乗り越えていく姿を、企業の人格を決める大切な信念に取り入れたいと思い社名をつけました。

有村さんはグスコーブドリから受け取ったメッセージを働き方の指針として取り入れたいと、起業して5年目に社名を変更。理想論ではなくbudoriの生き方として掲げ、10年間 「グスコーブドリ的な働き方」を実践してきた。

グスコーブドリの価値観を、budoriはどのように現代の中で実現しているのだろうか? これまでの歩みを通して得た価値観を「budoriの5箇条」として紐解きながら、これからの展望に迫っていく。

budoriの5箇条
1.「思いの実現」のために、必ず現地に足を運ぶ
2.クライアントとは取引ではなく“取り組み”
3.「愛」─“ジブンゴト化”されることで、素晴らしいクリエイティブを生む
4.「人としての生き方」─自分から創りだし、学び続ける姿勢
5.「自然とのあり方」と「継承」─次世代に継承される仕事を創る

1.「思いの実現」のために、必ず現地に足を運ぶ

budoriらしさのひとつめとして全員が口をそろえたのが「必ず足を運ぶ」ということだ。北海道に行ったかと思えば、今度は片道26時間かかる小笠原母島へ。クライアントがつくりだすものを見聞きするために全国各地を飛び回っている。

坂元:デザインは、営業から仕事をもらって、ワイヤーをつくりラフを描くという流れが普通だと思っていました。ですがこの会社は、まず現場に行ってみるということがとても多い。最初は正直「本当に行くの?」と驚きましたが、デザイナーとしてはあまりできない貴重な経験だと思います。

デザイナー 坂元沙也可さん

デザイナー 坂元沙也可さん

有村:実際に行くと、良いことや悪いことも含めて、その人たちの心のテンションや感覚がわかります。その感覚を僕らは身体の中に一度入れて解釈をし、アウトプットに落とし込みます。見聞きすることで、自分なりの表現で最終的に形にできるので、「行く」というのは大切なプロセスですね。

アウトプットを頭の中だけでつくってしまうこともできる。しかし、足を運ぶからこそ、現場の人たちが本当は何に悩んでいて、何をすればいいのかが見えてくる。有村さんがこういった考えを持つに至ったのには、ある転機があったからなのだと言う。

有村:僕の転機となったのは『東北グランマのクリスマスオーナメント』。東日本大震災によって仕事を失った東北の女性たちとクリスマスオーナメントをつくるプロジェクトです。復興支援として何かできないかと模索していた時、クライアントが持っていたオーガニックコットンのはぎれとカメラをかつぎ、被災地に向かいました。その時に東北で働くお母さんたち、通称「東北グランマ」の皆さんと出会い、クリスマスオーナメントをつくってもらおうという話になったんです。会社に話を持って帰ってきたら、スタッフのみんなが役割とアイデアを考え出してくれて。サイト制作やイベント、ネットショップの開設、ニュースリリース、出荷など全員で取り組みました。

坂元:仕事づくりが本当に役立つのか、それよりもお金を送るべきではないかというのはみんなで喧々諤々しました。でも実際にグランマの皆さんにお会いして、「孤独にならず、このプロジェクトが近所の人と集まる理由になる。そして会話をしながら手を動かすことで寂しさが紛れ、励まし合える」というお話を聞いて、自分の中で納得することができました。顔を思い浮かべるからこそ、より一層思いを込めることができたと思います。

2.取引ではなく「取り組み」をしたい

単発な取り組みが、のちに継続的な取り組みへと発展することも少なくないそうだ。田中さんは、北海道・札幌のお米屋さんの商品『初米いろは』のプロジェクトについて話してくれた。

田中:新しく自社ブランドの商品を開発するにあたり、パンフレットを作成してほしい、という依頼が始まりでした。それがお話を伺う中で「もしブランディングをお任せしたらどうなるか」ということになり、すでに決定していた商品を、さらに大幅に変える提案をさせて頂きました。パンフレットだけでなく「食」本来の大切さを伝えるためにオリジナルのかるたもつくりました。

ディレクター 田中大士さん

ディレクター 田中大士さん

このかるたに載せる言葉やイラストも、すべて田中さんが自分でつくったのだという。「お客さんには、取引ではなく取り組みを一緒にしましょうと伝えている」と有村さん。プロジェクトとして決まりきったものを実行するのではなく、そこに少し余白を加えることで、お互いにベストな方法を提案しあえる信頼と自由が生まれる。それがクライアントとbudoriの関係だ。

有村:僕らもお客さんのことを思って腹をくくる覚悟があるからこそ、思っていることをきちんと伝えます。「やっておいてくれ」というマインドだと世の中にも同じ様に伝わってしまう。僕らのクライアントには、「一緒につくりましょう、考えましょう」というようなパートナー的な会社が多いですね。

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3.「愛」─“ジブンゴト化”されることで、
素晴らしいクリエイティブを生む

3.「愛」─“ジブンゴト化”されることで、
素晴らしいクリエイティブを生む

より良い方針を打ち立てるためには、本音を聞くことが大切。上下関係ではなく、フラットな関係でクライアントに接することが多いburoriにとって、理想ともいえる関係を築く秘訣は、「ジブンゴト化」することだという。

有村:人ごとではなく、ジブンゴトにしないと、思いは伝わりません。直接足を運ぶ、クライアントと直接話す、距離が近い関係は「この人のために何かやってみたいな」という気持ちを生みます。おせっかいのような気持ちは、良いものを生む。みんな素直なので、気持ちを汲み取って自分の中に入れるのが早いですね。

「ジブンゴト化」する、ということは時にプレッシャーを生む。ある程度一線を引きがちな仕事の中で、なぜそのような考え方ができるのか。

納谷:以前の職場で、言われたことをただやっていたときは「ジブンゴト化」できていなかったと思います。今なら「正しくないと思うことはやらない」と自分の中できちんと線引きをしているかもしれません。

坂元:お客さんとの距離が圧倒的に近いからできることですよね。私も以前は、営業がワンクッション挟まるので、決められた枠に収まるように仕事をしていました。でも今はより良くするために、提案できる余白がクライアントさんとの関係性の中にあるので、色んなことを考えたくなるんです。

4.「人としての生き方」─自分から創りだし、学び続ける姿勢

取材中、「みんなで」というキーワードが多く挙がった。社員数10名ほどの人数だからこそかもしれないが、全員で取り組もうとする姿勢が非常に強い。

有村:連帯感を生むためではなく、自分のものにしてほしいから全員で取り組もうという選択になっているのだと思います。社名をbudoriに変更する際も、全員で話し合いました。ロゴ、表記、思いなどもすべてです。進捗確認もデザイナーやWEB制作者、全員でするのでお互いの肌感覚の中でプロジェクトが進んでいくのは小集団のメリットですよね。

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全員でアイデアを出し合いカバーし合うことが当たり前、なのかもしれない。働くことへの考え方や姿勢が似ているのもbudoriらしさにつながっている。有村さん自身は様々な仕事の経験をするために、起業まで6度の転職を経験。社会人のスタートはパン屋からだったそうだ。「人生の様々な転換期を、しんどいことも嬉しいことも前向きに解釈し乗り越えてきたスタッフが多い」と有村さんは話す。

有村:坂元は自力で働きながら本気でデザインを勉強してきた人。納谷はポートフォリオに人柄や信念が出ていた。田中は話題が盛り上がり延べ7時間も面接をしました(笑)。最初の1回では話し足りなくて、その次も面接をして。

田中:技術的なことは一切聞かれませんでした。それよりも、今の社会が抱えている課題や環境への疑問をたくさん話したことは覚えています。

当初はネットショッピングをメイン事業としていた。しかし、「ネットショッピングだけが課題解決ではないはず」と考えていた有村さん。そんな中、budoriらしい人たちが様々な特技をもって集まったことで、アイデアさえあれば商品をつくったり、絵本をプロデュースしたり、ゼロから仕事をつくる理想の形ができてきた。

有村:たとえば、フェアトレードで取り扱う商品の魅力を伝えるためにどうしたらいいのか考えた結果、子どもに伝えるための絵本を出版しました。デザインだけではなく、自分たちが発信元になったことは大きな挑戦でしたね。

実はbudoriのコーポレートサイトには明確な事業内容が書かれていない。できることの幅が広がっていく中で、ゼロから発案する起案者集団として、決まりきった枠組みは設けないというポリシーから生まれた姿勢だ。

有村:WEB制作やデザイン、出版など、どれを中心にという事業はなく、できることはどんどん広げていきたい。スキルは時代と共に変わっていくものなので、柔軟に身につけて学び続けてほしいです。

5.「自然とのあり方」と「継承」─次世代に継承される仕事を創る

事業の枠組みがない、という自由さがありながらも、budoriの大切な基盤として「自然とのあり方」と「継承」というメッセージがある。社会が抱えている課題と向き合い、次の世代に継承できる仕事をするという思いについて有村さんは話す。

有村:この事業はどういう使命を帯び、この事業を通じてどのように世の中に役に立てるのか。一生懸命生きたとしても僕らには寿命があります。すりむきながら、あいつ変だなと言われながらも、困りごとを工夫し人に役立つことが大切。次の世代に継承できる仕事をつくり続けたいですね。

さらに現在、「継承」につながる自社事業も準備を進めているという。納谷さんが提案した『キネヅカ』は、シニア向けの仕事情報だけを紹介する画期的なサービスだ。

ディレクター 納谷陽平さん

ディレクター 納谷陽平さん

納谷:ずっと仕事で各地を飛び回っていた父が定年退職し、年金暮らしの姿を見ていたのがきっかけでした。仕事への意欲が高い人だったのに、定年後は家からあまり出ず、年金だけだとお金も少ないので旅行にも行けない。急速に老けているなと。以前の父は働くことに前向きでした。シニアだからこそできる仕事が発掘できれば、それは自分たちの将来のためにもつながるのではないかと思い、提案をしたんです。

働き手が足りない現状と、働きたいというシニアの思いをつなげることが、これからの日本の未来につながっていく。「定年=リタイアという枠組みを取っ払いたい」とプロジェクトへの思いを熱く語る。

有村:『キネヅカ』はbudoriの理念を象徴するプロジェクトです。時代に合わせて役立つ仕事というのは少しずつ変化している。だからこそ仕事をつくることは、これからもずっと変わらないと思います。会社のスタッフは、全員が起案者。デザインよりも前に、相手の気持ちに寄り添い、工夫すべきことをいろんな側面から考えることができる人たちです。これからも自分から仕事をつくりだし、学び続け変化し続けられる集団でありたいと思います。

  • Profile

    株式会社budori

    budori=ブドリとは宮沢賢治氏の晩年に発表された童話『グスコーブドリの伝記』主人公の名前。不遇な環境でも前を向き、懸命に学び、世のためにつくした人物です。

    わたしたちは、ブドリのように自然や社会、生活のなかにある様々な課題を解決するため、「◯◯業」という枠にとらわれることなく、「つくる・つなげる・つたえる」ことで、継承できる世界をつくりだすために歩んでゆきます。

    わたしたちの業務内容はWEBサイトや印刷物の制作から、イベントやワークショップの企画・運営、雑貨の企画・開発まで多岐にわたります。少数精鋭の強みを活かし、デザイナーも現場に行って話しを聞いて創りあげて行きます。またつくって終わるのではなくクライアントと共に考えて長いお付き合いをすることをモットーとしています。

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