- 取材・文:笹林司
- 撮影:玉村敬太
- 編集:立花桂子(CINRA)
ディレクターを活かすことが、作品の質につながる。だからBABEL LABELは「ディレクターのプロデュース」をする
—「ディレクター集団」として誕生したBABEL LABELですが、現在はプロデューサーも在籍し、プロダクション機能も備えた会社になっています。他社にはない独自性や強みを教えてください。
山田:いまでも監督最優先、つまりディレクターファーストな会社であることは間違いありません。もう少し正しくいえば、クオリティーファーストであるために、ディレクターファーストを貫いています。
弊社には8人のディレクターがいますが、彼らが力を発揮できるようなシステムを構築するために、「ディレクター中心のプロダクション」という体制にしました。
うちのディレクター陣は、脚本も書けるし映画やドラマも撮れますが、CGやデザイン要素といった仕上げの部分に弱みがあった。そこで、社内に専門のスタッフを集めることで、作品のクオリティーを底上げしたんです。ディレクターの作品をよりよく仕上げるためには、ディレクター以外の力も必要でした。いまではディレクターからエディター、プロデューサーまで在籍しているので、一気通貫で作品をつくることができます。
—「ディレクター中心のプロダクション」という体制の映像会社は珍しいのですか?
山田:そうですね。映像プロダクションは、基本的にプロデューサー中心の集団です。彼らが仕事を取ってきて、作品に合うディレクターを社外から連れてくることがほとんどです。
金:普通のプロダクションは「仕事をプロデュース」していますが、ぼくたちは「ディレクターをプロデュース」しています。タレントや俳優の育成に似ているかもしれません。
「BABEL LABELでも映画が撮れることを証明したい」。自社制作映画は社員と会社への投資
—自社制作の映画『LAPSE(ラプス)』も、「ディレクターをプロデュースする」ことの一環なのですか?
山田:はい。ぼくらは何者でもない人をプロデュースして、一人前のディレクターに育てていきたい。『LAPSE(ラプス)』は会社で予算を出し、配給以外はすべて自社でまかないました。映画を1本撮ると、たくさんのことを学べます。「いつかは映画を撮ってみたい」というディレクターも多いのですが、普通の制作会社では予算や時間、権利の都合で「映画なんて撮れない」と言われてしまう。
けれど、ディレクター本人に撮るつもりがあり、会社にプロデュース体制があれば、本当は簡単に撮れるんですよ。ぼくらは自社制作を通してそれを証明したい。ディレクターをプロデュースしているぼくたちにとって、映画制作は投資なんです。
金:映画制作はディレクターの実績になるだけでなく、関わるすべてのスタッフにとっての経験値にもなります。その経験で社員が成長できるなら、会社全体への投資ともいえます。
※未来を描く3篇からなるオムニバス映画『LAPSE(ラプス)』。BABEL LABEL所属の志真健太郎さん、アベラヒデノブさん、HAVIT ART STUDIOがそれぞれ監督・脚本を手がけている
金:クライアントワークと違い、自社制作映画は、監督がつくりたいものを全力でつくるしかない環境で生まれたものです。だから、いい結果も悪い結果も全部自分に返ってくる。そこも含めて、自分の作品に責任を持てるディレクターになってほしいですね。
—自主制作映画は「このディレクターはこんな映像が撮れますよ」という、BABEL LABELの名刺がわりになる作品ともいえますね。
山田:ぼくたちは赤字を出しても自分たちが納得できる作品をつくり続けてきました。だからクライアントワークでも、BABEL LABELにとって大きな意義があると感じたら、予算が足りない分は自腹を切って制作したこともあります。
でも、それがきっかけで次の仕事につながるのであれば、投資であっても赤字ではない。自分たちのクリエイティブを追求することが、営業になると考えています。
「自分たちが納得できる作品」を重んじるBABEL LABELは、クライアントワークとどう向き合う?
—広告やCM、アーティストのMVといったクライアントワークは「自分たちのクリエイティブを追求する」というポリシーとは一見相反するように見えますが、依頼を請ける、請けないの基準はあるのですか?
山田:声をかけてくださったということは、BABEL LABELの作品を気に入っていただいたということなので、基本的にはどんな仕事もやらせてもらいます。「商品や企画が合わないから」という理由で断ったことはあまりないですね。請けたからには自分たちの力を発揮する。そのチャンスだと思っています。
金:勘違いしてはいけないのが、CMもMVもクライアントの作品であり、ディレクターの作品ではないということ。もしぼくたちが好きにつくった作品でクレームが来ても、すべての責任を負うことはできません。
だからこそ、クライアントの意向には耳を傾けるべき。その上で「こうしたほうがいいのでは」と積極的に提案して、BABEL LABELだからこそのクオリティーを追求しています。
山田:完成したあとに「クライアントの意向で思い通りにつくれなかった」と言い訳をするのが、いちばんかっこ悪いですからね。とはいえ、広告やMVしかつくらないディレクターは、「自分の作品」を持っていないも同然。映像に対する責任を持てるディレクターを育てるためにも、自社制作の映画は大切にしていきたいです。
「やりたいことをやりながら楽しく仕事をすることは、ぼくたちのカルマ」
—現在8名のディレクターが所属されていますが、うち数名は自社で育成した生え抜きだとうかがいました。若手の採用や育成に力を入れているのはなぜですか?
山田:若いクリエイターを育て、彼らに助けてもらうことで、会社自体が成長するからです。いまの若い子はAfter EffectsやCGも簡単に使いこなします。それを見た創立当初からいる30代半ばのディレクター陣は、「このままじゃダメだ」と焦りを感じるはず。互いの強みを活かし合い、切磋琢磨することで、作品のクオリティーも上がるでしょう。
金:創立メンバーに長く活躍してもらうためにも、若手と一緒に仕事をするのは重要ですね。若手を一人前に育てたいし、主力のディレクター陣を「年齢」のせいで終わらせたくない。彼らに刺激を与えることもまた、「ディレクターをプロデュースする」ことの一部だと思います。
—映像業界には、「エディターやプロダクションマネージャーの経験はあるけれど、将来的にはディレクターになりたい」という夢を持つクリエイターも多いのではないでしょうか。
金:BABEL LABELには、プロダクションマネージャーとして入社してディレクターになったスタッフもいます。作品を完成させるためにはディレクション以外の知識も必要ですから、「自ら手を動かせる」というのはむしろそのクリエイターの強みになりますね。その強みをポイントにして売り出していきます。
一般的な制作会社のように、「ディレクターになるために、まずはアシスタントを何年やって……」といった決まりはありません。ディレクターになりたいなら、先輩がバックアップできる環境でチャンスを与え、挑戦させます。
山田:ベースにあるのは、みんなが「やりたいこと」をやって、楽しく一生懸命に仕事すること。だから社員には、やりたいことしかやらせていないつもりです。これはぼくたちのカルマ、運命のようなものですね。
もともと大学の自主映画サークルの仲間同士で立ち上げた会社ということもあり、周囲からは「うまくいくはずない」と言われ続けてきました。だからこそ、ずっとみんなで仲良く、楽しくやっていくことを夢見ている。だからぼくらは人を育て、作品のクオリティーを追求することで、数年後よりもっと先の未来も一緒に歩んでいこうとしているんです。
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- どこまでもクリエイティブを高めたい。そのために、エディターの充実が不可欠
どこまでもクリエイティブを高めたい。そのために、エディターの充実が不可欠
—2020年には創立10周年を迎えます。すでに多くの話題作を手がけていますが、それでもなお「次のステージへ進むべき」という意識があるそうですね。
山田:はい。今後は、BABEL LABELの「伸び代」をさらに広げていきたい。そのためには、ディレクターのプロデュースだけでなく、エディターの充実も不可欠だと考えています。
いまの編集部は、ディレクター陣と一緒に育ってきた若手が中心。そこでぜひ来てほしいのが、すでにスキルを持っていて、今後の編集部をけん引してくれるエディターです。そういう人がいたら、ぼくたちはもっともっと、とてつもないクリエイティブを生めると思っています。
金:映像は総合芸術なので、ディレクターだけの力だけで作品をつくるわけではありません。カメラマンの腕が光る作品もあれば、編集や企画が際立つ作品もある。BABEL LABELはディレクターファーストの会社ですが、だからといって「ディレクターのほうが偉い」という教育はしていません。むしろ高いスキルを持つエディターがディレクターと同じくらい重要な役割を果たし、作品の質を引き上げられるような編集部をつくりたいのです。
—どのようなクリエイターを求めているか、もう少し詳しく教えてください。
山田:スキルや経験さえあれば誰でもいいというわけではありません。BABEL LABELやぼくらの作品に興味があることがいちばんですね。「どこでもいいから映像会社で働きたい」という人には向いていません。BABEL LABELで何をつくりたいか。そこがしっかりと見えていて、真面目な人であれば、やりたいことをやるチャンスはたくさんあります。
代休を取るのも仕事のうち。どこよりもクリーンな映像会社へ
—制作環境についてはいかがですか?「映像業界は忙しい」というイメージも根強いように思いますが。
金:以前の映像業界は、ブラックな環境でも仕方ないという悪しき風潮もありました。改善されつつあるとはいえ、やはり「大変だ」というイメージを持っている若手も多い。
ですがBABEL LABELは、どこよりもクリーンな映像制作会社ですし、そうあるべきだと思っています。業界大手ではないけれど、約30人のメンバーがいるので、少数精鋭でやっている会社とも違う。そんなポジションだからこそ、率先して労働環境をクリーンにしていくべきだと考えています。
山田:そのために、労働状況を社会労務士に管理してもらうことにしました。残業代や休日手当、代休などの規定をきちんと定めて、実際に運用している。撮影中の事故などに備える撮影保険にも加入しています。
金:クリエイターの育成に注力するためにも、防御力を高め、ツッコミどころがない状態にしました。社員には「代休を取るのも仕事」くらいの気持ちで臨んでもらっています。
クリエイターの育成も海外展開も、すべては「つくりたいものをつくる」ため
—それでは最後に、BABEL LABELの今後のビジョンや、理想を教えてください。
金:ぼくたちが「つくりたいものをつくる」と同じくらい大切にしているのが、「人に驚かれることをやる」ということ。そういう意味で、海外、特にアジア展開を狙っています。
そのために、現在力を入れているのがコネクションづくりです。海外撮影のハードルはまだ高く、現地の会社にコーディネートしてもらう必要があります。自分たちで撮影をコーディネートできるのであれば、予算も抑えられる。逆に海外の制作会社が日本で撮影するときはぼくらがサポートする、といったことも考えています。
日本ではあまり営業することはないのですが、先日もディレクターの藤井(道人)と山田がタイや台湾に行き、映画会社、制作会社、広告代理店などを回りました。すでにオファーもいただいていて、アジア出身の社員も増やしているところです。
山田:繰り返しになりますが、ぼくらは「好きな映像を、楽しく、一生懸命つくる」ことを仕事にしたいんです。最終的なゴールは、自分たちが満足できる映像をつくり続けて、それを多くの人に「見たい」と思ってもらう、それだけで成立する会社になること。
「無理だ」といわれるかもしれませんが、近いところまでいき始めている感覚はあるんですよ。そのためも、クリエイターを育て、クリエイティブの質を上げていく必要があると思っています。
Profile
弊社BABEL LABELは、2010年に藤井道人を中心に発足した映像制作会社です。
プロデューサー・ラインプロデューサー・アシスタントプロデューサーを募集します。
経験者優遇。良いスタッフが良い作品を作るための環境を我々も目指していきます。強い意志がある方のご応募お待ちしております。