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「共創」で生み出す、映像クリエイティブの明るい未来

インターネットを通じて仕事の受発注を行う「クラウドソーシング」。新たな働き方としてアメリカを中心に盛り上がりをみせ、最近になって日本でも多くのサービスがスタートしている。そのなかでも動画・映像制作のクラウドソーシングに特化したサービスが「Viibar(ビーバー)」だ。Viibarは2013年に楽天での勤務を経た上坂優太氏が起業。映像業界の多重下請け構造やクリエイターの制作環境などに疑問を持ち、クライアントとクリエイターをシンプルにつなぐサービスとして構想した。WEB上での映像利用の裾野が広がりつつあるなか、働き方やクリエイティブの形にどのような変革をもたらそうとしているのか。代表の上坂氏とクリエイターエンゲージメントユニットの高橋氏にお話を伺った。

これまでのやり方では情報の伝達が遅すぎる。時代に求められる映像の新しいニーズ

一般的に映像制作といえばテレビ番組やCM、映画などを想像するが、現在はWEB上のプロモーションやサービス説明などでも動画が利用され、需要が拡大している。ネット回線の充実やスマートフォンの普及によって動画を視聴する機会は今後も増え続けると見られており、そうした状況がViibarに注目が集まる理由の一つとなっている。

株式会社Viibar 代表取締役 上坂 優太さん

株式会社Viibar 代表取締役 上坂 優太さん

上坂:インターネット動画広告市場は2017年には約700億円規模になると言われています。さらに、広告以外にもサービス説明、教育コンテンツ、採用サイトなど、情報を伝えるあらゆる場面で動画が使われるようになりました。また、今後はWEBメディアでもオリジナル動画を配信することが当たり前になってくるかもしれません。例えば「東洋経済オンライン」では独自の動画コンテンツの配信を開始したりと、いずれはオンラインのコミュニケーション全般で動画が使われる日が来るでしょう。

高橋:Viibarは地上波で流れるようなハイエンドの映像、例えば、大手制作会社が作っていたような映像を、安く提供するというサービスではありません。中小企業だったり、地域の商店だったり、数百万〜数千万の予算は出せないけれど、数十万円〜100万円クラスの価格帯で映像を作りたいという「ミドルエンド」のニーズは必ずある。これまでプロが作る動画に触れていなかった顧客層にプロの作品を提供するのが我々のミッションです。

クライアント側のニーズが多様になってきたことで「ミドルエンドの映像」が求められるようになってきた時代の変化に、Viibarはいち早く反応した。一方、制作会社やクリエイター側は、このトレンドにどのような反応を示しているのだろうか。

2013年7月にローンチした『Viibar』

上坂:制作会社は高価な機材やスタジオを持っているケースも多いため、大きな固定費がかかります。ですから、ミドルエンドの価格帯では仕事を受けにくい状況がある。一方、技術革新により機材や編集ソフトなどが安価になり、働き方に対する意識も変化してきた今では、会社の枠に縛られずフリーランスで仕事をするクリエイターも増えてきました。

そう話す上坂氏は、映像関係の制作会社出身。当時から、業界に対する問題意識があったのだという。

上坂:最初に入った制作会社ではテレビや音楽関係の映像を作っていました。ここでさまざまな作り手の立場を見て、クリエイターの労働環境などに対して疑問を持つようになって。明らかに多重の下請け構造があり、そんな環境の中に身を置くことに疲労を感じる部分もありました。その後、楽天に移ったあとは、テレビCMやYouTubeを使ったプロモーション動画をつくる、発注側になりました。制作、クライアントの双方を経験してわかったのが、お互いが持っている「情報の非対称性」です。映像制作の世界は多重下請け構造になっているので情報の伝達が遅いし、関わっている人が多すぎて会議を開くのも一苦労です。特に今の時代はスピードが命でもあるので、これではマズいなと思いました。

本質的な動機は「クリエイターを取り巻く環境のひずみを変えたい」ということ。「クリエイティブなことをしているんだから儲からなくても仕方ない」という嫌儲主義を上坂氏は嫌う。しっかり儲かる仕組みを作ってこそのクリエイティブであり、本来、クリエイターこそ、一番に評価されるべきだとも話す。

クリエイティブを最大限に発揮できるプラットフォームへ

そんな問題意識からスタートしたViibarは、実際にどのようなサービスなのだろうか。

上坂:映像制作に関わるクリエイターに登録してもらい、クリエイター同士が共同で制作できる環境をクラウドで提供しているサービスです。そこに動画を作ってほしいクライアントが直接発注できます。私たちはクライアントの発注に対して、手数料を一部いただくというビジネスモデルです。

登録には審査があり、ポートフォリオや経歴などが一定基準をクリアしているクリエイターとなる。また、クライアントとのマッチング方法は二つ用意されている。

上坂:一つはポートフォリオコンペです。ワンクリックでコンペに参加することができ、クライアントは事前に登録されているポートフォリオなどを参考にクリエイターを選びます。二つ目は、絵コンテコンペです。こちらは案件に対して出されたプランからクライアントが採用企画を選定。1位はもちろん案件を受注するのですが、2、3位に対しても賞金を支払うことになっています。さらに、どういう基準で選んだのかクライアントからフィードバックしてもらい、次のチャレンジに生かせるような仕組みにしています。

しかし、映像制作の発注ややり取りに不慣れなクライアントもいるのも事実。そのような問題にViibarはどう対応してきたのだろうか。

クリエイターエンゲージメントユニット 高橋 俊輔さん

クリエイターエンゲージメントユニット 高橋 俊輔さん

高橋:クリエイターは広告代理店などのプロと一緒に仕事をしてきた人ばかり。ですから、動画制作に関して素人のクライアントと仕事をすると、齟齬が生じてしまうこともあります。たとえば一口で「イラスト」と言っても、プロが考えるイラストと、素人が考えるイラストでは、まったく違うものかもしれない。作業の進み方がわからなかったり、期待値がずれたり、摩擦が起きたりすることもある。そういったギャップをなくすために専用のワークフローを丁寧に作りこんでいます。例えば修正作業は手戻りが多く発生しやすい工程ですが、そういった作業を「見える化」し、手戻りが起きない仕組みを導入しています。ただ、それでも生じてしまう問題に対しては、私や担当がサポートに入ることもあります。

もともとNHKでテレビ制作の現場にいたという高橋氏。映像制作のいろはを認識している存在だ。しかしながら、このようなサポート体制は決して理想の形ではないという。

上坂:理想は僕らがいなくても、きちんと案件が回ること。ですから、高橋のミッションは、今やっている仕事を全部なくすことなんです。高橋のやっていることを因数分解して、システムに落とし込んでいかなければいけない。すでに、ディレクターのタスク業務などを簡単にできるような仕組み作りをしていますが、我々が計画している開発の全てが済んでいるわけではないので、高橋のような人間がサポートしています。つまり今は過渡期でもあるんです。

工程管理やクライアントとの齟齬など、非クリエイティブな要素はシステムにより効率化し、クリエイターには制作に専念してもらう。それがViibarの理想型だ。

水平的なチームが「共創」を生む

映像の制作は一人では完結できないのが普通だ。そのため、共同制作の際には、クリエイター同士がどのように上手く連携するのかも課題になる。Viibarはその部分について、どのような考えを持っているのだろうか。

上坂:そもそも、クラウドソーシングが出てくる前から、映像の世界では作業がパートごとに細分化されました。イラストを描く人やモーションをつける人、実写の映像を撮る人、演者、ナレーション、構成作家、ディレクターなど、携わる人もさまざま。そこをシステム内でうまくモジュール化して、よりスムーズに進行できるようにしています。もちろん、昔からフリーランスもいましたが、彼らフリーランスは基本的には制作会社にプロジェクトごとに雇われて、クライアントから代理店、複数の制作会社などを貫く垂直統合型の指示系統で仕事をしていることが多い。一方でViibarは、クライアントも含めて並列の水平的なチームが組めるよう心掛けています。

社内風景

社内風景


こうした水平的なチームの働き方を上坂氏は、「共創」と表現している。その発想こそがインターネットの理念そのものであり、新しいクリエイティブが生み出す根源になると考えている。

高橋:ただ、オンライン上ですべてをフラットにやり遂げたいのではなく、システムで出来ない部分はそのまま残すことも大切だと思っています。だから、クリエイターたちがリアルの場で交流する「場」をつくることも大切にしていて。我々が目指すのは広い意味でのプラットフォームです。なにもオンライン上だけで完結することではないんです。リアルな場で情報交換することにより、僕らの経済圏以外の人の交流が生まれるかもしれない。それが社会への価値と同義になるとも思っています。

上坂:本質的な目標はクリエイティビティを発揮できる場を作ることであり、システムはそれを実現するための一要素に過ぎません。あくまで水平的な組織と仕組みを作り、価格も適正にしていくということを大切に思っています。

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NHKからの転身。優秀な人材がViibarに集まるのはなぜか?

NHKからの転身。優秀な人材がViibarに集まるのはなぜか?

「クリエイティビティを発揮できる場を作る」ことがViibarの目標だが、そのために行うのは「サービスづくり」だけではない。企業として優秀なスタッフを集めることも、大切な要素の1つだと上坂氏は話す。特に印象的だったのが、採用の軸として大切にしているのは「誠実性」とのこと。嘘をつかないかとか、悪い事をしてお金を稼ごうとしないかとか、そんなことが実は重要だったりするという。

NHKでディレクターを6年(アルバイト期間を入れると約10年)務めた高橋氏はじめ、Google、アクセンチュア、DeNAなどそうそうたる企業から、2013年4月に設立したばかりのスタートアップに優秀な人材が集まっている。職種もプログラマーやコンサルタント、公認会計士など多様な面々だ。

「ダイバーシティ(多様性)を活かしていきたい」というViibarの下に、なぜここまでの人が集まってくるのだろうか。高橋さん自身のエピソードも伺った。

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高橋:私はもともとNHKのディレクターとして報道畑が長く、週に3回くらいは地方までロケに出ていました。夜電話が掛かってきて、「明日、沖縄に行って」と言われたこともザラにありましたし(笑)。そんななか、ベンチャ―企業の取材に取り組む機会があり、お話を聞いているうちに、自分もビジネスを起こして、日本を変える側に回ってみたいと思ったんです。それで迷った末にNHKを辞めて、まずはMBAを取得するために海外の大学院に留学することに決めました。

その後、留学の準備として語学を学ぶためにカナダへ渡航。しかし、そこで運命的な出会いをする。インターネットで日本のスタートアップについて調べているときに、Viibarの存在を知る。事業に可能性を感じた高橋氏は、すぐに上坂氏とコンタクトを取り、Skypeで話をすることに。手応えを感じた高橋氏は2か月後の帰国日程を伝えるが、「すぐに戻ってきてほしい」といわれ、急遽帰国の航空券を購入したという。

高橋:もともと映像業界の構造的なものに問題意識はありました。アウトプットが同じでも、キー局の社員であるかどうかなどで待遇に大きな差がついてしまうのは、やはり理不尽に感じましたし。自分がベンチャ―企業を取材して、「日本経済を改革しなければいけない」みたいな報道をしているのに、実は己は安全なところにいる。そこになにか矛盾を感じていたんですね。そんなときに、Viibarに出会って、上坂が掲げるヴィジョンに共感したんです。

生まれたばかりともいえるプラットフォームを、自らが当事者となり、つくり出すこと。それは、10を100にすることではなく、まさに0を1に変えていくことでもある。

ヴィジョンだけではない、ビューの大切さ

多種多様な仲間が集まり、力強く歩みを進めているようにも見えるViibar。上坂氏は今後のViibarについて、どのような目標設定をしているのだろうか。

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上坂:2017年までに上場したいと思っています。場をつくるということは、僕らが儲かるようになるだけでは駄目で、クリエイターの新しい働き方やシーンを作っていかなければいけない。短期的に稼げるビジネスをしていても駄目だし、社会的責任ももっと意識する必要もある。そのためには、さらに大きな資本のレバレッジをきかせていかなければならないと考えています。また、人を巻き込んでいかなければシーンをつくることができないので、僕のオーナーカンパニーといった形ではなく、株式を公開し、公開企業としてやっていきたいと思っています。

一方、高橋氏はどのような目標を立てているのだろうか。

高橋:日本の動画におけるクリエイティブはアメリカと並んで世界で有数だと思います。でも、スタジオジブリなどの例外を除いて、まだまだ日本国内でしか消費されていない作品が多い。もっともっと世界に進出していいと思うんです。実際映像を作るのって、すごく細かい作業が多いんですよ。日本人はそういったものに向いていますし、長い歴史をかけて培ってきた感性もある。クリエイティブの質って、幼い頃から見てきたものや環境、文化にも影響されるので、コモディティ化されにくいんですよ。映画やアニメだけではなく、広告もB2Bのコンテンツも海外から日本のクリエイターにオファーがくるようになるといいですね。その窓口にViibarがなれれば最高だと思っています。

そして、目標達成のために自分たちが今するべきことも、すでに明確に見据えていた。

上坂:プラットフォームというと中立的な存在のようなイメージがありますが、私はプラットフォームこそ「ビュー(View)」=「そのプラットフォームが創りだす世界観」を示さなければいけないと考えていて。たとえば楽天市場は、織田信長の経済政策・楽市楽座から名付けられたと言われています。地方の店舗でも自由に銀座の一等地のような場所(サイバー空間)に店を構えることができ、全国の人にモノを売れるという「ビュー」がありました。こうした「ビュー」の下に出店店舗やお客様が集まって、プラットフォーム自体が盛り上がっていった。
Viibarでも明確な「ビュー」を示せてこそ、プラットフォームを活性化していけるのだと思います。そもそも「ビュー」は新しい仕組みを創ろうとするゲームチェンジャーしか持てないものなんですよ。今後Viibarが示す「ビュー」の吸引力が、いかに多くの人を巻き込んでいけるか。真摯に追求していきたいですね。

Profile

株式会社Viibar

Viibarは急成長を続けるデジタル動画マーケティング市場のリーディングカンパニーを目指すスタートアップ企業です。

「動画の世界を変える。動画で世界を変える。」このミッションを実現するため、動画を軸に、多角的に事業を展開しています。中核事業である動画マーケティング事業では、動画制作クラウド『Viibar(ビーバー)』を2013年10月より提供しています。

■動画制作・マーケティング事業
動画制作を効率的に進めていくことができる「制作支援ツール」を用い、国内外の3,000を超えるクリエイターと、クライアントとのマッチングを行い、新たな機会の創出を実現しております。また、昨年からは自社にプロデューサー・クリエイティブディレクター・マーケティングコンサルタントを抱え、クリエイティブの品質向上に務め、クライアントのデジタルマーケティングを全般の支援を行なっております。
※資生堂、ANA、リクルート、ヤフー、楽天、ワコール、ダノンなどの大手企業様をはじめ数多くのクライアント様とお取引させて頂いております。

■動画メディア事業
2016年より開始した動画メディア事業では、世の中をより良くするための最新のアイディアやテクノロジーなど、ココロ弾む動画をお届けする『bouncy』の運営を行っています。今後は『bouncy』の運営だけでなく、メディア企業様のパートナーとして新たなビジネスモデルを創出する予定です。

■動画ツール事業
さらに2017年は、革新的な「動画制作のための“インフラ”」を提供するべく、プロダクトの磨き込みも行って参ります。

今後、動画制作マーケティング事業・動画メディア事業・動画制作ツール事業を3つの軸を多角的に展開するとともに、Viibarは動画の世界を変え、動画で世界を変えていきます。

【Viibar動画研究所】
企業の動画マーケティング事例や、動画制作の基礎知識などを日々更新しています。
http://viibar.com/doken

【動画制作実績】
当社が制作した動画、一言コメントを添えて更新しています。
http://viibar.com/works

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