- 取材・文:阿部美香
- 撮影:豊島望
WEB業界の“ノームコア”
ファッション界で見直されているトレンドの一つに“ノームコア”がある。Normal(ノーマル) とHardcore(ハードコア)を融合したノームコアは“究極の普通”を意味するワードだが、その根底にある思想は、シンプルさと上質さを兼ね備えた普遍性こそが、新しさと心地よさに繋がる、ということ。この発想は、ファッションだけに留まらないのかもしれない。“ノームコア”なWEBデザインを追求しているのが、アンタイプというデザイン集団だ。
三木:アンタイプは今年で10年目を迎えるのですが、そもそも社名の由来は、カタチあるものに囚われたくないという想いから。僕らの仕事はWEBデザインがメインですが、WEB、紙媒体に囚われず、伝統的なものなども組み入れながら、型にはまらないデザインを生み出してきました。
では、会社としてのアンタイプは、どういう集団なのか? 取材前、「アンタイプの最大の特徴は?」と伺ったとき、三木さんは「“普通”なこと」と答えていた。アンタイプにとっての“普通”とは、けっして“凡庸”でも“平凡”でも“何の変哲もない”ことでもないという。
三木:実は最近、「アンタイプってどういう会社?」と聞かれる機会も少なくて。コンペでいただく仕事もありますが、「お付き合いのある会社から噂を聞いて」とか、以前、会社ぐるみでお付き合いがあり、他の会社に行った方から弊社を指名いただくことも多い。なので、改めて「こういう会社です」と主張する機会がそもそもないんですよね(苦笑)。
そんなクライアントからのアンタイプの評価は、「間違いのないデザイン」を提供し、さらに「そこにプラスアルファがある」ことだと言う。いわゆるナショナルクライアントとの仕事が多いのも、信頼度の高さによるものだろう。
三木:僕らもそれはよく感じています。うちは一度お付き合いいただいた大きな企業様のリピート率がすごく高い。オーダーを着実にこなしつつも、求められている以上の質を提供できているからこその結果かなと。基本を固めつつ、時代のトレンドにもアンテナは常に立てています。
仕事への取り組み方が、一丸となっているのもアンタイプ流。社員数7名という、アットホームな集団だからこその良さがそこにある。
尾形:デザイナー、エンジニアと一応役職は分かれていますが、仕事の垣根を作らず、一つの案件に関してほぼ全員でアイデアを出しながら取り組んでいます。デザイナーがコーディングを手伝うこともありますし、エンジニアが技術面からデザインに対するアイデアを出す場合も多いです。だからといって、仕事上で言い争いなども一切なく。お互いが主張を否定しないで、「なるほど」と納得するところから始まるので、失敗があったとしても、どうすれば良くなるかをみんなで考えていけるんです。
アンタイプならではのそんな職場の空気感は、クライアントワークにも活かされている。言われたことをそのままこなすだけでは、クリエイティブにはならないからだ。
三木:クライアントさんとの付き合いでも、上下関係ではなく良きパートナーシップを取れるよう、一緒にものづくりをしているという視点がブレないように、積極的な提案をしていきます。そのあたりのバランスは、上手く取れているという自負がありますね。
トレンドを取り入れることが、常に正しいとは限らない
そんなアンタイプが手掛けたクライアントワークの中でも印象的だったというのが、国内最大手の地図サービス会社ゼンリンとのプロジェクト。Googleマップなど、世界規模のサービスにもコンテンツを提供する大企業だ。
三木:代理店経由でホームページのリニューアルをやらせていただいたのが最初で、その数年後、今度は直接ご依頼いただきました。既に彼らは紹介したい内容が決まっていて、「これで何ができるか?」というご相談でしたから、こちらからもいろいろな提案ができ、とても盛り上がった仕事です。ゼンリンといえば、歴史のある地図の会社なので、これまでとホームページをガラリと変えることに、会社としてははじめは抵抗も大きかった。とはいえ、これからは新しい地図の在り方というものを、ゼンリンとしても提示していきたいという希望も大きかったので、ゼンリンの試みとしては初となる、視覚的に遊びのあるコンテンツを提案していきました。コーディングだけでも約2か月ほどかかりましたが、どの部署のみなさんにもかなりご満足いただけたと聞いています。
尾形:ゼンリンの堅いイメージをくつがえすサイト制作は、とても印象的です。自分としても、HTML5のCanvasの活用や地図を3Dで表現するノウハウなど、ゼンリンの案件があったからこそ挑戦できた技術も多かったですね。
「会社が今、何をしているか」「これからどうありたいか」の両方を、具体的な表現に落とし込むのが企業のコーポレートサイト制作のあり方。ナショナルクライアントをメインにするアンタイプにとっては、企業全体の意図を汲み取る難しさも当然ある。
三木:コーポレートサイト作りは、ただ目新しい見せ方を提案すればいいわけじゃないんです。新しい技術やWEBデザイン界のトレンドを入れたくなる気持ちは、デザイナーなら誰もが持っていると思います。でも大企業、老舗の企業ほど、一気に新しいものを採り入れることに抵抗がありますし、業種やコンテンツの内容に沿わない新規性は、むしろ邪魔になる場合も多い。大切なのは、企業自体のコンセプトを最も表現できる手法、技術を採り入れながら、企業コンセプト自体をクリエイティブに落とし込むことなんです。
そこでアンタイプが大事にしているのは、企業のコンセプトにまず立ち戻ることだ。
三木:コアに持つべきは、やはり社長さんの言葉なんですね。ただし、大企業であればあるほど部署も多いですし、関連部署間で理念の噛み砕き方も違っている。その違いをコンセプトに沿いながらギュッと凝縮することで、企業がどの方向を向いているのかをチェックしながら、統一感を出していくことが大切。海外のオシャレなサイトを真似しても「分からない」と言われてしまいますから、新規性とスタンダードをいかにバランス良く配合するかが、いちばんのポイントになりますね。
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- 「あうん」の呼吸で、WEB表現のニュアンスを共有することが肝
「あうん」の呼吸で、WEB表現のニュアンスを共有することが肝
ただし、いくらデザインが良くても、それを実装するエンジニアチームのスキルがなければ実現は難しい。そこで最も大切なのが、クリエイティブチーム内の信頼関係だと三木さんは言う。
三木:エンジニアチームは、尾形が最高責任者となって頑張ってくれています。「こう動かしたい」という今までやったことのないデザインも、彼なら自ら調べてより良い技術を見つけて、WEB上で絶対に再現してくれると信じて任せられる。外部の人ではなく、毎日、社内で長年一緒に仕事をしているからこそのメリットですね。
その証拠に、三木さん尾形さんのタッグでは、外部の人とのやりとりだと不可欠な手続きをスキップして、意思統一が図れるのだとか。
三木:デザイナーからエンジニアに仕事を頼むときには、細かい仕様書を用意するのが一般的だと思うのですが、尾形はニュアンスを伝えるだけで「こうしたいんだな」という意図を汲んで、創意工夫をしてくれる。そういう姿勢は、彼だけでなく社内全体に共通している気がします。WEBクリエイティブの現場はどうしても分業制になりますが、ニュアンスをいかに共有できるかが、実は一番難しい。ニュアンスが通じる間柄があると、制作物の完成度も自ずと上がっていきますね。
尾形:やはり長年の蓄積といいますか、長く連れ添った夫婦のような感覚かもしれないですね(笑)。
デジタルコンテンツで最も気を使わなくてはならない要素の一つは、まさに見る人、使う人にニュアンスを伝えなければいけないUI / UXの部分。そこを上手くクリエイター同士が共有・実装することが、クオリティの高いコンテンツ制作には欠かせない。「ニュアンスがチームに伝わりきるまで、僕はかなり粘ります」と三木さんは言う。そんな実直なクリエイティブへの向き合い方も、紛れもなくアンタイプ・スタイルだ。
時代と共に変化を遂げる「スタンダード」を、いつも最先端で作り続ける
実直で真摯なWEB制作を行ってきたアンタイプ。彼らはこれからどのようなクリエイティブを目指していくのだろうか?
三木:デザイン会社としては、単発的なキャンペーンサイトなどで新しいチャレンジをし、広告賞を獲ってクリエイターとしての名を上げることで、仕事を広げるやり方をされているところもたくさんあります。でも僕らはそこだけを見て進む会社ではないな、とも感じていて。今僕らがやっているクライアントワークには、打ち上げ花火的ではない、同じクライアントさんと長く付き合うことでの“WEBサイトを育てていく喜び”があるんです。そこでクライアントさんの評価や評判が上がり、僕らのクリエイティビティが外に出ていくことに、とてもやりがいを感じています。
クライアントのニーズを十二分なかたちに落とし込んだ上で、万人が理解でき、心地よさを感じるナチュラルなWEBデザインを実現し、新しい価値を提供する。レベルの高いクリエイティブを自慢げに披露するのではなく、クライアントを一番に考えながら、クリエイターとして当たり前のことを真摯に、実直に続けていく。それがアンタイプの普通ではない“普通”なのだ。
三木:アンタイプとしては、最近は時流に適したアプリのインターフェイスデザインの案件も増えていますし、これからもアプリデザインの仕事は多くなってくると思います、さらに今後は、モニターの外に飛び出したリアルなクリエイティブも手がけていきたいですね。それがサイネージのようなものなのか、どうなのかは、これから研究していきたいです。アンタイプは、社員同士が情報交換しながら高め合っていける会社。これからも新しい人材に仲間になってもらい、切磋琢磨しながら、いい仕事をしていきたいです。
奇をてらうのではなくスタンダードを追求したWEB制作を続けるにしても、業界の流れが早いWEBクリエイティブにおいては、常に情報のアップデートが求められる。その柔軟性こそ、社名「アンタイプ」に表れる姿勢なのだろう。最後に、お二人が個人的にやりたいことを聞いた。
尾形:自分のスキルアップはまだまだやっていかなければいけない。特に今は、表面的なクリエイティブに直接関わらないのですが、より高度なSEO対策について勉強したいです。クライアントさんの立場になると、コーポレート的にSEOは欠かせない要素なので。
三木:最近のサイト制作の現場はスマホファーストが合い言葉になっていますが、それもいつまでも続くわけではないと僕は感じています。そのうち、また別のデバイスに置き換わってデジタルコンテンツは進化していく。その機にできるだけ早く対応した、新しい表現を身につけていきたいなと思います。そして個人的には、作品作りにも力を入れたい。デジタルの良さを活かした、自分の子供にも読ませられるような絵本を描いてみたい。それがいつか、アンタイプとしての仕事に繋げられたら、なお楽しいですね。
Profile
株式会社アンタイプは2007年創業、港区南青山にオフィスを構えるデザイン制作会社です。主にWEBサイトやアプリのデザイン・開発などに関わる仕事を展開しています。
社名である「アンタイプ」は、「型にはまらない」デザインの提供を目指した造語。伝統や流行、技術や方法にこだわらず、ものごとの本質的な価値をとらえたデザインを提供しています。その高品質なデザインは、多くのナショナルクライアントから信頼を獲得。長年の実績から勝ち得た、「アンタイプに任せれば大丈夫」というお客さまの声こそがアンタイプの最大の強みです。
また近年では、受託だけではなく、自社サービスの開発にも注力しています。社員から「知識をユーザーに届ける教育系のアプリをつくりたい」という提案があったため、社内でディスカッションをしながら日本の都道府県を遊びのなかで覚えられるクイズアプリを開発。実際にリリースしたところ、ユーザーから想像していた以上の好評を獲得しました。今後も、「教育」「人材育成」を軸にした事業に力を入れていくことで、社会にポジティブな影響を与え、社員のモチベーション向上にもつなげていきたいと考えています。
社員数は10名と小規模ですが、10年以上会社を成長し続けられてきた背景には、社員のスキルアップを重視した組織づくりがあります。無理な目標を立てず、一歩ずつ前進することを目指す。そして、どこでも通用するスキルを身につける。そんな人材育成方針が、たしかな成果を生み出しているのです。
社員一人ひとりが身体も心も健康に過ごすことができるよう、働きやすい環境を提供するなどウェルビーイングな組織づくりに励んでいるのも特徴です。
アンタイプでは研修期間を設けず、適正に合わせて業務をお願いしていますので、無理なく成長することができます。また実践のなかで学びや経験を積むことを意識しており、クライアントに仕様の提案をするときに社員のスキルアップを意識するケースもあります。中途や経験が浅い方でも、着実に成長したい、スキルを吸収して前進したいという方は、ぜひご応募ください。