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ECは単なるオンライン販売ではない。ユニクロのインハウスチームの挑戦とは

ファッション業界最大手の株式会社ユニクロ。ECサイトの制作運営を自社で行うべく、昨年に「グローバルサイトイノベーションチーム」を設立した。その背景には、全世界にある約2,000もの店舗と、各国のECサイトを融合させるビジョンがあるという。今回お話をうかがったのは、チームリーダーの遠塚谷さん、元々エンジニアで現WEBプロデューサーの山田さん、WEBディレクターの鈴木さん、さらにチームの設立に貢献した、UXデザインチームリーダーの前川さん。ユニクロのインハウスの新チームだからこそ得られる、経験やスキルについて聞いた。
  • 取材・文:冨手公嘉
  • 撮影:玉村敬太
  • 編集:吉田真也(CINRA)

クリエイターのインハウス化は、ビジョンを達成するために必要不可欠でした

—さまざまな部門のインハウス化を進めるなかで、ECサイト制作を担う「グローバルサイトイノベーションチーム(以下、サイトイノベーションチーム)」が設立されたそうですね。どのようなビジョンのもと、発足したチームなのでしょうか。

前川:ユニクロは、「世界中のあらゆる人の生活をより豊かにする服づくり」を目指しています。それを実現するためには、世界中のお客さまのデータをもっと集めることが必要です。そのために、ECの強化は必須でした。

ECで得た一人ひとりのお客さまの情報やニーズを起点に、商品企画や製造販売をしていきたい。そうすれば、おのずと世界中のお客さまから求めていただけるブランドになれるはずです。

そうしたビジョンのもと、設立したのが「サイトイノベーションチーム」です。ですから、私たちの考えるECは、単なるオンライン販売ではありません。ECを進化させて、ブランド全体の「商売の変革」に貢献することを目標にしています。

デジタル業務改革サービス部 コアエンジニアリング UXデザインチーム 兼 グローバルデジタルコマース部 サイトイノベーションチームリーダー  前川美穂さん

デジタル業務改革サービス部 コアエンジニアリング UXデザインチーム 兼 グローバルデジタルコマース部 サイトイノベーションチームリーダー 前川美穂さん

—なるほど。単にECだけで売上を伸ばすことが最大の目的ではないのですね。

前川:はい。インハウス化は、ブランドとしてのビジョンを達成するうえで必要不可欠でした。「商売の変革」を起こすには、EC強化をして「欲しいものが欲しいときに買える」環境をつくる必要があったんです。

そのためには、「全世界の店舗とECサイトの融合」も重要になります。たとえば、ECで購入した商品を店頭で受け取れるサービス。2017年3月に開始し、多くのお客さまにご利用いただいています。このように、ECと店舗の境目をなくすことで、あらゆるお客さまにとって、より便利で身近なブランドになれると、私たちは考えています。

現在、ユニクロは全世界で約2,000店舗を構え、ECサイトも店舗を展開しているほとんどの国と地域で展開しています。しかしこれまで、ECサイトの制作運用に関しては外注していたこともあり、店舗サービスと連動性を高めるのが難しかったんです。インハウス になったことで、店舗との連携もより密になると思います。

サイトイノベーションチームが運営するユニクロのECサイト(画像提供:ユニクロ)

サイトイノベーションチームが運営するユニクロのECサイト(画像提供:ユニクロ)

—発足して間もないサイトイノベーションチームですが、どんなチームを目指していますか?

遠塚谷:さまざまな職種のスペシャリストが集うチームにしたいですね。まだまだメンバーを募集している段階ではありますが、それぞれの職種観点で話し合える環境になってきています。

これをさらに強化できれば、顧客サービスの向上からワークフローまで最適化できるはず。信頼できる仲間たちと一致団結し、さまざまな角度からECサイトの進化を追及するチームにしたいですね。

グローバルサイトイノベーションチーム リーダーの遠塚谷流さん

グローバルサイトイノベーションチーム リーダーの遠塚谷流さん

鈴木:そのためにも、職種を超えた情報共有をよりスムーズにしたいです。

チームの中長期的な目標として、グローバルにおける「ECサイトのあり方」の追求を掲げています。現に「世界標準のサイトとはどのようなものか」と、職種を超えて全員で情報を共有し合っています。それぞれの職種目線で、「世界でいちばん使いやすいサイトにするには、どうすればいいのか」を話せるのは、非常に参考になります。

グローバルサイトイノベーションチーム ディレクターの鈴木要さん

グローバルサイトイノベーションチーム ディレクターの鈴木要さん

自分たちのブランドを、自分の情熱と技術で育てていけるのがインハウスの醍醐味

—ユニクロのインハウスで働くやりがいや面白さを教えてください。

山田:仕事における納得度と自由度が高いことですね。サイトを制作する際は、デザイナー、エンジニア、プロデューサーなど制作に関わる全員が構想段階から参加し、「どのようなページをつくればお客さまにご満足いただけるか」と、ディスカッションをしながら進めます。

「つくる目的」を理解したうえで制作に取りかかれるので、納得感を持って進められる。さらに、自社ブランドのため自由度も高い。すると、自然にモチベーションも高まりますし、クオリティーにもつながっていきます。

そして、最終的にはお客さまの反応まで直接見ることができる。構想から結果まで、直接サイト制作に関われるのがインハウスの良さだと思います。

グローバルサイトイノベーションチーム WEBプロデューサーの山田岳人さん

グローバルサイトイノベーションチーム WEBプロデューサーの山田岳人さん

—ディレクターの鈴木さんはいかがですか?

鈴木:「自分たちのブランド」を、自分の情熱と技術で育てていけるのが、インハウスの醍醐味だと思います。私は前職が大手広告代理店の子会社だったので、クライアント案件が中心でした。

それはそれで学ぶことも多かったですが、いくらコミットしても「自分たちのブランド」とは呼べません。あくまで外部パートナーであり、責任感の重さも、ブランドにかける思いも、クライアントのほうが強いんです。

それがうらやましくもあり、インハウスに転職を決めたんです。ブランドをより自分事として捉えられる環境のなかで、やりがいを日々実感しています。

「世界一を目指す側」だからこそ、「難易度の高い課題」がまだまだある

—しかも、ただの一般企業ではないですしね。日本有数のグローバルカンパニーのインハウスは、クリエイターとして大きく成長できそうです。

鈴木:たしかにグローバルカンパニーという点は大きいと思います。全世界で2,000もの店舗を構えるアパレル企業は、そうそうないですからね。また、ECサイトも店舗を展開しているほとんどの国と地域で展開しているので、サイトの仕様を変えるだけで、それが世界中に反映される。すると、売上も大きな規模で変化していきます。

そのダイナミズムを体感できるのは、モチベーションになりますね。「世界一お客さまに求められる企業を目指す」と口に出せる企業は限られているなかで、本気でトップを目指してチャレンジできるのは、なかなかないチャンスだと思います。

ユニクロ有明本部の廊下に飾られている、世界各地の店舗の写真(画像提供:ユニクロ)

ユニクロ有明本部の廊下に飾られている、世界各地の店舗の写真(画像提供:ユニクロ)

前川:私もそう思います。私の前職は、IT業界で世界トップの企業でした。でも、「トップでいること」よりも「トップを目指せる」環境に身を置いたほうが、UXデザイナーとして成長できると思ったんです。

実際、「世界一を目指す側」になってみて、自分のやるべきことや伸ばすべきスキルが明確になりました。UXデザイナーは、課題を解決するのが仕事。本気で世界一を目指せる位置にいるからこそ、難易度の高い課題に取り組めます。クリエイターにとって、最高の環境だと思います。

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誰もが「着たい」と思う服を提供する。ユニクロ流の「原則原理」の思想とは

誰もが「着たい」と思う服を提供する。ユニクロ流の「原則原理」の思想とは

—お話をうかがっていると、業界のリーディングカンパニーでありながら、つねに挑戦心を抱いている印象を受けます。大企業でありつつもベンチャースピリットに近い感覚をお持ちなのでしょうか?

前川:そうですね。社長の柳井も「もっと良いものを追求し、前向きな挑戦と、絶え間ない革新を続けていこう」とつねづね口にするので。

実際のところ、お客さまの生活や買い物の仕方が変わり続けるなかで、挑戦と失敗を繰り返してきたのがユニクロです。

これからますます時代の変化が加速していくはずです。現状に満足しないスピリットや柔軟性を、社員一人ひとりが持たないといけません。そういう危機感は、みんな持っていると思います。

ユニクロ有明本部内にある図書館(画像提供:ユニクロ)

ユニクロ有明本部内にある図書館(画像提供:ユニクロ)

鈴木:そのスピリットの源は、「原理原則」という思想にあります。これは社員に浸透している言葉でして、「時流や状況に関係なく、唯一不変なもの」を意味します。つまり、いつの時代も、どの場所でも求められるものを理想としているんです。

たとえば、ユニクロでは地域によって商品構成を大幅に変えるということはしていません。どの地域の人にも「着たい」と思ってもらえるものづくりをしています。

それは、私たちサイトイノベーションチームも同じ。ECサイトとして最上級の共通解をみんなで模索しています。そういうマインドは、ユニクロ内のどのチームにも共通していると思います。

—ベンチャーマインドが根づく貴社ですが、働き方の自由度も高いのでしょうか?

遠塚谷:そうですね。健康状態や家庭の事情などに合わせて、在宅勤務も可能です。また、子どもがいる社員を中心に、時短勤務制度を使う人も多いですね。そういう背景から、産休取得後に戻ってくる社員も多いです。

1+1を10にする。お互いの強みを活かし合うチームづくり

—サイトイノベーションチームには、どのような人が集まっていますか?

遠塚谷:デザイナー、エンジニア、ディレクターなどECサイト制作に必要なメンバーが在籍しています。まだまだメンバーも増やしたいですし、一人ひとりの強みが発揮できる組織をつくっている最中です。

1+1=2ではなく、相乗効果で3、5、10になるようなチームにしたいですね。

ユニクロ有明本部内の様子(画像提供:ユニクロ )

ユニクロ有明本部内の様子(画像提供:ユニクロ )

—発展途上のチームということで、新たにメンバーも募集しているそうですね。どんな方が合っていると思いますか?

遠塚谷:主体性と柔軟性を持って動ける方ですね。発足して間もないプロジェクトなので、必然的にコアメンバーになります。そのなかでリーダーシップを発揮して、課題に向き合ってくれる人と一緒に働きたいです。

鈴木:部署の規模からいうと、まだまだ改善しなければならない部分が山積みですからね。スピード感も大事にしている人だと、よりやりがいを持って働いていただけるかと思います。

可能性は無限大。前向きな仲間とともに、世界で勝負したい

—グローバルカンパニーとして、海外展開の拡大は不可欠だと思います。サイトイノベーションチームとしても、海外で活躍できる人材を探しているのでしょうか?

山田:そうですね。ただ、「英語が必須」などの条件は現状ありません。実際に海外で働いたことがなくても、「世界を舞台に勝負したい」という想いがあれば大歓迎です。今後、ECサイトを展開していない地域にも、順次展開していきたいと思っているので。いまは日本で活動しているチームですが、ゆくゆくは海外ECサイトを、現地で統括する動きも出てくるかもしれませんね。

前川:私は現在、兼任でIT部門にも所属していますが、そちらでは中国にもUXデザインチームを立ち上げました。まだまだ先の話かもしれませんが、サイトイノベーションチームのほうでも、さまざまな国に専任チームを設ける可能性はあります。

大きな企業ではありますが、サイトイノベーションチーム自体はできたばかりで、可能性が無限に広がっています。社内ベンチャー感があって楽しいですよ。

—たしかに、皆さんとお話していると、充実感がひしひしと伝わります。

遠塚谷:発足してからしばらくは大変でしたが、ようやく地盤が少しずつ固まってきていると実感しています。

これからは、飛躍的なスピードでサイトのグロースハックに取り組めると思います。われわれと一緒に、前のめりに取り組んでくれる仲間が増えたら嬉しいですね。

Profile

株式会社ユニクロ

ユニクロ』を中核ビジネスとして、『ジーユー』『セオリー』『コントワー・デ・コトニエ』『プリンセス タム・タム』『J Brand』など複数のブランドも展開しています。今回はその中でも主力となる『ユニクロ』での募集となります。『ユニクロ』は1984年に1号店をオープンし、ロードサイド店を中心にチェーン展開を行ってきました。1998年に都心への出店を開始すると同時に、フリースキャンペーンを展開し、日本中にユニクロブームを巻き起こしました。その後はショッピングモールへの出店、銀座・新宿・大阪といった大都市圏の繁華街へのグローバル旗艦店、グローバル繁盛店の出店も行っています。

『ユニクロ』は、企画・素材開発・素材調達・生産・物流・販売までを一貫して行うSPA(アパレル製造小売業)として、高品質なカジュアルウエアを手頃な価格で提供し、他社に真似のできない独自商品を販売し、日本のアパレル市場の6.5%のシェアを占めています。

ユニクロ事業の成長の軸足は海外へ移っています。海外進出は2001年9月の英国に始まり、2018年8月末現在の店舗数は、国内827店舗に対し海外1,241店舗で、海外事業の売上高はユニクロ事業全体の約51%を占めています。特に中華圏(中国大陸・香港・台湾)、韓国、その他東南アジアでの出店により、高成長が継続しています。

2006年に立ち上げたジーユー事業は、低価格でファッション性が高いブランドとして、日本市場で成功を収めています。店舗数は2018年8月末現在393店舗まで拡大し、売上高は1,000億円を突破しました。『ジーユー』も『ユニクロ』同様、SPAのビジネスモデルによる独自商品を開発し、競争力が高いブランドに育っています。

8月21日(水)19:00〜、六本木にてECサイトのアートディレクター・デザイナー職座談会を行います。ぜひエントリーくださいませ。
https://www.fastretailing.com/employment/ja/fastretailing/jp/career/event/joblist/detail/?id=1217

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