CINRA

「永く愛されるデザイン」を広めるために、スパイラルマーケットが作家と築く関係性

1985年、株式会社ワコールが「文化の事業化」を目指して東京・青山にオープンした文化複合施設「スパイラル」。アートを生活の中でより身近に感じてもらい、豊かなライフスタイルを提案するコンテンポラリーなカルチャー発信基地として、人々に長く愛されている。スパイラルマーケットは、「エターナルデザイン」をコンセプトに掲げるセレクトショップだ。アーティストやクリエイターとのコラボレーションはじめ、これまで数多くの作品や商品を生み出してきた。実際、個性的な商品はどのようにして開発されているのだろうか?
スパイラルマーケットスタッフの堤谷美雪さん、後藤千佳さん、スパイラルのエントランスに構えるスペース「Showcase」と「MINA-TO」を担当する安蒜はるかさん、そして「MINA-TO」とのコラボレーション作品を手掛けたアートユニットSPOLOGUMのみなさんに話を訊いた。
  • 取材・文:阿部美香
  • 撮影:岩本良介

アートシーンの象徴、スパイラル30年のあゆみ

最先端のアートとトレンドが交差する街、東京・青山。現在に続くTOKYOカルチャーの礎が続々と生まれた1980年代半ばにオープンし、今も感度の高い人々から愛され続けている複合文化施設が「スパイラル」だ。そのコンセプトは「生活とアートの融合」。大人のためのハイセンスな生活雑貨を扱う「スパイラルマーケット」や、最先端のモダンアートを紹介するギャラリー「スパイラルガーデン」、こだわりの食材を用いたメニューが好評の「スパイラルカフェ」、ネイルサロン「アモ園」など生活を豊かに彩る多種多様なショップ&スペースを併設する。

「SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル)」に代表される、次代を担う若手アーティスト、クリエイターの発掘・育成・支援に精力的にも取り組んでいる。海外アーティストの招聘やアートを通じた街作りなど、スパイラル館外でも様々な文化活動によって、積極的に社会にコミットしている。

Spiral Market 店内画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター

Spiral Market 店内
画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター

そもそもスパイラルという名称は、「螺旋」を意味する英語から由来する。モダニズム建築で知られる、日本を代表する建築家・槇文彦が手掛けたこの建築は、正方形や円形、円錐などの幾何学体をコラージュした未来的で斬新な要素が細部にまで行き渡っている。1階の広いエントランスから3階まで続く大きな階段と螺旋状のスロープで構成され、内部を自由に回遊することで、様々なアートに自然に触れられる魅惑的な空間を演出しているのだ。

この空間に訪れること自体がアートを体感することであり、「衣食住」といった私たちの日常生活をアーティスティックに演出してくれる。それが、オープンから約30年の時を経ても変わることのないスパイラルの魅力。新しくて面白く、上質なモノやコトを常に発信し続けるスパイラルは、今も成長し続けている。

世界中のカルチャーと日本の技術力を掛け算する

「スパイラルマーケット」は、スパイラルの顔とも呼べる生活雑貨ショップ。そこで扱う商品をセレクトしているバイヤーのひとり、堤谷美雪さんがこだわっているのは、商品として「永く愛されるデザイン」だ。

バイヤー 堤谷美雪さん

バイヤー 堤谷美雪さん

堤谷:私たち、スパイラルマーケットが最もこだわっているのは時代や流行に左右されない「エターナルデザイン」です。扱う商品もメーカー品だけでなく、陶器やアクセサリー、ファッションアイテム、インテリア類は個人の作家さんが手掛けるものもあります。とくに店内入口のコーナーは、スパイラルマーケットが注目する作家やメーカーの作品(プロダクト)を、ある程度のボリュームを持たせて展示することで、そのものの作られた背景も含めたトータルな世界としてご紹介しています。今年の1月に開催した「夜とコーヒー」というタイトルの企画展では食器だけでなく、夜にコーヒーを楽しんでもらう雑貨として作家さんに「灯明」を作ってもらいました。どれくらい反響があるのか私たちも手探りでしたが、お客様からも大変好評で。単なる商品ディスプレイではなく、きちんと生活に根づいているからこそ、スパイラルらしい化学反応が起きているのかもしれません。

20代から40代の顧客層の趣味・嗜好に合った作家に声を掛け、新しい才能の発掘にも取り組んでいる。堤谷さんを含む数名のバイヤーたちが、作家やデザイナーとともに商品を開発しながら、生活とアートの架け橋となるような活動を行っている。

堤谷:作品販売には、日本の優れた技術とアートセンスを国内外に広く紹介する意図もあります。作家の作品をライフスタイルショップでご紹介することで、お客様にはより具体的にご自身の生活に取り入れた場面をイメージしていただけるかと思っています。また、異なる目的で訪れたお客様との偶然の出会いにもなるかもしれません。時には「こういった作品を作ってみませんか?」と私たちから提案することも。作家さんの新たな一面や可能性に気付けるのも楽しみのひとつです。

Mapoesieをはじめとしたデザイナーとコラボレーションした「+S Handkerchief series」画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター Photo by Kimiko Kaburaki

Mapoesieをはじめとしたデザイナーとコラボレーションした「+S Handkerchief series」
画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター Photo by Kimiko Kaburaki

特に10年ほど前から行っているオリジナルアイテムの開発に関して、最近は海外ブランドとのコラボレーションにも積極的だと堤谷さん。

堤谷:スパイラルのオリジナルブランドは「+S(プラスエス)」シリーズとして展開しています。最近ですと、フランスのスカーフ・アクセサリーブランドであるMapoesie(マポエジー)とコラボレーションした「mapoesie+S てぬぐい」は、海外に買い付けに行った際にアプローチしたのがはじまり。スカーフの美しいデザインをぜひ別の形で紹介したいと思って、6年前から一緒にものづくりができないかと打診していました。日本の職人との打ち合わせを何度も重ね、商品化が実現。日本の良さと、海外アーティストのこだわりが融合した、スパイラルらしいアイテムになったと思います。

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「作家の想いを汲み取り、伝える」ショップスタッフの醍醐味とは

「作家の想いを汲み取り、伝える」ショップスタッフの醍醐味とは

作家の魅力にあふれた質の高い商品を、多くの人に伝えたい。その気持ちは、スパイラルマーケットのディスプレイを手がけるショップスタッフにも共通している。青山店のスタッフである後藤千佳さんが、最近もっとも印象的だったと話す、コサージュブランド「la fleur(ラ・フルール)」とコラボレーションした「la fleur+S『reviere』」シリーズのディスプレイについて訊いた。

「la fleur(ラ・フルール)」とコラボレーションした「la fleur+S『reviere』」シリーズ画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター

「la fleur(ラ・フルール)」とコラボレーションした「la fleur+S『reviere』」シリーズ
画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター

後藤:スパイラルマーケット店内では、定期的にフェアも行っています。新製品の導入時に、商品を手掛けた作家さんからコンセプトや使い方を直接レクチャーしていただく機会もたくさん設けていて。「la fleur+S『reviere』」のお披露目を兼ねたフェアでは、一見、コサージュの販売コーナーとは思えない異色のチャレンジをしました。店内の一角をホテルの客室に見立ててベッドや椅子を置き、その上に洋服と一緒にコサージュを散りばめ、旅行中のお洒落をイメージした空間を作り上げたんです。棚に並んだ商品を見てもらうだけでなく、お客様がその商品を身につけるシーンを想像しやすいように見せるスタイルは、作家さんが作品に込めた心をお客様に感じてもらうスパイラルマーケットならではの展開だと思います。

単に商品を売るだけではなく、作家の想いを伝えることこそがスパイラルマーケットらしさなのだろう。

後藤:制作者の岡野奈尾美さんに教わりながらコサージュを作るワークショップを開催したり、作家が制作の際に聴いている音楽のライブを店内で開催するなど、様々な視点から世界観を表現しています。作り手のこだわりをお客様に伝えるのもショップスタッフの大切な役目。買い物感覚というよりも、アートスペースの展示を見るような感覚で楽しんでいただきたいというのが、私たちの願いでもあります。

ショップスタッフ 後藤千佳さん

ショップスタッフ 後藤千佳さん

アートユニットSPOLOGUMが手掛けた、ユニフォーム制作の舞台裏

そんなスパイラルを、当事者である作家はどう感じているのだろうか。2016年1月にスパイラルエントランス常設のイベントショップ「Showcase」で個展販売を行ったアートユニット・SPOLOGUM(スポロガム)と、企画を担当した安蒜はるかさんに制作現場の舞台裏や背景を伺った。彼らの作品は、個展終了後も現代アート作品の展示販売や旬のクリエイタープロダクトの紹介スペース「MINA-TO」で取り扱われている。

安蒜:SPOLOGUMさんは、野中厚志さんと森由江さんのユニットなんですが、主に衣服やテキスタイルを作りながらも、アパレルに留まらない様々な表現をしている、とてもアーティスティックなブランドだと思っていました。「Showcase」での個展販売も、「ストールが降る日」というテーマを掲げ、天井からストールを吊り下げることで、スペースをアート空間のように体感してもらう演出を施しました。

ショップスタッフ 安蒜はるかさん

ショップスタッフ 安蒜はるかさん

SPOLOGUM:私たちもスパイラルのことは、もちろん以前から知っていましたし、青山のスパイラルマーケットも作家のアート性を大切に育むようなショップとして、憧れの存在でもありました。なので、私たちにとってはスパイラルの顔でもあるスペースで展示・販売をできるのはとても光栄なこと。一方で若い人から年配の方までの幅広いお客様がいらっしゃる場所での展示販売は初めてだったんです。挑戦でもあったので不安もありましたが、たくさんのお客様に来ていただけてとても嬉しかったですね。「Showcase」以降、お客様からの作品への問い合わせメールも増えたり、インターンを希望する学生からの連絡なども舞い込んで、反響の大きさに驚いています。

SPOLOGUMの作品に惚れ込んだ安蒜さんの提案によって、スパイラルとの新しいコラボレーションも生まれた。それが「MINA-TO」のショップスタッフユニフォーム制作だった。

安蒜:「MINA-TO」は世界中から新しいものが届き、ヒトとモノとコトがつながる「港」をコンセプトにしたスペースです。スパイラルマーケットでは扱わないような、よりインパクトのあるアート寄りの作品を提供する場所としてオープンしました。インテリアデザインも若手建築家の萬代基介さんによる設計で、とても近未来的でアート感が強い空間。そのイメージに、アーティスティックで斬新なデザインとテキスタイルにこだわっているSPOLOGUMさんの作品がぴったりだと思い、制服のデザインをお願いしました。

SPOLOGUM:ユニフォームデザインというのも今までやったことがなかったので、最初にお話をいただいたときはビックリしましたが、私たちにとっても新しいチャレンジだと思いました。デザインは未来的なイメージに合わせて宇宙船の乗組員のようにも見えるポンチョを選びました。また、店舗の壁色に同化させ、港の水や波の光の輪郭を際立たせられるように、1枚1枚アクションペインティングで縫製後に手描きをしています。新しいモノを生み出すスパイラル、「MINA-TO」のイメージを表現しました。

SPOLOGUMがデザインを手掛けた「MINA-TO」のユニフォーム

SPOLOGUMがデザインを手掛けた「MINA-TO」のユニフォーム

ユニフォームはとても反響が大きく、お客様からは「このユニフォームは売っていないのか?」という問い合わせもあるのだという。「MINA-TO」の店頭で販売しているSPOLOGUM作の個性的なストールやトートバッグも好評を博している。SPOLOGUMはスパイラルとのものづくりの可能性について次のように続けた。

SPOLOGUM:「MINA-TO」も新しいアートスペースとしてとても面白い試みだと思いますし、スパイラルによるシーンの切り取り方は、常にシャープでモダン。時代の流れに左右されず、常に新しいモノを発信していく凛とした佇まいがあって、他にはない視点と熱意を感じています。作家にとっても、そんなパートナーと一緒にものづくりができるのは嬉しいこと。これからは、アパレルに限らず、例えば手帳などのステーショナリーや他のカテゴリーのアイテムなどを一緒に作っていけたら嬉しいですね。

安蒜:私たちスパイラルのスタッフにとっても、SPOLOGUMさんを筆頭に、様々な作家さんとイメージを共有しながら新しい作品を作り、お客様にお届けできるのはとても貴重な体験です。作家がアート性を発揮できたり、ときには未知の領域へチャレンジを促したり。今後も作家さんとともに、斬新な商品を世の中へお届けできたらと考えています。

Profile

スパイラルマーケット(株式会社ワコールアートセンター)

Spiral Marketは、生活に溶け込み、永く愛用できる雑貨を扱うセレクトショップ。「エターナルデザイン」をコンセプトに、ファッションからインテリア、食器、ステーショナリーまで、さまざまなプロダクトが集まっています。

暮らしのなかで実際に手に取るアイテムだからこそ、使う方のライフスタイルに合うものをご紹介したい。そんな気持ちから、私たちはお客さまのご要望に合わせて一緒に商品を選ぶ過程を大事にしています。大切な方へのギフトのご相談を受けることも多く、期待を超える提案ができたときの嬉しさはSpiral Marketで働く醍醐味です。

アート性の高い雑貨を多く取り扱っているため、作品にこめられたストーリーや作り手の想いを知ることも販売スタッフの仕事。商品の勉強会も定期的に開催されているので、お客さまにどんなことを聞かれても答えられる「雑貨のプロ」を目指せます。

さらに、季節ごとに変更するディスプレイづくりや、店内で開催されるイベントの運営に携わっていただいたり、接客に留まらない仕事の幅も魅力のひとつ。商品を華やかに演出するラッピング技術も身につきます。

国内外からセレクトした素晴らしいプロダクトに囲まれ、感度の高いお客さまと接することで、自らのセンスも養われる。気づけば普段の生活でも「丁寧な暮らし」を心がけたくなるかも! 接客以上の仕事にもチャレンジもしやすい環境で、アートを身近に感じる豊かなライフスタイルを実現しませんか?

スパイラルマーケット(株式会社ワコールアートセンター)

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