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アートは意外と体力勝負。「スパイラル」ギャラリーの知られざるお仕事

株式会社ワコールアートセンター

東京・青山の「スパイラル」は、「生活とアートの融合」をテーマにした複合文化施設。ここでは展覧会、舞台公演、コンサート、シンポジウムなどがジャンルを横断して開催されている。螺旋状のスロープが特徴的な1階「スパイラルガーデン」で開催される催事の企画・提案から運営までをすべて担うのが、スパイラルに所属するギャラリースタッフだ。彼らは優れたキュレーターであり、プロデューサーであり、現場監督でなければならない。国内外のアーティストやクライアントと密にやりとりをする一方で、ときには脚立を担ぎ、自ら設営に臨むこともあるという。ギャラリー担当チーフ / キュレーターの加藤育子さんに「仕事の流儀」をうかがい、ギャラリースタッフの大津海人さんにスパイラルならではの働く醍醐味を聞いた。

取材・文:村上広大 撮影:有坂政晴(STUH) 編集:立花桂子(CINRA)(2019/09/17)

脚立を担ぎ、ビスを打つ。プロデュースから力仕事まで、業務は多彩

―スパイラルは青山のランドマークともいえますね。外観はもちろん、内観も特徴的な構造をしています。

加藤:建築家の槇文彦さんが設計した、日本のポストモダン建築を代表する建物です。アートの展示などを行う1階のギャラリーは、「スパイラルガーデン」という名前です。美術館のような「ホワイトキューブ」ではなく、螺旋スロープのある吹き抜け構造で、カフェも隣接しています。

株式会社ワコールアートセンター ギャラリー担当チーフ / キュレーターの加藤育子さん

株式会社ワコールアートセンター ギャラリー担当チーフ / キュレーターの加藤育子さん

加藤:建物自体が自社ビルなので、ほかのフロアと連動した展覧会を開催することもできます。たとえば、スパイラルカフェとギャラリーの機能を逆転して展示を行ったり、エントランスや3階にあるスパイラルホールもあわせて使用したり、といった具合です。

―ギャラリースタッフの仕事は、具体的にどのようなものですか?

加藤:おもに1階のスパイラルガーデンで、展覧会やイベントの企画・制作、運営を担当します。利用用途は大きく分けて3つ。自分たちでゼロから企画・制作する自主企画、海外文化機関や自治体といったパートナーと協力して行うプロデュース、企業や美術大学などへの会場レンタルです。

プロデューサーや現場監督の役割も担うことになるので、いわゆる「学芸員」のイメージとはギャップがあるかもしれません。テレビ局でいうADのような役割をすることも多いですよ(笑)。自分で脚立を担ぎ、ワイヤーをかけたりビスを打ったりといった簡単な施工も当たり前にやります。

螺旋状のスロープが特徴的なスパイラルガーデン。吹き抜け構造のため開放感があり、周囲の音を心地よく感じながらアートを鑑賞することができる(画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター)

螺旋状のスロープが特徴的なスパイラルガーデン。吹き抜け構造のため開放感があり、周囲の音を心地よく感じながらアートを鑑賞することができる(画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター)

展覧会の企画・運営は料理と同じ。「レシピを考えるだけではダメ」なのはなぜ?

―企画だけではなく、現場での仕事も多いのですね。

加藤:スパイラルでは、制作や運営まで動かせて一人前です。「企画」を料理でたとえると、レシピを考えて食材を発注することだと思っている方も多いでしょう。

けれど実際は、調理をして、できあがったものを食べてもらい、食器や調理道具を片づけるところまでが「料理」ですよね。これは私たちの仕事でも同じ。実際に手を動かすことはもちろん、足を運んでくれたお客さまの表情を見たり、片づけの効率性を考えたりと、最後の届け先まで考えてこその「企画」です。何より、このスキルがないとアーティストやクライアントと信頼関係が築けません。

3階にあるスパイラルホール。展示会、ファッションショー、記者発表、演劇、パーティなど、さまざまなジャンルの催事が日々行われている(画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター)

3階にあるスパイラルホール。展示会、ファッションショー、記者発表、演劇、パーティなど、さまざまなジャンルの催事が日々行われている(画像提供:スパイラル / 株式会社ワコールアートセンター)

加藤:アーティストやクライアントの「これをやりたい」というご要望に「できません」のひと言で終わってしまうのか、「それはできないけど、こういうやり方なら実現できます」と別案を提案し、ディスカッションするのか。後者のような関係を築くためには、「運営」まで知っている必要があるのです。

―なぜそこまでの仕事が求められるのでしょうか?

加藤:そもそもスパイラルは「生活とアートの融合」をテーマに掲げていて、「文化の事業化」を目指しているんですね。だから自主企画で予算を使うだけではなく、売上を立ててお金を稼がなければいけない。この両軸がスパイラルの大きな特徴です。

ですので、ギャラリー担当は「会場を貸し出すことで得られる利益がどれくらいか」「年に一度のアートフェアでどのくらい作品を販売すればいいのか」といったところまで考える必要があるのです。

とはいえ数字を追うだけではダメで、スパイラルのブランドも守らなければいけない。会場レンタルの場合は、企業などからお問い合わせをいただく段階で、使用用途が私たちの思想にフィットするかをきちんと確認しています。

空間も機能も独特ですので、スパイラルのノウハウを提供することで、win-winの関係づくりを目指しています。

スタッフは少数精鋭。ときにはひとりで企画を動かすことも

―現在、ギャラリー担当スタッフは何名いらっしゃるんですか?

加藤:私を含めて5名です。私の上にスペースチームの課長、下に3名の専属スタッフとエデュケーション担当が1名います。プロジェクトの大小に応じて、ひとりで担当することもあれば、チームを組んで動くこともありますね。

3階のスパイラルホールは独立したフロアなのですが、1階のスパイラルガーデンはオープンスペースで、お客さまが無料で出入りできる。スタッフが気をつけるべき部分もそれぞれ違うんですよ。

昨年まで3階を担当していた大津というスタッフは、4月から1階がメインになり、いまは会場の使い方や注意点を学んでもらっている最中です。

ギャラリースタッフが語る「スパイラルの魅力」とは?

3階のスパイラルホールを経て、現在は1階のスパイラルガーデンで経験を積んでいるという大津さんに、スパイラルならではの「働く醍醐味」を聞いた。

ギャラリー担当の大津海人さんは、もともとものづくりに携わっていたそう。「ものをつくる側から場を提供する側に回りたいと思い、アルバイトとして働いたあと、正式に社員になりました」

ギャラリー担当の大津海人さんは、もともとものづくりに携わっていたそう。「ものをつくる側から場を提供する側に回りたいと思い、アルバイトとして働いたあと、正式に社員になりました」

大津:スパイラルの醍醐味は何でもチャレンジできるところです。わからないことやできないことがあっても、先輩や上司が手を貸してくれる。ぼくもいまは運営や制作を学んでいる最中ですが、やりたい企画のネタはたくさん持っています(笑)。なかなか会えないような著名人やアーティストと、一緒に仕事ができるのも魅力ですね。

向いているのは、元気で自分の意見を持っている人。それからアートに限らず、さまざまなジャンルに興味を持ち、アンテナを張っている人ではないでしょうか。旅行やグルメ、ファッション……異なるジャンルとアートを掛け合わせることで、化学反応が起きる可能性もありますから。

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自由な発想に触れることで、自分自身の信念も見えてくる。アートを仕事にする魅力とは?

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