- 取材・文:小沢あや
- 撮影:岩本良介
- 取材場所:THINK OF THINGS
誰も使わない制度は意味がない。これまでのトライアンドエラーとは?
—創業20年を迎えますが、柔軟な社内制度はベンチャー企業のような空気を感じますね。
木下:創業20年というと、ずいぶん長くやっているなというイメージを持たれますよね。でも、僕の中ではまだ2、3年目くらいの感覚なんです。まだまだ、ベンチャー精神はありますよ(笑)。どんどん変えていかないと、会社が古びてしまう。体制も変えていかないといけません。デザイン業界にハードワークを好む人がいるというのは、事実です。ただ、会社を成長させるには、いろんな人を増やさなきゃいけないんですね。特定の考え方やワークスタイルの人だけを集めていると、先細ってしまう。
—そこで、あえていろんなカラーの方を採用しているんでしょうか。
木下:そうですね。あと、長年経営をやってきて感じるのは、同じ人でも考え方はどんどん変わるということ。今は時短出社を選択している南部も、最初はハードワーカーだったんです。出産を経て、変化したんです。それは、当たり前のことなんですよね。
—南部さんは、いつからラナで働いているんですか?
南部:15年前からです。それまでは別の会社で働いていて、大きな組織ゆえデザインも分業だったんです。一工程しかわからないことが不安で、独学で勉強しているうちに、代表の木下と出会って。いろんな領域を経験できる会社という魅力があって入社しました。
—働いていくうえで、会社の空気も徐々に変わっていったんでしょうか。
南部:そうですね、変わったと思います。もともとみんなハードワーカーだったけれど、体育会系ではなかったんですよ。職人気質で、ひとりひとりが納得いくまでデザインをしている感じでしたね。それに比べると、今はだいぶ多様な働き方が実現できるようになった気がします。
—社内制度は、どのように整えられていったんでしょうか。
木下:制度設計って、本当に難しいんです。リモートワークしたくないという人もいるし、万人が納得する制度はないでしょう。最初から制度ありきで作るのではなく、困った社員が出てきたら制度を整えるようにしています。制度から作ってみて失敗したこともありました。
南部:10年くらい前、既婚者も少ない状態なのに、保育スペースを準備したこともありましたね。優しい会社だなあと思ったけれど、使う人がほとんどいなくて、仮眠スペースになったりして(笑)。
木下:あれは早すぎましたね(笑)。他にも、昔は近くに住む社員に家賃補助も出していたけれど、オフィスの近くは家賃も高くて、結局あまり使われなかった。トライアンドエラーを繰り返しながら、今も改善中です。
ケース1:時短出社・リモートワークを管理職で実践
ここからは、現在実際に様々なワークスタイルを実践しているメンバーに話を聞いていく。初の育休復帰社員であるアートディレクターの南部さんは、管理職でありながら時短出社、16時以降は家事育児をしながらのリモートワークを実現している。
—南部さんは、初の育休復帰社員なんですよね。今は時短出社を実施中ですが、苦労したことはありますか?
南部:最初は「楽しているように見られちゃいけないな」という気負いもあり、オーバーワーク気味でした。でも、私が働きすぎることによって、これから後に続くであろう他のメンバーに過度のプレッシャーを与えてもいけない。バランスは難しかったです。仕事にも家庭にもフルコミットできていない気がして、罪悪感から葛藤したこともありました。でも、素直に自分の状況を共有するようにしてから、どんどん周囲がサポートしてくれるようになったんです。
—具体的にはどういう仕事の進め方を心がけているんですか?
南部:極力、仕事を属人化しないようにしています。だからこそ、周りのスタッフもヘルプを出し合いやすいし、お互い気軽にサポートを受けられる。やっていくうちに、「こうやってみんなでタイムマネジメントできるんだ」と気づきました。もちろん、私ひとりががんばるのではなく、組織として変わっていったからこそ助け合える空気がつくれたと思っています。
—そうして、あまり無理をしなくてもよい状況を作り出していった、と。
南部:工数管理についても、どれくらいの仕事にどれくらい時間がかかるのかを10年ほど前から計測しているんです。すべて可視化されているから、そのエビデンスを基準にお客様に対しても、スケジュールが明確に出せるようになりました。無理のない提案をさせていただいているので、徹夜で納期を間に合わせることもありませんね。
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- ケース2:ふたつの仕事がシナジー効果を生むパラレルワーク
ケース2:ふたつの仕事がシナジー効果を生むパラレルワーク
近年注目度が高くなっているパラレルワーク。一見、自由気ままな印象も受けるが、当然ながら総稼働時間や責任量は増す。単純に余暇を切り売りするのではなく、会社にも相乗効果を生む働き方とはどのようなものだろうか。
—営業の布田さんは会社のほかに、別のお仕事もしているんですよね。
布田:はい、僕はファッションブランドの役員をやっています。ラナは裁量労働ですが、自分の中での定時を決めていて、ラナにいる間は集中するというマイルールを守っています。
—もともと両立する前提で転職をしたんでしょうか?
布田:そうですね。事前に代表に相談しました。まだ一般的な働き方ではないので「いきなりコミットの量を減らすのはどうなんだ」と言われるかなと悩んで、わりと思い切って話したのですが、あっけないほど簡単にOKがでて、拍子抜けでした(笑)。
木下:制度としてOKでも、「雰囲気的に言えない」という風にはしたくなかったんです。ぜひ、積極的に使ってほしい。今後だんだん、一つの会社だけに所属している人は減っていくと思うんです。すでに、学校を出て、就活をして正社員として定年まで勤め上げる、というモデルだけではなくなりましたよね。これからも様々な働き方の変化が、どんどん出てくるんじゃないかなと。今のうちから、受け皿としての会社体制をつくらなきゃいけないと考えています。
—実際に、パラレルワークを実践してみて感じたことは?
布田:決してゆるく働いているわけではなくて、パラレルワークは営業としても、すごくメリットがあるんです。ファッション・ベンチャー文脈での出会いも増えましたし、そこの相互作用でラナの仕事につながることもあります。ラナとシナジー効果ができるよう、考えて働いていますね。
—デメリットや苦労はありましたか?
布田:自由にやらせてもらっているので、困っていることはないです。強いて言うなら、朝、少し眠いくらい(笑)。毎日、定時前後をファッションの仕事に費やしているので。だけど本当にそれくらいですね。ただ、今後のキャリアや利益だけを意識しての副業だと、しんどいと思います。あくまで、好きなことをする、というのが大前提。自発的なモチベーションでやることが大事だと思います。
ケース3:副業をすることで、働き方のバランスが取れる
布田さんの働き方がパラレルワークの中でも「複業」であるとするなら、柳澤さんの取り組み方は「副業」だと言う。実践するまでわからなかった、意外な効果もあったのだとか?
—柳澤さんも、両立する前提で転職を?
柳澤:そうですね。布田や他の副業メンバーの前例も聞いていたので、安心して入社できました。私は入社したばかりなんですけど、土日はボードゲームカフェで働いています。
—パラレルワークを実践してみて、何か変わったことはありますか?
柳澤:「いろんなことをしていいんだよ」という空気はありがたいですね。もともと、ひとつの環境だけだと、働きすぎちゃうタイプなんです。平日は会社にフルコミットするけど、土日に別の場所があることがメンタル的にも助かっていますね。自分の生活の中で「仕事」の時間が増えているからこそ、自分の休憩時間を意識するようになりました。メリハリをつけて働けるようになったと思います。
—柳澤さんは入社したばかりということですが、客観的に見て今のワークスタイルをどう感じていますか?
柳澤:家と会社の往復だけじゃなくて、「家と会社とサードプレイス」があるというのが、バランスを取れている秘訣かもしれないですね。たとえば木下も、会社だけでなく武蔵野美術大学で授業を持っていることがサードプレイスになっていると思います。
木下:好きなことを仕事にすべきかどうかという問題があるけれど、それに対するひとつの方法ですね。やりたいことはひとつとは限らないでしょう。自分の好きなことのトップ1・2を、両方仕事にしちゃえばいいなと思っています。
これからの会社は「ギルド」化していく
代表の木下さんは「クリエイティブを突き詰めるために、自分の生活を犠牲にするやり方も否定はしないけれど、それを会社が強制してしまうのは良くない」と話す。作品へのこだわりが強く、それぞれの社員が真面目だからこそ、マネジメントはしっかり整えなければならないという。まだまだ、これからも社内改革は続くようだ。
布田:「もっと働きやすい組織を作ろう」という意欲が代表にもあるし、相談もしやすいですね。
南部:みんなどんどん話しかけるから、社長をつかまえるのが大変なくらいなんです(笑)。それぞれのメンバーの間にも雑談文化がありますし、和やかな空気ですね。やっぱり、それぞれが業務に追われて殺伐としていると、面白い仕事はできないと思うんです。
—今後、こういう制度を導入したいというものはありますか?
木下:たくさんあります。もっと、エクストリームに挑戦してみたいんです。オフィスには会議室しかない、とか。「会社に来てもいいけど、ちゃんと目的をもって来てね」という感じで。
—フリーランスの集合体、のようになっていくのでしょうか。
木下:極論を言えば、会社としてのアイデンティティはいらなくなっていくと思います。
布田:「会社としてどうするか」より「どうやっていいものを作るか」という思想があるんです。案件のためにいいものをつくるのは当たり前。だから、なあなあにならないんです。みんな職人気質だからこそ、個々のことより、作品に魂を向けている。
柳澤:将来、もし完全テレワークになったとしても、今の文化は変わらないと思いますね。
木下:「会社」というものの意味が変わってきていると感じます。オンラインゲームでギルドを組んでいる感じになっていくというか。これからは、会社もフレキシブルにパーティー化していくのだと思います。クリエイティブの会社ではあり続けるけれど、どんどん仕事の内容は変わっていくし、変えていかなければいけない。働き方も仕事も、絶対的な正解があるわけではありません。だからこそ新しいものに好奇心と興味を持って積極的に受け入れられる人と、前を向いて一緒に考えながら働いていきたいですね。
Profile
RaNa design associates, inc.はWEB制作、メディア戦略コンサルティングを手がける老舗デジタルクリエイティブエージェンシーです。
グラフィックやプロダクトのデザインも含めたトータルなソリューションを得意としています。グッドデザイン賞など多数受賞。
また、特色を持った事業部
・RANA007
http://www.rana007.com/
・RANAGRAM
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と一緒に幅広い表現の実現が可能であることも、弊社で仕事をする面白みの1つです。